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ヘタレ高校生のご主人はお人好しで最強&凶の准貴族  作者: 極超音速絹ごし豆腐
第1章 『竜紋石』
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第1節 第2-3話  『禁書』

「ちょっと、目、つむってくれる?」

カンナは言った。


 コウは不審に思いながらも、カンナなら悪いことはしないだろうと思って、目をつむった。


 次の瞬間、カンナの指先がコウの額に触れた。少し冷たかった。そして、一瞬、目の前が明るくなったように感じた。

「ん?」

不思議に思ってコウは言った。

「何でも無いわ。もう、いわよ。」

カンナは言った。


「何したの?」

コウはそう言いながら目を開けた。特に何の変化もしていなかった。

「まあ、その、それより、早く本を探しましょうよ。」

カンナは言った。


 カンナって俺ほどじゃなくても、誤魔化すの下手だな。お互い、コミュ症か?まあ、言葉が通じない異世界じゃコミュ症なんて関係無いか。それに、誤魔化しが下手ってだけでコミュ症認定もどうかと思うしな。


 俺もそんなに詮索する気は無いしね。無駄なことはわざわざしないだろうから、そのうち理由は分かるでしょ。




 馬の足音が背後から聞こえてきた。近づいてきている。石畳の上を走っていないのか、ややくすんだ音である。

「あら、来たわね。思ったより早いじゃない。」

カンナは言った。始めから来ることは分かっていたようであった。

「何が?」

「憲兵よ。見れば分かるわ。」


 カンナが言った直後、馬の足音が止まった。

「おい、そこの二人、通行許可証または身分を証明できる物を見せろ。現在、この付近で禁書を販売している店があると連絡を受けた。」

男の声だった。声からして30歳程度だろう。


 コウが振り向くと、肩章かたしょう飾紐かざりひもまで付いた、いかにもな憲兵が二人いた。17歳程度の男と30歳程度の男だ。


 憲兵か……物騒な響きを感じるのは俺だけなのか?だって、こいつら、サーベルぶら下げてるぜ。俺たち、何かやらかしたのか?


 というか、何でこいつらの言葉が分かるんだ?まさか、本当は皆、日本語を話せるのか?だったら、何で今までよく分かんない言葉で会話してるんだよ。ああ、くそっ。、マジで、良く分かんねぇな。


 あ、それとも、さっき、カンナがやったのが関係してんのか?いや、あんなのでこっちの言葉が分かるようになったら、もはや魔法じゃねぇか。g**gleさんも驚きだよ。


 若い方の憲兵が再び言った。

「おい、聞いているのか?」

その憲兵は隣にいた憲兵に何やら言うと、馬から降りた。


 カンナは若干ながら上から目線に言った。

「ええ、聞こえてるわ。」

「ならばさっさと通行許可証をみせろ。さもなくば……」

憲兵はサーベルに手を掛けた。


 その瞬間、日本語がどうのこうのなんて疑問はコウの頭から消えた。コウの頭は、目の前を歩いてくる死への対処のみを、考えていた。


 ヤバい、ヤバい、ヤバい。俺、通行許可証なんて持ってないんですけど。え、ここで死ぬの?異世界に来て数時間で死亡ですか?そんなの絶対無い。


 つーか、通行許可証持ってないだけで、斬り捨て御免ってどんだけ物騒なんだよ。異世界怖いよ。何考えてるのこの人?


 しかし、カンナを見ると、落ち着いていた。あれ?これって大丈夫な状況なの?目で訴えるが、カンナは無反応であった。


「おい!聞いているのか!」

憲兵はサーベルを抜く。その声には苛立ちが混じっていた。いや、マズいよな。これ、絶対マズい状況だよな。


 逃げないと!でも、何処に?いや、とにかく逃げるんだ。ここにいたって殺されるに決まってる。だって憲兵だぞ。け・ん・ぺ・い。無理だ。勝てるわけ無い。逃げなきゃ。


 コウは走りだそうとした。しかし、それは、カンナの手によって静止された。


 コウの腕はカンナに掴まれていた。

「え、あ、ちょっと、カンナ?」

「大丈夫だから、焦らないで。」

カンナはコウにしか聞こえないような声で言った。


 若い方の憲兵がコウとカンナまであと3,4メートルという所まで来たとき、もう一人の憲兵が言った。

「待て、魔法士だ。徽章を見ろ。」

若い方は立ち止まると、カンナの胸を見た。


 カンナの胸には親指より大きい程度、ペットボトルのキャップと同じくらいのバッチが付いていた。銀色をベースに、透き通った黄色のガラスのようなものでがらが作られていた。


