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カニバス

作者: 朝倉妃妬美

若干、性に関する用語が出てきますが、特にそういった場面はありませんので安心してお読みください。

代わりに暴力的ですが。

私、悪魔なの───

俺、悪魔なんだ───

突然、彼女、彼氏、クラスメート、はたまた両親、通りすがりの赤の他人にこんなことを言われて、あなたはどんな反応を示すかしら?

信じて驚く?馬鹿にして笑う?珍しいから喜ぶ?命をとられると思い、恐れる?

───まぁ、反応なんて人それぞれよね。悪魔と言っても思い描く姿はバラバラ、漫画家とかイラストレーターの絵を思い出して、大まかな姿があるかも知れないけど、多少の違いはあるわ。角が生えていたり、人間型、動物型、人によってはアニメチックな悪魔を想像する人もいるかもね。

 当然ね、悪魔にも人間と同じように一人一人(悪魔にこの表現はあっているのかしら?)個性はあるけど、同じ顔はいないもの。

ところでアナタは人を顔だけで判断したりしてない?しているアナタはダメダメね。顔が良ければ性格もいいの?顔が整っていない人は心も濁っているの?

ありえないわ。顔なんてその人が生まれ持った、外観的特徴なだけよ。それを性格に結び付けないで欲しいわ。他に、勉強が苦手でもいいじゃない。勉強が全てじゃないわ。運動が苦手でもいいじゃない。運動だけも全てじゃないわ。

つまり、ワタシが言いたいことは人って、どうしても他者の弱みばかり目を向けてしまっているってこと。長所を見つけることが下手な生き物じゃないかなと思うのよ。だからお願い、

アナタには人の長所を見つけられる人間になって欲しいの。

まずは身近な人のいい所を見つけてみて。良い所の無い人なんか一人もいないから。

これだけ、ワタシと約束してね。


──これでいいの?筆者。だらだらと意味のわからないセリフを並べてどうするのよ?読め!って言われたから原稿通りに読んだけど、ワタシには前文の意味がちんぷんかんぷんよ。これで真面目そうな小説だ、って読者を騙せるわけ?

────まぁ、いいわ。今からワタシが仕切るから。

じゃあ、改めて・・・今日は!突然ですがワタシの秘密を一つ暴露します!

実はワタシ─────淫魔なのです〜!

───────あれ?反応が悪い?

淫魔だよ〜。ほら、悪魔の一種の────

あっそうか、サキュバスって言った方がわかり易い?

───ダメか〜最近日本では活躍していないものね。外国でサキュバスって聞いたら、枕元に濃厚な牛乳を置いてくれる位、有名なのに・・・

しょうがないわね!このワタシが直々じきじきに淫魔について少しだけだけど、教えてあげるわ。

淫魔は悪魔の一種で、さっき言ったとおり『サキュバス』とも呼ばれているわ。他にも『夜魔』とも呼ばれることもあるけど、普通は“サキュバス”と呼ばれることが多いから、ここからはワタシの様な種族の呼び名を『サキュバス』に統一するわ。

 そうだ!ワタシ達がどんなものか語る前に悪魔についても教えなきゃ。サキュバスもそうだけど、悪魔は一部の種族を除いて欲望を満たすため、一生を費やすの。

あなた達人間にわかり易いところでは『契約』がそうね。あれ、力を与える代わりに例えば、声とか理性とかを代償に奪われたりするのがベターでしょ?それは人間の声を集めて、夜、自分の部屋で奪った声を聴いて喜んでいる、つまり声フェチの悪魔が欲求を満たしたいがために力を与えている、ってわけ。わかったかしら?

 とまぁ、悪魔が欲求を満たす為だけに生きていることは、わかってもらえたと思うから、ではサキュバスは何を欲するか語らせてもらいます!

 サキュバスは─────性欲。

 サキュバスは基本的に人間界の夜に男性のベッドでセッ・・・はマズイか───じゃあ性交をして性欲を満たすの。性行為が好きなだけなのよね、簡単に言うとね。

 まぁ、ワタシは他の方法で性欲を満たすのだけどね・・・

 それが何か知ってもらうために、この後の話があるわけ。

この話はワタシが性欲を満たすために人間界に降りたときの話よ。一ヶ月前のことなんだけどね。あっ!知識のある人ならカニバスという題名で大体、話の内容を予測できるかもしれないわ。


ぐぅ〜〜〜〜〜・・・

 お腹空いた。何か食べ物・・・何これ〜!?冷蔵庫、何も入っていないじゃない!もう!ママったら、男をたぶらかすのは得意の癖に、家事はまともに出来ないんだから!

