名状し難いNAISEIのようなもの
――戦争は数だと言ったな? 兄貴。ありゃぁ過小表現だ
内政だって数ですよ! プロデューサーさん!!
◆
真庭当主、心労により死去。
誰にそこまで追い詰められたんだとか言ったらリアルで針の筵用意しそうな方護の雰囲気に気圧されて、お悔やみを申し上げるに留めたハズなのに真庭までの同行を求められ、なし崩しで
――真庭よ!! 私は戻ってきた!!
をしたわけですが。
帰るの面倒と総社に残っても事故死という名で暗殺されそうな雰囲気だったから真庭への帰還そのものには文句は言わないんだけど、総社の都会的な生活に慣れ過ぎて真庭の過疎感がヒドイ件。
真庭にもともといた住民と備前からの難民や亡命政権樹立で伯州から来た移民との間で小競り合いが起きないようにと、街を離して設置したのが裏目に出て、真庭は総人口の割りにはこじんまりとした街にしかなっていなかった。
言ってしまえば、村が山のようにあるだけ、という状態。食糧増産優先しすぎて、二次産業・三次産業への展開が不十分。
一次産業だけじゃ懐が潤わないわなー。
――しょせんこの世は、カネとコネ
産業立国ですよ!! シャッチョーさん!!
と叫んで、方護に村落の再編成に着手させることに。
移民を中心に農地を取り上げて代わりに工業職に従事させるプロジェクトを立ち上げ、並行で大規模農場化を推し進めていく。
信長の野望系の感覚でいえば水田作ってたのを工房にする、みたいな? などとやってたら、不信感が拡がって危うくサタデーオールナイトイッキ!! されそうになったし、リアルでやるもんじゃないね!
どこかに民忠度測れる道具がないもんか……。
◆
百姓の多芸はこっちに来てから実地で理解していたものの、専業には劣るというのも理解していたので。
――専業の品を格安で販売すれば……、後はわかるな?
不慣れな土地でしかも開墾したての土地での農作業に四苦八苦していた移民をほぼ工業従事者にしたて、それぞれに専門の製品製造を割り振っていく。
不慣れな土地での農作業よりはいい給料、という触れ込みで高給支払うことで移住の不満やら原住民とのいざこざを押さえこんで、大量生産が軌道に乗るまでひたすらガマン。
――そして迎える、ウルトラセッ!!
怒涛の特売セール。
セール無双。
開店セールが終わったと思ったら感謝セールが始まった。
そんなにセールが続くわけがない、と言っているうちに開店一周年セールが始まった。
その結果、数多ある商店商会がバッタバッタとウチに買収されるか倒産し。世はまさに大不況。
――……どうしてこうなった?!
◆
違うの。そんなつもりじゃなかったの。などと可愛いらしく言い訳をしてみるものの、借金の質に囲った子女がいなくなる訳じゃないしね!
どのぐらい酷いセールだったかといえば、大規模ショッピングセンターが街の四方向に出来た後の駅前商店街みたいな?
