跳ね返って来ただけ
◆
「あら、お目覚めかしら?ガマガエル」
「フアケェんなアァっ!……っ!?う、うまふ喋れはいっ?貴様、毒ふぉ盛りやがっふぁなっ!?」
万が一の為椅子に縛って座らせていたガマガエルが目覚め、その汚い顔と身体に似合う汚い喋り方を、唾を吐きながら叫ぶ。
「ふふふふっ」
「何がおかふぃいっ!!こんな事をしてただで済むと思っふぇいるのふぁっ!?」
「いやだって、このわたくしが毒などと言う証拠が残る物を使用する訳がないじゃないですか。それが可笑しくて可笑しくて。使ったのは一酸化炭素ですわよ。でも教えたところで貴方には、いえこの世界の知識では理解すら出来ないでしょうね。知ってます?この空気という物は一種類で出来ているのでは無いんですのよ?そしてその比率を少し変えるだけで人間は簡単に死んでしまいますの。それこそ、助かったとしても今の貴方のように脳にダメージを負って何かしらの障害を残してしまうくらいには。貴方は言語障害かしら?ですからわたくしは初めから結界魔術で新鮮な空気を確保していたのですわ。これでも創り出すのに苦労したのですわよ?空気だけ遮断する結界魔法」
そう言いながらケラケラと笑うとガマガエルはまるで化け物を見るかのように見つめて来る。
その瞳は初めの様に怒りに満ちていた物とは違い今は恐怖と畏怖が代わりに満ちている。
「それと、貴方は『そんな事をしてただで済むと思っているのかっ!?』と仰っておりましたが、貴方はどうなんですか?この奴隷商売について清廉潔白な商売をしていると言えるのかしら?ねぇ、教えて下さるかしら?貴女達」
そしてわたくしはこの作戦の立役者でもある奴隷達を呼び寄せる。
そのわたくしの奴隷達を、主にその中でも四人の奴隷を見てガマガエルは驚愕する。
「それがどうしファっ!?奴隷は人間じゃないんだっ!なにふぉやっても俺の自由で俺の勝手であろうぉっ!!」
「うん、そうよねぇわたくしは貴方のその考えを尊重致しますわ」
「だ、だったらっ……ぐぁあぁぁぁぁああっ!?」
ガマガエルの実に有り難いお言葉を聞きわたくしは手にしていたペン型に偽装された奴隷化器具をガマガエルの右腕に力の限りブチ刺す。
次の瞬間、奴隷紋が奴隷化器具を突き刺した箇所中心に広がって行く。
契約内容は一番重い内容。
ご主人様が許可をしないと喋る事すら許されない代物である。
わたくしは奴隷契約により発言の許可をしていない為返事をする事が出来ないジュレミアへ語り始める。
「何を悲壮感に漂っているのですか?貴方が今までやって来た事が跳ね返って来ただけでは無いですか。あぁ、それと貴方の言葉を借りれば奴隷は人間では無いから何をしても良かったのですよね?ねぇ、悪魔の手術として禁忌とされているロボトミー手術という物をご存知でしょうか?あら?ご存じない?なに、簡単な手術ですわよ。貴方の眉間部分の頭蓋骨に穴を開けて脳にあたる前頭葉を切断して神経細胞を遮断する手術ですわ。安心してちょうだい。貴方が今まで奴隷に行って来た様に死ぬような事は無いわ。ただ記憶障害が起こり、受動的、意欲の欠如、集中力低下、言語能力の低下、全般的な感情反応の低下などが起こるくらいですわ。え?なんでそんな事をするのかって?そんなの、貴方がなんらかの理由でこの奴隷契約が解除された時の為に決まってますわ」
そしてこの日を境にジュレミアという男は人が変わったかの様に真っ当な人となる。
更に帝国衛兵部隊や帝国近衛兵部隊などに大量の様々な証拠が、ある公爵家の執事にて信頼できると判断されたもの達へ渡され貴族十五名、更に違法奴隷売買を生業にしていた三つの組織が次々と逮捕されていったが、彼らからジュレミアに繋がる物は何一つ見つからなかった。
そしてジュレミアの経営する奴隷商はその日を境に奴隷の販売を辞めた。
◆
「お嬢様」
「朝です」
「…………んーっ」
わたくしはウルとメイにより何時ものように起こされると、もぞもぞと布団の中で動いた後身体をめい一杯伸ばして頭を覚醒させて行く。
作戦が上手く行った朝は気分が良い。
昨日まで自分にのし掛かっていたプレッシャーが綺麗さっぱり無くなったのである。
それはもう爽快なんて言葉では足りない位気分が良い。
「アンナ、ガマガエル邸から奪って来た秘密資料の数々は配り終えたかしら?」
「はい。中身が見えない様に厳重に施した後黒い蝋燭にて薔薇の形を象ったシーリングスタンプで封をした物を仕事内容に信頼を置ける者へ託しました。その際ドミナリア家と足が着かない様に変装する様にとも」
「よろしい。その者がちゃんと仕事を完遂したかどうかは後日明らかになる事でしょう。最悪その証拠が握り潰されて失敗したとしても後々蹴散らすまでですわ」
おそらく敵はジュレミアが売ったと勘違いするのであろうが、ジュレミアや奴隷商が潰れようが既に百人程の奴隷を手に入れた後では最早あそこに用は無い。
ただ、奴隷商だった場所のハコは便利な為それまでは使用させて貰うつもりである。
そんな会話をしていたら着替えも終わり、迎えに来てくれたメイドのノックを合図にドミナリア家の仮面を被る。
そして朝食も取り終え、登校しようと準備をしていたその時である。
「迎えに来たぞフランっ!!」
ストーカーが我が家にやって来た様である。
そしてそいつはただでさえ迷惑極まりないにも関わらずレオまで強引に連れて来ている様である。
強引である事はレオの表情を見れば否が応でも分かるというものである。
実に気分の悪い朝である。




