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二人を別つまで  作者: 居眠り小僧
第0章 プロローグ
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3 食客

七夕?休暇を短冊に書いたら叶えてくれるだろうか?

二話連続投稿です

謎の殺戮者『黒騎士』を撤退させる活躍をした治済であったが、側にいたはずの少女達に取り抑えられた。


「――抵抗しない方がいいですよ。あまり、強くはしたくないです」


事実、リリィの拘束は完璧とも言える。

首もとにヒンヤリとした感覚(おそらく刀剣の刃を当てられ)に、四肢は徐々に血色を失っていき、感覚までも薄くなってきた。


「君は、なぜその『魔導機装』……『緋月』を使えたのかな?」


アクィエルの当然と言える疑問に、しかし治済は途切れ途切れに答える。


「さて……ね、使った本人が……一番驚いてますよ」

「ふむ、となると尋問……いや、記憶の深層を視ることになるか」


物騒な事を呟くアクィエルを無視して、手当てを終えたララが問いかける。


「まどろっこしいことは無しよ。これだけ答えなさい。アンタは、敵?」

「ア、ハハハ。分かりませんよ。ただ、敵を追っ払ったんなら、有効的に活用は出来るとは思いますよ」

「んー、信用ならないんだよなぁ。姉貴、本気でアストラル様に会わせるの?」

「――ええ、そうね。リリィ、拘束を解きなさい。アストラル様がお呼びよ」














そのまま連行される形で二階に上がる。

先程の土石流で通路に置かれた家具やら置物が破壊されているが、部屋の中にまでは浸水しなかったらしい。

『執務室』と書かれた部屋にノックする。

返事はないが、ララが特に気にするまでもなく、入室する。


「――ようこそ、歓迎しよう。私はヤマト帝国四将の一角、アストラルだ。君が異世界から来たハルナリくん、かな?」

「あ、はい。よろしくお願いします」


部屋の中には、くすんだ金髪の中性的な顔をした美青年がいた。

治済の心中を察してか分からないが、アストラルと名乗った男性が話を続ける。


「君のことは上層部から色々聞いている。衣食住の確保は、済んでるかな」

「いえ…まだ、来たばかりなので」

「ふむ、良ければ君をこの屋敷の食客として招きたいが、どうかな?」

「はあ……よろしくお願いします…?」


話を聞いた限りでは、この城の主らしいアストラルは、しかし先程の土石流については特に言及してこない。


「では、彼の世話役をリリィに任せようか。それと、レレイヤは早く報告書を挙げなさい。ララとアクィエルは私と一緒に『中央』に行ってもらう」

「このナマクラを報告するのですね」

「ララったら…一応彼は被害を抑えようと…」

「被害を広大させた馬鹿者には相応しい呼び方よ」


ふと、ララの一言が胸に突き刺さる。

この言い様は、まるで。


「……ちょっと、嫌な予感がするんだが…」

「あら、察しがいいのね。――やらかした分の負債はしっかり働いて返しなさい」


ポンと、胸元に数枚の紙が押し付けられる。


『予想される被害総額』と記載された書類の、ちょうど真ん中に金額が記されていた。


――。


「1億オウル……!?いくらなんでも横暴だろ!?」


アクィエルからこの世界での通貨を聞いたところ、銅貨で1オウル。銀貨で100オウル。金貨で1000オウルだそうだ。


「ま、10年間休まずここで働けば返せるわよ。因みに臓器売買は止めておきなさい。『あの子』が特に嫌ってる行為だから」

「10年………あは、あははは……」

「大丈夫っすよ。そこまで借金の取立ては五月蝿くないはずですから」


レレイヤの慰めは、しかしなんの励ましにもならない。

リリィが袖をクイと引っ張ってくる。早く退散しようという合図だろう。


「では、失礼します」
















「――部屋を退室する時の礼は胸に手を当ててからの敬礼ですよ」


部屋を出ると小言を言われた。

どうやら、元いた世界の常識は、あてにならないらしい。


一階に降りると、さっそく修復作業が行われていた。

破壊された壁の破片を岩肌のようなゴーレムが持ち上げているのが見えた。

その中で一人、まだ幼さの残る少女が、指揮を執っているように見えた。

小麦畑を連想させるような美しい金髪を、サイドに纏めている。

髪を纏めているリボンもララの髪飾りと似通ったデザインがなされている。


「そこの破片はアラン村に持っていくかしら。その割れた壺は馬鹿者の部屋に。あと、そこの絵画は私が直しておくかしら」


ふと、少女の視線がリリィに向けられる。

柔和な笑みが溢れ出たかと思えば、子供のように右腕を大きく手を振っている。

リリィが小さく振り返すとステップを踏むかのように楽しげに現場に戻っていく。


――あのー、左手で中指立てないでもらえますか?


治済に対してだけ、どうにも辛辣であった。


治済の部屋は東側一階の廊下の突き当たり、日の入らない真っ暗な…。


「……ここが、僕の部屋……って、物置じゃん!」

「まさか5人目が来客されるとは聞いてませんでしたので」

「食客としての扱いを要求したいのですが」

「食客として役目を果たして欲しいですが」

「「……」」


幾分かの沈黙。

治済が先に降参のポーズをした。

おそらく、この少女と口論して勝てる見込みは皆無だろう。それに、わざわざ波風を立てるような物言いは危険だと判断する。


「分かったよ。で、このあとは具体的には何をすればいいのさ」

「指令書をもらいましたよね。内容が分からないなら一緒に行きますか?」

「あ、うん…いいの?」

「まあ…私も用事がありますので」


どこに、なんて野暮なことは聞かない。

とりあえず、着いていけば何かしら分かるだろう。


……それにしても、もう少し親切に説明してくれても構わないのではなかろうか。

一応は、一応ではあるが食客なのだから。

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