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内乱騒乱まさか☆マジカ

◆第一報:国の端で起った、ような……



岡山に出している支店からの早馬。





その内容はと言えば、隣国播州が国境を越えて侵攻中。東河公爵以下が軍を招集しこれに応戦、というものだった。





赤穂から発したとみられる播州の軍勢は、国境の警備網を突破し、東河公爵本拠地の備前に至る道筋にある支城、その七つのうち四つをすでに陥落させる、という電撃戦を展開。



これに対し、東河公爵は国境一帯の貴族に軍を発するよう指示。国境に近い支城のうち二つを即座に奪還することで播州の軍勢を備州内部に孤立させる戦果を上げ、逆に播州側は備前へと駒を進め支城を一つ陥落させていた。





が、双方事態に進展がみられたのはここまで。以降、備前手前の支城である春日山城と観音寺山城に詰める東河公爵勢と、義方山城に詰める播州勢との睨み合いが始まることとなった。



何故か。

双方、相手の支城を落とすには決め手に欠けるという事態が発生していたからである。







◆第二報:それはとっても特需だなって



このとき備州側で問題となったのが播州との国境を治める貴族の台所事情であった。


今を遡ること四十数年、宰相が備州の政治の表舞台に立つ切っ掛けとなる備州の播州への侵攻。



播州との国境付近を治める貴族は軒並みこの侵攻戦の負債がいまだに大なり小なり残っているため、軍備の補強に事欠くというものであった。

このため、精鋭部隊を除けば野盗よりも装備が貧しい部隊がそこここや存在するという状態。



この不利を落城直後の支城への奇襲奪還という形で補った東河公爵であったが、播州側が警戒を始めたことと、武装できる兵員の限界に達してしまいこれ以上支城への攻勢をかけようにも無理という事情。



対する播州側も当初の奇襲で備前および国境までの支城を確保することで播州からの輸送路を確保する予定が、東河公爵による逆襲により前線との間の支城が二つ落ちたことで、播州からの輸送路がほぼ絶たれ残る三つの陥落させた支城を守るための兵士を用意することができず、拠点としての支城を維持するために篭る必要に迫られ、以降支城周辺の集落への略奪で戦意を維持する状況になっていた。



つまり、敵を囲い込んだはいいが袋叩きにするための棒が無い。それがこの戦役における備州側の問題であり、最大の商機であった。


その商機どれほどのものかというと、


「ひのきの棒」が無いので戦えません、という内容の報告が国境の子爵級・男爵級問わずから備前守護職の東河公爵へと届けられ公爵の血圧が有頂天とか、一旗上げようとした探索者達が非武装の御家人に武器寄越せと身包み剥がされたとか、鎌じゃなくて釜を振り回して戦ってる集団がいたとか。



あまりのしょっぱい噂話に竹槍を三百本納品したら感謝されて帰ってきた商会があったとか。



――つーか、よくこれで今まで侵攻されてなかったよなこの国……



さすがに他国に占領到着されて財産が保証されるとか考えるほど能天気ではないつもり、と竹槍納品部隊に調べさせた最新の戦況を元に、武器防具はいうに及ばず攻城兵器だとかの製造まで始めることに。



――まさに世は戦争特需!




◆第三報:まだ何も恐くない



戦況が備州の備前と播州は赤穂の間で膠着という状況下において、総社は平穏そのもの。

むしろ、備前への戦時物資の調達で賑わいが増しているほどであった。



商人達の儲け方はそれぞれで、増援として招集がかかるだろう貴族へ傭兵を斡旋して紹介料を稼ぐところ、食糧の転売で利ザヤを稼ぐところ、武器防具を製造して高値で販売するところ、などなど。



そんな中、ウチの商会は竹槍の納品以降はピクリとも動いてはいなかった。




――ぶっちゃけ、輸送コストのが高くつくようになってるから、むしろ損だしー


という体裁をとってはいたが、シャレで竹槍納品したら感謝されました言われた時点で色々考えさせられた、というか。

そんな竹槍の運搬車ですら襲われるとかどういうことよ、と言いたい。



鍋釜で武装した盗賊に襲われる貴重な体験をした納品部隊が仕入れた情報は、どのような経緯で膠着状態になったのか、というもの。その内容を精査した結果、播州軍の侵攻の仕方からこの膠着が意図的に用意されたものではなかろうかという一つの仮説を導き出した。




