つけ耳かと思った? 残念! ホンモノでした!
「『退学と落第に至る道は広く、進級と卒業に至る道は狭い』。……相当ノリノリでここ作ったろ、宰相」
「当初は、自治まで学生に任せてみようじゃないか、とまで言っていたとか。流石に周囲に思い留まるように言われたのと、人質に街を任せるのは違うでしょう、という至極全うな意見により廃案に。代わりにそれまで領地を固辞に固辞を重ねてきた宰相に統治を当時の国王が命じたんですが、その際に愛妾がかなり横槍を入れたとかで、相当、程度で収まっているんですよ」
「どの程度のことをしたかったんだ?」
あくまで素朴な疑問だったハズなのに、辻堂は帯留めより下を摘まむと、着物の裾をたくし上げるように脚をあらわにしていく。
「御前が為さったのを真似すれば、これぐらいでしょうか?」
――あ、ちょっとその方護君の視線が至極冷ややかなんで、そろそろ見せつけるようにして太もも晒すの勘弁してください。いやいや、皆さん内腿の痣なんて目ざとく見つけなくても
わざわざ部屋の空気を下げるような真似をして辻堂は笑う。
「服については特に揉めたようで、この総社のこととなると必ず宰相様が愚痴を零され、御前が罵声を浴びせられておられました。『領地を経営するための勉学の場』っていう看板掲げておいて、娼婦でもしないような格好をさせるな、と」
宰相様も宰相様で、どうせ向こうじゃそんな格好ざらだったろうが、とか言い返して殴られてましたけど、とは辻堂の言。
――ええ。今晩罵声を浴びせられて殴られるのは私です。
「にしても、お嬢様は御元気でしたか」
式典の件を話たところ、辻堂にとっては朗報以外の何物でもなかったようで、ホッとした表情を浮かべていた。
が、方護はそれで収まりがつかなかった。
「正直、まともとは思えません。あれでは国を支える貴族をないがしろにすると言うも同然」
「家柄と個人の才能は別物、という御前や宰相様の教育でしたので、それが色濃いのでございましょう。地位によって出来ること出来ないことがあるのは当然のことなれど、地位があっても才能がなければ出来ることすら出来ない者もいる、と御前も宰相様も常々お嬢様にそう御教えでしたので。分を弁えるのも才能の内かと。真庭の御嫡子様にも、憶えがあるのでは?」
「貴様っ、愚弄するか」
次男が起した内応の一件を持ち出され、ぎしり、と方護が纏う空気が硬くなる。が、辻堂は相変わらず笑ったまま。まるでその程度歯牙にもかけぬとばかりの。
「いえ、お嬢様が間違いなくされるであろう挑発の真似事をしてみましたの」
――えー、ちょっとそれは
「国にばれてたっていうか、次男に唆した密偵って……」
――ひょっとして:皇孫女の手下
「元を辿れば宰相の手の者でしょうが、今どなたの手の者となっているかまでは存じませんわ。たまたま真庭で私を買った一人がそうだった記憶しているだけですわ」
――うわー。本当に自分の持てる知識を叩き込んだっぽいなあこりゃ。
方護の表情に怒り以外の、状況を理解している色がないのが心配ですよー。
「何が言いたい?」
「方護殿。はっきり言えば、貴方の兄どころか真庭、まあ私もですが、常盤御前と宰相ひょっとすると前の国王の手の平で踊っただけ。今後は皇孫女様の手の平で踊ることになりかねない、ということですよ」
「回りくどいことを言わないでほしいのだが」
――あー、辻堂が楽しそうな表情してるわ。皇孫女に接触した時点でこちらの理解度が筒抜けになるとかマジ勘弁してほしいんだけど、何も言わないと明日辺りにゃ皇孫女に挑発されてハメられっだろうしなあぁ