真庭で大量生産体制を確立するのと並行で、土建部隊を設立して真庭から隣接する街までの街道を大々的に整備したり、物流確保したからおたくの街に真庭のアンテナショップ開店させたいんですがお断りしますじゃあいいです街の外に建てますから、みたいな売り言葉に買い言葉みたいなやり取りが発端で街の外に大規模ショッピングセンター開業させてはその街の商店商会潰すコンボ開発したり。
――ちなうんですちなうんです
「一番最初に首を括ったのは行商人でしたね」
「ウチが出店する予定の場所は連絡したんだから、そこハズして商売続ければ良かったものを」
「報復と称して山賊紛いの真似さえしなければ死なずにすんだんですけどねぇ。うっかり御館様があの娘に山間部に悪いヤツがいるなんて言ったものだから」
「数えで五歳に全滅する山賊ってどうなのよ?」
あの「勇者」の忘れ形見? みたいな子供は母親の手厚い教育という名の洗脳の結果、ヤンデレに進化してるっぽいんで俺はもうダメかもしれん。
子供だと思ってうっかり、行商人が敵の敵は味方みたいな理屈で山賊と手を組んだことで一時的に商品供給が滞って大変なんだよ、なんてグチったら、その翌月には山賊の首というか顔顔顔、顔が山のように自宅に……。
最初は首狩ってたんですけど、重たいのとかさばるんで、誰だか分かればいいだろうと顔を切り取るのに変更したとか、嬉しそうに話されても。
しかも御主人を困らせたらどうなるかの見本として展示しましょう、そのために氷漬けにしてあるんです、ってはにかまれても……。
――ところでこの氷漬けエターナルフォースブリザードで漬けたんですかね溶けないどころか焼却処分もできませんよ見開いたままの目が怖いんですが
「勇者」の娘が愚か者の末路を展示するって奉行所の一角で顔の展示をしたところ、……とても巨蟹宮です。
「勇者」娘があまりに簡単に山賊を討伐してくお陰で、軍を派遣するとかせずにすんだので、そのことは素直に感謝して頭を撫でたところ、首というか顔を届けると頭を撫でて貰える、という図式が成立したようですよ?
――マジ「勇者」の娘……。
図式が成立した結果、ペースが激増。あらかたどころか備州北部の山賊をすべて狩り尽くし、でてきた標語が「山賊の乱獲いくな」。
最後の「い」を書く前に作者の首を狩られてしまった哀作だともっぱらの評判。
それでも浜の真砂は尽きるとも、の言葉の通り、備州産の山賊が全滅しても、空いた縄張りを乗っ取りに国内はおろか、北の雲州、東の播州、西の芸州から山賊がくるわけで。
――みろ!! 山賊がゴキブリのようにホイホイされていくぞ!!
実のところゴキブリより酷いペースでホイホイしていった結果、敷いたつもりが無いのに恐怖政治を敷いた扱いに。
真庭に楯突けば山賊のような末路を辿るぞ、と。
治安向上の結果、恐怖政治とか新撰組ですかそうですか。
◆
――オマエハヤリスギタ ヤリスギタノダ
と、周辺の小領主からの抗議で真庭方護がフルボッコにされるまでが一連の流れ。
山賊利用して甘い汁すすろうとか考えれば、そういう反応にはなるだろうけど。どんだけこいつら山賊からの上納金で潤ってたのかといえば、「勇者」娘が山賊退治し始めてから倉敷や総社の色街の売上が減少の一途だとか。
思わぬブーメラン効果だよたえちゃん!!
◆
――転んでタダで起きたら貧乏人。
政冷経熱、と雲州や播州、果ては真庭からみて東北に位置する因州の地方領主に「勇者」娘やロバーズキラーを筆頭とする山賊鎮圧サービス提供するからウチと健全なお付き合いしない? とアプローチ。
商隊を襲う山賊は山間部に位置する真庭だけではなく各国の頭痛のタネ。格安で処分して交易路の安全提供する代わりにウチと交易しない? と持ちかけてみるテスト。
後々政治利用できそうな山賊紛いの活動してる元王族だとか地方領主連中を討伐リストから外す作業をしつつのアプローチだったけど、まずまずの感触。
備州での乱獲が山賊業界でも話題なっていたらしく、どの程度強い山賊がいるのかと雲州伯州播州と「勇者」娘を一巡させただけで山賊がかなり解散離散したとか。
なにせ伝え聞こえるのは物騒な話ばっか。
女子供に負けるとかダセエ山賊だぜとか口上述べてる間に全滅するのはよくあるテンプレ。
叩きのめしたうち数人を生かしておいて次の山賊が出てくるまでのオモチャとしてスラッシュ&ヒールでお楽しみしてたとか。
――やめて!! サイヤ人システムはFF IIだけで終わったネタよ!!