――本命は播州美作からの津山侵攻




ここに一つ、播州と備州の奇妙な認識の一致が存在していた。



それが国王以下三代にとっても目の上のタンコブである王弟の艮公死すべし、というものである。



国王親子三代にしてみれば、王弟である艮公はその地力を少しでも削ぎ落としたい相手。借り出せる戦にならいくらでも借り出して疲弊させたい相手。


播州との北の国境を守る艮公をその役から離すもっともらしい理由として、近年の美作からの津山侵攻をことごとく退けたことで、備州では美作の軍勢は弱卒のみと言われて久しく今さら美作からの侵攻など恐るるに足らずと侮った認識があること。



この美作の軍勢への侮りが播州によって意図的に作り上げられたものであるならば、艮公が津山を外す瞬間を作るために播州側が備前侵攻をワザと遅らせているという考えはそれらしい説得力をもつようになる。



そして問題なのは、播州側の意図を見抜いておきながら播州側の意図に乗って艮公を備前に出陣させ、艮公が備前に布陣した播州軍を下す間に津山が侵略されたとしてもとって返す刀で美作からの播州軍を下させるだろうと考えていること、あわよくば艮公の軍勢も基盤である津山の街も弱体化して国王親子が優位に立てるという皮算用を立てたのだろう、ということだった。




◆第四報:計略も、謀略も、あるんだよ



――であるならば、当方に迎撃の用意あり



備前へと英雄を夢見て備州の西側から移動していた探索者を、ウチにくれば武器防具はもとより三食出すぜ、と破格の待遇をチラつかせてかき集めんとす。



――こんどは「勇者」を引き当てたりしないといいですね、とか扇には言われたけどね……。ボク悪い商人じゃないよぶるぶる




半端に粋がってた探索者をガツガツ戦闘部隊に仕立てていくのは要を筆頭とした軍役に着いたことのある連中で。




――はぃ、もう一度!! はぃ、もう一度!!




探索者の戦い方と軍人の戦い方の違いを実地で教育してくわけで、若干、泣いたり笑ったりできなくなったみたいだけど。




――よく出来ました!! よく出来ました!!




気にしないでください、と言われたので気にしなーい。

総社の学生に対してもそれとなく募兵をかけて、前衛だけでなく魔術が使える後衛を確保していく。



――目指すは、「計画通り、津山の防備が抜けたから侵攻したのに、傭兵団にフルボッコにされたぜ。何を言っているかと思うが(略」



とはいえ、噂話にもならないようなLevelの低い探索者達と農民に毛を生えた程度な促成栽培の連中と学徒動員で賄う紙っぺらな布陣。


美作からの侵攻があったとして普通に干戈を交えて勝つ自信など柚子ポンほどのサッパリさで持っていないため、食糧不足で美作の軍が瓦解するよう事前工作をすることに。



普通に、津山と美作にいる商人に備前や赤穂で米や麦が値上がりしてるから、よく売れる、と言うだけなんだけどね。

美作の食糧が減れば播州軍が持ち出せる食糧が減るし、津山の食糧が減れば播州軍が略奪できる食糧が減る。



そして、こちらは決戦を挑まずにチクチクと籠城に見せかけたゲリラ戦でもしてればいい、と。



――仮に、津山一帯が戦火に晒されてもウチの商機が増えるだけだしな



などと描いてた青写真。

艮公に肩入れするのも、真庭の事情。




――方護君ったら春日さんにほの字らしくて……。春日さんったらまんざらでもないとか。



打たれて踏まれて育まれるとか、愛って麦の一種でしたっけどうでしたっけ?


このペースで関係が続くと数年のうちには事実婚じゃね? 御落胤じゃね? という状態。

そうなったら事実上、真庭は公孫女派になるわけで、漏れなく皇太子からの敵視もついてくる、そうなると、後ろ盾を得るためにも艮公他とのパイプがいると……。



思わぬところから権力闘争の表舞台に引っ張り出されそうですよ?