どうしようか、とぬるくなったお茶をすすり、空の湯呑を扇に差し出しおかわりを要求する。その動きに方護の視線が何かを考えるように動き、
「皇孫女の産まれた経緯はご存知で?」
「口さがない噂であればどこにでも届くから知っておる。今の皇太子が常盤殿に手を出され出来た御子であろう」
「皇太子が皇孫女を殺したいほど憎んでいることは?」
その言葉に方護の表情が止まる。が、まあ無視無視。
「一から十まで話すと長くなるので端折りますが、皇太子にとって常盤御前は目障りで、その血を引いてる皇孫女も目障りなんですよ。今の国王も皇太子も常盤御前やその息子の艮公そして皇孫女ほど民草の人望を得られていないですからね。自分より人望を集める娘なんて、邪魔なだけですよね?」
「それは出しゃばり過ぎだからであろう。出しゃばりさえしなければ、人望は相応なものに落ち着くに決まっておる」
「表向きから姿を消せば、文字通り消されるだけでしょうね。産まれた時から皇太子と皇孫女の関係は、そんなもんですよ」
「あり得ん。それほど憎んでいるなら最初から返せばよいではないか」
方護の言葉に辻堂が薄く笑う。それは奥向きを生きてきた笑い。
「常盤御前は誰の愛妾だったか失念していませんか? 時の国王が産ませよ、と言って逆らえる立場にいましたかね?」
「何を馬鹿なことを」
「そうですかね? 常盤御前からは艮公が産まれていましたし、次も優れたものが産まれるのでは、と考えておかしくないと思いますよ。例え父親が祖父に遥かに劣っていたとしても母親の血を引きさえすれば、と考えても」
「それが真庭が踊らされたこととどう関係がある」
――おい大丈夫か、これ。ステータス開いたら知略が10割り込んでるとか脳筋タイプじゃないよな。あー、もう面倒
「当時の国王と宰相が揃って皇太子よりこれから産まれてくる子供のほうが優秀だろう、って評価し、手塩にかけてそれがその通りだと証明した訳」
「だから何だ」
「国王に宰相、そして常盤御前と国の中心が後ろ盾だったから、おおっぴらには皇太子は身動き出来なかった。それが今、その後ろ盾は無くなっているが、そんなことにも気がつかないほど先を見通す目が無かったとでもいうか、ということ。つまり、最初っから国王も宰相も常盤御前も自分達が死んだら皇太子が皇孫女を殺しにかかるだろうことを予想してるし、そうなった時の逃げ先を作る用意をしてた、ってこと」
「逃げ先が真庭だとでも?! そのためになぜ兄上に謀反を唆す必要がある!!」
我慢の限界、これ以上はしゃべるなと脇差が湯呑の並ぶ机に突き立つ。まあ、それを無視してしゃべるしかないんですが。
――実際問題、切っ先がこっちに向けられたら護って貰えるのだろうか……
「真庭の取潰しを取り成して恩を売って実利を得るため」
「……なん、だと」
「備州の東側はほとんど王弟派。艮公自身が治める津山の隣である真庭は内からの攻撃からでも防御が出来るほど城や砦が多く築かれた要害だ。親違いといえど艮公からの救援も見込める。後ろ盾のない皇孫女からすれば、絶好の立地だろう。何かあった際の逃げ込む先であることを受け入れるのであれば取り成す。それが呑めねば手柄として皇孫女自身が治めるのも選択肢だったろうな」
◆
以降のことはあまりに手の平で踊った感が満載過ぎるので、ザックっと言えば。
激高した真庭方護さんが藤堂邸を退出されました。
激高した真庭方護さんが学生寮に進入されました。
浦上春日さんが真庭方護さんを強制停止させました。
◆
剣豪応募しなくて良くね? ってぐらいの圧勝だったらしく。
謀反の件と、今回の押し入りの件とでツーアウト。黙って従え、と言われて方護は皇孫女が暮らす女子寮で薔薇色の学生生活を切ったようですよ?
