序章及び第一章 考え直しなさい
序章
やっぱりね、何の変哲もなく、可もなく不可もなく当たり障りのない人間より、変人でも変態でもいいから、何かしら突き抜けてる人間の方が良いと思う……思わない?
突き抜けてるおかげで、こんな私でもイケメンの部屋にあがれたんだから。
第一章 考え直しなさい
今年の春休みは、毎週毎週映画館に行っていた。といっても、別に映画鑑賞が好きなわけじゃない。たったひとつの作品を、週に一回、飽きもせずに何度も見に行っていたのだった。
その映画は特撮ヒーローの作品『仮面戦士タイタン 春のヒーロー大決戦』。春の特撮作品の割には出来が良く(毎年春にこの種の映画が出るけど、製作期間に余裕がないのか、脚本がガバガバなことに定評がある)、役者もアクションも仮面戦士のデザインもかっこいいので何回見ても飽きない。変身ヒーローってかっこいいよね。
それと、目当てはもうひとつあって、それは、映画を見たときに貰えるカード。このカードは、過去の仮面戦士の全貌や能力が記されたもので、シアターに入場するときに二枚入りのパックが貰える。カードは全20種あるらしく、貰える二枚は完全にランダムなので、運良くすべて別々のカードを引いても、10回は映画を見る必要がある。
バイトもしてない高校生の小遣いで、まさか20種全部集めようなんて考えてはいないけれど、まあ暇なとき見に行って好きな仮面戦士のカードが当たればいいなって思ってた。
この映画については語りたいことがたくさんあるんだけれどそれは置いといて、事件が起きたのは、私が三度目にその映画を見に行ったとき。別に事件ってほどじゃないんだけどね。こういうときはちょっと大げさなくらいがいいでしょ?
一人で映画をキメて、アクションシーンで拳を握り、エンディングで涙を流しながらハンカチを濡らしたあと、私は謎のしたり顔(化粧もしてなかったし、他人から見たらクッソ気持ち悪かったに違いない)で映画館の出口へと向かっていた。なんか好きな映画とかアニメ見たあとって、お気に入りのシーンを思い出してニヤついてしまう。
で、飲み干したオレンジジュースのコップを出口付近のゴミ箱に捨てたあと、急に男の人が呼び止めてきた。
「すみません、落としましたよ」
振り向いて男の人を見たとき、私はビクッとした。短い黒髪が爽やかなイケメン、同じクラスの佐々木君だった。まさかこんなところで知り合いに会うとは。もともとあんまり話したことなかったけど、春休み中なのもあって、久々に顔を見た気がする。
こういうとき、相手の名前をど忘れしちゃうんだけど、今日はすぐに思い出せて運が良かった。
「あ、さ、佐々木君」
「あれ、見川じゃん! こんなとこでバッタリ会うとかびっくりだね」
佐々木君がニコッと笑った。こっちは佐々木君が私の名前を覚えてくれていたことにびっくりだよ。
「あ……え、アッハイ」
戸惑う私に、佐々木君はカードを差し出してくれた。
「これ、映画の特典だろ? 落としたみたいだよ」
どうやら、今日入手したカードを一枚、落としてしまっていたらしい。
「あ、ああ。ありがとう」
別に特撮好きなことは隠してないし、一人で特撮映画見に行ける猛者(自称)だけど、それとは別で、会う予定なかった人にバッタリ会うと緊張してしまう。あと、さすがに知り合いに見られるのは恥ずかしい。それで、舌が上手く回らなかった。
佐々木君に拾ってもらったカードを見ると、それは『仮面戦士ユウキ・フレイムフォーム』のカードだった。なぜか今回引き運が悪く、ユウキのフレイムフォームは三枚目だった。三回行って三回出てくるってお前……私のこと好きすぎだろ。
「あ、そのカード要る?」
私はカードを受け取らずにそう言った。
すると、佐々木君が眉をひそめ、鬼のような形相になった。
「え! なんてこと言うんだ! 考え直しなさい!」
自殺を止めようとするかのような切迫さだ。冗談で言ったのに、こんな差し迫った口調で返され、吹き出しそうになった。
私は笑いをこらえながら、事情を説明した。
「ああ、ええと、ユウキのフレイムフォームは好きなんだけど、そのカード三枚目で……。あげちゃってもいいかなって。でも要らないよね。フフ」
自分では「フフ」って言ったつもりだけど、「デュフ」って言っちゃってたかもしれない。てか、デュフって言った気がする。だいいち、何が楽しくてクラスのイケメンに特撮映画を三回も見に行ったことを暴露しなければならないんだろう。神様のいたずらかな? だったら神様は許さない。