◆第五報:援軍なんて、あるわけない




艮公からの信頼度ゲット、そのためにも備前の戦線は膠着しててもらわなくちゃウチとしても困るんですよー。そうじゃなけりゃ、艮公のピンチにさっそうと現れることができませんからねー。


と、言うことで東河公爵麾下が王都に至急の救援を求めない程度の支援を行うことで、ズルズルズルズルと膠着を硬直へと引き伸ばしていく。



――戦も踊る、されど進まず。



流石に備前が崩れてしまえば、青写真どころの騒ぎではなくなるので、備前への後詰として招集された貴族への支援は欠かさずに。

ただし、勝敗の鍵となる国境の支城に詰めたすっぴん部隊への武器防備の納品は危険性や略奪にあう可能性などを盾に数量を絞ることで膠着打開までの時間を引き伸ばすことにしていた。



正直、この時点では義方山城などに籠る軍への援軍がないことを赤穂以東の街にまで伸ばしていた支店からの報告として掴んでいたので、孤立化した軍勢相手に負けることはないと思っていた。

そう、思っていたのだ。



だから、倉敷に詰めた貴族へと備前への援軍に出られるなら兵糧はお安くしますよという売り込み、そしてその口上の最後には必ず「ともあれ、艮公が備前に駆けつけさえすれば勝ち馬に乗れますよ」とつけ加えるよう指導しておいたのに。



――ともあれ私はカルタゴは滅ぼされるべきであると思う





◆第六報告:あんなの絶対チートだよ



播州赤穂から備前へといたる道筋を押さえる支城、東河公爵が守る最後の二城。そのうちの一つ観音寺山城が落城したという凶報が届いたのは、膠着状態に痺れを切らせた国王が艮公へと備前への援軍を命じた直後のことだった。



備前からの早馬には、その一週間前ぐらいから播州軍が積極的な略奪行為を始めたこと、これを迎え打とうとした備州軍はことごとく裏をかかれたこと。

その挙句の、観音寺山城の落城。



東河公爵の幕僚の中でも戦巧者として知られたその将が守る城が実にあっさりと、おろしポン酢で戴いたかのようなあっさり加減で落城。


オマケに備前までの最後の砦となってしまった春日山城でも、内部に敵が入り込んで幕僚に数名の犠牲が出たとか。



――播州軍の動きが劇的ビフォアアフターしすぎて、夢なら醒めて




なにより問題なのは観音寺山城落城以降、備前ではまことしやかにある噂が駆け巡るようになっていたことだ。

曰く、春日山城で死んだ幕僚は、播州に内応しようとした東河公爵の企みをいさめようとして殺されたのだ、と。



噂のバリエーションは幾つかあるものの、備前一帯での東河公爵への謀略はとどまることを知らず、ついには増援に行ったハズの貴族が部隊をまとめて春日山城から離脱し別の山に布陣した、などと続報がくる始末。



――どうみても各個撃破される行動です。ほんとうにありがとうございます。



艮公の援軍の準備が整う前に備前が瓦解するかもしれないという事態に追い込まれているとか、どういうこと。



しかもおかしいのが播州軍の動き方。

貸付先が倒れたらヤバイヤバイと、慌てて備前に送った荷駄が打率150%で鹵獲されるとか。


備前の手前で襲撃されるのが100%で、荷物を捨てて方々の体で逃げてる荷駄部隊が別の部隊に襲撃されるのが50%とか。



――ここはヨハネスブルクか?!




義方山城に籠ってたことで未来予知かニュータイプにでも目覚めたヤツがいるのかよ!! と悪態をいくらついてもつきたりない状況に、もう一つのタンコブまで動いた。




◆第七報:偽りの命令にしたがえますか?



浦上春日、初陣決定。





皇太子の浦上宗谷から娘へと下された命令。


ストップ安、暴落、釜の底が抜けたような、などのお好みの形容詞をそえて表現ください、というジョークが通用しそうなほど戦意がだだ下がりの備前へと、戦意高揚のために出向くようにとの内容。



それは、宮中の事情を知っていれば十人が十人とも、皇太子がこのドサクサで皇孫女を始末しようとしている、としか取れないものだった。



――高貴なものの務めがどうとか言ってるなら行くよね? という煽り系メールにカチンときたようでホントに行く気満々になってるとか勘弁して欲しいんだけどー。身辺警護とかかなり厳しいんだけどー。それに軍勢は自分で用意してねとかマジ頭おかしい。



