切り札
弾丸がスプリンクラーヘッドを射抜くも、水はチョロチョロとしか流れない。
「あれっ……」
(くっそ、水を送る配管が爆発でへし折れたのか)
熱風が通路を駆ける。
「あづっ…… い、一旦逃げろっ」
背に熱気を受けながら、2人は走った。
「非常階段だ、走れっ!」
どうにか非常階段の扉を開けて、新鮮な空気を肺に取り込む。
「はあ、はあ…… まだ、非常階段まで火は回ってないみたいすね」
しかし、非常階段を降りている最中に火が回れば、命は無い。
同じ理由で、エレベーターも危険である。
(上に逃げるしかねーか…… 携帯で助けを呼んで待つしか……)
すると、チナツが立ち上がった。
「早く下に降りるっす」
「は、何言ってんだよ! 頭大丈夫か!?」
チナツのネジの飛んだ発言に、ヒイロは立ち上がって胸ぐらを掴んだ。
チナツもヒイロの胸ぐらを掴かむ。
「人質の人ら、ほっとくつもりっすか!」
「……!」
今現状を知っているのは、ここにいる2人だけである。
「火が回る前に、階段を降りるんす」
「……」
目の前にいるのは、元ヤンとは言え女性。
男の自分が何もしないのは、余りにも情けない。
「チナツ、上だ」
「だから……」
「ちげーよ。 別に逃げる訳じゃねーよ。 一気に下に降りる方法、思いついたんだよ」
「もう、これしかねぇ」
今、ヒイロとチナツは屋上のフロアにあるシャンデリアに跨がっていた。
偶然にも、爆発で開いた穴の直上にシャンデリアが設置されていた。
チナツが銃を構え、シャンデリアを上下させる手元スイッチに狙いを定めた。
「行くっすよ!」




