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EVIL TARGET~標的の宿命~  作者: 深井陽介
第二章 断ち切られた禍根の鎖
32/53

その9 痛みある過去

 <9>


「さて、聞かせてもらいましょうか。そちらの話を」

 わたしは功輔の前に荒々しく腰を下ろして言った。キキが天井灯のスイッチを入れて、和室の中が明るくなる。

 前日に二人で相談して決めた符牒を利用して、キキがあらかじめ考えておいた方法で刑事の尾行を撒くことに成功した後、功輔が匿われているさそりの家へ様子見に来たわたし達だが、容疑者扱いされているとは思えない功輔の軽い態度に、わたしは若干カチンと来ていた。緊張感がなさ過ぎるだろ、こいつ。わたし達はお前のために警察を敵に回すという無謀な行動に出たというのに。

「ああ、まあ……必ず事情を聞くって宣言していたもんな」

「自ら関わりを持ったわたしには聞く権利があるから」

「功輔くん」キキはわたしの隣にしゃがみ込んで言った。「連続銃撃事件がどうして起きたのか、その原因に心当たりがあるんじゃない? もっと言えば、四年前に何があったのか、詳しい事情を知っている……いや、功輔くん自身も深く関わっているんじゃない?」

 功輔は真顔でキキを見返した。

「星奴署に行って、警察が功輔くんを主犯だと疑っている証拠を見せてもらったよ。あれを見る限り、功輔くんが初めから、あの四人の少年たちを知っていたのは明らか。警察が四年前に起きた何かを把握していないのは、たぶん金沢怜弥が絡んでいたから……金沢都知事の孫だから、突っ込んだ捜査ができず、データも残らなかった。でも功輔くんは知っていた。小耳に挟んだ事があるというレベルじゃないよね」

「……もみじ」功輔はわたしに顔を向けた。「以前に会った時も思ったけど、本当にこの人はお前の友人のキキさんか? 階段の踊り場で間の抜けた会話劇を繰り広げていた、あのキキさんとは別人みたいに見えるよ」

「間の抜けた会話劇って……」肩を落として苦笑するキキ。

「信じがたいかもしれないけど同一人物だよ」と、わたし。「ねえ、四年前に起きた出来事って、やっぱり人の命が関わるような事態だったの? だから、わたしや市川くんにも話してくれなかったの?」

 功輔はゆっくりと目を逸らした。わたしとキキが核心に近づきつつあることは、功輔だって理解できているはずだ。それでもなかなか口を割らないという事は、功輔の中でその出来事は、過去として清算したい事なのだろうか。殺人事件の調査などという慣れない事を一人でやろうと考えたのも、他人を巻き込みたくなかったからなのか。

 やがて功輔は、腹を決めたのか、重い口を開いた。

「……俺が小三のとき、将彦たちと遊んだ帰りに近所の公園を通りかかって、そこで初めてあいつと会ったんだ」

「あいつ……?」

「そうだな、その時の事から話した方がいいだろうな。知っての通り、俺は国語が苦手で説明もそんなに上手じゃない。だから、あまり文句を言わないでくれよ」

 言うかもしれない……体力はあっても忍耐力が欠けているからな、わたしは。

 そうして功輔は語り始めた。四年前の出来事を……。


 少年の名前は山田(やまだ)聡史(さとし)といった。功輔が山田少年を初めて見た時、少年は一人でサッカーボールを蹴っていた。功輔が足を止めたその直後に、少年はキックを大きく外してボールを遊具の柱に当ててしまい、ボールは高く跳ね上がって功輔の目の前に落ちてきた。ワンバウンドして頭上に降ってきたボールを、功輔は額で受け止めて両手に収めた。

 山田少年はすぐさま駆け寄ってきて、功輔はボールを渡した。だが、その後も功輔はその場を離れなかった。ボールを受け取ってキックの練習を再開した山田が、いつまで経ってもまともなシュートを決められなかったのだ。どうやら壁に書かれた落書きにボールを当てようとしていたみたいだが、そもそも壁に当たる事が少なかった。見かねた功輔は、山田に近づいてこう言った。

