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鬼の行く涯て 竜の往く果て  作者: 長篠金泥
第4章 (リム 鐘後217年6月)

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040 熱泉

 リュタシアを出てから三日後、俺とファズは夜の森を彷徨さまよっていた。

 前日にゲラウムで一泊し、街で一通りの情報収集を行ってから夕方に出発。

 そして特に何事もなく、発光現象が目撃された現場近くに到着――したのだが。

 困ったことに、そこから先も何事もない状態が続いてしまい、早くも途方に暮れかかっている。


 近隣住民の話では、この辺りは『銀山跡ぎんざんあと』と呼ばれているらしい。

 かつては森の奥に、豊富な産出量を誇る国有の銀鉱脈があったが、三十年ほど前に掘り尽くされて廃鉱となったそうだ。

 小銭を稼ごうと侵入する盗掘者は存在したが、元々地盤が緩い上にメンテナンスが放棄された坑道は危険極まりなく、落盤事故が続出。

 廃鉱から数年後には誰も近付かなくなり、現在はどこぞの大商人の所有地となっているという。


「にしても、手掛かりが少な過ぎる……」


 訝とされた発光現象は、常に確認されているワケではない。

 報告者の目撃地点はバラバラだし、正確な位置かどうかも怪しい。

 森の中に道らしい道もないので、いつも以上に体力を消耗している気がする。

 今いる辺りも目撃地点の一つだ。

 だが、ファズが手にしているランプの他、明かりを見つけられないでいる。


「少し、休憩しとくか」

『ああ』


 角張った大きな岩と、その四分の一サイズの苔生こけむした丸い岩。

 二つが並んで転がる場所で立ち止まり、背負っていた荷物を降ろす。

 大型のバックパックは宿に預けてあるので、今使っているのは小旅行用のザックだが、貴重品に数日分の荷物が加われば、軽いとは言えない重量になってしまう。

 苔だらけの岩に腰を下ろして天を仰ぐが、生い茂った葉に邪魔されて夜空は見えない。


『疲れたか』

「いや……ん、ちょっと疲れたな。ここまで手掛かりなしの運任せだと、精神的な疲れがデカい」


 強がってもどうせバレるだろう、と判断して正直に弱音を吐いておく。

 何だかわからないモノの正体を突き止める、というのが求綻者の主な仕事なのは心得ているが、それにしても限度がある。

 初回から盛大につまづいた感覚に囚われ、気分が落ち込むのを止められない。

 ファズは、いびつな直方体の大岩を杖で軽く叩いている。


「……何してんの」

『これ、作り物みたいだ』


 そう言われてみれば、そんな気がしなくもない。

 ランプを受け取り、岩の様子を詳しくチェックしてみる。

 確かに人の手は加わっているみたいだが、それ以上の情報は得られなかった。

 身長の倍以上の高さをよじ登り、岩の上まで調べたのに何も見つけられなかったファズは、納得行かない様子で岩を蹴っている。


「坑道を掘るために、岩を切り出したんじゃないか?」

『どうしてこんな大きさで』


 思い付きを口にしてみるが、ファズの常識的なツッコミに一蹴される。

 怪しいのは間違いなくても、これ以上はどうしようもない。

 俺達はその場を離れ、別の目撃地点を目指して歩き出した。


 野盗や新生物ヴィズの襲撃がないのはいいが、変化が全くないというのも考えものだ。

 暗い森の中を移動し続けているせいで、景色の変化がないというのが最大の問題なんだが、明るくては発光現象に遭遇しても見落とす危険性がある。


『待て、何かおかしい』


 そろそろ着く頃かな、という辺りでファズが足を止めて言う。

 妙な気配なんて――と思った直後、異変に気付いた。

 生温かくて湿った、真夏の雨上がりのような空気が漂っている。

 訝と関係あるかもしれない、と感じて物音を立てないように周辺を探る。