 若い方は、しばらくジロジロとカンナの胸に付いた徽章を見ていた。

「え?先輩、これ、魔法士の徽章じゃないですよ。」

若い方は振り返って、馬に乗った憲兵を見て、言った。

「レムストスじゃない。ラドリガスの魔法士だ。そうだろ?」

馬に乗ったままの憲兵はカンナに目をやった。

「ええ、そうよ。」

カンナは言った。


 若い方は納得がいかない様子で言った。

「ラドリガスは敵国です!」

馬に乗った方は諭すように言った。

「停戦条約を結んでいる。」

「ですが!」

「条約ではラドリガスの魔法士もレムストスの魔法士と同等に扱うと規定されている。」

「ちっ。」

若い方は舌打ちをした。


 まだ、納得がいかないのか、若い方は、今度はコウを指差した。

「じゃあ、こいつはどうなんです!徽章、付けてませんよ!」

「うむ、そうだな。坊主、通行許可証を見せろ。」

今度は馬に乗った方がサーベルを抜いた。ちょうど、抜いたサーベルが日に当たってキラリと光るという演出付きで。


 マズイ、本気だ。本気でやる気だ。通行許可証なんて持ってないよ。このままじゃ、斬られるよ!


 しかし、隣にいるカンナは焦る様子を見せなかった。

「カンナ?」

コウが言うと、カンナはコウの方を向いて「大丈夫。」と小声で言った。

「私の従者です。見せる義務はありませんよね?」

カンナは言った。

「ふん、そんなの――」

若い方が言いかけたのを馬に乗った方が遮った。

「そうだな。確かに問題無い。……命拾いしたな、小僧。おい、行くぞ!」

「ちっ。」

若い方は舌打ちをすると、馬に乗って、年上の方と共に去っていった。


 コウは緊張していた筋肉が緩むのを感じた。まだ心臓はバクバクしている。呼吸はだいぶ戻ってきたが、それでも浅くて速い。

「怖がらせちゃったわね。」

カンナは申し訳無さそうな顔をした。

「ふう……大丈夫なら大丈夫と始めっから言ってよ。」

コウは安堵の息を付いた。

「ごめんなさいね。つい、知ってるものと思ってしまって。」


 その後、カンナは歩き出した。

「あ、ちょっと。」

と、コウはカンナを追いかけた。




 ナーディストラスクの町を歩いていると、日なたは思いのほか暑かった。石畳の照り返しはアスファルトのそれと似たようなものだった。それどころか、しばしば、風が吹くと石畳の上に積もった砂が舞い上がるから、アスファルトよりもタチが悪い。


 コウの額には汗が滲み出ていた。それを腕で拭うと

「暑いね。」

とカンナに言った。

「ええ、そうね。でも、まだ7月よ。これからもっと暑くなるわ。」

「打ち水でもすればいのに……」

「打ち水?」

「うん、道路に水を撒くんだよ。そうすれば少しは涼しくなるんじゃないかな。気化熱で気温が下がるとか、輻射(ふくしゃ)熱が減るとか、理由は幾つかあるみたいだけどね。」