「下手くそ。トーキックならボールの真ん中ちょい下をちゃんと狙えよ」

 その後に功輔は、壁の落書きをめがけてボールを蹴り、一発で当てた。実をいえば、当時の実力がどれほどのものだったのか、遊び感覚でしかサッカーをやらない功輔にも分からなかった。この時に当てられたのはただの幸運だった。

 だが山田は、このたった一回のシュートに感銘を受けて、一緒に練習をしてほしいと申し出てきた。単純だけど基本はいいやつ、会ったばかりの少年にそんな図式を当てはめた功輔は、その申し出を受け入れた。後から知ったことだが、山田はまだサッカーを始めたばかりで、単純に球の扱いに慣れていなかったらしい。

 それから暇を見つけては一緒にサッカーをするようになった。山田は燦環東小学校に通っているため、それほど深い付き合いにはならなかったが、山田が熱心にボールの扱いを覚えようと奮闘する姿を見るにつれ、功輔も本格的に技術を身につけたいと考えるようになってきた。四年生に進級してからは、二人ともサッカー部に入った。

 夏頃から山田に異変が見られるようになった。空き地でいつものようにサッカーの練習をしている時に、功輔が山田の脚に見覚えのない(あざ)を見つけたのが最初だ。

「聡史……その痣どうした?」

「え?」山田は反射的に痣を隠した。「あ、これは……家で練習している時に転んじゃって、その時のやつだと思う」

 不審を抱かざるを得なかった。どのように転んだら、太腿の裏に痣ができるのだろう。筋肉の断裂とかだったら、常に痛そうな顔をするはずだし……。

 それから、山田がサッカーに付き合う頻度は減っていった。主に山田が、何かと理由をつけて参加を断っていた。秋ごろになると、全くと言っていいほど練習に付き合う事はなくなっていった。事情さえ話してくれない事が多かった。

 さすがに妙に思った功輔は、山田の家と燦環東小学校を訪ねて回ったが、どちらにもこれといって異常は見当たらなかった。家庭にトラブルがあったような痕跡はなく、学校でも特に山田が多忙になったという話は出てこなかった。ただ、どちらでも山田との会話の数は激減していて、不審に思っている節は見受けられた。

 燦環東小学校に元から友達は少なかったが、全く誰とも話さないほどではなく、至って普通といえる児童だという。しかし、夏頃から目に見えて口数が減っていき、積極的に話しかけることもなくなってきたらしい。先生たちも何があったか尋ねたそうだが、山田は何も答えなかった。無理に聞き出したり話に参加させたりするのは、後で何かと混乱や歪みを作りやすいため、学校側も積極的に動けなかったという。仲のいい功輔にさえ話そうとしないのだから、致し方ないとも言えた。

 事が動いたのは十月のある日だった。功輔は昼食を買うために近所のコンビニに立ち寄ったが、そこで偶然に山田を目撃したのだ。

 店内に入ってきた功輔に気づかないほどに、山田は目の前の棚に夢中になっていた。よほど買おうか迷っているものがあるのかと思った功輔だが、直後、目を疑うような光景が飛び込んできた。

 山田が、棚から商品を一つ手に取って、それを上着のポケットに仕舞ったのだ。

 功輔は急いで山田に駆け寄り、その手を掴んだ。

「こ、功輔くん……」山田は怯えの表情を浮かべた。

「それを棚に戻せ。買う気がないなら取るな」

 功輔は山田の上着のポケットから商品を掴みだし、棚に戻した。

 山田の手を取ってコンビニの外に連れ出し、目立たないよう路地裏に連れていくと、功輔は詰問を始めた。

「おい、今のは何だよ。あれって立派な万引きだよな」

「その……」

「前々からおかしいとは思っていたけど、やっぱり何かあるんだろ。もういい加減に話してくれよ」

 少し強めの口調で言うと、山田は両手を握りしめながら震える声で言った。

「だって……いうこと聞かないと、また殴られるんだ、あいつらに……」

「あいつら?」

 怯えながらの説明なので要領は得なかったが、事情はこういうことだった。

 やはり山田はいじめを受けていた。それも、複数の学校に跨った五人組の上級生グループから、ずっと理不尽な要求を強制されていたという。きっかけについて、山田本人には心当たりがなかった。だが、いじめる側にとって理由などどうでもいいのだろう。とにかく連中は、山田が気弱であるのをいいことに、無茶で理不尽な事を次々と要求して、拒否しようとすれば殴ったり蹴ったりを繰り返していたという。同じ場所に呼びつけ、そこで命令するのが常であり、味を占めてか回数も増えている。

