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僕と契約して、手下になってよ!

――王命には勝てなかったよ……




真庭での生活はこれからだ!! ってことで、犬耳姉妹の要と祥を馬車馬のごとくこき使った結果、奴隷と屋台が増えました。



やったね妙ちゃん!! それでも芋剥く手は止まらないけどね!!



新たに油を胡麻に変えた屋台を作り、フィッシュ&チップスを祥のゼロ円スマイルと一緒に売り出すと、実に飛ぶように売れること。今まで俺や扇が着ていたような薄汚れた着物から姉妹用にと制服を用意したりと投資した金額を僅か十日で回収するほどの売れ行き。

胡麻油の値段が値段なので芋の量少なくして実質的な値上げしてたのにね。カントリーマアムは昔のサイズに戻りませんか?



どうせ買いにくるのなんて男しかいないだろってことで、姉妹に釣銭を渡す際に見えるよう胸元を広めに開けることと視線が下がった際に手を握ることの二点を実技指導したところ、娼館に通うほどのお金がない連中がほどよく釣れた。



姉妹が売れば売るほど、剥く芋と捌く魚の数は膨らむ訳で。



真庭の住民から番町芋屋敷と呼ばれるようになった三ヶ月目。なんでも、芋はもういやと泣き叫ぶ声が夕方に聞こえてくるとかなんとか。




――流石に同じ商品出して対抗しようとする店舗が出てきましたわー。



客の流出を食い止めようと揚げ物を始めようとしたので、ちょとした商戦を繰り広げてみることに。




――我々は戦争をしたくない。しかしあの業突く張りが一方的に戦争を望んだ!! あの店主は売り子の身体が目当ての悪魔のような人間だ!!




とかとかプロパガンダぶち上げて奴隷を追加購入。扇からはなぜ自虐を? とか真顔で聞かれる始末。


芋剥くついでにあれこれ朝昼晩と洗脳教育してた祥は祥で、頭数が増えると扱いが粗略になるんじゃ、と不安顔で空鍋かき回してたり。

急激な拡大政策は陣営倒壊の火種、と泣く泣くリザーブしていた「男の娘」と長期育成のために女子を二人買うに留め。




――身請名にシスプリとかのネタに走った宰相の気持ちが理解できたよ!! 「秀吉」とか脊髄反射でつけそうになったしね!!




「男の娘」を秀吉繋がりで「日吉」、あとの二人を日吉繋がりで「菊名」「綱島」と名付けて、対抗店に使い古しや獣脂を取る際に血肉が多くて捨ててた部分で作った油を売りにいかせてみたりと汚れ仕事を任せてみたり。

問題になっても足切りできるしね、とお気楽にやらせた「はじめてのおつかい」。


揚げ物文化がないし油の良し悪しなんてすぐには分からないだろうということからのこの妨害工作兼廃棄品の有効活用策に見事に引っかかって頂きました。

別にこの時代、特許権だとか商標権とかないからそれで対抗する訳にいかないしねー。



二の矢で、あの店の揚げ物美味しくないよね、から始まるネガティブな口コミを流してみたり。揚げ物が美味しくないハズなのにあの店美味しくないにいつの間にかすり替わってるとか伝言ゲームってコワーイ、恐いわー。変わりすぎて、恐いわー。




――我々の受けた損失は小さく、業突く張りが被った損失は甚大!!




ついでに対抗店の店員に今よりいい給料払ってるらしいよ? と隣の芝をちらつかせて切り崩し工作をかけてみたり。奴隷と一緒に働くのはちょっと、という反応も姉妹が着る着物の上等さとを理解するにつれグラつく次第。

帳簿上は経営に問題がなかったとしても、手足たる従業員が動かなくなれば店舗もただの張りぼてに。



ここまで対抗店がグラつくとは思ってなかったので、ちょっと考えて、三店目をこの店を囲うように出すことに。ドミナント戦略だよドミナント戦略だよ、と大事なことなので二回繰り返しました。

また買うのかと、扇から白い目で見られ、祥は空鍋をかき混ぜ。



この頃になると対抗店に対して流していた案外と高給という話が、真庭一帯で活動している探索者の中にも伝わり始め、生きるか死ぬかの商売辞めて街中で平穏に暮らしたい、姉妹が羨ましい、と買い物がてらに零す者がちらほら出てきていたので、報告書に「いも……うま……」としか書かなくなってた兼業家政婦に、探索者数人の身辺調査を依頼した。

ココの監視が本業なんだろうに、「芋以外の仕事を、ありがとうございます」とか名前と人相が書かれた紙を受け取ったかと思うと、顔をぐしゃぐしゃにして涙流してたので、多分心が折れたんじゃないかしら?