◆
「しかし恨まれているといえども仮にも王族。まさか身一つでの入学とはいくらなんでもなあ……。方護はこれからの学生生活を一つ屋根の下とは」
――ラブコメフラグあざーす
「宰相様が一々家格だ身分だ持ち込まれると面倒だから、と当初は身一つで寮生活という制限をかけておられましたが、学園の敷地外に屋敷を建てる貴族が出るようになり、それも半ば形骸化していたのですが」
「入学を機に身包み剥いでしまえ、と」
――建前は、率先垂範ですね。わかります
頭痛え。
「ぶっちゃけ、扇は学生期間に暗殺しかけてくると思う?」
「自分なら仕掛ける、と」
「だって寮の警備って言ったって限度があるし、場合によっちゃあ、そっくりそのまま暗殺側にまわるわけでしょ」
「回りくどい言い方を続けられるなら方護様同様に脇差を突き立てましょうか?」
――扇がすると机買い直すハメになるから勘弁して
「庶民枠で扇も入学しない?」
◆
この総社の学園は、貴族級の入学卒業こそ年に一度という制限をかけているが、庶民の入学卒業については、試験を通りさえすればいつでもよい、という自由なものだった。
宰相にしても愛妾にしても人材こそが国の命脈ということを理解できていたようで、人材を確保するためなら、という割り切りがあった。
採用狂の曹操さんとかいい手本だよねー。
制度自体、キャッチフレーズの通り、入学は簡単に。でも試験を突破しない限り卒業は難しくなっていた。もっとも卒業するだけでも国や地方の役人としての働き口が得られるとあって、入学のための列は途切れることがないのだとか。
他所の国からの間者入るだろうに、よくやったもんだよなあ。
そこに扇をねじ込むことで、女子寮にもねじ込むことができる、と。
長寿族であることを盾にした交渉が入りそうだけどまあ頑張るしかないか、と思っていたら辻堂が前宰相の息子に掛け合って手続きやら一晩で済ませました。
曰く、昔下ろした筆に、また墨をつけただけですわ。だってさー。
――なんか、外堀を埋められてね?
祥どころか要まで入学手続きが取られてたのはかなり年齢的にいえなんでもないです。という弁明をしつつ、いまだに二人とも扇と同じ部屋で暮らすのは無理ってことだと知らされる。
扇に方護が抜けたから部屋が空いてるし、とアプローチするが、流石に学園からNG出てるらしく、一人寂しい学園生活を送ることに……。
――身体が夜泣きするんです!! 安西先生!!
◆
などと言ってたのが懐かしい。
――寂しいってレベルじゃねえぞ!!
学園の授業形式が大学のそれ。必要な科目を何時、誰の講義でとるのかは自由というもの。ある意味人材は育てたいが貴族を落第させるのもマズイから貴族に簡単に単位だす講師と、人材を育てるために厳しくいく講師とを分けるためにそうしたんだろうなあ、と苦労のほどが伺えるわけだが。
時代が一回り以上は違ってて授業内容受け付けないし。かと言って教師論破してはしゃぐ意味も無いし。
つまり、魔法以外の講義は基本、ノータッチの方向だったりする。
それが災いしたのか、やはり長寿族は世俗には関心がないからなー、と納得される始末。
おまけに、魔法の講義間の時間潰しに、王都と総社ぐらいにしかないと言われる図書館から借りた本を読んでる訳だが、庶民派がよく使う食堂の一角に座ってても、みんな遠巻きにして眺めてくるだけだし。
――なにこの珍獣扱い。でも、それでも魔法なら、魔法が使えるようになったら支持率がアップするんだ。
と思っていたが。待望の魔法も「余のメラだ」をリアルでやったことで、使えねー、ということが判明。だって、風を起こすはずが、遠くの山の稜線がえぐれるわ術の余波でこっちも酷い目にあったし。
気分的に、エアロ出したハズがエアロジャだったから効果範囲に自分も巻き込まれたー、みたいな?
あ、人望無かったからか他の生徒で巻き込まれたのはいなかったよ?
