プロローグ side 淳一
初投稿の上、処女作です。
誤字脱字、変な表現があった場合、教えていただければ幸いです。
ここは、何処だろう。
空空莫莫とした白い空間、そこに佇むは二人の男女。一方は俺で、もう一方は見知らぬ女性だった。
「ようこそ、淳一くん」
女性はトパーズのように透き通った声で語りかけてくる。呼び掛けられた当の俺は、女性が醸し出す圧倒的な美貌に目が釘付けになっていた。
彼女の美を一言で表現するならば、『完璧』だ。顔は勿論のこと、新雪のような白い肌、肩まで下ろされた艶めくブロンドの髪、痩せすぎず肥えすぎず均整のとれた肉体。着用している露出の多いトーガからは、すらりとした美脚が垣間見えた。
全身が貴金属と数多の宝石で構築されているかのような、黄金の女性。現実世界で目にしたとしても、俺からすれば高嶺の花だろう。
「淳一くん、私の声が聞こえますか?」
あまりの美しさに恍惚としていた俺は、ようやく現実の世界に引き戻された。
「は、はい。聞こえてます」
「それはよかった」
女性は安心したのか、ふう、とため息をつく。何気ない一連の仕草でさえも、彼女は自身の魅力を遺憾無く発揮してくる。正直、俺の理性は蒸発しそうになっていた。
「はじめまして。私は女神シトラスと申します」
女神か。充分納得がいく。これ程の美しさは、どれ程の恵体でも、体をいくら加工しても、産み出すことは出来ない筈だからだ。
しかし、そんな女神様が一体俺に何の用があるというのか?
「動揺していますよね。それは仕方のない事です。ですが、私がこれから説明する事を落ち着いて聞いて下さい」
少し間をおき、彼女は語り始める。
「浅間ヶ峯淳一くん。貴方には、元居た世界とは別の世界で新たな生涯を送って貰います」
「……え?ちょ、ちょっと待ってください。じゃあ、俺は一体どうなったんですか?」
女神は、真剣な面持ちでつらつらと語りだす。
「貴方は、齢十七歳で殺されました。それも一番親しかった友人に。貴方に事故の記憶が無いのは、私が殺された時の記憶を消去したからなのです。独善的だというのは分かっています。しかし、あの記憶を思い出してしまえば、貴方は怒りと憎しみに囚われてしまう。……そう判断しました」
……そんな、まさか。俺の一番親しかった友、そんな人物は一人しか居ない。
「嘘だ!嘘に決まってる!カズが、あいつがそんなことをする筈が無い!」
あいつは、カズヒロは臆病者だったけど、卑怯者なんかじゃなかった。確かに、辛い事や苦しい事があると、あいつはすぐ逃げ出そうとする。でも、最終的にはひょっこり戻って来て、怯えつつも必死に努力を重ねる奴だった。そして、何だかんだで思いやりのある優しい奴だった。
そんなあいつが、俺を、殺した?
「落ち着いて下さい、淳一くん。……貴方の気持ちはよく分かります。しかし、これが事実なのです」
「…………」
声が出ない。声帯が麻痺でもしたか、丸ごと切り取られたようだった。目の前の現実を受け入れまいと必死で抵抗するかのように体が震え、歯をガチガチと鳴らす。
そして、その微かな抵抗も無駄だと理解した途端、どうしようもなく悲しくなって、涙がぽつぽつと落ちた。
俺は、親友に裏切られた。
女神は、優しく包み込むように俺を包容する。先程感じていた色気とは正反対な、母性に満ちた温もりを感じる。
何だか頭がぼんやりとして、堪えていた涙が濁流のように溢れかえり、俺は年甲斐もなく大声で泣き喚いた。
「ともかく、全てを話すには、貴方はまだ未熟です。強くなりなさい、淳一くん。全てを受け入れるようになるまで」
こうして浅間ヶ峯淳一は、異世界への転生することになった。