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このろくでもない、すばらしき異世界


探索者。

それは、さがしもとめるひと。





いつか帰るところを









皇孫女、浦上春日が協力の餌としてぶら下げた、この異世界で天寿を全うしてしまった二人の手記。



――そんな餌に釣られるクマァー!!



で、見事に釣られるわけですが。






当座のお試し期間用として差し出された宰相の手記。それは淡々としたサバイバルマニュアルだった。

この異世界のこと、自分以外の同郷者のこと。


なによりこの異世界から帰った例が見当たらないこと。



この異世界で70歳を超える年齢になるまで生活をしていただけあってか、その文章は望郷の念が乾き果て、最期まで目の前にあり続けた異世界への警句に満ちたものだった。




宰相の手記は複数の章立てで書かれており、はじめに、では、ここが日本によく似ただけの異世界であること、百年で五、六人はどこかしらに同郷の人間が迷い込んでくること、その誰もがいくつかの分野について知識と記憶の欠落、また元の世界での日常生活、家族や友人の記憶や向こう基準での嫌悪感情、道徳倫理を欠落させていることが書かれていた。



それが理解できたのは、愛妾が前国王に献上品として差し出され、同郷人として話しているときのことだそうだ。

たまたま知識では禁止されていることを知っている奴隷制について、しかし当然のように嫌悪感もなく利用しているということのズレに。



指摘されても、はてな? という感じしか受けなかったが、そのことについては愛妾も同意しているのだから、そうなのだろう。



――だからと言って不都合があるわけじゃないが



宰相自身も、むしろここで生き延びるのにはこの異世界の制度への嫌悪感など不要なので無くて助かったと認めている。

宰相が気にしていたのは、記憶や倫理観の欠如ではなく、記憶や倫理観を欠如させた「見えざる手」についてだった。



向こうからこちらへと来るにいたった経緯もすっぽりと抜け落ちているのも共通点。

偶然と片付けるにはあまりに恣意的なものを感じさせることから、宰相自身は「誰か」が自分達を定期的に向こうから連れ去っては、こちらへと送り込むでいるのではないか、と予想しているそうだ。




――モルダー、貴方疲れてるのよ……




そして問題なのはこの「誰か」が、この異世界にとって災厄も招いているということだとも。







「それが、あの水晶塔かぁ……」



視線が自然と窓の外、総社の土塁の彼方にそびえ立つモノへと動く。



――ジェバンニが一晩でやってくれました



夜が明けると忽然とそびえ立っていたが、この異世界ではままあることらしい。

問題は、塔の中は外以上に魔物が徘徊する場所となっていて、塔の内部で一定数魔物が増えると、それがゾロゾロと際限なく出てくるというのだ。



――木星蜥蜴ェ……




そこまででも十分異常なのだが、さらに異常なのは、塔の内部には外では手に入らないような武器や防具が放置されているというのだ。



――なんという不思議のダンジョン




オマケに塔または洞窟の形で現れ、その最上階か最下層の魔物を倒すとダンジョンが消滅するときて。



――それなんてアインクラッド



な訳ですが、実際に窓の外にそびえるのは



――どうみても霞が関ビルです。本当にありがとうございました。








ありったけの現実逃避を繰り広げてみても、現実が変わってくれるわけでもなく。


以前に商会の親睦会で超がつく珍品として見せられたボールペンの出処がこの手のダンジョンだということですが……。



オーパーツかと思ってたものがダンジョンという名の商業施設からの私掠品だったとか、無くね? 武器や防具が転がってるのも無いけどね。



――なんで渋谷駅とか新宿駅がこの異世界にinしないん?それとも、もうしてるん?



あちらからこの異世界へと流れついた建物をここでは「天の与奪」と呼んでいるそうだ。


この時点での異世界の技術レベルでは作れない便利な道具の数々が与えられるモノとすれば、その建物というかダンジョンから湧き出す魔物は命を奪うモノで。



与え、しかし、奪うモノ。




ビフォア宰相の頃は、ダンジョンが出現しても遠巻きにして暫く放置。被害が出てから始めて軍を内部へ入るというものだったようで、内部から採れるモノもほとんど魔物によってガラクタ同然に壊されたものしかなかったが、アフター宰相、宰相発案の探索者制度の導入により「ダンジョン異世界にinしたお」で即黒山の人集り。