――二重スパイ、ゲットだぜ?



「それは折れるんじゃないんですか? 店を出して以来かれこれ二カ月以上、芋を剥くか魚を捌くかしかしていないですし」

「あそこまで喜ばれるとは思わなかったし」

「それは喜ばれるんじゃないんですか? 奴隷は逃げられないけど家政婦は逃げられるし、とか言って首に鎖つけて部屋に閉じ込めてたのはどなたですか?」

「投げた包丁が根元まで刺さるとは思わなかったよ。……扇から聞いた奴隷の躾方を参考にしたんだけど、駄目だったかねえ?」

「待遇を改善するからと、剥いた芋の量だけ庭先で魚を捌けるようにするよ、と言った頃からですかねえ。表情が虚ろになったのは。そのお陰で日吉も菊名も綱島も従順そのものですよ」

「え、だって室内で魚捌くと生臭さが残るからなんとかできないかって、犬耳姉妹が夜にさ」

「そのおねだりの結果、暴れる監視の鎖を引っ張って部屋に引き戻す仕事が三人に出来た訳ですか」

「え? 暴れてるの?」

「暴れてますよ? まあ、ここと店舗を往復している間に閉じ込めてるのでご存知なかったと思いますが」

「そこまでしてるんなら戻ってこないかもなぁ……」

「お忘れのようですが家令の命令でここに監視役としている以上、故郷を捨てる覚悟でもない限りは戻ってくるでしょう」



――しがらみってコワーイ、恐いわ。絡まりすぎて、恐いわ。



などと言っている間に(たえ)の仕事が終わり、身元交友関係技術の程度を元に、七人の探索者と専属契約を結ぶことになった。


結んだのは、探索者と言っても現役を退く寸前の老骨というのが1人と村の口減らしで出されたためたいした技能があるわけでもなく碌に稼げていなかった6人。

老骨は腕はそこそこだが飲む打つ買うで探索者辞めたら奴隷行きだったし、6人も資金繰りが綱渡りどころか転落寸前という、どちらも足元見放題状態。


この1人と6人、教師と生徒として組ませて、新たな資金源としたいところ。で、育つまでは妙の後を継いで芋と魚の生活を送って貰うというのが今回追加の計画。

なにせ探索者の組合と言っても、基本他人は商売敵。ということで技術伝承が碌にされていないことから、腕がそこそこの老骨でも新人にその技能を与えれば他の新人よりは頭一つ先行するだろうし、5千500万の大型ルーキー程度にはなってくれると思われ。


芽があるようなら要にさらに仕込ませればいいわけだしね。





そして三店目を出すこと一ヶ月。



――敵将、討ち取ったり!!



三店も出したせいでカニバって店舗当たりの売上は落ち込んだものの、楯突いた相手の首級を上げることに成功するが、そこに至るまでもそこそこの騒動。


妙に追加のお仕事で対抗店の内部事情を調べさせ、前妻の姉弟と後妻親子の関係が悪いことに目をつけ離間ぶっ放して、閑古鳥が鳴き始めたころにはめでたく内部分裂。


後妻が社会勉強のためにと姉弟を他所へ追いやろうとしたのを、運転資金の為に売り払おうとしている、と捻じ曲げて必死の状態に。


詰みは、潰れる前に代金の回収をと慌てて先走った店が出たこと。あっという間に資金繰りが悪化して、錯乱した後妻が包丁を振りかざして屋敷に押し入ってきたのが霜月も終わりのこと。

同じく包丁で応戦した要によって三枚に下ろされる始末。トンベリ御用達とかどっかに書いてんじゃないのかよ、ってぐらいのずんばらりっぷり。


ぼそりと聞こえた「……ついいつものクセで」という言葉に、一週間の臨時休業を決めたからって、恫喝に屈した訳じゃないんだからね?