 ────しょうがない、人間界に降りて食べ物探しにでも行こう。ついでにワタシもワタシなりの性欲処理法でもやりに行こ!

「ママ、ちょっと人間界に行って来るね」

「えぇ・・・行って・・・らっしゃい・・・」

 ママはリビングのソファーで雑誌を読んでいたため、返事があやふやだった。

 女性が裸になっている雑誌なんか読んで何が楽しいのだろう?ワタシには理解できないわ。

 ワタシはママの横を通り、リビングで不自然に渦巻いている、黒色こくしょくもやの中に活き良いよく飛び込む。これは人間界とワタシ達の住む魔界を繋ぐ、門みたいな働きをしてくれる物。

魔界の家なら何処にでもある、言わば家具のようなものよ。

 ワタシの身体はゆっくりと黒い靄に溶け込んでゆく・・・


「元気ね・・・まだ人間界は昼間だっていうのに・・・まぁ、私があれぐらいのときは日本を────どうでもいいわね。今回はあの子が主人公だし」

 しばらくしてから読んでいた雑誌を床に投げ捨てる。偶々開いたページには────とてもここでは書けないような淫靡な格好をした女性が写っていた。

「あぁ〜〜。これも表紙に騙されたわ。次の物に期待ね」

 女性は山積みにされた雑誌から無造作に一冊抜く。そしてまたソファーにもたれ、熱心に読み始める。

あの子はこの女性の事をママと呼んでいた。が、とても容姿が子持ちには見えない。

 老けて見ても二十代前半、若めに見てしまうと十代後半にしか見えなかった。



 人間界で一、二を争うほど賑わう、オオサカ。昼の二時、更に日曜日という事もあってか、

学生や家族連れの姿も多い。商売人の声に、友達同士の他愛も無い会話。実に活気が満ちている。

 その平和な街に性質たちの悪い悪魔が、こんな真昼間まっぴるまから現れるなど、人間の誰が予測出来ただろう。一般的なサキュバスは人を傷つけることはしない。

しかし、彼女は違う。本人は知らないが、既に血筋から普通のサキュバスとは異なっているのだ。何せ彼女は──────

 とある路地裏。そこで渦巻く、黒色の靄に人間は気づかない。

そこから彼女が突如として現れたことも───

犠牲者が出ることも───

目的が何なのかも───


人間は誰も知らない。



「着いた〜〜〜人間界!何度も来ているけど、いつも夜だったからね。この世界の太陽は眩しい〜!魔界の年中薄暗いのとは大違いね」

 自慢の灰色の翼を大きく広げ、ワタシはビルの上で悪魔らしくない、日向ぼっこをしています。ここなら人間に見られることも無く、安全に翼を広げられるからね。お腹空いているけど

まずは、この世界を楽しまなきゃ。

 ──────でも、さすがにワタシはサキュバス。夜に活動する悪魔。当然、日光に対する

免疫めんえきが無いの。だから五分もしないうちに身体中に激しい痛みが。悪魔にとって日光浴は命がけね。

 ワタシはすぐに人間が歩く道とは反対側の路地裏に飛び降りる。地面に足がつくと背中の翼を閉じる。全長二、三メートルはあった翼は物理法則をことごとく無視し、ワタシの背中に収まる。

人間の思い描く、頭に角が生えていたり、触角が生えていることは、少なくともワタシ達、サキュバスにはないので、翼さえ隠せば普通の女の子と変わりは無いわ。

 ぐぅ〜〜〜〜・・・

 お腹の音が路地裏に響き渡る。

 恥ずかしい!真剣に食べ物探した方がいいわね────その前に性欲を処理しましょ!

 路地裏から大通りに出る道をワタシは見つけ、大通りへと出る。


 通りには多くの人間が停まることなく、急かしそうに行き交っている。無論むろん、男の姿も見えるわ。カップルもいれば一人、既婚で子供まで連れている者もいる。人を選らばなきゃ。

 えぇっと・・・あの学生は・・・ダメダメ、彼女持ちだ。振り向いてくれそうに無いわね・・・・

あの人は・・・ヤダ!・・・オタク?何されるかわからないわ・・・

あの人は・・・既婚者かよ!