初売りとか閉店セールに群がる如く、攻略ってレベルじゃねぇぞって人数が、ダンジョンの中の物を根こそぎ持ち帰るというか略奪してくるようになり、結果として向こうの道具、こちら基準の優れた道具が数多く入手されるようになったのだという。



ただしムスカ大佐はいなくてもロボット兵よろしくダンジョンから産まれてくる魔物が存在するので、略奪中に殺されるというケースがザラだそうだが。



問題はダンジョンをさっさと攻略しないと、際限無く吐き出される魔物によってダンジョンの中に侵入できなくなり終いには周辺に住む住民が殺され土地が占拠される、という事態。



そのため、探索者には略奪の許可と引き換えにダンジョンの攻略や魔物の討伐、略奪品の一部を納品することが義務付けられているのだ。

その甲斐あってか、制度導入後に占拠された地域はないのだとか。



備州はこの探索者制度によって入手した優れた道具を源泉に周辺国との戦争における優位性を確保していったのだと、宰相は書き残していた。



そして国益となることから、自然と各貴族がそれぞれで探索者達を私兵として囲い込み、ダンジョンに送り込んでは道具を国に納め権勢を誇示するようになったのだと。



それにより自然と自分の傘下の探索者がどれだけダンジョンを攻略したかで競い合う文化が形作られるようになった。


そしてその文化はダンジョンを攻略するための探索者を送り込むことが貴族の責務のようにまで発展、武人であれば自ら入り武名を上げることを当然視するまでに行き着いてしまったのだとか。



宰相的には、帰るための手掛かり探しがどうしてこうなった……、的なものになりかわったらしいが。








「ところが春日殿ったら不仲の父親から身包み剥がされてるから、探索者を送り込むことも出来ないし、っと」




厄介な話を持ち込まれ、ガリガリと黒板(原産地:ダンジョン)に状況を書き込んで整理すること半日。



三行でまとめると、


総社の近くにダンジョンできた

他の貴族が探索者送り込みはじめた

私もするから手伝え





――だが断る?!




などと言えるものなら言いたかった……。



四公と呼ばれる公爵家が名の通った探索者の招集をかけている、という情報が入っていたり、国の入場規定が整理されたので数日内には攻略解禁になるなど慌ただしい中で、この公孫女は話を持ち込んできたのだ。



どうしたって、探索者をダンジョンに送り込むのがほとんど義務みたいなものとなっている以上、真庭を納める貴族として方護は探索者を導入するしかないし、その方護は春日のパシリ状態。



――状態異常:パシリ とか、エスナ的な何かで治らんものなのか……



仮にこの要求無視したって、方護から探索者用意しろと言われれば真庭と一蓮托生な身。ノーと言えない日本人なわけでPKOよろしく出すしかないが、方護にしたって、首根っこを春日に押さえられている以上、指揮権を引き渡すことになるわなー。



指揮権が二重化してとばっちり食うのは探索者。

無駄な損耗が嫌だし、と名の通ったフリーの探索者を探すもダンジョン出現で需要が急騰。連日連夜のストップ高みたいな様相で、調達するにしても大損覚悟になりますよと祥からの報告で頭を抱えた訳ですが。




――どうせダンジョンに潜るの俺じゃないし、とわちき割り切った



人海戦術、飽和戦術、衆をもって寡を攻めんとす。



祥と要に迷宮の死亡理由を洗わせて、防具や道具の不足が原因だとあたりをつけると、迷宮探索で一旗上げようと「ひのきの棒」と「布の服」でやってくる貧乏人を、ウチで働くと武器と防具がついてくるよの呼び寄せでかき集めてダンジョンに大量投入してモンスターをタコ殴りにしちまうぜ方針を打ち出す。



他所の貴族のところの新人死亡率はこのぐらい。ウチだと武器防具支給だからこのぐらい、と他所へのネガティブキャンペーンも合わせてやっといてね、と申しつけては白い目で見られる生活。



一旗上げたいけど死にたくもない。そんな虫のいいLevel1同然の素人集団をかき集めると百人規模に。で、迷宮の入口付近を占拠するというGMコールまっしぐらな手口で、雑魚を袋叩きにして戦闘に慣れさせることをひたすら繰り返して、戦闘への適性を高めたり。