「俺が死ぬまで匿ってくれ」と民家に逃げ込んで首を掻き切って死のうとした山賊が虫の息から強制回復させられ泣け叫びながら連れ戻されたとか、そんな話題に事欠かない道中報告。
正直、山賊に苦しめられてた地元民もドン引きの所業。
スラッシュ&ヒールされてる同僚を解放しろと叫ぶ山賊が正義の味方に見えるレベル。
あまりに雑魚ばっかがわらわら沸いてくるんで、途中から雑魚の相手をするのが面倒くさくなった娘がティンときて始めたのが投降した山賊による山賊退治。
道中のオモチャとして、また山賊が出てきたときに相手の雑魚をさっさと始末させる人足としての計画的なご利用。
結果、「勇者」娘による一人督戦隊でフル操業する投降した元山賊による山賊狩。
最低十人始末するか自分の代わりを二人確保しない限りは自殺も許さない無限ヒール&リバースシステムとかどんだけ病んでるのこの娘。
投降した元山賊の数が増えたからなんとかなるだろうとヨハネスブルクコピペレベルで反逆した連中を即鎮圧、暇つぶしができたご褒美と称してミリ単位で斬り刻み続けながら旅をしたとか。
――「勇者」よりタチ悪くね?
信じて送り出した「勇者」娘が、帰ってきたら千人近い虚ろな目のおっさん従えて帰ってくるとかどういうシュール。
どんな旅だったのかと聞いてる中で、山中で迷って食糧が無くなったからしょうがなくクジで、とか言い出した時点で遮るように頭を撫でた俺はチキンなんかじゃないと言い張ろう。
◆
治安提供サービスのハズが、備州にはこんな危ないのがいるぞ、というお披露目式みたいな結果になるとか。
――ま た 予 想 の 斜 め 上 か よ !!
まあ、それでも経済同盟締結できたからいいんだ。フンだ……。
◆
裏では恫喝外交じゃねぇかと非難の嵐の経済同盟を結んだんだけど、経済同盟崩壊させたくなければこれ以上ウチに輸出してくんな!! とか言われると思ってなかったなぁ……。
他所よりお安く販売しまっせ、と勉強したら国内の産業が崩壊するから、止☆め☆ろ☆、と書状が毎日届くようになるとか。
「取らぬ狸の皮算用とはこのことかー」
「お館様の場合は自業自得なだけでは?」
「なん……、だと……?」
「一家離散の憂き身目に合わせて、引き取った娘を手篭めにしておいて、業が無いとはとても言えませんし」
「いや、合意の上だし」
「拒めば他の姉妹がどうなるか……、わかるな? といって全員」
「ご、合意の上だし……」
合意の上ならナニしてもイイとは限らないんだね、たえちゃん!! お勉強になったよ!!
ムフフ目的で身柄を押さえてた没落商家のお嬢様ズがあっさりと扇によって召し上げられてしまったことで、この身を焦がす情熱を一途に仕事に傾けたら雲州が戦をしかけてきた……。
俺、働かない方がイインジャネ?
◆
雲州が戦を仕掛けてきたのは100%雲州の都合なんだけど、戦が仕掛けられる状況になったのは……、そうだよ! どうせ、俺が悪いんだよ! 悪かったな!
