戦い
「チナツ、ちょっと待ってろ」
このラボには、応急処置をする道具類がない。
傷口からは腐臭が漂っていた為、消毒をする必要がある。
そう思い立って外に出ると、異変に気付いた。
「……なんだ、こいつら」
首をもたげて、上から糸で吊るされているかのような、そんな人間がこちらに迫ってくる。
まるで、ゾンビ映画に出て来るゾンビ、そんな風体だ。
「今度はなんだっつんだよ!」
ゾンビたちは、口々に何かをつぶやいている。
「からあげくん……」
「蒙古タンメン……」
それらは、コンビニに売っている商品であり、ヒイロは理解した。
恐らく、コンビニをライフラインに生活していた人間が、コンビニ爆破によってそれらを奪われ、ゾンビ化してしまったのだ。
「自炊しろっての!」
しかし、その数はハンパ無く多く、とても相手どれる数ではない。
ヒイロは一旦ラボに引き返し、ぐったりしたチナツを抱えて、車に乗り込んだ。
「こんな調子じゃ、いつ救急車が来れるか分からねー」
ヒイロの思惑通り、スマホのトップにはゾンビが街で暴れているニュースが速報で流れている。
けが人が出れば、そちらに人手を取られてしまうだろう。
ヒイロは、キーを回してエンジンをふかし、都心から離れた病院へと向かった。
チナツを病院へと送り、今度は家へと向かい、家族を車に乗せる。
「ねえ、どうなってるの!?」
「一旦、こっから離れるんだ」
ヒイロは長野にある避暑地に別荘も持っていた。
こんな感じのヒイロだが、会社に勤めていた頃は年収1000万を超え、かなりの高給取りであった。
高速に乗り入れ、およそ3時間で別荘へと到着すると、アンジーにしばらくここにいるよう説明する。
「ヒイロ、あなたはどうするの?」
「……俺は、東京に戻る。 俺が出てかねーと、多分、被害がどんどん拡大する」
息子のトオルが駆け寄る。
「これ、持ってって!」
トオルが手にしていたのは、ベルト。
今はまっている、イロレンジャーの変身ベルトだった。
「パパは、イロレンジャーだったんだ! 悪いやつ、やっつけてきて!」
子供は時に、大人より敏感に物事を感じとる。
ニュースで世の中が大変になっていることを知り、ヒイロのこれから戦いに行く覚悟を感じ取ったのである。
「……ありがとな、トオル」
ヒイロは、車に乗り込んだ。
車内で、ヒイロの気分はなぜか高揚していた。
不謹慎だが、ヒイロはこんな風に思っていた
自分は、こういうことが起こるのを待っていたのかもしれない、と。
家族との時間は増えたが、そんな生活は物足りないと心の奥底では感じていた。
絵に描いたような家族との日々は自分の幸せではないのだ。
(ラボに戻って、あいつらを倒す方法を考えねーとな)