厄介者の春日さんとの関係を断つために、常に手札としてチラついている真庭との関係を切るというカード。

切ることは出来るだろうけど、それをすればさすらいの民族の悲哀を一身で味わうハメになるから、流石にちょっとヤダなぁ……、といつもの結論。



どうせ死ぬなら一人で死んで欲しい、という本音看板掲げた「浦上春日様備前観音寺山城奪還陣安全対策委員会」を発足させたり、ヤバけりゃさっさと逃げろと護衛メンバーに撤退条件を詰めさせたり。



ぶっちゃけ、リアル無双できる浦上春日一人だけなら殺されないだろうけど、足手まといがいれば殺せる可能性が出てくるからねー。



しかし、まさかこの時期に、方護君と春日さんが揃って「俺この戦から帰ったら」とかフラグ立ててるとか思ってなかった。



結納品が軍勢800名とかどこの恋姫なのかと。多少なりとも箔をつけようと甲冑を黒で統一したり、とんだ出費になったと愚痴ったら、そこまで凝ったのはお館様じゃないですか、と呆れられたり。





◆第八報:遅いって、ほんとバカ




いってらー、と春日さんと愉快な仲間達を見送って半月、そろそろ現地についたかしらと思ってたところに播州の支店からの報告が。

内容読んだら、




――AEeeeeee?! Nanndeeeeeeeeee?! Nannde Nee Muumin!!



と、軽く取り乱すレベル。



ザクッと三行にまとめると、


播州赤穂の軍勢が備前を侵攻?

ははっ、ご冗談を。

え? 本気で言ってる?

眼鏡買ったら?



という内容。



大慌てで状況を把握しようとしたところへ、春日子飼いの諜報部隊から、なんか皇太子と国境の貴族とのやり取りがおかしいんですけど、とか報告が上がってきて。



ひょっとして:皇孫女と艮公派を潰すための自作自演




悪い予感どころか確信が鎌首をもたげ、しかし裏付けを取るために倉敷や岡山その先の備前まで諜報部隊を送り込むだけの時間的余裕が無いとみて、備前へと進軍中の援軍のうち皇太子とのやり取りに不信な点があった貴族の陣へと娼婦を送り込んで女漬けの薬漬けコース、腹上死するまで絞り取らせた。




供述をまとめると、

播州侵攻ごっこ乙。

提供は、皇太子

協賛は、東河公爵から借金してた国境の貴族の皆さん

首級は、艮公と皇孫女が欲しいな

報償は、吉井川以東の領地とそこに住む住人の私財略奪していいから




――内乱ってレベルじゃねぇぞ。オイ!!





◆第九報:損など、わたしが支払った



これで対策委員会は上へ下への大騒ぎ。

なんで略奪150%のヨハネスしてたのか分かったけど、早馬出したいけど解決策が無いしパニクるだけでしょ、というまさにどうする状態。



万一早馬が捕まれば、こっちが皇太子の企みを掴んだことがバレて、皇孫女だけでも始末しろ、になれば、まず方護君死亡のコース。ひいては流浪の民コースというリスク。



かといって、このまま手をこまねいているわけにも、という検討の結果。



――そうだ、寝返らせよう


金で転ぶ連中は金でまた転ぶ。というか転んでプリーズ。

援軍だと思っていたら敵軍だった。というかどっからどこまでが敵軍というか皇太子軍だ、ということで備前一帯の地図上に置かれたままだった駒の色塗り作業が連日連夜。



さらには皇太子に尻尾を振った貴族連中のうち、性格とか領地の場所とか借金の額とか備前での陣の位置とか把握している限りの情報を再整理して、なんとか艮公派に寝返らせれそうな連中をリストアップ。



ウチの商会が借金の返済もするし産業振興するから艮公派に寝返らない? と、諜報部隊を特使として送り出し、併せて春日山城へと早馬を出したところで総社で打てる手が尽きた。



――皇太子、出陣ッ!!



