三題噺 お題「夜更かし」「お金持ち」「東京」
俺は今人生最大の岐路にたたされている…のだと思う
「…あ、もしもし?オレオレ…そう、息子のしんじ…ってお前21歳の独身だろうが、え?おれおれ詐欺に会いたい願望ってなんだよ、ワンクリック詐欺にでも引っ掛かっとけ」
俺は目の前のテーブルに置かれた一枚の紙切れと新聞をぼんやりと眺めながら友人の戯言を聞き流していた
「それで、今日はお前に相談があってよ、もし、もしだけど、3億円急に手に入ったらどうする?いやいや、モノポリーのやりすぎとかじゃねえよ、え?秋葉原のショップに一店一店入ってしらみつぶしに商品を買いあさる?香川生まれ現在進行形で香川育ちがなにいってんだ、こっち来てから言え」
そういう俺も香川生まれ香川育ちの現在進行形で東京在住なのだ
夢を追いかけて上京したはいいが案外あっさりと叶ってしまい別の夢を探し中だ
「え?聞いてるよ、秋葉原だろ?え?六本木?いったことないよ…え?金持ちなのに?ってそんなに金持ってねえよ、え?嘘だよ、金なら腐るほど持ってるよ」
実をいうと俺はハリウッドにも出演する超売れっ子俳優だ
自分で売れっ子俳優というのも恥ずかしいものがあるが上京してすぐに入った芸能事務所で運よくプロデューサーに目をつけられ運よくするするとデビューしていき運よくハリウッドの出演が決まったのだ
「え?俺の口の悪さを知ったらファンがなくって?だから無口キャラを貫いてるんだよ、夜遅くに変なこと聞いて悪かったな、じゃあな」
俺は一方的に電話を切ると紙切れを眺めた
「買うんじゃなかったなぁ」
一通り欲しいものを揃え物欲がなくなったときになんとなく買った宝くじが3億当選していたのだ
普通の人なら喜び勇んですぐお金に変えるだろう
ただ、金を大量にもてあましている俺はただただ税金をとられていくばかりであり、正直いうとこれ以上一円たりとも国にお金を献上したくないのだ
「誰かにあげようかな…」
さっき電話していた友人に送りつけるのもいいかもしれない
しかし、今の世間というのは蜘蛛の糸のようにまんべんなく一ミリの隙間なく情報網が広がっているから俺が他人に3億円の宝くじを譲り渡したという記事が出てもおかしくない
そうなればお金を大事にしない俳優と批判され仕事が減る可能性が高い
自分で運よく掴んだ夢を自分から壊すことはさけたい
しかし、ここで三億円を素直にゲットしたとしても世間は俺を称えるだろうか?
そんなわけがない、金を持っていても宝くじを買ういじらしい男と反感をかうに決まっている
なら、方法は一つしかない
寄付だ
今なら東京オリンピックや何やらでお金がほしいんじゃないか?
いや、待てよ、東京オリンピックに投資するってことは国にお金を献上する…いやいや、自分から国にお金を差し出してどうする…?
それなら、地元に寄付するならどうだ?国より地元に献上するならまだましだ
…いや、待てよ
地元に三億円を寄付なんて記事が出たらたかが二年足らずのぽっと出の俳優がなに生意気げなことをしているんだと業界の先輩達から睨まれるんじゃないか?そうすると現場にいづらくなったり現場の空気が悪くなって俺を現場にいれるのはやめようってなって仕事がなくなるんじゃないか?
どう考えてもどの方向も最終的には仕事がなくなるじゃないか…
気づけば時計の針は夜中の3時を指していた
「こんなよどんだ空気だからこんな悪い考えしか思い付かないんだ…空気を入れ換えよう」
俺は窓を開ける瞬間まで忘れていた
俺が住んでいるのが高層マンションの最上階であることを…
窓を開けた瞬間部屋に突風が舞い込み窓を急いで閉めたあとには嵐のあとのようにものが部屋中に飛び散ってしまっていた
「やっちまった~」
俺はため息をつきながらのそのそと部屋を片付けた
「……ん?……あれ?」
俺は違和感を感じ部屋を見回すとあることに気がついた
さっきまでテーブルの上にあった宝くじが新聞と共に消えていたのだ
「やっべ!指紋とか調べられたら俺のってわかっちゃうじゃん!…て、さすがにそれはないか」
俺は一応部屋中を探したが宝くじは見つからなかった
「風で飛んでいったのか…ついてないな……いや、ある意味ついてるのか?」
俺はスッキリしない気持ちで布団に潜り込むと浅い眠りに落ちていった
こうして売れっ子俳優は余計な悩みで無駄な夜更かしをしてしまったのだった
後日、三億円を当てたという一般人の複雑そうな顔がのった記事が出ていたなど売れっ子の彼には知る余地もなかった……