後に聞いたところ、皇孫女的にこれがフラグ二本目だったとか。
正直、こっちはそれどころじゃなかった。何せ内政チートの道具だったはずの魔法がまともに使えない。
通常手順で発動させると、基本惨劇しか生み出さないとかどーいうことかと。
攻撃系どころか補助系すら使えないとか、もうね。
巻き込まれ系セルフ廬山昇竜覇で吹き飛ばされた後、地面に激突寸前に張ったプロテスだったはずの何かは一週間経っても消えてないし。
治療なら、とエアロジャ的になものに巻き込まれて怪我してた動物達にケアルダ風なものを施したハズが全身ぶくぶくっと膨張したかと思ったザクロみたく弾け飛ぶし。
――ん!? まちがったかな……
どこまで使い物になるか調べるなら大規模破壊と人体実験が必須とかやってられっか――?!
CPUの基盤に配線描く程度の精密作業にショベルカーの先っちょ使おうとしてるみたいな不相応さと言やいいのか……。
長寿族にまつわるおとぎ話で、山が吹き飛ばされるわ川が干上がるわ海が割れるわなんて誇張でもなんでも無かったことがよーく理解できた悪夢の一週間。
楽しみだった魔法の授業すら出席出来なくなったので、食堂の片隅でひたすら本を読み漁ったり、真庭から連れてきた配下を使って総社でもフィッシュ&チップス始めて、ぼったくり喫茶の開業資金を調達すべくあれこれ指示していたんだが、気がつけば『つけ耳様』と呼ばれるようになっていましたよ?
◆
誰が発端だったか、さっぱり思い出せないんだが、食堂に引き籠っているといっても当然共有スペース。他の学生も使う訳だが、食事だけでなく学友の悩み事相談なんてのも散見されるわけだ。
本当に、一番最初に誰の何の相談話に首を突っ込んで助言したんだったか忘れたが、その助言がきっかけであれやこれやと相談事が持ち込まれるようになって。
使っている場所が場所、庶民出身の学生が使うだけあって、相談事のほとんどが金にまつわるお悩み相談。
これが貴族なら食うに困らないのが多いため色恋沙汰の割合が膨らむんだろうが、生憎ここは成り上がり者か成り上がり希望者の
空間。
色恋よりも立身出世、そのための学業? って手合いが多いのだが、教材を買うための金が無い……、という者が多い。
最初はアルバイトを集める感覚で相談に乗っていたのが、どこのタイミングからだったか、実家の家業についての相談が持ち込まれるようになり、テコ入れでアドバイスし始めたりするうちに、人間以上に人間を知る世俗塗れの長寿族だ、いや実はあの耳はつけ耳だ、という話まで出る始末。
挙句、相談事がある際は、庶民が使っている食堂の片隅で「つけ耳様、つけ耳様お越し下さい」と祈ると悩み事が解決するとかいう噂が立ち始めて。
――スイフリーの親戚でもなきゃ、こっくりさんの親戚でもねえぞゴルァ?!
まあ、確かに耳が長いの忘れて、耳に指引っ掛けたりなんだりしてっけどさぁ……。
◆
「それで、貴方が最近噂の『つけ耳様』なのかしら?」
ぼっちは寂しいもんね、と「つけ耳様」と呼ばれるのを許容していた結果、一番面倒臭いのまで釣れました。
――ついに皇孫女から目をつけられるとは……。
「ははは。これがつけ耳に見えますか?」
関わったら碌でもないフラグ満載の王族に活動基盤がようやく出来た程度の時期から関わってなんていられるか?! こんな会話からは逃げるぞ?!
