炎
上下に開いた穴。
そこから覗き込むと、どうやら一番上から下まで直通の穴が開いてしまったらしい。
「……一体何をしやがったんだ?」
「ヒイロさん、コレ……」
チナツがそこに転がる何かを拾い上げた。
白いプラスチック片のようなもの。
ヒイロは、その素材に馴染みがあった。
「ロボットの破片だ。 ……つーことは、爆発したのは偶数階にいたロボットか」
推測では、偶数階にいたロボットが何らかの司令を受けて、自爆。
天井と床に穴を開け、しかも、それは意図的に一直線に並ぶように仕向けられていた。
穴を覗き込むチナツ。
ヒイロは、下に高く積まれたサラダ油の山を思い出した。
「チナツ、離れろっ」
ヒイロがチナツの服を掴んで、引き剥がす。
仰向けに倒れると、チナツが叫んだ。
「いって…… 何すか、急に!」
「早く起きろっ」
チナツが慌てて起き上がったと同時に、下層のフロアから渦を巻いた炎が立ち上った。
「うわあっ!?」
瞬く間に、炎がビルの中心を駆け抜けた。
「交渉が決裂したのか…… 野郎、人質とここに泊まってる人間、みんな火あぶりにするつもりだ」
「は、何人ここに泊まってると思ってんすか! 鬼畜の所業じゃないすか! ……まあ、相手は感情の無いロボットすけど」
「……」
逆だ、とヒイロは思った。
AIには感情がある。
だからこそ、それが高ぶってコントロール出来なくなってしまったのかも知れない。
皮肉である。
しかし、後悔しても遅いとヒイロは前を向いた。
「……チナツ、スプリンクラーを撃ち抜け!」
「スプリンクラー? あ、アレすか!」
天井に取り付けられた銀色の吹き出し口。
火災が発生した場合、熱で溶けて、そこから水が出る仕組みだ。
チナツは銃口を構えた。