「なるほどね。気化熱とか輻射熱とかはよく分からないけど、涼しくはなりそうね。」

「でしょ、それに、砂埃も立ちにくくなるから。」

「でも、やる人はいないでしょうね。他人ひとのために、水を撒く人なんていないもの。」

そう言って、カンナは空を見上げた。


 それにつられてコウも空を見上げた。夏らしい雲が浮いていた。雨が振りそうな様子は無かった。


 ふと、さっきの会話がコウの頭をよぎった。

「そういえば、魔法士って何?」

「準貴族の一種よ。」

カンナはぶっきらぼうに言った。


 准貴族?貴族じゃなくて?まあ、今はそれより魔法の方が気になるんだけど。

「ふーん、魔法を使うの?」

「そりゃそうでしょ。」

「え!?本当に!?」

「なに驚いてるのよ。」

ああ、なるほど、この世界じゃ魔法って普通のことなんだ。カンナの反応からコウは理解した。


 だから、コウはそんなに驚かないようにした。驚くと目立つと思ったからだ。ただでさえ、服装で目立っているのに、更に目立っては憲兵の目の敵にされそうだと考えたのだ。


 カンナは手の表を上にした。すると、次の瞬間、そこに拳くらいの火球が現れた。

「うお!」

コウは驚いて、後ろに下がった。すげぇ、本当に魔法だ。こんなものがあるのかよ。驚かないようにって思ってたけど、こりゃ無理だな。

「ほら。」

カンナは言った。

「うん、分かった。見せてくれてありがとう!」

まだ、人生(はつ)魔法の興奮が収まらなかった。すげぇ、すげぇよ。と口には出さずとも何度も繰り返していた。

「別にいけど……」

カンナはそう言うと、俯いた。髪の間から見える耳が赤くなっていた。


「どうしたの?」

コウは急に俯いたカンナが心配になって言った。

「何でもない。」

むすっとした声が聞こえた。


 まあ、よく分からないけど、っか。そうだ、それより——

「さっき、俺のおでこ触ったのって何?」

「ああ、翻訳魔法よ。」

ああ、やっぱりそうなのか。さっきは魔法なんて無いと思ってたけど、あると分かれば、すんなり理解できるな。

「それと、目をつむったことって関係あるの?」

「うーん、そうね……あんまり私が魔法使うところ見て欲しくないのよね。あ……でも、翻訳魔法を使ってる以上、見せなきゃダメか……ちょっと考えさて。明日までには答えるわ。」

コウは納得いかなかった。それと同時に、翻訳魔法なんてものがあるのかと思うと、魔法すげぇと思わざるおえなかった。


 魔法やべぇな。機械翻訳超えてるじゃん。g**gleさんも驚きだな。炎が出ただけでも凄いと思ったけど、まさか翻訳までできるとは……


 その直後、突然、カンナが立ち止まった。

「っと……どうしたの?」

コウはカンナにぶつかりそうになりながら、止まった。

「そういえば、あなた、服、そのままだと目立つわね。」

カンナはコウを見た。


 今更、何を当たり前のことをとカンナに言ってやりたかった。しかし、今までそれに気づかなかったのかという方に唖然としてしまい、声にならなかった。


 結局、コウは普通の反応を返した。

「うーん、そう言われても、服は持ってないよ。」

コウが持っているのは、今着ている服だけなのだ。携帯は物理的に破壊されてしまい、今となっては何処にあるのかもよく分からない。

「そうね、じゃあ、買いに行きましょうか。」

「本はいの?」

「目星は付いてるわ。第3スラムの違法商店でしょう。あそこが一番、盗品の扱いが上手いのよ。たまに貴族も来てるって噂よ。」

「そう、まあ、カンナがいならいけど。」


 第3スラム……ってことは第1と第2は少なくともあるってことか。治安悪そうだけど、大丈夫なのかな。魔法っていうのがどのくらい強いのかもよく分からないからな。でも、今の格好で行くよりは、着替えたほうが刺激しなさそうでいか。




 服屋は外から見ると4階建てであった。何ら変哲のない店だ。さっきの本屋が変わり種だったせいかもしれないが、コウにはとても普通の店に思えた。


 だが、商品の配置とか価格とかがよく分からなかった。小銀貨2枚と書かれてもよく分からないのだ。とりあえず、前を歩くカンナに付いて行くことにした。


「コウ、とりあえず、ここで待ってて。買ってきちゃうから。大きさは……まあ、大丈夫よ。」

カンナは不安な言葉を残して、奥へ進んでいった。

「大きさって……まあ、多少大きいぶんにはいか。」

コウは諦めの言葉を口にした。大きいぶんには小さいよりは着れるだろうと思ったのだ。


 カンナが戻ってきたのは15分程度経ってからだった。

「早かったね。」

「ええ、できるだけ普通のにしたから、そんなに選ばなかったの。」

そう言ってカンナはコウに服を渡す。

「――ズボンはそれで良さそうだから、パーカーだけ着替えて。」


 コウが渡された服を見ると、確かに上だけだった。


 コウはパーカーを脱ぐと、カンナから渡された服を上に着た。若干ゴワゴワしていたが、そこまで気にならない。

「これでい?」

「うん。」

カンナは頷いた。


 コウは自らの腕にかかった、脱いだパーカーを見て言った。

「これはどうする?」

「ああ、とりあえず、持ってて。」

「あ、うん、分かった。」


 コウはパーカーを腰で結んだ。そして、その上からカンナから貰ったローブのような物を着たその姿は、まさにファンタジーRPGのMOBであった。

これで『禁書』は終わりです。

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