「ぉお?」

『煮えてるな』


 温い空気が熱気に変わり、ボコボコと奇怪な音が聴こえてくる。

 そちらの方に向かってみると、盛大に沸騰している池だか沼に行き当たった。

 温泉でも湧いてるのか、と思ったがどうも違うような。


『あれは火山の近くにしかない。屁のニオイもしない』

「屁とか言うな」


 大量の魚も浮いているし、温泉にしては色々と不自然だ。

 しかし、発光現象ではなく発熱現象だとして、どうすればいいんだコレ。

 軽く悩みながら沸き立つ水面を眺めていると、底から何かが浮上してきた。

 ゆっくり浮き上がってきた赤色が、薄暗い中でもハッキリと見える。

 もしや、これが発光の正体――


『きっと違う。こいつは【岩漿龜ようがんがめ】』

「それは新生物ヴィズ……なのか?」

『川とか池の中で熱を発し、魚を煮殺して食う。赤くなるのは水の中だけ』


 ならば、森の中での発光現象とは関係ナシか。

 赤い光、という目撃証言でもなかったしな。

 そんなことを考えていると、派手に水蒸気を撒き散らしてカメが上陸してくる。

 見た目はリクガメに似ているが、とにかくでかい。

 これは一ジョウ三シャク(約四メートル)を超えてるんじゃないか。


岩漿龜ようがんがめは魚しか食わないのか?」

『雑食。肉の方が好き』


 不吉な情報がファズからもたらされた。

 肉の存在を察知したらしいカメは、巨体に似合わぬ勢いで向かってくる。

 甲羅は勿論、ゴツゴツした肌に覆われた四肢や首にも、生半可な攻撃は通りそうもない。

 逃げるか――ファズの方を伺うが、返ってくるのは小さく頭を振る否定のジェスチャー。

 俺は覚悟を決めてカメとの距離を空けるが、ファズは警戒するでもなく近くの木の枝にランプを下げている。


「おい、ファズッ!」

『問題ない』


 大口を開けて突進してくるカメ、その顔面を狙って金属杖が風を切る。

 だが瞬時に顔を引っ込めてかわすと、岩漿龜ようがんがめは前進を続ける。

 ファズは右でも左でもなく、上を選んで跳ぶ。

 一ジョウ(三メートル)近い垂直ジャンプで甲羅の上に乗ったファズは、二度三度と杖を振るった後、カメの後方へと飛び降りる。

 甲羅からヌルッと出てきた眠たげな顔は、全く衝撃を気にしている様子がない。


『硬いな』


 そりゃそうだと言いたくなるが、標的が自分に移動したのでツッコんでる暇もない。

 右目の辺りを狙って麻痺毒を塗ったナイフを投げる。

 狙った通りに突き刺さりはしたが、分厚いまぶたはばまれ眼球までは届かなかったようだ。


 それでも、片目を塞いで動きを鈍らせるのには成功したので、俺はそのまま藪の中へと身を隠す。

 さて、次の一手をどうする――ファズと連携をとるにしても状況の把握が必要か。

 そう考えながら藪から外を窺うと、ファズがカメの右側部を蹴り上げて巨体を引っ繰り返している光景が見えた。


「相変わらずのデタラメさだな……」


 藪から抜け出した俺の言葉を無視したファズは、ジタバタともがいているカメの腹に乗ると、繰り返し打撃を叩き込む。

 硬いモノを叩く音が数回響いた後に何かが砕ける音がし、その後は湿った塊を打擲ちょうちゃくする音が淡々と続いた。

 程なくして岩漿龜ようがんがめは動かなくなり、ファズもその腹からヒョイと飛び降りた。

 

「怪我はないか」

『ない』


 頬に飛んだ血だか体液だかを親指で拭い、ファズは即答する。

 それで、このカメはどうしたモンだろう。

 夕飯もまだだし、何ならこいつを食ってみようか。


『やめとけ。毒はないが石の味がする』

「石かよ……」


 栄養価はさて措き、精神衛生には極悪な予感がする。

 無理してカメを食うよりも、カメが加熱処理してくれた魚を食うとしよう。

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