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話はそれからですわ

それはもう恐怖や苛立ちと言った感情を足してかき混ぜた上で二で割らないぐらいには気分が悪いしなんならあまりの恐怖と嫌悪感に足は竦み吐き気まで催して来る。


「大丈夫ですか?お嬢様」


そんなわたくしを気遣って声をかけてくれる今日の側仕え当番のアンナが唯一の癒しである。


もう抱きしめてめちゃくちゃにしたい程にアンナの好感度が絶賛うなぎ登りである。


わたくし前世の記憶を持っておりますので女性の方も行けましてよ?


「ありがとう、アンナ。大丈夫よ」


そんなアンナに自分は大丈夫であると気丈に振る舞う。


そう、大丈夫じゃないのはこのストーカー王子の頭の中身なのだから。


そしてわたくしはノア王子に半ば無理矢理引っ張られる形で馬車の中へと入って行く。


虎穴に入らずんば虎子を得ず。


そう自分に言い聞かせる。


しかしそれでもわたくしに襲いかかってくる恐怖に押しつぶされそうになる。


ガマガエルを攻略した事により運命の矯正力が発動してしまったのではないか?


このままわたくしは殺されるのではないか?


殺されるとしたらどの様な殺され方をするのか。


せめてアンナだけは生かして頂けるように今から懇願するべきなのか。


考えれば考えるほど恐怖心は増して行きわたくしの手は小刻みに震え始め、それに気付いたアンナが優しく寄り添ってくれる。


「おい、聞いているのか?俺は謝ったからなノアっ!!」

「………な、なんの事でしょうか?」


どうやらわたくしが恐怖により押し潰されそうになっていた時、レオがわたくしに何かを言っていたみたいである。


やばいヤバイやばいヤバイっ!!

何も聞いてなかったっ!!

このまま生意気であると殺されるのではないかっ?


そんな心の中の恐怖心を隠してレオにもう一度言う様に促す。


「だからっ、あの時お前を結果的に吹き飛ばしてしまった事を謝ると言っているんだろうがっ!!」


しかしレオはわたくしの心情など知らないとばかりに約一カ月も前の事をわたくしに向かって投げやりに謝罪をし始める。


ノア様はノア様で「全く、世話の焼ける奴らだ」みたいな顔をしてわたくし達を見ているだけである。


そのいい事やりましたといった表情をしているノア様を出来る事ならこの馬車から突き落としたい。


全力の蹴りで。


そんな事より今は目の前のレオである。


いくら恐怖心に潰されてしまいそうでもわたくしはわたくしを曲げたくはない。


それに、それはなんだかこの不条理な運命を受け入れてしまいそうで、そっちの方が恐ろしい。


「レオさん、貴方謝罪というものがどういう意味かお分かりでしょうか?」

「バカにすんじゃねぇっ!ガキじゃあるまいしそんぐらい理解出来てるわっ!!」

「では、今回わたくしはレオさんからの謝罪はお受けいたしません」


その瞬間馬車の空気が一瞬固まった気がした。


しかしわたくしはレオから目線を逸らす事をせず寧ろ睨みつける。


「あ?この俺がドミナリア家のお前に頭を下げているのに、謝罪を受け入れないだと?」

「当然ですわ。だって、貴方は本当に悪いと思って心から謝罪をしているのでは無いのでしょう?ノア様が謝れと仰っているから渋々わたくしに謝った。違いまして?」


レオの、ドミナリア家を強調する口ぶりからある程度わたくしの家系が貴族至上主義である事を知っているのかもしれない。


故に、例えそこに心が籠っていなかったとしてもそのレオがわたくしに頭を下げるという事がいかに重大な事であるかという事ぐらい理解している。


しかし、それはそれこれはこれである。


心の篭っていない謝罪程腹立たしい物はない。


「それに、ドミナリア家の事を少しは理解しているが故のあの時の行動であったと言い訳をするのであれば………人をバカにするのもいい加減になさいませ。レオさんも同様にわたくしをドミナリアというだけで偏見の目で見て差別し暴力を振るった。その意味を理解しちゃんと反省した上で自主的に謝罪をしに来てくださいまし。話はそれからですわ」

「貴様っ!先程から言わしておけばこの俺をドミナリア家と同様だと?吐いた唾は飲み込めんぞっ!!」

「きゃぁっ!?」


そこまで怒りに任せて言い切るとやはりレオは反省する筈もなく逆ギレをしてわたくしの肩を掴むその動作により、わたくしの制服がズレてしまい左肩が露わになってしまう。


「お前、その傷──」


その時、乾いた音が馬車の中に響きわたる。


そこには流れる涙を拭おうともせずレオを親の仇かの様な形相で睨みつけるアンナと左頬を抑え何が起きたか理解出来ていないレオの姿が目に入って来た。


「フランお嬢様に触るなっ!フランお嬢様をバカにすんなぁぁぁぁあっ!!お前にフランお嬢様の何が分かるっ!?フランお嬢様はっ!フランお嬢様はっ!!ふぇえええんっ!!」

「あ、アンナっ!?気持ちは嬉しいのですけれども落ち着いてっ!?ねっ!?わたくしはこんな三下に何を言われても何をされてもこの通り大丈夫ですからっ!ほらっ!」


ある意味アンナのお陰で一触即発の空気は物の見事に霧散した為、あの時はファインプレーだったと帰ってから褒め千切る事にしよう。


ただアンナの、初日に抱いたクールビューティ感もまた霧散してしまったのは秘密であると共にわたくしの左肩にある傷跡に過剰反応してしまうきらいがあると心のメモに記入するのであった。

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