あの子は・・・って!ワタシ、ショタコンじゃないわ!

─────こうして探してみると、今日は手ごろな男はいないわね。はぁ〜・・・今日は諦めるか・・・

ワタシが近くのスーパーで食べ物でも物色しようと、その場を離れようとしたとき、前方、

百メートル先(ワタシは目がいいのよ!)に男が!

やったわ〜!ついにワタシの求めていた理想の男性が来てくれたわ!眼鏡がズレ落ちている

事を気にせずに振舞い、そんなに歳をとっていないのに、前髪の代わりに太陽の光で照らされている地肌!残っている横の髪が申し訳なさそうに残っている!猫背で服なんか、一週間に一度しか洗濯していないような汚さ!今だ未婚ですオーラ出しまくりの男!

あぁ!これこそワタシが探していた“全然女性にモテそうに無くて、少し女性が声を掛けた

ホイホイとついて来そうな、単純にワタシなりの性欲処理法をするのに適任な男”に出会えた訳ね!

────よし!あの男に声を掛ける前に、サキュバスとしての能力を存分に使わなきゃ!で、

鏡になる様な物は・・・あのショーウィンドーでいいか。

 ワタシはとある服屋さんのショーウィンドーの前に立つ。中のマネキンが色々なポーズをとりながらこちらを見ている中、少し日陰の位置にある、ここは丁度、表面が鏡のように為っているためワタシの顔も映っている。

 ──────ワタシって可愛い〜!自意識過剰かもしれないけど・・・いいえ!過剰なものですか!この妖艶ようえんな顔に一般男性が好む、大き過ぎず、小さ過ぎない胸のふくらみ!締まったウエスト!安産必至のヒップ!何処をとっても完璧よ!本当はこのままが良いのだけど、もしも・・・もしもの場合に備えて─────

 人間が後ろで行き交っているけど、別にこの能力が見られてまずい事は無いから良いか・・・翼が見られるのは魔界ではタブーだけど。

「|あの男が望む理想の女性の姿になれ(・・・・・・・・・・・・・・・・)!」

 目をつむり、小声でそう言う。別に始動キーがあったり、長々と詠唱したり、人間の言葉には無い発音で唱えたりする訳じゃないの。日本語でいいの。本当は声を出す必要も無いのだけどね・・・わかり辛いでしょ・・・突然、顔が変わるだけだと。

 これがワタシ達、サキュバスの能力。標的の男性の理想とする女性の姿に、自分の身体を性格、声以外を変換する。最高でしょ?だから殆どの場合、男はワタシ達の身体を欲するの。

当然ね、理想の異性が目の前に現れて、性欲が湧かない生き物なんていないもん。

 え?殆どってことは例外の男もいるのかって?まぁね、流石にワタシ達でも堕ち無い男はいるのよね、一人はゲイの人。ワタシ達の能力はどんな女性にでもなれるけど、男にはなれないからね。もう一人は・・・EDの人。性欲があっても勃たないんじゃなぁ〜こっちもえちゃう、らしいよ、私は知らないけど。

 さぁ!あの男はどんな女性がタイプなのかな〜?

眼鏡っ娘?新妻?巨乳?とにかく楽しみ〜!

ワタシはおもむろに目を開ける。そこには代わり映えしたワタシの姿が──────

「って!はぁぁぁあああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 声にすら為っていない音がワタシの口から漏れる。周りの通行人が突然叫びだした私を、何事だよ、みたいな目で見ているけど今の私には関係ないわ!

 しょ、小学生?ロリ?・・・ロリね・・・ロリ──────ロリコンか〜!

よりによってとんでもない趣味の男を見つけてしまったわ!しかも過度よ過度!ママから十二歳の少女の姿になったことがある、って聴いた事があるけど、今のワタシはそれよりも幼い、小学校に入りたての一年生にしか見えないじゃない!元の完璧な姿に戻ろう───

そうだった!一度能力使ったら二時間ぐらいは戻らないのよ!・・・・・あぁ・・・・仕方ない、我慢しなきゃ─────あぁ〜!ワタシの胸がまな板に為った〜!これじゃあ、AAカップじゃない・・・顔は整っているけど────でも目線が低い──不満がありすぎる!

