第6話 商業ギルドとシスタークリス
夕方になり4人が疲れて地面に座ってしまった、そんな俺たちにマーチャは怒鳴るような声をかけた。
「アルス、商業ギルドに行くぞ。あとで飯も奢ってやるから早くついてこい」
飯のという言葉に反応して3人はさっきの疲れを忘れたかのように素早く起き上がり、シークはすでに涎を垂らし始めている。
マーチャと護衛に連れられて商業ギルドに行くと、そこには2階建ての大きな建物だった。看板には商業ギルドという文字が彫られているはず、文字の後ろに硬貨の絵が描かれており非常に分かりやすい。
中に入っていくと孤児4人を連れ歩くのが目立ち、中にいる全員がこっち視線を向けてくる。孤児3人は珍しいのかキョロキョロとお上りさんみたいになっている。
マーチャは目線を気にせずカウンターへ向かい事情を説明する。ギルドの受け付けも驚きながら個室に案内してくれた。マーチャはそのまま手続きに向かい、護衛と4人は小一時間待たされてから、俺だけ呼ばれて2階のギルドの個室に呼ばれた。
中に入るとギルド長がマーチャと一緒に立っており、さらに何人かのギルド員が立会人としており。ギルド長はふくよかな体格で燃えるような赤い髪、そして黄色い目はまるで試すようにこちらを見る。
「君がアルスか。まあ、とりあえず掛けたまえ。話は聞いている借用書とギルドカードを作っておいた」
こちらに座るように勧めるが、こっちを見る目は変わらず一動作すら見逃さないほどだった。
「失礼します。内容の説明をお願いします。自分は文字が読めないので言葉で伝えて頂けると嬉しいです」
腰を掛けマーチャに目を向けるとにやにやと笑っていた。
「では説明するぞ1、マーチャ・ラッカードはアルスに50万Rを貸すものとする。2、期限と利子はないものとする、ただし返済は毎日の給料から1000Rとする。3、アルスが仕事を続けることができない場合は返済しなくてもよいものとする。4、アルスが逃走した場合は100万Rの賠償を支払う、その場合捕まえるまでに掛かった費用も負担するものとする。以上を持って借用書の内容とする。ビクトル・テイラーの名において宣言する」
そう宣言した後にビクトルはマーチャに軽蔑含んだの視線を向けていた。
「これは言いたくないが、かなりアルスに有利な借用書だ。まるで50万Rをプレゼントするようなものだ」
そう言われてマーチャ特に気にせず、口を開く
「そうですよ、この50万Rの意味はギルド長にもいずれはわかるでしょう」
そう言わたビクトルは軽蔑の目を変えずに「勝手にしろ」と言葉を残し部屋を出ようとする。
「ビクトルさん少し質問があるのですが、今からでも条文を追加できますか?」
(こいつら落とし穴を用意しやがった、言ってることは嘘はないと思う。だけど最低賃金がないこの世界では明日から給料を1000R以下にされたら一生奴隷だ、さらに仕事する日時を減らされるともうどうしょうもない)
「……ほう、不備があれば当然追加される」
ビクトルは面白いものを見るようにこっちを見る、周りのギルド員もよくわかっていないようだった。
「では、説明しますね。まず給料を1000R以下にされた場合と仕事が入れてくれない時についての何も書かれていない。このままでは返済は最低でも1年以上はかかります」
そう言われてギルド員は気づく、そうやらこういうケースは珍しい様だ。
「なんと、これは気づかなかった。では返済はいつでも良いものとする、さらに給料は今より少なくするは禁止とする。これでどうだ? マーチャもいいか?」
マーチャは自分の罠を見破られたというのに嬉しそうに頷く。ビクトルは頷くところを確認すると第2条を消し新たな条件を入れる。さっきと一緒に読み上げ、ギルド員と一緒にしっかり確認する。
「ギルドカードはマーチャ君から聞くといい、問題ないはずだ」
それを聞きマーチャとギルド員は一階に降りていく、それについて行こうと立ち上がるとビクトルは話をかけてくる。
