ローストビーフ
(早く終わんねーかな……)
そんな念が通じたのか、突如、社長の頭上のシャンデリアが落ちてきた。
会場は一瞬にしてパニックに陥る。
側近が潰された社長に近づいて声をかけるも、反応がない。
「社長っ、社長っ!」
「え、マジで?」
目の前の光景が、にわかに信じられない。
ヒイロがその場から動けないでいると、ピロン、とスマホからラインの通知。
「何だよ、こんな時に」
ケツポケットからスマホを取り出し、確認する。
パーティーのローストビーフ、貰ってきて
(それ所じゃねっつの!)
ラインの相手は妻のアンジー。
既読をつけて、再びポケットにしまうと、今度は無機質な音声が鳴り響く。
パーピーくんだ。
「皆様、落チツイテ下サイ! 今、コノ会場ハ何者カニジャックサレテイマス! 速ヤカ二、近クノ扉カラ避難シテ下サイ!」
「ジャック? 何が起きてるんだ!?」
混乱の中、パーピーくんが両開きの扉を開け、エレベーターに乗り込むよう、促す。
みな、訳も分からずそれに乗り込んでいく。
ヒイロは、その流れに逆行して、ローストビーフの置かれているテーブルへと向かった。
(こんなことしてる場合じゃねっつのに……)
ブツクサいいながらも、予め用意しておいたタッパーを肩がけにしていたボディバッグから取り出す。
テーブルに到着すると、何故があるはずのローストビーフがない。
「あれ?」
「モシャ、モシャ……」
でかい男が、鷲摑みしたローストビーフを口に運んでいる。
「お前…… 一人で食っちまったのかよ!」
目の前の巨漢の男は、ローストビーフを飲み込むと答えた。
「いや、勿体ないと思いまして」
「自分の身よりローストビーフの心配かよ、信じらんねー。 デブはこれだから……」
モゴモゴと口の中で不満を唱えつつも、ローストビーフの代わりになるものがないか、辺りを見回す。
すると、
「……誰もいねー」