第8話 お買い物その2
太陽が燦々と輝き、人多さと昼という時間が秋だというのに夏と錯覚させるほど暑い。そんな港町から離れ俺たちは街の南側のドワーフの工房にやってきた。
とりあえずその中で一番建物がしっかりしてそうなドラン工房の中に入ると、中から熱が逃げるように顔に吹き付けてくる。剣や盾に鎧、果てには鍋や包丁までおいてある。製品を見渡して品質を確かめていると、中にいたドワーフはカウンター越しでぶっきらぼうに何の用か聞いてくる。
「家の壁と屋根の隙間を塞ぐために木材が欲しいです」
木材と聞いてドワーフは「ふん」と鼻を鳴らし。
「木材だ? 屋根は木材が必要だが壁なら泥で物足りる。よけりゃ俺がやってやるけどどうする?」
(どうやら見た目と似ずかなり親切のようだ。見よう見まねで自分で直そうと思ったけどこれならプロに任せた方がいいな)
「ぜひお願いします。金額はどの位になるんでしょうか? それと依頼をしたいのですが」
「木材込みで10万Rだ。依頼ってなんだ? 俺は高いぞ。」
依頼と聞いてドワーフは嬉しそうだ。
「寸胴鍋が欲しいんです。高さは50センチほどで直径は25センチ、取っ手は木製なのと出来るだけ密封してるいいですね。出来がよければもう二つほしいです。素材は銅がいいですね」
ドワーフは寸胴鍋と聞いてなるほどと頷くが、密封の意味が分からないようだ。
「密封してると料理の仕上がりが早くなるから時間と火力の節約になるんですよ」
ドワーフは理由を聞いた後にうむうむと考え、どうやら興味が沸いているよだ。
「それは本当ならすごいことになるな、この商品は売れるぞ。でも何でこんなでかいの作るんだ? 5人では大きすぎるだろ」
それを言われて俺は少しクリスに目を向ける、クリスは視線に気づくと顔を赤くして下を向いた。
「実は商売を始めようと」
商売を聞き4人は一斉に「え?」と声を上げる。
「そう言えばまだ言ってなかったな、今日帰った後に話そうと思ってた」
ドワーフは商売についてはどうでもいい様で、話を挟んでくる。
「とりあえず今日は何にもできない。家の修理は準備して明日に行く。依頼の方はさすがに作ったことないから時間はかかる。それでも1週間で作ってやろうちょうど今暇してるからな。そこで話があるんだが、もし成功したらこのことはほかの奴には言わないでほしい。うちで扱いたい、勿論ただとはいわない、依頼の鍋をただで作る」
ドワーフはどうやらこの鍋に興味を持ってるらしい、だけど著作権なんてないこの世界では作ったとしてもすぐに真似させれる。せめて最初に作って売り始めて多めに利益を得ようとしてる。
「いいですよ、でも密封鍋の方は小さい方が効果は大きいですよ。効果を見るなら最初に小さい物を作ってみたほうがいいですよ」
ここでどうせ作ればわかる情報を与える、多分どういう原理なのか理解していないのだろう。さっき入ってきた時に鍋を中心的に見たが寸胴鍋も圧力鍋なかった、日本でならアルミ製とステンレス製を使っていたが、この世界にはアルミとステンレスはあるかどうかも分からない、鉄だと錆があるから銅製が一番ということになる。鋼もあるがかなり高価なので手が出ない。
「本当か、さっそく今日試してみる。できたら小さい方もくれてやる」
どうやらドワーフはすぐにでも新製品を試したいようだ、イラーリとクリスに頼んでお椀と包丁など料理関係の物を買い、それとタンス代わりに鍵付きの箱を3つ買い。2万Rを払って店を後にした。
ウィズは紙を箱の中に入れて大事そうに抱える。
イラーリが言っていた魔法具の店もこの南区にあるので、そこに向かうと、何店舗もある中一番眼立ったリズの魔法具店という店に向かった。
「いらっしゃい、リズの魔法具店にようこそ。うちに来るとはホンマお目が高いで。うちは何でもあるで? 爆発するコンロとか、止まらない魔石馬車とか、水の出ない水筒とか。」
どうやら品ぞろえは豊富のようだ、だが役に立つものはなさそうだ。
「あ、どうも。実は火力調節機能付きのコンロが欲しいんですけど。爆発はなしで」
赤い髪はぼさぼさでよっぽど人に会っていないのだろう。
「ハハハ、爆発は冗談や。ええよ、ちょっと待ってな、すぐに作るから。」
どうやら先ほどのはジョークだったのか?1時間ほど店の中の物を見ていると、リズが戻ってきた。
「ほらできたで、値段は5万Rでええよ」
値段を聞き、イラーリが言っていた値段よりかなり高い、イラーリは責任を感じたのか、すぐにリズに値段交渉する。
「そんな5万Rもするんですか? コンロは2万Rって聞きましたよ?」
リズも商品にケチがついて不満に思ったのか黒い瞳でイラーリを睨みつける、イラーリも負けまいと睨みかえす。
「調整機能なんてつけるから手間かかったんや、だいだいよう火力調整機能はこの天才リズやないと簡単にはできへんで?」
リズはイラーリを相手にしても意味がないと気づいたのかこっちを見てくる。
「いいよ、5万Rで」
リズは自分の値段通りに売れて少しうれしそうに頷く、俺も安い方がいいけど火力調整機能がないと料理が作りにくい、5万なら許容範囲だ。
その後に商品の機能を確認して、火の魔石も買って6万R払って店を出る。
店を出た後イラーリは申し訳なさそうに下を向いていたが、気にしてないと慰めると尻尾がうねうね動きご機嫌になった。
港町に戻るともうすぐ夕方になるという時間になった、イラーリに頼んでお世話になってるおばさんの店に行く。店の前には野菜がたくさん積んであり、恰幅のいいおばさんがイラーリを見つけて嬉しそうに話しかけてくる。
「あらイラーリちゃんじゃない、手伝いに来てくれたの?」
イラーリはみんなの前でちゃん付けは恥ずかしいのかすぐに返事をして誤魔化そうと話し始める。
「いえ、今日はアルス兄さんが話があるからと案内しました」
(いつ俺が兄さんになったんだ?)
そうイラーリに聞こうとしたらその前におばさんが話し始める。
「そうかい、話ってなんだい?」
「え? あ、実は今日は商談に来ました。この店の余ってる野菜を買い取ろうと思いまして」
兄さんと呼ばれて動揺してたせいですぐに反応できず間抜けな声が出てしまった。
「別にいいけど。イラーリの兄さんらしいし、流石に残り物だから味はそこまでよくないわよ?」
どうやらイラーリを気に入ってるみたいだ、別にただで働かせていらないもの押し付けていたわけではないようだ。
「構いません、値段はその日の量によって決めましょう」
毎日購入するとは思っていなかったのかおばさんは機嫌よくなる。
「助かるわ、安くしておくからたくさん買ってね」
「とりあえず今日は1000R分ください」
おばさんはこれでもかと野菜を箱の中に盛っていく、中には鮮度のいいものも交じっている。ジャガイモやニンジンやナスなど元の世界でも馴染みのあるものばかりだった。クリスは今日のごはん沢山食べれるのかと嬉しそうに箱を見つめる、シークとウィズは一日歩き回っても疲れている様子はない。
これで野菜の仕入れルートを確保した。
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