「誠意という言葉を知らないのでしたら、謝罪という行為を取られなくても結構ですよ?」
「やることなすこと裏目に出るとか何なの」
「穀物とか売り先がないからって雲州で捌くとか、それが兵糧として利用されるとか少し考えれば分かることじゃないですか」
「誰も止めなかったじゃないか!!」
「誰かが止めるモノだと思ってましたし」
「扱いがぞんざいだ!!」
雲州の軍勢5千来たる。
伯州に放っている諜報部隊からの報告書には、ざっと真庭の戦力の倍が伯州経由で進行中、というものだった。
とはいえ、先陣が伯州の軍勢2千に後詰で雲州本国からの3千と、5千が一団となって動いていないとの報告に色々と世知辛い雲州の事情が垣間見得てしまった。
平たく言えば、地方領主をすり潰して中央集権化を推し進めたい、という雲州王の目論見。
「まぁ、せっかく伯州支配下に置いたのに未だに反乱起こされてるとか、実入りどころか大赤字だもんなぁ」
「役立たずの豚は死ね、ということですね」
「反乱起こされてすぎて集められるのが2千しかいないってのも笑えるけど、それをウチにぶつけてすり潰し、あわよくば真庭をとろうという抜け目のなさ。どうせ戦になったら督戦隊するんだせ後詰の3千」
「それ、そのまま先陣の連中に教えたらどうです?」
扇のしないよりはマシじゃないですか? ということで調略した結果、これが大当たり。
真庭が獲れようが獲れまいが、御宅どさくさ紛れに始末されて家は取り潰されるよ? と先陣の半分に情報流したり、残りの半分には情報の運び先をうっかり間違った体を装って誰それ暗殺後の領地の再配分案とか偽の書状流したり、一般兵にはどこそこでまた反乱が起きたが動員し過ぎて鎮圧できてないとか、なんやら村が毎度の蜂起軍に根切りにあったのに雲州の軍勢が無視して通り過ぎたとか、ここの領主は使い捨てられるから陣にいると間違いなく死ぬ、とかとか。
暗殺とか使い捨てられる話をもっともらしくみせるために何回か相手部隊を限定して襲撃したところ日を追うごとに脱走兵が増加していき行軍も領主領主が互いに牽制するような様相をみせるに至り。
「まぁ、駄目押しで旗印を偽装した部隊用意して襲撃させるわけですよ」
む☆ほ☆ん☆、む☆ほ☆ん☆、む☆ほ☆ん☆と偽装部隊による夜討ち朝駆けを三回ほどおこなった結果、同士討ちによる総崩れ。
事前に雲州王に暗殺されるかもよ、と脅しをかけておいたことで後詰に逃げ込まずに備州へと逃げ込む領主達。
すり減ったとはいえ1千近い兵力を吸収したよ?!
と、喜んでいるウチに後詰というか本隊3千がそろそろ到着のご案内。
3千とぶつかる前に、事前に調査していた役立たず一覧見ながら寝返りご苦労様でした、と寝返り組を処刑していく流れ作業。
口実としては、同じく寝返ったどこそこの領主からキミの寝返りが偽計だと密告があってね、ということにして。
20人近くいた伯州領主が実に4人にまで減るという偉業。
――まさに、リストラ(物理)。
リストラ(物理)した後は、一般兵にこれで地元の年貢が軽くなるかもね、とアピールアピール。
――そうでもしないと次は自分達の番かっ!? って暴動起こすし……
役立たずの領主を処分したのは伯州王の末娘の思し召しだよ、と景気良く責任転嫁した結果、寝返った1千がさっくり伯州解放軍とか名乗りだしたんですけど、どういうことなの。
なんでこんなことに、と頭を抱えたところに飛び込んできたのは、伯州の末娘が慰問で寝返った連中のところに行ってたとか、流石に何かあると不味いからと方護まで付き添ってたとか。
――そりゃあ、真庭と伯州の末娘の仲が宜しく見えれば、蜂起して不利になっても最低でも真庭が、上手くすれば備州が後詰めると思うじゃん? ところが実際のところは真庭に向けて赤磐から皇太子が4千の兵で出陣したとかいうじゃん? どうみても漁夫の利狙いの出陣ですどうもありがとうございました!!
――前門の雲州7千、後門の皇太子4千とか
「弱り目に祟り目とはよく言いますが、この場合はどっちが弱り目でどっちが祟り目でしょうかねえ」
祟り目な雲州からは、3千の後詰めは後詰めに見せかけた本隊でしたてへぺろ☆ 、というノリの続報。さらに追加4千、雲州で招集かかってるとか伝えてきて。
まあ、ちょっと上手くいけばこんなもんでしょ、という周囲の覚めた反応がいと辛し。
てか、俺に落ち度があったのか、と。
しょうがないから、こんなこともあろうかと、って言いながら伯州に仕込んでおいた草使って大規模に反乱煽ったり、「勇者」娘の暇つぶし兼私掠部隊の元山賊'sを雲州南部に送り込んでみたり。
そして食糧が多いから攻めてくるんなら食糧減らせばいいんでしょ、と雲州のあちこちに出した店舗に大量の買い付けを指示して市中に出回る食糧の量をガリガリと削ることに。
――兵士が食えても、農民が食えないんなら来年がないからな!!