「アルス君、仕事に困ったら私のところに来るといい。マーチャ君よりいい条件で雇うよ」
(さっきまでマーチャと一緒に俺を嵌めようとしたくせに手の平を返すが早いよ)
「いえ、マーチャさんには拾って貰った恩がありますので」
ギルドに出るとマーチャは何事もなかったかのように話し始める。
「アルスよく書類の不備を見破った、お前はいい商人になるぞ。才能があるな」
(こいつぅ、よくも抜け抜けと話せるな。お前が嵌めようとしたのはバレバレだよ。まあ、なぜこんなにも俺を買っているのかわからないが)
「才能かどうかわかりませんが、ギルド長からマーチャさんよりいい条件で雇うと言われました。もちろんマーチャさんには恩があるので断りましたが」
そういうとマーチャは明らかに目を泳がせる、断ったと聞くと今度はほっとしたのがわかる。
「よし、飯に行くぞ。好きなだけ食べるといい」
孤児3人はその言葉を聞き「おお」と声上げる。
マーチャに連れられてしばらく歩くと2階建ての食堂に着く。店はかなり混んでおりかなりの人気店の様だ。マーチャは並んで人間を無視して店の中まで入るとすぐに従業員が駆け寄り、個室に案内してくれた。
個室は夜でも明るいように光の魔石が使われおりかなり明るい。席に座るとマーチャは従業員にチップを渡し、注文する。
「とりあえずエールとシチューをもらおう。ここのシチューはうちの香辛料とボルン牧場の肉使ってるからおすすめだぞ」
それを聞き孤児3人は肉肉と連呼し、護衛も流石にエールは注文せずにシチューをもらった。
「じゃ自分は魚と肉とスープとパンをください」
昨日食べた肉はうまかったが他にも旨いものがあるはず。そう期待して待っているとマーチャはギルドカードをテーブルの上に滑らせてこっちに寄越してきた。
「ほら、これがギルドカードだ。お前は身元を証明するものはないから勝手に作っておいた、これがないと借用書が作れないからな。これがあれば商売することもできるから、保証人は私になっているからあんまり問題起こすなよ」
受け取ったギルドカードは銅で作られていて、上に名前と所属と金額が書かられている。どうやらギルドは銀行の役割もあるようだ。
「ありがとうございます、おかげで助かりました」
礼を言うとマーチャは大したことではないとばかりに手を振る。
「いいよ、明日もしっかりと働いてくれ。それよりこの3人はどこで拾ったんだ?」
マーチャは3人を一目もくれずに話しかけてくる。彼にとっては3人はどうでもいい存在だのようで、話の繋ぎに使っているだけという態度だった。
「そんな物みたいに言わないでください。付き合いは一日しかありませんが自分にとって大切な従業員です」
それを聞くとイラーリはまるで花のように笑顔になり、シークも照れるように頭を掻き、ウィズは照れてうつむき口元はにやにやと笑っている。マーチャは3人の態度を見て「ふん」と鼻を鳴らし話を変えてくる。
「アルス、今日の契約でわかると思うが文字が読めないのは何においても不利だ。文字を覚えろ、いい人を紹介してやろう、光魔法の癒しも使えるシスターだ。戦闘もそこそこできるから。条件はご飯と住む所があればいいそうだ。お前のことを言うとかなり乗り気だったからな」
(これは怪しすぎるだろ。逃がさないための首輪かな? だとしたら受け入れたほうがいいな。怪しまれたくないし、今更逃げる気はないからな。護衛としても使えるからかなり助かる)
「本当ですか? 何度も世話になって申し訳ないです、御恩は必ずお返しします」
マーチャは返事を聞くや否や、すぐにうれしそうに笑いだす。かなり不安になる。
「そうかそうか、実は今日来てもらってるんだ。おい、クリスを呼んで来い」
すると護衛は立ち上がりドアから出ていく。
