ラボにて
「くっそ、急がねーと……」
焦る気持ちも抑え、時速60キロ、法定速度目いっぱいまでアクセルをふかす。
(法定速度は守らねーとな)
ラボへと到着したのは夕方。
路肩に車を停車させ、弾けるように飛び出す。
カードキーをかざしてラボの中に入ると、ヒイロは顔をしかめた。
「うっ…… 何だ、この匂い」
鉄分のような匂いが立ち込めている。
そして、わずかに腐臭。
ヒイロは、そばにあった傘を手探りでつかみ、明かりのスイッチに指をかけた。
そして、正面を見やる。
「……いない」
パーピー君が、いない。
部屋の中央にいた、パーピー君の姿が消え失せている。
更に部屋を散策すると、ヒイロは叫んだ。
「う、うわあああああああああああっ」
チナツがうつ伏せに倒れており、背中には包丁が突き立てられていた。
「チナツっ、うっ、おええっ」
吐き気を抑え、祈る気持ちでチナツの首筋に指を当てる。
(頼む……)
微かにだが、脈拍がある。
ヒイロは安堵したが、すぐに携帯から救急車を呼ぶ。
息つく間もなく、ヒイロはパーピー君がどこへ消えたのかを考えた。
(もし、あのコンビニ襲撃事件がパーピー君のメッセージだとしたら……)
パーピー君は、もう一度、自分と戦うつもりかも知れない。
反抗期という過程を得て、精神的にバランスの取れたロボットを作るのが目的だったが、それがアダになってしまった可能性がある。
くそっ、とヒイロは壁を殴りつけた。
「……チナツが回復し次第、パーピー君を見つけて停止させねーと」
チナツのメイクでパーピー君の容姿は変わってしまっている。
そのため、チナツからどういう容姿にしたのかを聞かなければならない。
それか、コンビニの監視カメラに姿が映っている可能性もある。
どの道、見つけてしまえばこちらのもの、とヒイロは考えたが、そう思った矢先、自分がミスを犯していることに気が付いた。
「チナツの過去の映像……」
ヒイロがパソコンのモニターで確認した、チナツの過去の映像。
その中に、停止コード「バルサミコス」を解除するコードが含まれていたことを思い出した。
そのコードは、「霜降り肉」
直接その名称が出ていなかったとしても、脂肪を分解する、というヒントから辿り着いた可能性。
(……それが分かったから、行動に移ったんだ)
このコードを入力することで、停止コードはリセットされてしまう。
(こっちの切り札が無くなっちまったかもしれねー……)