こちとら寝返り含めて高々2千の兵力に対して敵対勢力は合計で5倍以上の兵力とか。
小細工の積み重ねで生き残る道を作るしか無い訳で。
雲州の本隊3千と後詰め4千が合流する前に本隊に対して真庭全軍で決戦を挑むべきとか息巻いてた連中も、実は皇太子4千が真庭狙いで出陣していると聞いて顔がはにゃ丸王子。
ただの「はにわ」になってたら七支刀使えるだろって敵陣に放り込んだんだけどなぁ。
「まぁ、なったものはしょうがありません。お館様の首を差し出そうが収まる話じゃないんですし、諦めて抵抗しましょう」
さらっと言った扇に気圧されたか、あっさりと方針が徹底抗戦に決まってしまい。
――おや?
――ケツまくって逃げるという選択肢は?
◆
「とりあえず皇太子のアホは山道を徹底的に潰して時間稼げはいいや。正面の道を潰して皇太子軍がそれの復旧活動入ったら来た道も潰してを繰り返して時間稼いで。山間部無理に行軍するようなら崩落でもなんでも許可する」
「事が終わるか、さもなきゃ最中に川が埋まって下流の領主からケチがつきそうな話ですね」
「皆皇太子が悪いんです、って言い張ろう」
「建前は真庭の救援で来るのにそんなことを言っては恩を仇で返す畜生呼ばわりされるのでは?」
「勝てば官軍、死人に口無し、あれが片山でやったことを叩っ返してやるだけだ」
「崩落に巻き込まれて楽に死なれるのは勿体無いですね。できることなら『勇者』娘じゃないですが、寸刻みで解体したいものですが」
「五百だか千だかの命を捧げれば蘇れるらしいし」
「それでは3千以上は潰さないようにするか、皇太子を生かしておくかの二択ですね」
マジ物騒、あの二人。と、後に記される会議のワンシーン。そんなに物騒じゃないよね?
そんな流れで撹乱・偽計・奇襲・妨害と遅滞戦術をこれでもかと皇太子軍に向けて乱発して、打率三割七分五厘、みたいな。
並行しての計略として、皇太子軍と呼応して北山公爵が真庭に向けて軍を発しないように、雲州へと仕掛けた挑発行為の一切合切の証拠を北山公爵のものにしてしまうこすっからい手口を発揮したりして。
北山公爵領の北、雲州南部を「勇者」娘管理の元山賊達に襲撃させてそのまま北山領内へと引き込むことで北山公爵は自領に釘付けされるし、雲州の後詰めが北山公爵からの侵攻に備えるためにも多少減るだろうし、戦線が二箇所になれば食糧の消費量も上がるから襲撃期間が短くなるんじゃないかなー、と。
「その間に本隊の3千を叩かないと不味い訳ですが、何か方策でも?」
「こっちは寝返り工作効かない、切り崩しができない直臣らしいんだよねー」
「子飼いなら失敗していないうちは寝返りはしないでしょうし、1千でなんとかする必要があるわけですが」
「駄目元で寝返った1千ぶつけるってのは?」
「どうせ失敗するでしょうし、見捨てた、使い捨てたと言われるのがオチです」
「ですよねー。後詰め来る前に潰すにしても短期決戦って線はないしなあ」
「本隊だけで真庭の3倍の兵力ですからね」
「そろそろ国境に到達するって報告もあるし、こっちでも土木部隊に働いてもらうかな」
――過剰労働で労務署に駆け込まれたら一発アウトじゃねぇかなコレ。さもなきゃ不法建築で
◆
本隊の進路に、落としやすいように手を加えたなんちゃって砦を大急ぎで築かせる。
それと並行して、なんちゃって砦の四方に付け城を用意させたり砦から真庭への進路を塞ぐように土塁空堀柵を張り巡らせる。
なんて工作活動を突貫工事で行って。
このころの城攻めは、攻める城の周囲に攻撃側が拠点とするための城を築くということが多く、その急増の城のことを付け城と呼ぶのだが。