「そうでなければ賢者? それとも豪商かしら? なのに私のところに来てくれないから、こっちから来ることになったわ」
ニヤニヤとした笑みを浮かべてこちらを見下ろして来る皇孫女の胸元から更にその奥が見えそうで見えない。
何も言わなかったにも関わらず背後に立っていた方護が、椅子を引く。
よくしつけがされていますね……。
いらんことを、と視線を飛ばすが苦虫を噛み潰したような視線を飛ばしてくるだけ、とか。マジでどうしちゃったの。半年前は脇差突き刺したぐらい堪え性がなかったのに。
「賢者でなければ総社の貧民街の治安をあそこまで引き上げられないでしょうし、豪商でなければこの新参にも関わらず大小含めて十を超える数の店を構えることはないんじゃないかしら?」
「貧民街なんてどん底もどん底。あれ以上悪くなることなんて無い、ってほどの状況でした。そこに少し手を入れれば誰だって賢者みたいにみえますよ。それに店だって物珍しさで売れてるところが大きいですよ。飽きられたら左前もおかしくないわけですから、豪商と呼ぶにはとてもとても」
◆
総社の街は古代中国や中世ヨーロッパみたいな高い城壁があるわけじゃないが、それに準ずるものとしての空堀と土塁が街の周囲に築かれた、いわゆる総構えの街なのだが、総構えの内側が学生や住民が暮らし、外側に他所の国や街で生活が出来なくなった貧困層が街を形成していた。
他の街に比べれば総社は武芸や知識、技術があれば身を立てやすい街として広く知られており、それが各地から人を誘蛾灯のように引き寄せるのだが、なにせ街の内側に住めるのは学生か税金を納めるものだけという仕切りが存在するため、学生でもなければ税金を納めることができない者は総社の外に住処を作るしかなく、それは自然、空堀と土塁に寄り添うようにして生活する貧困層の街を形成することとなった。
が、内側のように計画があって出来る街並みではないこと、そもそも街といっても布と棒切れ作られるテントと呼ぶのもはばかられるもので出来たもの。環境の劣悪さは自然と死者の数を跳ね上げ、それがさらなる死者を呼ぶ悪循環。
それでも他の街よりは貧困から抜け出す可能性が高いと群がる人、そしてそれを喰い物にする人を引き寄せゆっくりとしかし確実に肥大化してきた。
前の宰相もその息子もなんとかしようと手を打ちはしても、宰相は国政の片手間、息子も不穏な空気が漂い出した国政に借りだされてと、十分効果を上げるには至っていなかった。
この貧民街にわざわざ関わったのは格安で優良人材が確保できるかもしれないから、という、まるっきり真庭の焼き直しをやろうとしたからに他ならない。
アルバイトを斡旋している中で、アルバイト代で家族の入学資金が確保出来た、なんて話がちらほらと耳に入るようになったことで、総構えの外側いわゆる貧民街に私塾を開いて、ふるい分けした上で優良そうなのに出資しようと思いついたのだけど。
ウチの私塾に通わせるだけで、食糧現物支給だぜ? って売り文句で、私塾が子供の山で溢れかえったし。
食糧の正体は、内側に構えた屋台の残飯なんだけどな?!
――それでも大変御好評頂き
貧民街から少し離した場所に構えた私塾に、学生アルバイトの講師を突っ込んで物になりそうなのは入学金出して。
アルバイトも物になった人数に応じてボーナス弾む歩合制したりとするうちに、あれよあれよと入学生が膨らんで、学生内での一大派閥形成してたり……。
流石にこのペースだと本業の収入でまかないきれないかも……という収支予測が出てしまい、一部の学生を探索者組合に登録して探索者向けの依頼を受けることで新たな収入源とすることにしたのだが、ここでもあの大型ルーキー六人衆が活躍。
――まぁ、火事で活躍してて貧民街では名前が売れてるからなぁー
探索の依頼ついでに材料をあれこれと持ち帰らせることで材料費を浮かせたりと、地道な経費削減の結果、
――ねんがんの しょうかんを ひらいたぞ!!
な なにをする きさまらー! と言うことも無く開店した娼館。
各地からやって来ている貴族の子弟をターゲットに、ホームシックな心のスキマを埋めるシチュエーションプレイを売りにしたところ口コミで釣れる釣れる。
貧民街に私塾を開いた当初から学業がダメならこんなところで働いて食い扶持を稼がない? と給食効果で骨と皮から肉付きが回復して容姿が良さそうな女子にそんな採用活動を行い、オッケーしたのを辻堂先生によるスパルタンXコースへ御案内。
――仕事の比較対象が、ひたすら芋の皮剥きという例のアレ。
買いに来た客とのお見合いばりのマッチングをして、一年分専属として売るという、他所でやってなかった商法を導入した結果、
――計画通り、御落胤ゲットだぜ?!