とにかくあの男に近づこう────仕方ないのよ・・・仕方ないのよ・・・ワタシ。

男は既に十メートルほどまで近づいていたわ。

よし!ここは男の横を通り過ぎて、興味を持ってもらう作戦ね。

ワタシは歩行者に紛れ、ゆっくりと男に近づいていく。

すると、あと二メートルというところで、予想だにもしなかったことが起こっちゃった。

コケたわ。もう、派手に。ワタシが。

理由、元々十六歳のワタシの服は、小さくなったワタシには大きすぎたから。

ミニスカートに足がからんで。いつの間にか、ずれて落ちていたらしいわ。

顔面から地面に衝突、唯一、今の身体で気にいっている顔に傷が付きかける。大丈夫だったけど。

「あいたたたた・・・」

 自分ことながら情けないわ。

ワタシはすぐに立ち上がろうとしたとき─────

「大丈夫か、お嬢ちゃん?」


 天から聞こえる様な声。顔を上げると微笑んでいる笑顔。差し出される、光り輝く手。


 あ!なんだか今の文だけだと、天使がワタシを助けてくれたみたいね。でもね、今のはあの標的の男よ。ちょっと、説明が足りないみたいね。付け足すわ。


 今はただでさえ背が低いのに更に、座り込んでしまっている事もあってか、天から聞こえる様な高さから、聞いていて吐き気がするような声。顔を上げると完全に下心丸出しの、下卑た笑い顔。微笑んでいるとは思えない、汚らしい笑顔。差し出される、何を触ってきたらこんなに汚れるのか、こっちが聞きたいぐらいに手に油が付いていて、それが太陽に照らされて光りを乱反射するように輝く、触りたくも無い手。


 って、感じかな?とにかく近くで見るとその汚さがよくわかったわ・・・・

 ワタシは無言のまま自力で立つ。突然コケたワタシを殆どの通行人が見ていたけどその男がワタシに話し掛けてから、結界でも張っているのかと思うくらいに五メートル以内には誰も近づいて来ないようになった。

「大丈夫か〜よかった、よかった!」

 またもや下卑た笑顔。そして、

「お嬢ちゃん、おじちゃんが良い物買ってあげるから、ついてこない?」

 といけしゃあしゃあ私に向かって言ったわ。

 今どき、そんな誘拐犯の決まり文句を使う男を初めてみたわ。あり得ない、あり得ないわ!

でもここは─────

「わぁ〜!嬉しい!行こ!行こ!おじちゃん!」

 乗ってやる。こちらにも好都合だわ。

「おぉ!おじちゃん、嬉しいなぁ〜。おじちゃんは窪江淳志、アッちゃんって呼んでくれるかな?」

 おいおい!名前、名乗ったって事は多分、路地裏でワタシを強姦した挙句、生きて返す気無いわね!それに小さな子供に渾名で名前を呼ばすなんて、気持ち悪い通り越して、変態ね。

「うん!わかった!アッちゃん!」

 演技、演技と。

「よし、じゃあすぐそこの人気の無い路地裏に行こう!近道だから」

 人気が無いって言っちゃったよ〜!絶対、強姦目的よ!

「行こ!行こ!」

 脱げたスカートをしっかりとまな板の胸に穿いた(?)ワタシと汚いオッサンは人の目の届かない路地裏に吸い込まれていく。

 明らかに誰かが警察を呼ぶ様な光景だけど、出来れば呼んで欲しくないなぁ〜ワタシにとってもね。


 路地裏に入っていく男について行くワタシ。手なんて繋いでないわよ!汚いから!

 やたらと静かになる男。多分、頭の中でワタシをどうやって犯すか考えているところね・・

あぁ!気持ち悪い!

 人が全く入ってこないような、広場のように広い空間に来たわ。ここなら私もやり易い・・・!男はワタシが喋るのを待っているようね。それじゃあ────

「アッちゃん、良い物って何?」

 喋ってやる。飛びついて来なさい!強姦をするにはまず、女性の動きを奪う!いきなりの方が女性は抵抗できないわよ!ここなら声を出されても大通りには聞こえないわ。絶好のシチュエーションよ!さぁ、早く!

 すると男は、下卑た顔をこっちに向け下品に笑う。

「良い物?じゃあ服、脱いで」

 へ?

いや!いや!?答えになっていない!『じゃあ』の使い方間違っている!て言うか、ここまで連れて来た目的言っちゃったわ!ストレートに!?『服、脱いで』って・・・しかも自主的に?普通、強引に脱がせたりしない?特に今のワタシのようにか弱い子供は!強姦もまともに出来ないなんてどれだけ女運が無かったのよ!

