その3
瞼を閉じてそんな事を思い出していると、『はて?』そういえばこの電車に乗ってから随分と経つが、まだ目的の故郷の駅には着かないのだろうか? という疑問が僕の中に浮かんで来た。
高校まで良く遊びに行っていたあの街までは今回新幹線で来て、それから乗り換えたこのローカル線は、先程思い出していた小学生の頃の記憶でも駅三つ程であった。一駅十五分位だとしても四十五分。
(実際はまだこの列車に乗ってから、それほど時間は経っていないのかな)
僕は少し気になって薄く目を開けた。
隣で眠る彼女・室町めぐるの存在を確認しては何故か少しホッとして、安心した気持ちになる。
それから彼女を飛び越してその先の車窓から見える外の景色を眺めた。
相変わらず続く青々と茂った田んぼの景色。
そしてその少し先から窓の正面へと来て、そのまま後ろへと置き去りになって行く田んぼの真ん中に突然現れた小山。
それは同じ様な景色でも間違いなく電車は走っているという事を僕に再確認させると同時に、もう側まで来ているという事を教えてくれた。
先程見えた小山には見覚えがあったからだ。
田んぼだらけの景色の真ん中に、まるで人工物ででもあるかの様に綺麗な半円を描いた形の小山。緑茂るその姿は大きな杉の木が三本程天辺に生えていて、その下にはお地蔵様が数体と小さな祠が見える。
昔のまんまだった。これが見えるともう直ぐ僕の住んでいた町なのだ。
「今度あの山に探検に行こうぜ!」
暫くそのまま外の景色を眺めていた僕に、フッとあの頃の班の、友樹の声が聞こえた様な気がした。
「うん、いいよ! 行こう!」
真っ先にその話に乗ったのは、ゆきちゃんだった。
それからみんなで「行こう! 行こう!」って騒いで、あの時も街での遊びの帰りで、みんなでこうやってこの電車に乗っていたのだ。
しかし結局はその後、みんなであの小山を探検する事はなかった。
自転車を持っていない子もいたし、お互いの都合も合わなかったのだ。
そして僕らは小学校を卒業して、中学ではバラバラのクラスになり、ついには廊下ですれ違っても、声を掛け合う事もなくなってしまった。
あのキスをした、溝口ゆきちゃんともだ。
二つ三つと、田んぼの間に農家の家が見え始まると、後はドンドン家屋の数が増えて来て、線路の先にはポツポツと商店らしき建物も見え始めて来た。
(もう直ぐ着く…)
長い時間電車に乗っていた様な気がしたのは、きっと気の所為だったのだろう。
良く知っている見慣れた景色を目で追いながら、僕は隣でまだ寝ている彼女の肩を、自分の肩で軽く小突いた。
(なんだかんだ言って付いては来たけれど、やっぱり知らない土地へと向かうんだ。神経的に疲れていたのかな)
まだ起きない彼女の事を僕はそんな風に思いながら、今度は手で彼女の肩を揺すった。
「ほら、着いたよ。起きて起きて」
「んっ、ん~ん」
僕の言葉にまだ寝ぼけているのか、甘ったるい声を漏らす彼女。
平日の昼間なので、乗客も疎らな閑散とした車内の電車は、こうして目的の駅へと着いた。
つづく
読んで頂いて有難うございます。