――これで進路変えられたらタダのマヌケですね、という現場監督のコメントにビクっとしたりしたっていいじゃない失敗ばっかりなんだから
本当に別ルートで進軍されると洒落にならないので遊撃隊を組織して夜討ち朝駆けで相手を釣り出す涙ぐましい努力を強いたりした結果。
無事、なんちゃって砦を敵が攻略目標として定めたようで。
「結果、砦にはどれだけ手を加えたの?」
「百人乗ると底の抜ける床とか、ホゾや釘を一切使用していない材木をそれらしく乗っけただけの家屋、水瓶だと思ったら下剤入り、などなど。考えた者の人格を疑うような工夫を加えております」
――ということで、まともに戦うと被害がバカにならないので欠陥砦で酷い目にあって頂くことに。
「砦のおもてなしで戦意を喪失してくれれば御の字、ダメでも四方の付け城との小競り合いでじわじわ削れれば後詰め来るまでには決着つけられるかね」
などと言っていたら、本隊がなんちゃって砦に入ったその日のうちに首脳部が砦の100人乗れない床の罠に引っかかってそのままお亡くなりになるとか。
頭がごっそりといなくなったことで、3千が一気に烏合の衆に成り果てるとか、策が大当たりして。
「ここで調子に乗って攻めかかると、雑兵の中から天才軍師が生まれるんでしょ、分かってますよ!!」
「どうすればそこまでの被害妄想に囚われることができるのでしょうか?」
扇が首を傾げるが、まぁ間違いなく生まれるんだろうなぁ、ということで降伏するんならウチの領内で一年間の強制労働してから解放するよ、と通告してみたり。
――強制労働というか皇太子の軍勢にぶつけるつもりだがな!!
などとやっていたら、降伏する派閥・後詰めが来るまで徹底抗戦する派閥・雲州へ帰るために強行突破する派閥で内部が分裂したらしく、見事な同士討ちをやらかしてくれて。
まあ、首脳部がいなくなった時点で諜報部隊送り込んで内部を煽るだけ煽った訳ですがー。
◆
「昨日まで徹底抗戦を強行に唱えてた主要な連中が一夜のうちに姿を消したら、はたしてそれは他の派閥からはどう見えるかな?」
「普通に自分達だけ助かろうと方便唱えてたようにしか見えませんね。騙された、自分達は助からなくなったんじゃないかと他の派閥が思い込めば、怒りの矛先は砦に残っている徹底抗戦を主張する派閥に向くでしょう」
「強行突破する連中は四方の砦で削れるだけ削って放置、降伏してきたのは皇太子軍の進軍経路に配置しちゃえば頑張ってくれるでしょ、と」
「徹底抗戦を主張する派閥とは?」
「そいつらがいる限り、強行突破にしろ降伏にしろ邪魔される、って砦に流してるから」
「揉み潰される訳ですね」
このなんちゃって砦に立て籠もった連中の顛末だが、5百ほどいた徹底抗戦派は他の派閥から袋叩きにされて全滅、強行突破派は1千5百ほどいたが付け城からの射かけや自称伯州解放軍による追撃で八割近くが伯州から出ることなく命を落としたとの報告が上がってきていた。
そして降伏派の1千。
「使えそうなら籠絡といういつものヤツの仕込みをしつつ、ぶつけるハズだった皇太子軍はどーなったって?」
「山道塞いだり、斜面崩落させたりとあれこれ妨害工作をして進軍を遅らせていたんですが、途中で梁山泊と名乗る武装集団の襲撃により指揮官が死亡したようで撤退したとのことです」
「皇太子死んだ?」
「いえ、配下だそうです」
「その梁山泊とかいうのからの接触は?」
「無いそうです。諜報からの報告だと片山崩れ以降に出てきた反皇太子の集団のようですが中心人物の素性は不明、ただ獣人なと亜人からの支持は絶対のようで、今回の皇太子軍への襲撃も獣人が主要だったようです」
――よくわからんが助かりそう?