もういいわ!

「嫌よ、下種」

「へ?」

 あまりのワタシの口調の変化に驚くような素振りを見せる。

 本当にもういいわ。コイツを泳がせるのもこれで終わり!ワタシなりの性欲処理法を───開始!

「お、お嬢ちゃん───────」

 喋る暇なんて与えずに。ワタシは〇,三秒程で落ちていた、手ごろの鉄の棒を掴み、一瞬にして男の背後に回る。そして、〇,一秒程で気絶と一撃で死ぬ可能性のある身体の部位を避け、左足に鉄の棒による打撃を加える。

 こう見えてもワタシは力があるし、速さもあるの。まぁ、今は身体が小さくなった分、普通の約二倍の速さで動ける訳で、元の姿じゃあ、今の動作に一秒はかかるわね。

 ワタシの狙い通り、左太股の筋肉のみを切断する事に成功。

「くっ!」

 痛みで男は顔をしかめ、汚い顔が余計に醜くなる。

筋肉を切断したから当然、左足は男の体重を支えきれずに、男の身体はその場で崩れ落ちる。太股からは血が滲み出ている。ワタシはその姿を正面から、自分でもわかる様な満面の笑みで見ていた。

そして更に、男の下卑た顔に目掛けて、今度は少し力を抜き、鉄の棒を右頬に叩きつける。

男は派手に飛び、頭から、隅にあるドラム缶に当りそうになる。そこにワタシは、踵落しを男の右脇腹に与え、地面に叩きつける。

あれ〜?力、抜いたのになんで飛んで行っちゃうの?軽すぎるのかしら?・・・・・・・・とにかく危なかったわ、頭にドラム缶なんてぶつかったら、死んじゃうものね。

 男の右頬は赤く腫れ、歯が当たったのだろう、口から垂れ落ちる血。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 男はまだ息がある。急所をわざと外したから当然といえば当然。男が虫の息であることを確認すると、ワタシの顔に再び、満面の笑みが浮かぶ。

 はぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!・・・良いわ、良いわ、良いわ!その苦しんだ顔!まだ、死んでいない、ってところにワタシは興奮を覚えるわ!もっと──────なぶりたい!

 わかる?この喜びが!これが私なりの性欲処理法よ!


初めて人間界に降りてきた十三の夏。そのときは、サキュバスの本来の性欲処理方法、性交をするつもりだったのだけど、初めての人として選んだ男がダメだったわ。性犯罪者。しかも、指名手配中だった男。ベッドに潜り込む前に襲われそうになったわ。そのときのワタシはとっさに、机の上に置いてあった、多分プラモデルでも作っていたのね、刃が出たままのカッターナイフを、男の右肩に突き刺したの。当たり前だけど男は悲鳴を上げ、右肩を押さえていたわ。思ったより力が強すぎて、血が滴り落ちるほどの出血。そのときよ!血への恐怖よりも先に、何て言うの・・・その───『快感』みたいなものを覚えたわ。もっと、この男の苦しむ顔を見たい!血が見たい!嬲りたい!そんな感じの押さえ切れない感情が膨らんでいったわ。

─────その後はあまり覚えていないわ。感情任せで動いていたから。カッターナイフで腹部に三回、両目に一回ずつ抉る様に刺し、両耳は切り裂いてやったと思うだけど・・・・・

気づいたときは、事切れた男がベッドで横たわっていたわ。夥しい血を撒き散らせながら。

それからね、ワタシが性欲を満たしたい時には、男を嬲り殺す様になったのは。だから今まで一度も性交をしたことが無いわ。つまりワタシは・・・処女。処女のサキュバスよ。

ちなみに、この事は親も勿論のこと、ワタシ以外のサキュバスには教えていないわ。だって十六にもなって、しかもサキュバスが今だ処女って、魔界中が大騒ぎするぐらいとんでもない事だと思うわ。ここは黙っていることが一番。他のサキュバスが性交相手に利用している男を嬲り殺しているのだからなお更ね。でもいいわよ?男を嬲り殺すのって。絶対に快感になるから!


