バル……
「いっでええーーー!?」
回転しながら飛んできたのは、パーピー君が即席で作った銀の十字の剣。
ちなみに、素材は花を生けるための銀の花瓶である。
「34階で戦っていたロボットの目を通して、ゾンビ化を見させて頂きました。 ゾンビなら聖なるもの、つまり、十字とかが弱点でしょう?」
「……くっ、こうも早くこの技の弱点を」
「チナツっ!」
ヒイロがシャンデリアから飛び降りると、反動で胸ポケットに差していた三色ボールペンが外れ、地面を転がる。
「おおっと、動かないで下さい!」
すかさず、パーピー君が片手のマシンガンをヒイロに向ける。
「動かないで。 あなたを撃ちたくは無い」
「……」
一歩、進む。
すると、太ももに弾丸がめり込む。
「ガアアッ」
「動かないで、と言ったハズです」
ももから血が伝い、足元を濡らす。
そして、尋常ではない痛みが駆け抜ける。
例えるなら、太ももを抓られたあの痛みに、手心が全く加わっていないバージョン、と言えば分かり易いだろうか。
しかし、ヒイロはやせ我慢をして、こんなセリフを吐いた。
「……全っぜん、痛くねーよ」
「はは、嘘だ」
「嘘じゃねぇ、俺らの心の痛みに比べたら、全然な!」
「……格好いいセリフ言おうとして、滑っちゃった感じですか?」
パーピー君に指摘されて、若干顔が火照るヒイロ。
確かに、ここで胸に刺さるようなセリフが言えたら格好いいが、頭の中は真っ白だった。
「……もう少し、お前とは色々話合いたかったよ」
「何を今更。 アナタはいつも忙しそうで、私のことなんか構ってくれなかったじゃないですか」
ヒイロは、思い出した。
より人間に近いロボットの開発をするため、パーピー君には赤ちゃん、子供、大人をそれぞれ経験させていた。
その子供時代の頃、ヒイロはパーピー君に構う時間が無かった。
「パパー、仕事イカナイデーッ」
泣きながら足にしがみつく子供版パーピー君。
ヒイロは、頭を撫でながら言った。
「悪いな、パーピー君、帰ったら一緒に任〇堂スイッチしてやるからよ」
しかし、その日は会社に泊まり込みで、帰ることは出来なかった。
その日の事を思い出し、一瞬、感情に浸る。
(……悪いな、パーピー君)
その時、パーピー君の足元まで転がっていた三色ボールペンが小型のクモに形を変え、足から背中を伝い、テンキーの収納されている蓋をドライバーで開けた。
「何っ!」
ヒイロの開発したスパイロボット、スパイダー。
それが、素早くテンキーを操作し、音声入力モードに切り替える。
そして、ヒイロは叫んだ。
「バルサミコス!」