都度払いなら懐具合で来る来ないが左右されるから、当たりやすい時期に呼ぶなんてことは出来ないけど、前金で支払い済みなら気兼ねなく来るよなぁ。そのために他と比べたとき月に二回も通えば安く感じる価格帯設定したんだからさ。
使えもしない魔法の講義を受けてる中で、血統によって使える魔法の強さがあるっぽいことがわかったので、御落胤と言ってもサンプル確保の意味合いが強いんだけどね。
子供が出来た場合の客との調整マニュアルを用意してはいたものの、中には多少手間取るケースもあったりで。
基本、血統を名乗らないことと養育費も請求しないことを、長寿族の身分を利用して首を縦に振らせるだけの簡単なお仕事なんだけど、中には入れ込み過ぎて愛妾として囲うと言い出す学生がいたり。
――ええんか?! そんなにお兄ちゃんプレイがええんか?!
今までシチュエーションプレイは無かったらしく辻堂に確認を取った際はえらく引かれたのも、成功してしまえばいい思い出さ? 多分、きっと、恐らくね?!
それと稼ぎになったのがシチュエーションプレイ中に学生がポロポロ零す商売のタネ。
お兄ちゃんの故郷のこと聞きたいな、などと迫らせてあれこれと聞き出しては特産物なら仕入れに行かせては総社で物産展を開催して荒稼ぎ。人間関係とか地方状勢とかの情報ならひとまとめにして今後の動向予測に使ったり。
――金払ってもらって情報が手に入るとかウハウハですよ、プロデューサーさん?!
稼ぎのごくごく一部を貧民街の居住環境の改善に当てるだけでも、病死凍死の数がグッと減ること。
生存率が劇的ビフォアアフターした結果、囲える子供の数が増えて私塾が手狭になったので、総社の総構えの外側のうち貧民街が構成されていなかった北側の土地一帯を低価格でお買い上げ。
孤児割合が減った分、子供に親兄弟がぶら下がる構造にシフトしたことで、親兄弟が食っていける環境用意しないと私塾への支持率が減って、私塾を源泉に商会や娼館の人材が調達出来なくなるリスクが出てくるとか、どうしてこうなった……。
子供の確保のために親が生活できるようにするとか、コレなんて生保。
やってられっかーと叫んだところ、まとめて処分しますかという提案が出てくるが、慌てるなまだ慌てるような時間帯じゃない、と抑えにかかるハメになるとか。
そのことで、やってられっかーと叫んだところ、まとめて処分しますかという提案が出てきて、エンドレスエイトしかけたので、良きにはからえ、と言いそうになる始末。
技能と就労の意思確認した上で、飲む打つ買うの穀潰しとか、ウチのモノに手をつけようとしたのとか要らん知恵だ思想だを植え付けそうなのを物理的に取り除いてから、総社から半月ほど移動した先を勝手に開墾させたり、総社内部の店舗で働かせたりすることに。
体裁は、就職中は私塾で子供を預かるというものだけど、実態、育てた子供を投資も回収出来ないうちに親が連れ去らないようにという隔離政策。
借金だなんだと脛に傷持つ親へは借金の返済が可能なだけの手切れ金を渡す実質奴隷売買の形態だったり。
開墾も最初こそ遅々として進まなかったが、総社で魔法が使えるようになった学生をアルバイトで投入することで、伐採やら根起こしやらがサクサク進められるようになり、冬が終わるころには米は無理でも作物が育てられるかもしれないとか報告が上がるようになっていた。
――開墾王に俺はなる?!