ワタシは男を見下ろす。見下ろす、と言っても背の低さからあまり見下ろしている気に為れないのだけど・・・

鉄の棒を地面に落とす。そして、ワタシは何も無い空間で手を回す。すると、ワタシはマジシャンのように、手に何かを掴む、アイスピック×二本。

これは魔界の学校で初めに教えてもらう魔術で、自分が持っている物なら何でも、何処でも取り出せる便利な術よ。何度も言うけど、本物の魔法使いとか魔界の者は、長い詠唱を始めたり、術の名前を叫んだりする必要は無いからね。無言でいいの。ちなみにこの術の名前は『質量保存的重力圧縮空間転移術』って言うらしいわ。ワタシは略して『ジュウカン』って呼んでいるけど。

ワタシはアイスピックを両手で逆手に持つ。そして這って逃げようとしたのだろう、力一杯開いている、男の油まみれで汚い左手の甲にそれを突き刺す。地面に先が当たり、ガリ!と音をたてる。血が噴き出す。

「逃げちゃダメ・・・もっとワタシを楽しませて」

「・・・」

 声が無い。しかし息はまだしている。どうやら、声を出す力は無くなってしまった様だ。

 つまらない〜!これだけで死にそうなの?

仕方ないわね───────

 ワタシはもう一度、左手を回す。今度は手に黄色い錠剤が。

 これは、細胞の分裂速度を速め、更に血の量を急激に増やす、魔界では普通に手に入る薬よ。本来は怪我をした者の自然治癒を速成するためとか、病院で輸血用の血が足り無い時とかに用いられるんだけどね・・・

 それを男の口に放り込む。一瞬の沈黙の後、

「くぁ〜〜〜〜〜!うぅぅ〜〜〜〜〜!わぁぁぁぁ〜〜〜〜!」

 男の獣のような叫び声。当たり前ね。細胞が分裂を早めているのだもの。少しは痛いわね。でも動けば動く程、左手に突き刺したアイスピックが手を抉って、痛みを増やすわよ・・・・どちらにしろ、ワタシにとっては快感でたまらないけど!

 ────アイスピックを突き刺した、手の甲以外の傷は塞がったみたいね。さてと・・・・・・実はこの薬には少し欠点があってね、それはかなり量の血が生産されてしまう事。異常に血が増えすぎて、仕舞いに血管を破裂させてしまうのよね〜。で、その解決方法として─────血抜きよ。

 男の腹部にもう一本のアイスピックを突き刺す。

「くぁぁ!」

 今度は悲鳴を上げてくれたわ!ワタシは喜びで背筋がぞくぞくしてくる。引き抜くと少しばかり血が噴き出る、がすぐに傷口が塞がり、血の噴出が止まる。間髪を入れず、もう一度腹部にそれを突き刺す。男は悲鳴を上げ、血が噴き出て、また傷口が塞がる。それをワタシは八回ほど繰り返す。

 薬の効果は抜群ね。刺しても刺しても血が溢れ出てくるわ!

そうだ!少し実験してみよ!

 ワタシはアイスピックを男の左手の甲から引き抜き、左手に持ちかえる。左手を回す。すると私の手からアイスピックが消え、代わりに、前にも使って刃が血で紅く染まっている、ワタシのお気に入りの一つ─────両刃ノコギリが姿を現す。

 それの刃先を男の右太股にあてがい────引く。今までで一番多量の、血の噴出。

「がぁあぁぁぁああああ!」

 男の悲鳴も大きい。ワタシはそれを笑いながら確認し、その表情のまま、まるで太い丸太を切るような感じで、ノコギリを押したり引いたりを繰り返す。そうしていく内に何やら硬い物刃先がぶつかる感触が、今までの経験でわかる。────骨である。

 これこれ!じゃあ早速────

 ワタシはノコギリを太股から離し、傷口が塞がらないうちに─────素手で骨を抜き取る。

抜き取った直後、傷口が塞がる。それを見届けると、おもむろに太股部分を本来、曲がるはずの無い方向に曲げる。いとも簡単に曲がってしまう。

 やっぱり!皮膚とか筋肉は再生するみたいだけど、骨はまるごと抜いちゃったら再生しないのね!面白い〜!

よし!実験終了〜!続き続き!

 抜き取った骨を隅に投げ捨て、ノコギリを男の右肩に──────

 あれ?死にかけている?────そっか、薬の効果切れてきたんだ・・・・・もう薬、家に無いよ〜!今度ストック足しとかなきゃ・・・今日はここまでね。締めに入ろうと!