前門の雲州3千は撃破、後門の皇太子軍が崩壊と首の皮がつながりそうな雰囲気。
そして雲州の後詰め4千も穀類買付けすぎて、雲州の経済が崩壊してしまい政情不安となったため撤退中と。
◆
――ええ、またやらかしましたが何か?
今回の戦が始まる直前の雲州の穀物の相場状況は、ウチが雲州に大量の穀物を流した結果それまでの相場の半値ほどにまで価格が落ち込んでいた。
これを食糧の買占めのために、ウチが穀類流す前の相場、それよりも高く買いますと雲州と備州の戦のことを知らない芸州の商人の振りをして手をあげた訳で、これに雲州各地の商人や農家がカモが来たと飛びつき、結果としての不作時と変わらないほどの食糧不足に陥った、と。
自分が売っても他所で余ってるからそっちから買えばいいや、と思ってたら皆売ってたから誰からも買えない、という雲州としては笑えない状況。
「ほとんどすべての村に一斉に買付けに行かせてるとは、向こうも想像してなかったろうなぁ」
「順次買付けに行くとなればどこかでウチに売った村からの買付けが入ってネタが割れる可能性があるからと、すべての村から一斉に買い付けるために商会の商人を大動員しましたが、無理をするだけの甲斐がありましたね。まさか人為的に飢饉が起こせるとは思いませんでした」
――ええまあ、そういうことです
買付けた穀物は即醸して酒の材料にしたので食い物にはならず、結果として穀物が有り余っていたハズだったのに一夜して飢饉ルート。
商会なら米があるだろうと収奪しにきても食い物にならないように買い付けた穀類は全て醸したわけだけど。
――それでも欲しいか、あぁん?
なんて、超殿様商売をやったらこれがまた飛ぶように売れて……。
――それ米じゃねぇから!! 酒一歩手前の米に見えるナニカだからっ!!
って、ものまでよく売れて。飢饉生き延びてもアル中じゃね? などと思ってたんだけど、そんなモノを買うのにウチが買付けた金額の二倍、三倍要求するんだから、越後屋御主も悪よのぅぐふふふふ、な訳で。
ウチに売った量の四分の一以下の量の米らしきナニカしか手に入らず、少しでも量を積み増そうと金策に走る商人・農家に、今度は因州の商人を装ってすべての村で一斉に人買いをやった結果、地域を維持するハズだった人材を大量にお買い上げした訳で。
「ちょっとした技術があるなら高く買うと持ちかけたら簡単に飛びつくんだから、腹が減った状態じゃ碌な判断ができない、ってのはホントだよね」
「腹が膨れているとしても、酒一歩手前のモノで膨れているですから、まともな判断なんてできる訳がないですね」
「真庭の飲食店でツケの溜まった連中の身包み剥いでた経験がこんなところで生きるとはね」
「負ければ、こっちは身包みどころか首を持っていかれる訳ですし。生きるためです」
◆
若い娘のいなくなった村とか、鍛冶や医師、村長の跡継ぎ売ったとことか個々でみればかろうじて取り返しがなんとか効きそうで、しかし地域でみれば致命的という、穀物売ったときと全く同じ構図が出来上がり。
あっという間に生活が破綻する村が出て、棄村があちらこちらと始まるように。
これに呼応するように、「勇者」娘配下の元山賊達がまだ「村」の形態を保とうと耐えようとしていた村々を狙い撃ちで襲撃して壊滅させ、ついには雲州南部全域を統治不能な状態に持ち込むことに成功。
結果、伯州解放軍からのゲリラ戦に手を焼きながらも真庭に向けて移動中だった雲州後詰めも、南部が統治不能になったとの知らせに慌てて帰還を開始したんだとか。
「伯州解放軍と小競り合ってるウチに後詰めが撤退してくれて助かったー」
――本音を零したら白い目で見られましたよ?