ということで、GO WEST じゃないけど、貧民街の読み書き出来ない単純労働者を軒並み開墾街に突っ込み、作物は納めますんで許してね☆、と今更に総社の領主のところに出向いたのが先日のこと。
流石に宰相の息子。税金納めなかった連中が納めるようになったし、貧民街が縮小してくことで治安が回復してることを把握しているようで、アッサリOK。
まあその代わりに、7:3で納めてね、などと言われたりしたけど。どうせ払うの俺じゃないしな、とアッサリOK。なんせ、今まで自腹で扶養してたのが一部だけでも払わずに済むようになるんだからネー。
言い値で納めるんだから、ちょっかいを出すんじゃねぇぞゴルァ!! とだけ釘を刺してたハズなのに、皇孫女Inしたぉ……。
――確かに領主からのちょっかいじゃないね、コレ!!
◆
読み飛ばされてる程度の閑話休題。
脳内回想を繰り広げるつつ繰り出す謙遜を皇孫女は興味なさそうに聞き流すと、
「まぁ、百歩譲って賢者でもなければ豪商でもないとして、それでも異世界人として私のところに来るべきよね?」
ざくりとこちらの出自を言い当ててくる。
バレたからって何がどうなるという訳じゃないよなあ、と自己完結していたことといえ、身内にさえはっきりと異世界人だと告げた訳でもないのに、なぜバレたし。
「『かすが、じゃなくってハルヒかよ……』」
皇孫女が手の平で転がす玉から、聞き覚えのあるボヤきが聞こえてくる。
――入学式のボヤきまで記録してるとか、暮らしのおはようからおやすみまでを監視するエシュロンかよ?!
「結構大変なのよ、こういった材料を用意するための仕込みって。当たれば大きいけど、外れると徒労感が半端じゃないでしょ? ただ、母様も宰相の爺様もあのセリフに食いつくなら絶対に同郷だからガッチリ捕まえておけって言ってたから、とりこぼす訳にもいかなくって一人寂しく夜の会場で椅子の一つ一つにこういった記録珠取り付けては、次の日にそれを外すなんて作業をやって。だから釣れてくれて本当に助かったわ」
喜色満面と、皇孫女が伝えてくる内容は地味すぎて涙を誘うものだが、そんなことは「こんなこともあろうかと」というセリフを吐きたいヤツなら共通の苦労、と聞き流してやろう。
「ただの貴族を引き込んで生活しているという噂でしたし、言葉だけかと思っておりました」
「あ、母様も爺様も同郷ならへりくだった言葉使いなんて満足にできないだろうから、普通に喋らせろいや喋らせてあげてください僕達私達それでとんでもなく苦労しました、とか合唱みたいに言ってたから良いわよ」
「そりゃどうも。で、今更なんのご用意? 同郷だって知ってたのに今頃になって接触してくるってのは、厄介事の予感しかしないんだけど」
「今更になった理由なら、一つは本当に同郷なら何をするか、しでかすかで、ひととなりを把握しておきたかったのと、もう一つは消さずに済みそうなら肥え太らせたかったから。どうせ利用するんならその方がいいでしょ?」
「けんもほろろに追い返すって選択肢がないからってそこまで言うか」
ここで利用するとか何様だと突っぱねると真庭絡みの濡れ衣被せられて打ち首獄門ですね、わかります。
「もちろん、タダで協力しろ、とは言わないわよ?」
「報酬は生きていること、か?」
「爺様そっくりの言い方ねソレ。そうじゃなくて、母様や爺様が同郷の者が見つかったら見せてやってほしい、って預かったものよ。同じ境遇だったとしたら情報ほど価値のあるものは無い、って断言してたけど?」
「喉から手が出る程度には意味のある報酬だけど、それをエサぶら下げて俺に何をしろと?」
死ぬまで見聞きしたものを纏めただろう二人の情報に価値があるのは間違いないが、それに釣り合うだけの労働は何かが問題なんだよなあ。
「貴方に、というよりは貴方の力を使って、ね」
「皇孫女は脂身がお好き、か」
それで要求は? と、そこで視線をぶつけにいくと、ぶれることなく見返してきやがって。
「水晶塔攻略の指揮を採らせてほしい」
これまた面倒臭いことを言い出してきましたよ?