 そういうことだったか、と功輔は思った。複数の学校に跨っていれば、いじめの実情が浮き彫りになりにくい。もし判明したとしても、学校内で行われているいじめではないために学校側が手を出しにくく、対処も難しい。悪質さを極めたいじめだった。

 功輔の中で怒りがたぎってきた。学校が手を出せないために身勝手が過ぎる振る舞いに走るなど、到底許せるものではない。事情を知ったからには、放置などできない。

「よし、分かった。俺が何とかする」

「えっ」山田は瞠目した。「何とかするって……」

「いじめの証拠を押さえるんだよ。そうすりゃ、あいつらも簡単には手出しできない」

「でも、そんなのどうやって……」

「毎回同じ場所に連れてこられているんだろ? だったら、そこでお前がいじめに遭っているところをビデオカメラで撮っておくんだよ。誰がいじめているのかはっきりすれば、学校も対処しやすくなるし」

「でも……」

 山田はまだ不安げだった。当然だろう。この作戦を実行するには、目に見える形で自分がいじめられなければならないのだから。苦痛を伴うのは明らかだし、上手くいかなければ功輔にも火の粉が飛ぶかもしれない。

 だが、ここで躊躇しても問題は解決しない。

「俺なら大丈夫だよ。聡史が酷いことになりそうになったら助けるけど、それでも俺は簡単にはやられないぜ」

「だって、相手は上級生だけど……」

「関係ねぇよ。俺の場合、隙あらば竹刀を持ち出して叩きまくる怖い幼馴染みに、毎日のように心身を鍛えられているからな。ちょっとやそっとじゃ負けねぇよ」

「…………」

「だからさ、任せておけって」

 功輔はそう言って、山田の肩をポンと叩いた。


「ちょっと待ちなさい」

 わたしは話の途中で口を挟んだ。聞き捨てならないセリフがあったぞ。

「隙あらば竹刀を持ち出して叩きまくる怖い幼馴染みって、誰の事かしら?」

「あー、いや」功輔はあからさまに視線を逸らした。「別に深い意味はなくて……」

 浅くてもいいからその意味を知りたいところだが、たぶん話が長引いてしまうので抑えておこう。

「それで、その作戦は上手くいったの?」と、キキ。「……って、上手くいかなかったから事態がこじれたのかな」

「ええ、そうです。結果的には、その作戦が仇になりました」


 事情を知った翌日、功輔はビデオカメラを手に、聡史へのいじめが行われているという町工場の敷地へと向かった。ささやかな正義感でもって悪を(おとし)めることに、功輔は子供心に興奮を覚えていたという。

 曇り空、今にも雨が降り出しそうな模様だった。

 町工場の入り口が見えてきたとき、功輔は奇妙なことに気づいた。その入り口のそばに一人の少年が立っていて、身を隠すようにして敷地内を窺っていたのだ。

 何をしているのだろう? そう思いながら近づいた、その時だった。

 敷地内から、何かが崩れたようなガランガランという金属音が鳴り響いた。異常事態を察した功輔はすぐに駆け出した。

 だが、功輔の接近に気づいた入り口の少年が、取り押さえて接近を阻んだ。

「ちょっ、おいお前、何をするんだ」

「逃げろ!」

 少年が叫んだ。功輔ではない、敷地の方に向かって言ったのだ。

 功輔は少年の制止を振り切って敷地内に足を踏み入れた。そこで見たのは、崩れて散乱している大量の巨大鉄パイプと、その周りで狼狽(うろた)えている四人の少年たち。彼らが、聡史をいじめている張本人であることはすぐに分かった。