 両刃ノコギリを片手で回す。今度は本来、木々を切り倒すための物、そしてワタシが一番のお気に入りで、いつも終わりにするときに使うもの─────チェーンソーが手に!

 逃げる元気も無い男の前でワタシは立ち上がり、チェーンソーを稼動させる。けたたましい音が周囲に鳴り響く。男は力ない目で私を見つめる。

「ありがとう、変態の淳志。まぁまぁ楽しめたわ・・・来世も、ワタシに嬲られに来てね─────バイバイ・・・下種!」

 チェーンソーの音で、今の言葉が男に聞こえたか聞こえなかったかわからないけど・・・・

 ワタシはそれを男の首に目掛け、振り下ろす。血の量はワタシの服を紅くしてしまうほど、多量であった。


 頭と身体が切り離れた男をワタシはあれからずっと眺めていて、結構時間が経ったわ。チェ―ンソーの音が無くなると周りはかなり静かね。まだ夕方だと思うのだけど。

嬲り遊んだ男の屍を見ていると落ち着くのよね〜。長いときは五時間近く見ていた事もあったわ。ワタシって変かな〜?

 すると突然、男が小さく、いや、私の視界が高くなる。ワタシは急いで自分の胸に手を当てる。

 元に・・・戻っている・・・?

 ────やった〜〜〜!胸が!ウエストが!ヒップが!

元に戻っている〜〜〜!あれから二時間経ったんだ〜!完璧な身体に戻れた〜!

 しかし、喜びもつかの間、ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜とお腹が鳴る。

 あぁ〜!しまった!本来の目的は食べ物探しだったわ!幼児体型のときは気づかなかったけど、こんなにお腹が減っていたのね・・・すぐに路地裏から出よう─────

 私の身体はまるで糸を切られた操り人形のように、その場に崩れこむ。

 ダメ!空腹で立てないわ!ハイハイでここから────無理!思ったより奥に来ちゃっているのよ!途中で力尽きちゃうわ・・・何か食べ物──────

 すると私の目には男の屍が映る。

 そういえば、人間って食べられるのかしら?

────嫌々!あんな男の汚い皮膚なんかワタシの頭が“食べ物”と認識しても、ワタシの胃は“腐敗物及び異物”と認識するに決まっているわ!

────でも、臓器なら────いや、脳とかも・・・食べられるかも・・・実験。

 ワタシは這いずりながら男の頭の方に近づく。首の切断面からは既に血が流れ出てはおらず、骨がチラリと見えている。ワタシは何も考えずにそれをグーで叩き割ろうとする。当然、割れるはず筈も無く、切断面から頭に残っていた血が噴き出てくるだけである。本来のワタシなら容易に砕ける筈なのだが─────転移の術でハンマーや金槌を出せばいいんだけど、もう、『ジュウカン』を使う元気も無いの。

あぁ〜・・・でも、ワタシ、諦めないわ!・・・考えるのよ・・・

必ず頭蓋骨を避けて、脳まで辿り着くことはできるわ──────そうよ!

 ワタシは気がつく。何故、こんな簡単な事を思いつかなかったのだろう、側面から脳に辿り着こうとした時点で私は間違っている。切り口から手を─────

 ワタシは首の切断面に手を挿しこむ。気持ち悪い感触が腕に伝わる。が、この三年で何百人も嬲り殺し、屍を屍と言えない物にしてきたワタシにとって、特に嫌がることでもない。

 思ったより簡単に指先が脳に届く。ワタシは、それを引きずり出す。理科室などにある脳の模型と見た目は似ている。さっき、グーで殴ったためか少し、形が崩れているが。

 ワタシはそれを躊躇いもせずに口に入れる。あまりにもお腹が空いていたからである。

 もぐぅ!・・・あ!意外とイケる──────美味しいわね・・・食感は豆腐みたい・・・

 ちなみに味の感想はワタシの味覚で言っているから、人間がどう感じるかは知らないわ。

 二分もしないうちに、脳を食べ終えてしまったが、やはりそれだけでは足りない。胴体の方に近づく。

 服、破かなきゃ!ここは面倒臭くてここ最近、切っていない爪が役立つわね。

 ワタシは長い爪をたて、男の服を引き裂く。生地が丈夫な物ではないので服はこれで綺麗に切れる。

 男の上半身が露になる。身体を洗っていないのか皮膚は黒ずみ、匂いがきつい。

 うっ!お風呂に入りなさいよ!この男これ、やっぱり変態だったわね・・・

 匂いのせいで空腹が治まった感じがするがそれは一時的なもの。すぐに空腹感が戻ってくる。ワタシは爪をもう一度たて、心臓部分を掴むように抉る。流石、血を送り出す臓器である。死んでいる男の胸から血が噴き出る。ワタシの手に心臓が握られる。これも口に含んでみる。

あ〜ん!