春日や方護からは、さっさと攻略参加したいんですけど、と苦情がくるもどうせ一年、二年はかかるでしょ、と放置プレイ。



適性ありの連中を組合の目利きを借りて、それぞれ前衛後衛剣士魔術師などに割り振っては、ひたすら育成。



いつもの如く、脇が甘い連中は娼館で借金漬けにして隷属化させたり、さらに見込みがありそうなのは「お兄様」接待して洗脳したり。



他所の貴族連中が、五人、十人といった腕利きの小規模の集団を複数投入しているのに対して、ちょっと腕の立つ程度を百人規模で投入するという差別化を達成。



探索ってレベルじゃねぇぞ、と言われるほどの数の暴力。

なにせ、視界が開けてる場所で魔物が発見されると、剣が届く距離にたどり着くのは十体出てきたら一体いるかいないか、という有様。


ウチの中で特に伸びる見込みありとされた選抜二十人ほどを中層に試しに送り込んだ際ですら他の探索者集団からは掃討戦と言われたほどだとか。



実際、この頃には低層で宿を作って経営するほどで、長い間探索者をしているものからするとアリエナーイ光景だったそうだ。





「とはいえ、下層階でいきがっているだけの連中、という罵詈雑言は耳に入る訳でして」

「ようやく本腰入れて中層階以上を攻略できるの?!」



尻尾が生えてれば振りちぎれそうな食いつきの春日。世話係と化した方護はどうやってコレをなだめすかしてたのやら。

最近は鬱憤貯まりすぎて、愛用の戦槌で魔物をぼっこぼこにしてやんよモード。


春日配下の証言によると背中に鬼の顔が見えたとかなんとか。

皇太子に嫌われていて実質皇位継承が存在しない廃棄皇女などと揶揄されているけど迷宮での無双っぷりからするとスクラップドプリンセス言うよかスクラップニスルドプリンセスだよなあコレ。




正直、下層階でいきがっているだけの小物集団などと揶揄されてはいるものの、中層以上に侵攻している探索者連中も網の目をくぐり抜けるようにして中層階へと移動していたことを考えれば、ウチが下層への制圧戦を展開してることに文句言われる筋合いないんだけどね。

なにせ、制圧されたところは楽に移動できるんだし。

通行税は流石に後ろから刺されるから諦めたけど、場内価格で120円の飲料が150円に!! という定番商法で足元をみる商売い。



他にも迷宮内で死にそうになった連中をレスキューしては法外な金額を請求しては借金漬けにして傘下に収めたり。




迷宮で一旗上げようとしている連中を喰い物にして、何十旗目を上げているわけですが。








――L 知っているか? 大魔王からは逃げられない、とかよく言うが、本当に逃げられないのは勇者からだから!!



「ひのきの棒」と「布の服」の貧乏人連中にマジモンの「勇者」が混ざってた件について。




「勇者」=「暗殺者」って構図あれ当ってるよ。

狙われるようになって痛感した!!



見所のありそうな連中に仕掛けた「お兄様」接待で過剰反応したらしく、「妹」役の従業員を働かせる店主、つまり俺は悪党であり成敗しなければならない、と。



――なにその理不尽



傘下の店舗、あざとい娼館だったりあこぎな道具屋だったりが、襲撃されたという報告が入ったと思ったら、脱貧民のためのハローワーク、貧民街の一角に設けた商会の出先機関が単身乗り込んできた男によって従業員が襲われた、という凶報。



規模が大きくなってきていただけに当初は盗賊かはたまた他所の裏組織にでも襲撃されたかと情報が錯綜していたが、上がってきた最終報告は、あざとい娼館で洗脳中だった探索者の単独犯行とか。



現在犯人は妹役を娼館から連れ出して逃走中。襲撃された道具屋の金庫が荒らされていることから逃走資金は潤沢な様、とか報告されましても。

従業員が唆したようであれば、見せしめのためにも確実に首を上げる必要があります、とか進言されましても。



――落とし前的だったりケジメ的なものをつけないと他所から舐められるけど、無理無理、無理だって




出先機関にいた護衛だけでも五十人近くが斬り殺されていたとか、リアル派の徳田新之助とかいらないから!!



出先に置いてた護衛だって他所からウチのシマを荒らしにきた武闘派連中とガチンコできるだけの質だったのに……、などと嘆く暇もなく。



「勇者」様が貧民街に戦力の空白域を作ってくれたせいで、他所の目敏い連中が大挙して武闘派を送り込んでくるわ貧民街に根を張ろうとしてるわで丁重にお帰りいただくための襲撃準備まで並行でする羽目になるとか、勇者マジ災厄。




――などと思っうだけの余裕がある時期が私にもありました




所在地が掴めないことから、掴んだ大金で他所に高跳びしただろう、で半ば放置してた勇者が実は総社にまだ居たとか。



シマを荒らしに来ていた他所の武闘派連中に冥土へ追加観光して貰う作戦の展開中に



――ゆ、勇者だー!! 勇者が出たぞー!!