 そして、その崩れた鉄パイプの下からは、細い右腕が出ていた。

「…………!」功輔は息をのんだ。「おい、なんだこれは!」

 少年たちは功輔の質問を無視して、その場から一目散に逃げ始めた。手元のビデオカメラはすでに録画を開始していたので、功輔はとっさに、少年たちにカメラを向けた。入り口の少年も含めて、慌てていたのか誰も気づかなかった。

 少年たちが逃げた後、かろうじて積み重なったままだった鉄パイプが、耐え切れずに崩れ落ちた。ガラガラと転がってくる鉄パイプを、功輔は寸前で避けた。そして、十数本ほどが転がったことで、下にいた人の体があらわになった。

「聡史!」

 俯せだったので顔は見えなかったが、その姿は間違いなく山田だった。

 すぐさま駆け寄ると、功輔は名前を連呼しながら、山田の体を必死に揺すった。だが山田に動き出す気配はなく、地面に流れ出る血液の量だけが増えていった。

「聡史……さとしーっ!」

 事態は暗転した。何が起きたのか分からない。一つだけ確かなのは、目の前にいる友人はもう目を覚まさないのだということだ。

 雨がぽつぽつと降り始める。功輔はその場から動かなかった。

 その後、誰が救急車などを呼んだのか、功輔には分からなかった。初めて人の死を目の当たりにして、十歳の彼は呆然として、ただ雨に濡れるしかなかったのだ……。


 しんと静まり返る。誰も何も言わなかった。ホットケーキを運んできた星子さんも、テーブルに置いたら無言で退室した。かけるべき言葉は思いつかない。

「今となっては、あの場で何が起きたのか知る由もないけど、作戦を実行しようとしたそのタイミングで聡史が死んだことは、きっと偶然じゃないと思う。俺たちの会話が聞かれていたのか、それともあの場で聡史が何か言ったのか……いずれにしても、連中を嵌めようと考えたあの作戦が、あの事件の要因のひとつだったのは間違いない」

 四年近くが経過して、功輔も少しずつ心の整理がつけられるようになったのだろう。淡々と話すその口調は、まるで他人事のようであり、いつ誰かに話すことになってもいいように、あらかじめ言葉を選んでいるみたいに聞こえた。

 そんな事が……わたしには、言葉を選ぶだけの余裕などない。

 ただひとつ言えることがある。功輔は、あさひが唐沢菜穂にしたような事を、誰かを守るために一人で抱え込み、自分の身も顧みずに動くという事をしたのだ。そしてあさひと同様に、上手くいかなかったために心に傷を負った……。違う点があるとすれば、相手を守りきれなかった、ただそれだけで、でもそれだけの違いが大きかった。

 キキは真顔で、何か考えているように視線が宙に浮いていた。

「それで、その後は?」と、わたし。

「俺自身がかなりショックを受けていたけど、子供一人が他人の敷地で死んだとなれば、当然警察も動く。なんとか翌日には気持ちも落ち着いて、そこで起きた事を分かる範囲で警察に説明しに行ったんだ。いじめていた連中の姿を映した、ビデオカメラの映像も警察に提出したよ」

「でも……」キキが口を開く。「それで悪質ないじめが公になれば、多少なりともメディアで大きく取り上げられるはず。近年はいじめがクローズアップされやすいからね。だけど実際には、わたしももっちゃんもそんなニュースは聞いていない……」

 そうだ。たとえ功輔自身が打ち明けなくても、どこかの段階でわたしが知る事にはなったはずだ。ということは、その事件は公になっていない……?