落とし前をつけてくれるんだろうなぁ、と相手のところに行ったはいいが、店主は既に首をくくってるわ、ウチの屋敷の騒ぎを知り慌てて代金の回収に来た店の者で軒先は取り付け騒ぎの様相になってるわ。

しばらく様子見して、姉弟に危害が加わりそうになったのを見計らって、静まれぃ!! 静まれぃ!! と俺、参上!! ごっこ。



姉弟サイドからすれば、バッドコップ・グッドコップのどちらに見えるかね。なにしろ前々から対立するのではなく手を取り合っていけないものか、と綺麗事を並べていた間柄なので。


要約すると「こちは売掛金の回収しなくちゃいけないんだから邪魔すんじゃねえよ、タコ!!」という真綿でくるんだ意見に、「その証文、ウチで半値で買い取るけど?」とオブラートに包んで言い返したところウチもウチも、と手が上がること上がること。


ウチがこの店を乗っ取るのを反対しないことを条件に今まで通りに仕入れをするよ、と交渉した結果、めでたく店舗乗っ取りに成功。


妙や祥には売掛金の回収の必死さ加減を観察させておいたので、資金繰りがよろしくない店のめぼし、ネクストターゲットがある程度把握できるだろう。




――そして俺はこの乗っ取った店舗、追加購入した奴隷ときわどい服を生贄に、超時空召喚!! 平成の世より蘇るがいい!! ぼったくり喫茶!!




これまた娼館に行くほど懐具合がよくない男連中がよく釣れた。平成の世だったら風営法で一発退場するサービスを武器にこれまたあっという間にウチへのツケで首が回らなくなった探索者が5人、10人と膨らみ探索者の組合から品を卸す際に値引きをするから身ぐるみ剥いで売り払うのだけは勘弁してくれと、泣きが入ったり。



男同様、探索者の女連中相手に日吉を筆頭にかしずき系喫茶を提供した結果、これまた(以下略。



それぞれの店の現場監督を姉弟に丸投げして、相変わらず芋剥いた生活続けてる訳ですが。

通常の娼館とは異なり身体を酷使することもないので他所の娼婦からすれば羨望の的でしょうね、との扇や妙の言葉に、ティンと来た。




――そうだ、娼館乗っ取ろう







で、真庭で一番の娼婦とはどんなもの、と扇監視のもと出かけた先で出会ったのが王都で指折りだったという高級娼婦の辻堂(つじどう)であった。掃き溜めに鶴。

聞けばこの辻堂、120%同郷だろう前国王最後の愛妾であった常盤御前に可愛がられていたとか。

それを聞いた扇、





「ま、た、女、ですか」

「どうもあの店主は王都屈指の娼婦という外面にしか目が向いていなかったようだが、これの価値は中身、教養・知識にこそあるんだよ」

「駄目だと言ったところで屋敷の庭先でひっくり返って駄々を捏ねるとか、欲しいもののためならなんでもしますからね貴方は」

「それほどでもない」

「なんにせよ、稼いだ金銭は貴方にしか裁量が無いんですから、どうぞご自由に」





――情報源、ゲットだぜ!!



ということで、即日身請けして、そのままぼったくり喫茶の従業員兼教育係に。

ちなみに源氏名は愛妾が名付けたものだそうで、そのままにさせて欲しいという当人の要望通り、そのままにしている。べ、別に名前の候補が思い浮かばなくなった訳じゃないんだからね?!


ちなみに扇と辻堂、というか扇は他の奴隷や従業員との関係がよろしくないようで、今回も身請け後の顔見せ時に外套を外して見せたところ、辻堂に至っては悲鳴を上げてぶっ倒れる始末。以来、非常に微妙な距離ができていたり。





「扇に慣れる子がなかなかいないねえ」

「呪いに慣れるようなのは馬鹿というんですよ。奴隷の手枷足枷に嫌悪を抱かない者がいないと思いますか?」

「嫌悪すべきはこの龍であって扇じゃないんだけどねえ」

「袈裟が憎けりゃ坊主も憎い、そんな感じですよ」

「それ、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、じゃないの?」




これがその晩のログだよ。ログだけならやましいところは何もないよ!






などとのんびりピロートークしていたのが、どうしてこうなった!!




事の発端は、ある意味すっぱり縁が切れてると思っていた真庭信護からのもので、要約すると



「ごめーん。次男が内応してたの国にバレてた。方護を人質に送り出す際に同行してね☆」



というもので。

夜逃げ準備をしつつ、どゆうこと、と領主の館に出かけたところ以下の通り。



次男に内応をそそのかしていた間者は実は宰相が雲州に送り込んでいた間者だったんだよ!!



ナ、ナンダッテェー。


当主曰く、方護に継がせたいなら勉強必要じゃね? それなら当主になるまで教育機関がある総社で当然勉強させるよね? という内容で国王から書状が届いたそうで、御愁傷様です、と言ってやろう。



――そこに、同郷がいた方がいいだろうから一人までなら認めるよ、と書いてさえなければな!!