してくれた訳で。

どういう鼻してんだか知らないけど、作戦現場に突入してきたかと思えば、こっちも向こうさんも構わずに剣を振り回すという凶行っぷり。



当初予定していた拠点急襲してバラけて逃げたところを各個撃破とか一切合切おじゃんにするわ、路地裏どころか表通りまで戦場にする有様。




この一件で、本格的に他所どころか内部からも舐めた態度をとる連中がでる始末。

とばっちりは当然のごとく貧民街の住人に。

なにせ、ウチが睨みを効かせてたから維持されてた治安が吹き飛びかけてる訳だからねー。




――茶ひげ様がでるとか、マジなんなのレベル。




やむなく、貴族間のメンツ問題で仕方なく貧民街の問題そっちのけで迷宮に送り込んでいた部隊を引き揚げることにして、貧民街のタガを締め直すことになるとか。




――コーンパイプ咥えて、あいしゃるりたーん 言うぞゴルァ!!







「とはいえ、事態打開のためには『勇者』の所在地を掴まないと話ならない訳ですがー」

「お館様のことですし、皇孫女様の配下の忍なりを使う算段をつけられているのでは?」



そうそう総社に来てからで一番変わったことといえば、扇に「お館様」と呼ばれるようになったことだったり。


娼館開いたころから、従業員に「ご主人様」と呼ぶように指導徹底したところ、他の従業員に釣られウッカリ「ご主人様」と呼んできたことが。




――計画通り





あなたが「ご主人様」と呼んだから。今日はご主人様記念日、とばかりに貧民街全体に酒や衣類を配るという大盤振る舞いをして扇を弄ってみたりと楽しんだ結果、ひねて「お館様」と呼ぶようになりましたよ? 要や祥まで「お館様」と呼ぶようになってるし。




――どうしてこうなった……




閑話休題。



「あんまり借りを作ってもトイチに借りを作るようなもんで返済考えたくないから別口。娼館の連中の証言から似顔絵用意して貧民街は元から、総社の内部にもまいて懸賞金かけたし、一、二週間で見つかるんじゃないかなー、と楽観視」



――これでキサマは賞金1億の男だ



「流石に総社の内側には居ないのでは?」

「奴さん一人ならそうだろうけど、連れ去るほど可愛い可愛いお姫様が一緒なんだし。生活に不自由させたくないからあれだけの大金を持ち出したんだろ」

「殺したい悪党もまだ生きてますしね」

「ホント、憎まれっ子世に憚る、だねー」

「お館様のことですが」

「なんなら貧民街で人気投票しようか?

勇者に二倍どころか百倍以上の大差つけて勝つ自信あるよ?」



現実やったら不正投票と言われるレベルだろうけどー。



「そういうことばかりされるから、不正をしている私腹を肥やしていると言われるのでは?」



ごもっとも。







ほどなく勇者と「妹」役の愛の巣が発見されました。



発見したことがバレてまた逃げられると怖いからと、傘下には指示があるまで手を出さないように手配。勝手に手を出したら、生きてはいる、という状態にするよ、と脅し文句と実物つけて。



――実物には他所からお越しの暴力的な団体の構成員になっていただきましたー




釘をしっかり刺したのと同時期、愛の巣周辺の住人にそれとなくこちらが提供した家屋に引越しいただいたり、区画一帯の住人にこちら側の人間を混ぜる作業を行っていった訳ですが。



そんなの関係ねぇ、と相変わらず勇者による店舗襲撃が続いてたり。

ニアミス三回も発生するとか、上野介ごっこというにはあまりにストレスフルで、白い液体が出なくなるわ赤い液体が出てくるようになるわで。



こっちが酷い目にあう一方で、これの恩恵を受けたのが借金漬けだった探索者の一部の皆様。



が、現実そう甘くなく。

店舗が潰れて借金棒引きになったぜヒャッハーと喜んだのもつかの間。そもそも金勘定が出来ないから借金するようになっている以上、一旦借金が無くなったからといって借金をしなくなるかといえばさにあらず。