「俺は、ビデオカメラの映像っていう立派な証拠がある以上、警察は事態解明のために、連中に話を聞きに行くはずだと思っていた。だけどその日の夜、テレビのニュースで予想もしない事が報じられた」功輔は表情を歪ませる。「昨日の事件が、現場である町工場の管理怠慢による事故だったと判明したって」

 何だって? わたしは耳を疑った。

「事故? どういう事よ。だっていじめがあったのは事実で……」

「ああ、俺は確かに警察でそう証言した。だけどニュースでは、聡史は他の五人とふざけて遊んでいただけだと報じていた。いじめに関してはわずかも出なかったよ。当然、警察から教育機関に何らかの通達が行われる事も、連中の親から謝罪することも無くなった」

「なんでそんな……あっ」

 思い当たる節がある。というか、ここまでの話の流れから見れば、そう考えるしかないじゃないか。そもそもこの話は、功輔が銃撃事件を調べようとしたきっかけとして語られていたはずだ。

「すぐに、事件を管轄する星奴署に行って訴えたよ。あれが町工場の管理の甘さのせいで起きた事故だなんて、何の根拠で決めつけたんだって……。そうしたら捜査担当の刑事が言ったんだ。鉄パイプを束ねて固定していたロープの切れ口を調べたが、繊維は不揃いで自然に切れたようにしか見えなかったって。俺がいう所のいじめの事実も、他のどこでも浮き彫りにならなかったから、採用されなかったとか」

「それは……おかしくない?」

「ああ、おかしい。いじめの事実なんて、いじめられていた当事者以外は誰も口に出さないのが普通だし、聡史の場合は発覚しにくい形になっていた。証明するのが困難だというならまだ分かるが、頭から否定するなんて滅茶苦茶だ。第一、俺はあの時、切れたロープの切れ口も見ているが、自然に切れたとは思えないほど真っすぐだった。どう見ても、刃物で意図的に切られたとしか思えなかったよ。だけど捜査担当者は、どうせ見間違いだろうと決めつけて取り合わなかった。ふざけていると憤ったよ。どうしたら、自然に切れたものと意図的に切られたものを見間違えるんだよ、って……」

 確かに、繊維が不揃いな切れ口と、刃物で切られた真っすぐな切れ口……一目でその違いは分かる。見誤るなんてことは九分九厘ありえないだろう。

「まあ、切れ口はカメラに収めていなかったから、証明はできないけど」

「いよいよあれだね、警察による組織ぐるみの隠蔽(いんぺい)という、ドラマでよく見るような出来事があったと勘繰りたくなるね」

 キキはやけに楽しそうだ。功輔の身に起きた悲劇からは少し遠ざかったけど、ちょいと不謹慎ではないかな。

「俺はそういうのに詳しくなかったですけど……何があったか調べるために、手元に残しておいたカメラの映像を頼りに、いじめの加害者である五人を探したんだ。その結果浮上した名前が、平津卓也、真鍋俊成、室重翔悟、音嶋隆、そして金沢怜弥だった」

「今回の銃撃事件の被害者たちだ……」

「警察が俺の証言をすべて無視して、一日で事故と断定していたから、俺もその考えに行きつくのに時間はかからなかったよ。当時は都知事選が迫っていて、五期目を狙っていた金沢都知事にとってこの事件は、絶対に隠蔽したい醜聞だっただろうってね」

 いや、時間はそれなりにかかっただろう……星奴町内の小学校を回って、顔だけを頼りに探すのだから。まあ、ここまでくれば、警察の不審な捜査に都知事が関与していると疑うのが、むしろ自然な流れだろう。まさか、ここまであからさまな隠蔽工作に及んでいたとは思わなかったけど。

「もっちゃん」キキは懲りずにその名前を呼んだ。「どうやら、真鍋くんがかつて人を殺した事があるって話は、眉唾じゃなかったみたいだね」

「というか思い切り本筋に絡んでた……しかも他の三人や金沢怜弥も加わっていた。山田くんが殺されたその事件がすべての発端、そう考えた方がよさそうだね」

「それで、功輔くんは具体的にどんな感じで事件に首を突っ込んだの?」

「初めは警察も味方になってくれないってことで、結構ショックも大きくて、しばらくは塞ぎ込んでいたんだけど……数週間くらいが経った時に、関わらざるを得なくなるような事件に遭遇したんだ。もしかしたら、俺は嫌でもこの事件に関わってしまう宿命だったのかもしれないな」

 功輔の話はまだ続く。

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