要は、謀反有耶無耶にしようとしてるの把握してっから。反省してんならテメエが死ぬまで人質として息子差し出せゴルァ!! ということだけど。



――なんで、こっちにその話が来るんだよ。間者のせいですねわかります。間者のせいですねわかります。



なんで二回言うのカナ? 言うのカナ?



信護と方護が王都に土下座しに行ってから総社に向かうとのことから、先行で総社に入ることに。それも真庭で作った財産引きずってな!!



どうにも、あの厄介なつけ耳長寿がいなくなると祝杯をあげる同業が多いらしく、扇から人気だったんですね、と嫌味が。不在期間が真庭信護(56)が死ぬまでとか長期になりそうなので、代理立てて経営するのと諦めて店を畳むのとを天秤にかけ、畳むことに。



――その財産で総社とやらで、似た店開業すればいいんだしね!! べ、別に悔しくなんてないんだからねッ!!




ツンデったセリフを乱発しながら閉店セールだの、ツケで首が回らない探索者の扱い整理したり、空き店舗の転売先が見つからないから真庭家に物納したり、奴隷や従業員で行きたくないヤツいるかと踏み絵を迫ってみたり。


踏み絵で思い出した育成中の六人は、予想通りに期待の大型ルーキーとして活躍し出してたので、渋るかと思いきや、あっさりと同行を承諾してきたのには驚いた。

ちなみに教育係だった老骨は育成がほとんど済んだ段階でぼったくり喫茶で酒に溺れて溺死したんだと。なんて理想的な、と他の探索者からは羨ましいがられたらしいけど、太ももに頭挟んだ状態で寝ゲロで窒息死するのが理想的なのかね? 枕役はトラウマで暫く芋剥きに回すハメになったしさ。余談ついでといえば芋剥きの方がトラウマになったそうで一週間で喜んで枕役に復帰したそうだ。ぶらっくー。



――よく妙は壊れなかったよなあ




ちなみに踏み絵の結果に驚いたと話したところ、扇や要からは驚くことに驚いたと言われる始末。恩を返さないのは畜生の所業でしょうにそれを疑うとは何事ですと辻堂からも説教されるし。


どうも、使い潰さないようにと気をつけているのを奴隷や娼婦であろうと労わっているという評価に変換されてるそうで、どこのストックホルム症候群かと。




そんなこんなで、一人でこちらに転がり込んで一年、えー、扇に妙に要に祥にと指折り数えて、四十七人になりました。

ちょっとした、どころかかなりの所帯になってたね!!







テーマ曲をドナドナに王都へと旭川を下り網の目のように張り巡らされた水路を一路西へ、途中で王都倉敷へと土下座しに行くからと南へ舵を切った信護と方護と別れ、こちらは北にある総社へと。

真庭の家紋を掲げた船だけあって、すんなりと総社までたどり着く。



辻堂から道中聞いた話では、この総社は前の宰相が地方の独立を防ぐ目的で作った、人質を管理するための街で、大義名分としては次期当主として相応しい人材を育成する教育機関ということになっている。

当初は王都に作ろうという話だったらしいが、愛妾の常盤御前が王都という籠に国王という卵も人質という卵も合わせて入れるのはマズくね? と言ったことで、国王が住む倉敷と歴代皇太子が住む岡山の中間に人質用の街を作ったのだそうだ。



ちなみにこの常盤御前、聞く限り相当の歴女だったようで、別の愛妾のおねだりが発端で起きた内乱において見せしめとして皆殺しにされた一族が出たと聞くや、現地にすっ飛んで行って虐殺陵辱の限りを尽くされた死体を荷馬車に積み込み王都に戻るわ、当主とその妻のしゃれこうべで盃作って戦勝祝いの席でおねだりした愛妾に酒を飲み干すことを要求。それに腰を抜かしたところをこれ幸いと死体の山に放り込んで発狂死させるわ、物言わぬしゃれこうべにすら手を出せない臆病者は、以後他人の財産に手を出そうとしないことです、と国王に取り入ろうとした連中に釘を刺したとか。




――しゃれこうべの盃とか、どこの第六天魔の真似事だよ




生活そのものは非常に質素だったが、やっぱりこっちの基準からすれば相当聡明で、上下の隔てなく接するなど評判は良かったようだ。

最後の愛妾と言われたのも、その聡明さから国王に寵愛されたことを妬んだ愛妾達のことごとくを、謀略返しによって退けた結果でしかないそうで、先立たれた際の前国王らの嘆きようは相当だったらしく、宰相共々オマエが先に死んでればいいものを、と言いあっていたとか。