それは小豆を入れた袋の口を縛る音。




◆第十報:もう誰も頼れない





――あれは雪の降る寒い日だった





バラバラに帰還した結納部隊の隊員からの報告は凄惨極まる戦況の断片であった。





方護、春日が春日山城に入城、艮公は吉井川を渡河して和気、皇太子は香登に上陸した日。


観音寺城以東を占拠していた国境一帯の子爵男爵麾下の軍勢が一斉に備前、春日山城へと侵攻を開始。

一週間の激闘の末、春日山城は落城。

方護は落ち延びたものの、春日の行方は知れず。


備前でも市街戦へと突入、備前へと進軍しようとした艮公の側面へと播州軍の偽装をした軍勢が強襲、艮公は辛くも撃退するが部隊を取りまとめるのに一日の時間を要し、この間に、皇太子軍が先に備前へと入り、時を前後して東河公爵討ち死にの報。




――死人に口なし




孤立無援のハズの播州軍によって東河公爵、浦上春日他、国境沿いの子爵男爵のほとんどが落命したと伝えられる、のちに「片山崩れ」と呼ばれる播州への防備が総崩れとなったと言われる侵攻がその最期の時を迎える。




――裏切り者には贅沢な墓場だ





誰が誰の派閥なのか、どこの軍旗が本物か。

誰の戦死が正解で、誰の生存が間違いか。

どこが略奪の対象で、誰が略奪を免れたのか。




戦場の虚実が錯綜した情報はいつしか農民らにも広まり、それが燎原の火のように燃え盛る。



それは、ある農村でのこと。

付近に陣取るのは播州軍ではなく備州を裏切った反乱軍だという話と、落城した支城には獣人がいたらしいという話が混ざり合って、獣人が反乱軍を手引きしているという話へと変質。



次の村で、獣人が殺害され。


その次の村では、獣人といると反乱軍とみなされ軍に村ごと滅ぼされるという話へと発展し。


またその次の村では、獣人の私財はすべて殺した者が没収してよいという話へ膨らみ、


さらにまたその次の村で、人間以外の死体を掲げておけば反乱軍に組みしていない証拠になるという話に。



瞬く間に、吉井川以東の備州領国で大規模な人間以外への虐殺行為が始まった。

それは、掲げる死体がないなら、そこらから、それこそ落ち武者を狩ってでも調達すればいいじゃないか、という発想。




――よう相棒。まだ生きてるか?




この噂話が最後の一押し、獣人が少しでもいる部隊は反乱軍、略奪対象という扱いを農村がとった結果、備前一帯に陣取っていた貴族の部隊は襲撃に継ぐ襲撃を受け、軒並み戦線が崩壊。


これに対して、部隊側も報復として農村への略奪虐殺行為を行うなどの対応をとった結果、吉井川以東では自分達以外と遭遇したら相手を殺さなければ自分達が殺されるという地獄になった。





◆第十一報:最後で折ったホルグレン



真庭方護だけは帰ってきた。




――こんなこともあろうかと?





二重三重どころではない数の予防策に対応策。そのことごとくが潰され裏をかかれ突破され食いちぎられ利用されクホられた結果、





――信じて送り出した800名の部隊が両手で数えられる人数になって帰ってきた





それは、この総社から備州全域へと商会を展開させるのに必要だった指揮官となる人材も失ったということを意味していた。




――犬耳姉妹も行方不明なら、大型ルーキーズも行方不明。




あれだけ手塩にかけた倉吉要も倉吉祥も、春日山城からの撤退には成功したものの、吉井川への撤退中の殿を最後にその姿が消えたのだと生存者からの話に。

大型ルーキーズも、吉井川の渡河時にあった農民からの襲撃以降、その姿が見えない、と。




真庭以来の者、総社以来の者、知っている者の多くがこの「片山崩れ」でその姿が消えた。




◆第十二報:わたしに、最悪の政策




皇太子の浦上宗谷は、今回の「片山崩れ」の責任を、子爵男爵を借金苦に追いやった東河公爵にあり公爵の責にあらずとしその所領および一族郎党の引責自害と財産の没収を強制、子爵男爵も謀反の咎で同じく引責自害と所領や財産の没収。


結果、岡山から播州までの領地を独断で占拠することに成功し、この真意を問う倉敷からの問責に対し、危急存亡の秋であるとして国王を恫喝、占拠を承諾させてしまった。



そして、備前一帯に流れる獣人の死体を掲げれば反乱軍とみなされないという噂を利用し、獣人およびその関係者は播州の手先であると宣言したのだった。



それは、愛妾や宰相が推し進めた人種にこだわらない登用政策の真逆。




――坊主憎けりゃ袈裟まで憎い




人種差別政策と計画経済の実施。



資金源としての獣人および関係者の財産、恐怖政治の材料としての獣人および関係者の死体。




こちらと同じような手口で、こちらと真逆の政策を、こちら以上の国家規模で繰り出してきたのだった。



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