漫画家
「ここか」
やって来たのは、都内にある2階建てのアパート。
木造で築40年くらいはいってそうだ。
お世辞にも売れっ子漫画家が住んでいそうな気配はないが、ヒイロはその202号室の扉をノックした。
「……N〇Kの集金ですか?」
扉の反対側から、気の弱そうな声が聞こえてくる。
「違いますよ、ヒイロです。 漫画のネタの依頼したの、アナタでしょ?」
すると、チェーンを外す音が聞こえ、中から女性が現れた。
見てくれからして20前後だろうか。
地味目のメガネ女子である。
「す、すいません。 あがって下さい」
中へと通されると、玄関には原稿らしきものが散らばっている。
カラカラと音がする方をみると、ハムスターがせわしなく車輪の中を走っている。
「ハムハムです。 ちょっとうるさいかもですが、気になさらず」
6畳程度の部屋に胡座をかき、事情を聞く。
「自己紹介がまだでしたね。 私の名前は……」
彼女の名前と経歴を確認する。
名前は唐草唐子(24)で、最近漫画家としてデビューしたらしい。
盾で笑いを取る勇者、の連載を始め、すぐに人気が出たものの、10週目でネタ切れを起こしたとのことだ。
「盾以外のギャグにも挑戦しようとしたんですが、ことごとく没をくらってしまって……」
「……ギャグか。 俺もそーゆーののセンスねーしなぁ」
じゃあ、なぜ依頼を受けた。
ヒイロが聞く。
「キノコを探すなら、森。 ギャグを探すなら、どこだと思う?」
「ギャグ、笑いってことですか? ……お笑いの劇場とかでしょうか?」
確かにそれも答えのひとつだが、ネタをパクるのはマズい。
「他にもあんだろ、笑いが起きてる場所」
「……どこ、ですか?」
「居酒屋だよ」
ヒイロは、胸のボールペンを差し出した。




