ロック
もう、このフロアには誰も残っていない。
いるのは、しがない科学者ともっさりしたデブのみ。
(いつの間にか社長もいねーし。 つか、大丈夫なのか?)
血にまみれた社長のことを心配しつつも、ヒイロは皆が出て行った扉へと歩を進めた。
そして、取っ手を掴んで力を込める。
「……あれ」
開かない。
扉は電気錠で、遠隔操作でロックがかけられているらしい。
試しにドアを叩いて向こう側の相手に呼びかけてみるも、反応はない。
ヒイロは、パーピーくんの、誰かに建物をジャックされた、という言葉を思い出した。
(くっそ、誰が何の目的で……)
辺りを見回して、他にこのフロアの出入り口を探す。
すると、視界の先に従業員用の小さな扉を見つけた。
今し方、従業員が料理を裏口の扉から運んでいるのを目にしていたヒイロは、小走りに扉へと向かった。
取っ手を掴むもやはり扉にはロックがかけられている。
(ダメか。 あとは…… 窓ガラスをぶち破って、隣の建物に飛び移るか)
テーブルを掴んで、窓ガラスへと向かおうとした時、背後から声がした。
「ヒイロさん、それはやめた方がいいかと」
「んだよ、デブ。 他に案があんのかよ」
何故かヒイロの名を知る男は、おもむろに裏口へと近づくと、体型にふさわしい、太ましい声で叫んだ。
「すみません! 閉じ込められてしまいました、誰かいらっしゃいますかっ」
(……ふっつーに助け呼ぶんかい)
すると、ガチャリ、と音がして、扉が開いた。
出てきたのは、鍵を手にしたメイド。
小柄で髪を結っている。
デブが言った。
「良かった、助かりました」
「何かありましたか?」
「実は……」