美味い!脳も美味しいけど、筋肉の部分は特に格別美味し

いわね!肺も食べられるのかしら?

実験。肺も鷲掴みにして口に含む。

もぐぅ!

────お!これもなかなか・・・次は・・・

あれこれ食べていくうち、仕舞いにワタシは男の腹部に顔を突っ込み、まるで某サスペンス

ホラーゲームに出てくる、ゾンビの様に男の肉をむさぼっていた。空腹だからという理由もあるのだが、それ以上に人間の臓器が美味しいというのが最大の理由であった。

大体の臓器を食べ尽くした頃、とある場所に行き着くと私の口が止まる。大腸である。

 大腸・・・って、前に間違ってチェーンソーで切っちゃって、匂いで思わず吐いちゃったアレじゃない!・・・流石にこれを食べるのはそう─────邪魔だから捨てよう!

 ワタシはそれを傷つけないように取り出し、端の方の壁に投げつける。べちゃ!を音をたて落ちる。紅い血が壁に模様を描く。

 男の腕も食したワタシはお腹が一杯になる。

 人間の男って嬲り物か、性欲処理の道具だけだと思っていたわ───────でもそれだけじゃあ無いわ。人間の男は・・・食料でもあったのね!今度の男から嬲り殺した後は食しましょう!きっと男達も、何処をとっても完璧なワタシに食べられて自分の存在定義を確と実感できるわ!これは男の最高級の幸せよ!これ以上の光栄なる死に方なんてないわ!・・・・・・・さて、そろそろ家に帰ろう。ママが心配しているだろうし。

 ワタシは灰色の翼を広げ、魔界へ満足げの顔で向かう。

地面に朽ち果てた男の死体を残して。

 

 

彼女が魔界に帰ってから人間時間で三日後、偶々通りかかったフリーターの男により、野犬や烏に残りの肉を食われている、臓器が無くなった全裸の男の死体が発見された。破かれたズボンのポケットから出てきた免許書で、男の名前は窪江淳志と判明。この男は、幼児に近づき、路地裏で強姦した後、首を締めて殺害する手口で、警察がわかっているだけでも、三人の幼児が犠牲になった、現在は関東地域のみで指名手配中の男であった。三日前、つまり彼女が人間界に降りてきた日、新幹線に乗っている姿を一般人に目撃され、後日全国へ指名手配するところであった。

マスコミは『指名手配中の男 奇怪な変死』と報道した。警察は『死の状況から他殺の線が強い』と犯人捜索を始めるが、被害にあった幼児の親もその幼児に近い年齢の子を持つ親は、安堵の表情を浮かべるなど、男を殺した人間など、どうでも良いらしい。

これは一部で騒がれたことだが、男がオオサカに来た日の夕方、死体発見現場の上空で灰色の翼を生やし、紅い服を着た女性が水の雫を煌めかせながら、天へ消えていく姿が目撃された。一部の人間には幼児を弄ぶ男に天使(?)が制裁を下した、と言う者もいた。

ともあれ、そんな噂もこの事件も一部の人間には心刻まれたが、大半の人間には『人の噂も七十五日』といわず、一ヶ月もしないうちに記憶から消えてしまった。


しかしそんなこと、彼女が知る由も無く、今も何処かで男を嬲り殺している。


お読み頂きありがとうございました!

私にとって、この程度の暴力シーンはまだまだ序の口なので、もっとハードな死体損壊を現在執筆中です。

感想を頂けたら嬉しいなぁ〜

最後に、題名の意味。

カニバリズム+サキュバス

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― 新着の感想 ―
[一言] 一文に読点は最低二つがベストとされています。とても読み易くなります。 (ex “彼女が魔界に帰ってから人間時間で三日後、偶々通りかかったフリーターの男により、野犬や烏に残りの肉を食われている…
[一言] こんにちは^^ サキュバス好きということで読ませていただきましたが ほう〜・・・世の中には変わったサキュバスがいるのですね・・・。 その手のサキュバスは今の今まで知りませんでしたね・・・。 …
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