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幸せな時間





朝は本当最悪だった。


最悪だったが、アンナとの絆が更に深まった気がする為良しとしよう。


そんなアンナは普段より若干わたくしに近い位置で常に寄り添っている程には。


ただ、もともとわたくしの印象は最悪だった筈であるにも関わらずたった一カ月でここまで心を開き懐くものであろうか、と少し疑問でもある。


これはあれか?最初の印象がどん底だった為に何をするにも好感度が上がってしまう、素行の悪人が雨に濡れる子猫に傘を差しただけで好感度鰻登りとかいうわたくしが嫌いなあの理論をわたくし自身が現在進行形で体験しているのだろうか?


まあ、生き延びる為には使える物は使わして頂きますが、なんだか釈然としない。


「さあ、アンナ…着きましてよ」


そんなこんなで昼休み。


わたくしは学園内にある手入れされた林の中、その少し開けた場所に来ていた。


流石貴族や王族御用達の学園、その広さたるや夢の国よりも優に広い敷地を保有しているのだが、その広さに随分と助けられている。


というのもお昼休みにあのストーカー王子から逃げる為である。


新学期初日の頃は王子に取り巻く女性達がうまい具合にガードしてくれて助かっていたのだがここ最近ストーカー王子は半ば強引に取り巻きを押し退けわたくしに絡もうとし始めた。


それは当然各休み時間わたくしの元へ来ようとする為最近では授業の終了を告げる鐘の音と共に教室外へと逃げているのである。


そして各休み時間という事は当然昼休みもストーカー王子はわたくしの元にやって来るので今ではぼっち飯をする為に林の中まで来ているのである。


まあ、所詮教室や食堂で食べたとてぼっちな事には変わりないのであるが。

いや、わたくしの奴隷との二人飯である。


ちなみにミシェルとリリアはノア王子の取り巻き、その中のその他大勢だったりする。


「フランお嬢様、準備が整いました」

「いつもありがとう、アンナ」


そんな事を考えているとアンナがシロツメクサ生い茂る草原に、頑張れば四人は入れそうな純白のシートを敷き、アケビ蔦で出来たバスケットから二人分のお昼ご飯であるお弁当を出してくれる。


今日のお弁当はメイ作のサンドウィッチとコーヒーである。


ちなみにアンナは陶器製のポットに水魔術で水を注ぐと炎魔術で一気に沸騰させコーヒーを淹れる準備を始める。


わたくしはこの、淹れる準備中に漂って来るコーヒーの薫りが前世の頃好きな香りであり、それは今も変わらない様である。


前世の記憶を思い出すまでは紅茶派であったのだが今では断然コーヒー派である。


ちなみにコーヒーは当然無糖だ。


と、言うよりもこの世界には砂糖を苦味の塊であるコーヒーに入れるという発想は無くミルク、塩、バター等を入れるくらいである。


始めの頃は前世の様に飲んでしまい、まだその苦味に慣れていないわたくしの舌には少々その苦味がキツかったのだが、今ではその苦味にも慣れ、やっとその苦味の奥にある仄かな甘味も感じ取れる様になって来た。


この時間この一時だけ、わたくしは死亡フラグを忘れることができる幸せな時間を噛みしめる様に大事に、大事に過ごす。


しかし、だからこそ運命はわたくしにそんな幸せの時間を奪い去りに来たのであろう。


「途中で見失った時はどうしようかと思っちゃいましたよっフラン様っ」


シャルロッテがわたくしの唯一と言っていい幸せな時間の中に土足で踏み入れて来た。


そしてそのシャルロッテは満面の笑顔で最悪な言葉を口にする。


「フラン様っ、私と友達になって下さいっ!!」





「もうっ!私に付きまとわないで下さいっ!!私が誰と仲良くなろうとレオ様には関係ないでしょうっ!?あとフラン様の事を悪く言うレオ様なんか大っっっ嫌いっ!!」


そうシャルロッテは叫ぶとフランが消えていった林の中へと、追いかける様に消えていった。


ああ、大っ嫌い。

大っ嫌い、大っ嫌い、大っ嫌い、大っ嫌い。


その言葉が光景が、頭の中で延々とリピートされる。


あまりのショックに足に力が入らず立っている事も出来なくなり膝から崩れ落ちてしまう。


「そ、そんな………俺はシャルロッテ、お前の為を思って………」

「これでお前はこっち側の人間だな」


そんな俺の事をいつの間にか現れたノア王子が俺に向かって自分と同類だと言ってくる。


違う!同類なんかじゃっ、好きな人に何故か嫌われた者と一緒じゃないっ!と一返したいが先程大っ嫌いだと言われた手前否定する事が出来ない。


「ふ、フンっ。どうせ直ぐにフランに近付き傷つけられて俺の助言が正しかった事に気付くであろう。それまでの辛抱だからな」

「お前はフランを一体何と勘違いしてるんだよ……ったく。まあいいや。じゃあ俺はフランを追いかけるという大事なミッションがあるからじゃあな」

「フンッ、学園管轄下の林とは言え凶暴な獣や魔獣と言った類がいない訳ではないのだ。俺もシャルロッテを追いかける為に林へ行くつもりだったわー」

「嘘が下手かよ。棒読みじゃないか」

「う、五月蝿い黙れっ。ほら行くぞっ!」


全く、このストーカーがこの帝国の王子だと言うのだから世も末であろう。


コイツが皇帝にならない様に第一王子には頑張って貰いたい限りである。


「フラン様っ、私と友達になって下さいっ!!」


そしてシャルロッテにバレない様に木々の後ろで隠れながら見守っているとシャルロッテから耳を疑う言葉が聞こえて来た。

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