「所詮は御館様の案。上手くいくように見せかけてどこかで、大どんでん返しになるのかと思うと素直に喜べず……」
実際、扇の冷たいセリフ通り、雲州の後詰めを撤退させることしか考えてなかったので、大量の酒と真庭並の人数になってる奴隷どーするかという問題がでっかくそびえ立ち。
「いや、今度はどんでん返しなどでは無い! すべては計画通り!」
「で?」
「酒は蒸留して量減らして保管すればいいし、奴隷は内乱続きだった伯州に労働者として持ち込めば問題無し!」
――そう、思っていた時期が私にもありました
伯州へ奴隷を運ぶ商隊が、雲州へと撤退中の後詰めに襲われました、と報告が上がり。
借金の代金勝手に持っていくんじゃねぇ、と因州名義で雲州に訴状を送りつけ、また各地の村々には勝手に逃げただけだから匿ったら次は金貸さねぇからな!! と脅しを送ったりと手間ばっか。
オマケとばかり、訴状ねじ込むために役人に上納した蒸留酒が原因で更に面倒なことに。
どうも、一般に出回ってる度数が低い酒みたいな感覚で蒸留酒をイッキしたらしく、急性アルコール中毒でお亡くなりになったとかで、それを酒に毒を仕込んで納めたんじゃねぇか、と疑われましたよ?
――これはアカン、とわかるぐらいには空気が読めるようになりましたよ?
弁解に商会の人間を何人もやりつつ、財産没収されないようにと資産を一斉に引き上げたのが雲州へのトドメ。
資金回収がバレないように、「勇者」娘の配下の元山賊達に偽装襲撃させたんで資産そのものは問題なく回収できたんだけど、雲州の貨幣のかなりを持ち出したんで、モノを買おうにも雲州国内に貨幣そのものがなくてモノが買えないという事態に陥ったようで雲州の貨幣経済が麻痺。
一方、持ち帰らせた貨幣を備州でうっかり使ったせいで備州がインフレになりましたよ?
インフレの被害を最も被ったのが北山公爵領。元山賊の活動拠点、奴隷の経由地として利用したため、ただでさえ物資が少なかったところに大量の貨幣が流れ込み、雲州南部で見かけたのとよく似た光景になってます、と商会の担当から報告が上がってくるほどに。
カネはあるけどモノがない、と。
「雲州での反省を踏まえて何もしないことにしたら、飢饉が起きたとか聞きたくなかった」
「今回の被害は他所にいったようで何よりですね御館様」
「なにその嫌味」
「これでしばらくは北山公爵も動けないかと思えば、所詮皇太子派の犠牲、むしろありがたいじゃありませんか」
――まあ、そうなんですけどねー
今回ぐだぐだと続いた雲州との戦の、微妙な結果が出揃って。
仕掛けてきた雲州は目論見通り伯州の領主を切り捨てることはできたけど、備州に寝返った領主が伯州解放軍として抵抗するようになり、オマケにウチの商会による買付け工作の結果本国雲州の南部は経済が麻痺するわ村人が奴隷となって国外に大量に流出したことで生活基盤が崩壊するわと、はっきり言って大損。
雲州の侵攻に便乗して真庭を叩いてしまおうと考えた皇太子派は出した4千が散り散りになる負け戦となるわ、雲州への工作活動のとばっちりで後ろ盾の北山公爵領がインフレ・飢饉のコンボで立ち直れない事態で、こっちも大損。
そしてここ真庭はといえば、伯州解放軍の黒幕になるわ、一時的とはいえ街の人口と同じだけの奴隷を管理するハメになるわ、本格的に皇太子と事を構える覚悟を決めなきゃいけなくなるわで、得はしてないよなあ、これ。
――ホント、誰得?
「そしてこの先生きのこるために、と題した徹底討論会が始まる訳ですね、わかります」
――そろそろ平穏な生活がしたい……