結局は別の店での借金生活を始めるわけだなぁ。



表向き競合店でも、総社のそれも外側ならほぼ全てが大元辿ればウチの傘下という実態。



借金反古にするようなのには貸せないと、お断りします、を断行したり。

まあ腹いせだけど。



飢えて野盗化したから、勇者の襲撃後にこの手の犯罪が増えたとネガキャン張る材料に利用したけど。

野盗はスタッフが始末しましたけど。毒まんじゅうで。






元探索者の野盗崩れが出始めるなど治安は悪化の一途。立ち直りかけた貧民街はめでたく再転落。一部区画では以前を思い起こさせるような小競り合いが始まり親を無くす子供や仕事が無くなるものもでるようになり昔懐かしい貧民街に戻りつつありますが、そちらはお変わりありませんか? というイヤミたっぷりの文章を書き、なんとか偽装住民に「妹」役に届けさせたところ、それから三日後には「勇者」の首が商会本部に届いた。


さしもの「勇者」も可愛い可愛い「妹」から零距離からの刺突は予想してなかったようで。腹上死。






首が偽物かもしれないと「妹」役の尋問をと叫ぶ連中もいたものの、ウルサイダマレのプラカード掲げて黙らせて。


供述調書とって、これ以上の面倒事増やしたくないから、と監禁という名の保護生活を送らせることに。



――だって経緯はどうあれ「勇者」の子種が確保できたんだからね!!




総括すると、「お兄様」プレイが「勇者」のトラウマスイッチ押してたらしく、トドメの受胎告知。制止を無視して「妹」役を娼館から連れ出され、鳥籠に入れて真綿で包むような生活を送ることになったりで、監禁生活を送っていたそうだ。





「妹」役を保護という名の監禁をしつつ、度々こちらを襲撃してきたのも、商会は悪いものじゃないという「妹」役の言葉に、悪党の影に怯えているからだろうと解釈したから、だとか。

扇らに言わせれば、貧乏人の「勇者」を前に金持ちの「お館様」を擁護し続けたことによる、貧乏人の嫉妬だ、というこだが。



一先ず鉄砲玉みたいな「勇者」の襲撃事件は収まった、と喜んだのもつかの間。



戦力を撤収させた迷宮が面倒臭いことになってるとか。






「勇者」騒動で独占していた総社の貧民街に予想の集団が手を出してきたのを撃退する要員として探索者を使うために、迷宮から引き揚げさせた訳だが、ウチほどの戦力を下層階に投入していたところも、またその穴を埋められるところもなく、結果、空白域となった下層階はめでたく魔物の手に落ちる事態に。



ウチがいるころは下層階での消耗がほぼ無い状態で中層階以上への探索を行っていた探索者達が、ある日突然、明日から下層階でも魔物がでるようになります、と言われて切り替えられれば世話は無く。



魔物がほとんど居ない下層階の感覚のままで内部に入って悪くすると全滅する集団が出るなど、酷い状態に陥ったようだ。


特にウチがぼったくり価格で行っていたレスキュー事業を引き継ぐようなところがなかったため、死傷率が恐ろしいことになったと。







「結局南極放送局。迷宮攻略って、普通に攻城戦。迷宮って局地で戦力をぶつけ合ってどちらが迷宮を制圧するかだけのもんであって、迷宮の番人だかを倒すことに目を奪われたりすると無理して上層階に突入することになって孤立無援の四面楚歌めでたく飛んで火に入る夏の虫となるわけだ」

「それでお館様が取られたのは前回同様の着実な掃討戦、という訳ですか。しかしそれで間に合いますか? 内部で孤立した部隊の救援に」

「自己責任。助けられればめっけもの、程度に考えないとこっちだって状況が必ずしも安全な訳じゃないんだし。我が身が可愛い」

「かといってこれ以上迷宮攻略のための探索者を投入しないとなると、懲罰対象になりかねないですがね」





貧民街に潜り込んだ他所の連中の掃討作戦を実行したとはいえ不安定な中で戦力を分散しての貧民街と迷宮の二正面とか、普通にやりたくないでゴザル。




黒くてカサカサと動くアレは一匹みかけたら三十匹はいる、という表現があるんだし、あと三十人は命を狙ってくる勇者がいるに違いないんだし、とか言ってたら、とうの昔に百人超えてたそうです。撃退してた暗殺者の人数。




――知らぬが仏とはこのことよ。ホントどうしてこうなった……

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