佐々木君はカードを見ながらふむふむと頷き、小声で言った。
「二枚か。なら保存用と鑑賞用で足りるってことだな」
「え?」
「いや、なんでもないよ。ありがとう、貰っておくね」
人生で初めて男の子にあげたプレゼントが、特撮ヒーローのカードって女の子いる? 普通バレンタインチョコとかだよね。ああ、私のファーストプレゼント渡しが佐々木君に奪われてしまった。
「いやーありがとう、嬉しいよ」
「全然、お礼を言われるほどでもないからさ」
実際、余ったカードをあげただけ。それなのに、佐々木君は札束でも貰ったかのように、両手をすり合わせてありがたがっている。
そのあと、佐々木君は恥ずかしそうに、頭の後ろをかいた。
「いやあ、これじゃあ、元から俺がカードを譲ってほしくて見川に声かけたみたいになっちゃうなー」
そんなこと一ミリも思ってないから安心して。と心の中で思った。こういうツッコミがかわいく笑いながら言えたら、私も明るい女の子になれたのかな。
「そういえば、見川って今から帰るとこ?」
「うん、そうだけど」
「俺も帰るとこなんだけどさ、京都駅から電車乗るんだったら、駅まで一緒に行こうよ」
私も京都駅から帰るつもりだったから、佐々木君と一緒に、しばらく歩くことになった。恐ろしい偶然。私の人生どうなっちゃったの。
映画館を出て駅まで10分くらい、私たちは並んで歩いた。間が持たなかったらどうしようかと思ったけど、佐々木君からどんどん話しかけてくれた。
実は今日、佐々木君と私は同じシアターで同じ映画を見ていたらしいんだけど、私は全く気付かなかった。話してみると、佐々木君もなかなかの通で、結構盛り上がった。と思う。
「見川はさ、ユウキ見てたの?」
「うん」
「何フォーム派?」
「えー、全部好きだけど、ストームフォーム派かな」
「あーかっこいいよな! 全体的な見た目もそうだけど、右肩の装甲が金の竜巻模様に変化するんだよ。それが最高にイカす!」
「分かる、シンプルだけど、細かいとこで凝ってて好きなの。あと武器がロッドってのが良い」
「ほんまそれ。棒術かっこよすぎだよな。子どものころ、その辺の木の棒で遊んでたわ」
木の棒を振り回して遊ぶ幼い佐々木君を想像すると、なんだか微笑ましい。私はうんうんと頷いたあと、聞き返して見た。
「佐々木君は何フォームが好きなの?」
「俺はフレイムフォームだな」
「あー、だからカードあげたとき喜んでたのね」
「そうそう。やっぱりね、パワー系のフォームってロマンあると思うんだよね。アクターさんの演技とかも神がかってて、なんというか、フォームチェンジすると、素早さを失った代わりにパワーが増したっていうのが、仮面戦士の動きでよく伝わってくるんだ」
佐々木君がクラスの友達と話してる姿はときどき見てたけど、かつてこんなになりふり構わず、手ぶりも加えて話す佐々木君は見たことがなかった。それがすごく新鮮だった。
ふと、私たちが通りすがりの人にどう見えてるのかなって思った。もしかして、カップルに見え……ることはない。絶対ない。
いや、会話は盛り上がったと思うんだけど、いまいち距離感が分からない。気持ちとかの前に、物理的な距離感ね。男の人とどう並んで歩けばいいのか分かんない。誰か教えて。離れすぎると他人みたいになるし、ある程度は近くで歩いてたつもり。でも、もちろん手なんか繋いでないし、割と隙間空いてた。カップルには見えない。
途中横断歩道を渡ったときなんか、反対側から来たおっさん、普通に私たちの間通ったから。二人の体に当たることもなく、余裕もって通過したからね。
駅に入って改札を通ると、お互いに乗り場が違うということで、自然に解散することになった。改札を通って横に少し避け、お別れの挨拶をした。辺りは人が大勢通って、がやがやしている。
「佐々木君、送ってもらってありがとうね」
「いや、たまたま帰る方が一緒だったから。それに、こちらこそカードありがとう」
「ううん。じゃあまたね」
「あ、見川」
私は背を向けて帰ろうとしていたんだけれど、呼び止められた。
「良かったら、今度うちにおいでよ」
「え?」
「いや、俺たち話合いそうだからさ」
「あ、うん」
「やった! じゃあ、春休み明けの、学校のあととかに二人で会おう」
なんだかよく分からないうちに、佐々木君の家に行けることになった。
そのあと別れて、電車を待ってたんだけど、なんだかニヤニヤと胸の鼓動が止まらなかった。え、私なんかが行っていいの? って感情しかない。




