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平和呆け

俺の愛しのシャルロッテがまさか貴族至上主義であるドミナリア家のフランと友達になりたいなどと思いもよらなかった為そいつだけはダメだとシャルロッテを救い出したくなるのだが先程大っ嫌いと言われたばかりな為グッと堪える。


ノア王子はノア王子で「まるで物語のワンシーンの様だ」などとほざいている。


たしかにシャルロッテの美しさはまるで物語に出て来るヒロインの様である事は認めよう。


そのシャルロッテの美しさ程では無いもののフランもまた美しい容姿な為、この絵だけを切り取ればそう見えてしまうのかもしれないのだが、俺はノア王子と違いフランという女性の、ドミナリア家がどういうものであるかを知っている為にその光景が美しければ美しい程にフランの歪さが際立ち気持ちの悪いものを見せられている様な感覚に陥ってしまう。


そしてフランとシャルロッテが何回か会話した後シャルロッテの右手がフランの左頬を叩き、乾いた音が響く。


生憎フランとシャルロッテがあの間に何を話していたのかは聞こえなかったのだがそんな事など関係ない。


俺は堪らずシャルロッテの元へと走り出すのであった。





まるで悪夢を見せられている様である。


一カ月前にわたくしはたしかにシャルロッテを貴族令嬢から助け出したのだが、だからと言って馴れ合うつもりなど毛頭無いのである。


当たり前だ。


誰が自分の命を刈り取るその元凶の大本と親しくなりたいなどと思うというのか。


それこそ常に死を意識させられて生活するなどわたくしにはとてもじゃないが耐えられそうにない。


ただでさえ今の状況に押し潰されそうになっているのだから勘弁して頂きたいものである。


「わたくしと友達……?」

「はいっ是非っ!」


その希望に満ちたその瞳を向けられると心臓を鷲掴みにされている様な感覚になる。


たった一度助けただけでわたくしの性格や価値観など知りもしないにも関わらず友達になりたいなどと何故思えるのか。


平和呆けしたその思考回路に反吐が出る。


「そうですわね、あなたとわたくしではそもそも価値観や考え方が全く違うと思うのですけれどもその事は考えておりまして?」

「そもそもフランさんと私では別の人間ですので価値観や考え方が違う事は当たり前なのでは?」


わたくしの問いに『何当たり前の事を言っているのでしょう?』といった表情でシャルロッテがわたくしを見つめてくる。


ダメだコイツ。


そもそも貴族と平民との間には例えそれが豪商の娘と言えどその価値観や考え方は全くの別物であると言って良いだろう。


いかせん前世が平民であった分その違いを否が応でも理解している。


そもそも貴族と平民では生きる為にしなくてはならない事が真逆なのである。

そしてその中でも我がドミナリア家はその最たる者であろう。


「ではそうですわね、今わたくしの側仕えをして下さっているアンナをシャルロッテさんはどう思いますか?」


わたくしがそう言うと何も言わずともアンナはスッと、洗礼された動作で前に出て来てシャルロッテに対して軽くお辞儀をしてくれる。


こういう細かな動作一つでアンナがいかに出来る人材であるかが伺える。


そしてそれはもちろんアンナだけではなくメイやウルにも言える事でありわたくしはそれが、彼女達の御主人様として誇らしく思う。


「フランさんの側仕えのアンナさんですか……とても素晴らしいメイドさんだと思いますっ!」

「奴隷ですわ」

「………奴隷…?え、だって……え?」

「奴隷ですわ」


案の定シャルロッテはアンナが奴隷だと聞き、その言葉を理解するにつれてみるみる表情が曇って行く。

そしてそのシャルロッテの反応から、平和呆けしたおめでたいその頭には奴隷という答えは考えていなかったのであろう事が伺えてくる。


平和呆けすればする程底辺の者達、スラム街に暮らす人々や孤児、路上生活者達や奴隷の人々といった者達が視界に入らなくなっていくものである。


まだそういった者達を見下し嫌悪感を抱いてくれた方がマシであると言えよう。


もしかすればそういう者達を視界に入れない様にと仕事の斡旋や、見下したいが為に雇用してくれるかもしれないのだから。


それは一時的なものであったり善意から来る行動では無いのかもしれない。


しかし、やらない善よりやる偽善の方が遥かにマシである。


一番の悪は無関心、何もしない、何も思わない、考える事すらしない事である。


それはわたくしの家族と何が違うと言うのか。


そしてアンナもわたくしと同じ考えなのかシャルロッテを他人に分からない様に睨みつける。


まあ、わたくしには手に取るように分かっしまうのだが。


「アンナ、この娘に何故自分が奴隷になったのか教えてあげなさい」

「はい、フラン様」


そう言うとアンナは何故自分が奴隷になったのか、その切っ掛けについて語り出す。


ドミナリア家にメイドとして働いていた事、食事の時わたくしの食器を下げようとしてグラスを倒してしまいわたくしの服を汚してしまった事、そしてその結果罰としてわたくしの奴隷へと落とされた事、その流れを懇切丁寧に説明する。


「さ、最低ですっ!!」

「つぅ………っ!」


そしてアンナの話を聞き終えたシャルロッテは右手を振りかぶりわたくしの左頬へと振り下ろす。


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