再開
今、パーピー君2号と秋月チナツの頭は、電極で繋がれている。
電極は健康診断で心電図を図るときに使うような、体に貼り付けるタイプのものだ。
頭に得体の知れないものを貼られたチナツは、恐る恐る聞いた。
「これから何が始まるんスか?」
パソコンの前でキーボードを打ちながら、ヒイロが言う。
「今からお前の思春期の頃の記憶をパーピー君に転送する」
「え、ちょ、心の準備が……」
「行くぜ」
エンター、のキーをヒイロが押すと、チナツの頭の中で過去の映像がフラッシュバックした。
チナツ(17)は、都内にある私立早乙女学園の女学生であった。
ここは都内でも有数の名門女子校であり、偏差値は60。
そんな学校に通うチナツには、秘密があった。
授業の終わり、チナツは友達の花園フジコに声をかけられる。
「ねえ、チナツさん、帰り道に紅茶でも飲んでいきませんこと?」
「あっ…… 今日はお稽古がありまして…… すみません」
「ふふ、そういえば最近ヴァイオリンを始めたんでしたっけ。 また明日誘いますわ」
チナツは、黒い細長いケースを担いで屋上にやって来た。
「はあっ、はあっ…… くっそ、やってられっかよ」
髪を結っていたリボンを乱暴に振りほどくと、黒いケースから電動ガンを取出し、待っていた仲間に言った。
「っしゃ、始めっか!」
そんなチナツにも春が訪れる。
高2の春、たまたま近所に住む幼馴染と再会したのだ。
「あれ、チナツじゃんか」
「え…… ヒロ?」
小学校の時以来であった。
それまでずっと疎遠だったのに、今日はたまたま同じ電車に乗り合わせた。
「お前もこの電車だったのかよ!」
「う…… うん」
チナツは一気に恋に落ちた。
家庭科の授業中も、チナツの心はそこにはなかった。
先生が何か言っているが、全然耳に入ってこない。
(くっそ、朝からヒロのことばっか考えちまう…… てかあいつ、いつの間にあんなかっこよくなっちまったんだよ)
「えー、秋月さん、聞いてますか?」
「……」
「チナツ! 当てられてるよ!」
「え……」
ガタ、と机から立ち上がるも、何と答えればいいか分からない。
「あ、すいません、先生。 何ですか?」
「はあ…… もう一度いいますよ。 脂肪分の多い食材と相性のいいドレッシングは何か、と聞いています」
何だろう、お酢は脂肪分を分解するから、バルサミコ酢かしら?
そんな風に一瞬思ったチナツだったが、結局回答することはできなかった。




