盗聴器
差し出した3色ボールペンの赤のレバーを引いて、畳の上に置く。
すると、ボールペンはガチャガチャと音を立てて、クモの形へと変化した。
唐子が雑誌を丸めて、それを振り下ろす。
「おいっ、何して…… やめろっ!」
「私、クモ、嫌いなんですっ!」
ヒイロは唐子の腕を取り、落ち着け! と促す。
「本物じゃねぇし! クモの形しただけの盗聴器だっつの」
このボールペン、通常の盗聴器としても使えるが、自分が接近出来ない対象の音声を手に入れたい場合、クモに姿を変えて相手の懐に侵入させることが出来る。
ちなみに、レバーは3つあり青のレバーを引くと、i am a pen と流暢な英語で喋る。
「何ですか、最後の機能……」
「とにかく、こいつをお前にやる。 居酒屋には色んな世代のヤツらが集まって為になる話だったり、下らねー話して盛り上がってる」
その会話を盗み、吟味して漫画に生かしてみろ、とヒイロは言い残して、玄関へと向かった。
「……ありがとうございます」
「まあ、騙されたと思ってやってみろよ。 じゃーな」
それから更に数ヶ月後が経った。
ヒイロはすっかり漫画家のことなど忘れて、昼間、パソコンをチェックしていると、一通のメールを受信した。
それを開くと、そこにはこんなメッセージが書かれていた。
先日はお世話になりました。
お蔭様で、盾で笑いを取る勇者、の連載の継続と、単行本の重版がかかりました。
全て、ヒイロさんのボールペンが無ければなし得ませんでした。
気持ちとして、ささやかではありますが、受け取って下さい。
唐草唐子
(こいつのこと、すっかり忘れてたわ。 つか、受け取って下さいって、何だ?)
ヒイロは自分のスマホから何気無く銀行の残高の確認をした。
「……マジ?」
そこには、500万円が振り込まれていた。