少し経つと護衛とクリスと呼ばれるシスターがドアから入ってきた。クリスは顔たちは整っていて、胸は大きく、体型はスリム、身長は160ほどで小柄で、年齢はおそらく20代、青色の瞳としっとりとした金髪が印象的だ、前の世界ではあんまり見かけないほどの美人。そして口元に油がてかてかと光っていてすべてを台無しにしてる。
「初めまして、アルスと申します。クリスさんに文字を教えて頂けるとターチャさんに言われました。よろしくお願いします」
そう挨拶するとクリスは少し驚き、慌ててしゃべり始める。
「はい、クリスです。あの、よろしくお願いします」
性格は内気のようだ。ここでマーチャ「ごほん」と声をたて綺麗な口元を拭く、クリスはハッと気づくと顔を赤くしながら袖で口元を拭き始める。少し空気が気まずくなり、空気を変えるために質問をする。
「クリスさんはシスターですよね? 教会はどうしたんですか?」
クリスはよっぽと恥ずかしいのか、すぐに質問を答え始める。
「司教と喧嘩してやめました。預かったお金が無くなった孤児を追い出そうとして止めようとしたら喧嘩になって追い出されました。その後にお世話になったラッカード商会に助けてもらってオックスソードに来たのですが。アルス君の話を聞きぜひ面倒を見ようとおもいまして」
どうやらいい人のようだが面倒ごとある感じだ。マーチャに目を向けると、マーチャは露骨に目を逸らし始める、まさかクリスが率直に話すとは思わなかったのか。おそらくは癒し魔法使えるから囲ってみたけど、あんまり役に立たないからこっちに押し付けてきたのか。
「いやまあ、喧嘩した相手がな、大司祭になって教会でそこそこいい地位にあるから。ここに連れてきたんだよ。ここなら王都は遠いから手は伸びてこない」
(まあ、それならいいか。ここでクリスとは関係ないと教会に言いたいのだろ。本当にこの世界の商人は油断ならない)
マーチャに不満な目を向けるいると。店員が料理を運んできた、孤児3人とクリスは涎を垂らして料理を凝視している。クリスはどうやらあんまり食べていないようだ。
「ほら早く食べよ、冷めるとまずいから」
マーチャは少し慌てながら料理を並べる店員を手伝う。そして食べ始めると美味しさに驚く、料理は素材がいいようで、どれも満足のいく味だった。流石ミシュランには及ばないが日本の一般店並みのは美味しい。
「旨いだろ、この街ではここより旨いところはないよ」
ここでマーチャは店をほめ始める。
「美味しいです、香辛料が特に香りいいですね」
(このレベルで町一なのか。材料があれば俺でも作れるレベルだぞ、いいこと聞いたな)
色々と頭にレシピを浮かばせると。
「お代りください」とクリスが声を上げる、孤児もそれを聞きお代りと騒ぎ始める。
30分ほどだろうか、クリスが何度もお代りをする。お皿が積みあがっていく、全員の分を足してもクリスには及ばない。
(どんだけ食べるんだよ、こんな奴の食費いくらになるんだよ。マーチャふざけんなよ)
もはや俺はマーチャを睨みつけていた、マーチャも気まずくなりこっちに目線を合わせようとしない。クリスの引き取りを断ろうと口を開くのを察知されたのか、マーチャは慌てて話し始める。
「そうだ、5人の生活では一日7000R足りないだろ、流石にアルスの給料は決めたばっかりだから上げれないけど、孤児3人にも給料を出そう15000Rでどうだ? もちろんアルスに渡すが」
3人は給料と聞いて嬉しそうだ。
(一人当たり5000Rか、悪くないな4人合わせて22000Rだ。クリスは不安要素だが、ここで揉めてもいいことはない)
「……アリガトウゴザイマス」
自分でもわかるほどぎこちない声だったが、マーチャは安心したように笑い、そのあと酒をがぶがぶと飲み酔いつぶれた。クリスも満腹まで食べ、お開きとなった。
昨日更新できずに本当に申し訳ありませんでした、高機能執筆フォームを使っていたらフリーズして書いた分の話が吹っ飛んでしまって。その代り今日は頑張って長めにしました。