――フランクすぎる国王と宰相だよなぁ、オイ




この宰相と愛妾の関係は同郷と知ってるこっちからすれば不思議ではないが、当時の王宮内では相当奇異な関係だったらしく、その仲に一時期嫉妬した国王が愛妾に対して浮気を疑ったところ、愛妾が跨って腰を振ってる時なら話ていいのか、といって一度実行したらしいとか。




――下の口はそんな感じでも、上の口じゃあ故郷ベースの軍事外交話とか、ドロッドロじゃねえかぐへへへへ




なんか違った関係でしたよ、と辻堂。詳しいのは昔噺として聞かされたからだとか。これだけ関係のあった常盤御前との思い出を振り切って、前国王お手つきの娼婦として真庭まで流れたのは、王都がきな臭いからだと。


ここで王都の関係を説明しますと、と家系図書きだしたわけだけど、これがまた無駄に複雑な様相。





現在は、前国王(享年89)と愛妾(享年61)、宰相(享年76)とこの備州の隆盛を実現した三人が相次ぎ鬼籍に入った後の空白期、あるいは次の戦争までの準備期間。




現国王の浦上(うらがみ) 金光(かねみつ)(64)。歳はとってるけど、一昨年まで皇太子つまり白馬の王子様(笑)。前国王が隠居しなかったのと、愛妾がアレに継がせるんだったら私が死んだ後にしてちょうだい、わざわざ纏めた国が分裂してくのを見たくないから、と言い捨てた程度の才能と後宮ではもっぱらの評判。




これの嫡男、現皇太子の浦上(うらがみ) 宗谷(そうや)(48)。つまり現白馬の(笑)。これがまた色々と御無能様。辻堂が言うに、常盤御前からの評価は「論ずるに及ばず」だと。なにゆえに無能かといえば、自分の行動うがどれほどの禍根を生み出すか勘定が出来ない大馬鹿ものだから、と。その最たる愚行が常盤御前への夜這い事件。今の皇孫女が産まれる原因となった一件で、どこの貴族の出でもない愛妾風情が国政に口を出して、と自分が出来ないことをやってのける常盤御前に嫉妬し、自分がどれほどのものか思い知らせてやると寝所を襲った一件。止めに入った侍女を切り殺すなどした上での乱暴狼藉。身籠った子供に罪はない、と常盤御前は皇孫女を産むに至ったというのが表向きの話。



御前が語った事実はといえば、増長した坊やが必死に腰振って征服した気分に浸ってたのがうっとうしくて、逆に泣き叫ぶまで蹂躙してやった、と。やり過ぎて出来ちゃったのは自業自得。堕胎に失敗する可能性を考えて産んだんだとか。翌朝騒ぎを聞きつけた現役74歳が手引きした連中をことごとく撫で斬りにしながら部屋に入ったところを見計らって、現役に見えるように睾丸両方を踏み潰してその怒気を鎮めたのだと。



この無能の息子が皇太孫の浦上(うらがみ) 高馬(こうま)(26)。つまり将来の(笑)。これに関しては上二人が悪すぎて良く見えてしまう、というのが常盤御前の評価だったそうだ。それと面倒な野心家とも。後四十年、素直に国王の座を待てるだけの無能じゃないことが問題なんだとか。


そして先ほどの皇孫女。愛妾、常盤御前の娘でもある浦上(うらがみ) 春日(かすが)(15)。真庭方護と同い年ということだが、こちらは産まれてこのかた治政については常盤御前と宰相から、武芸については終生現役89歳が教え込んだという才媛。余りの有能さに常盤御前がこの娘生涯独身じゃないかしら、と心配し続け



そして一番の問題が、前国王と愛妾の間の一粒。現国王の弟である津山(つやま) 伯備(はくび) (46)。常盤御前が持てる知識の全てを叩き込み、他の愛妾との謀略戦など平時の戦であろうと戦であればそのことごとくに駆り出し鍛えた備州の白眉。

余りの有能さに、雲州・播州との国境、王都からみて東北の地域である津山を与えて逃がしたのだというのが宮中はおろか市井含めての一致した見解なんだとか。

その際に、反意が無いことを示すべく、浦上の名を捨てて、任地である津山の性を名乗ったようで、これに現国王が感涙してる時点で色々終わってるわけだが。


この一件で、尊称として艮公(うしとらこう)と呼ばれるようになったとか。国王崩御の直後にあった播州からの侵攻も増援無しで撃退するなど、兄や甥の無能振りから比べるのも虚しいほどの有能さであるともっぱらの評判。









「つまり、なにか。遅かれ早かれ、国王かその皇太子はたまた皇太孫か艮公とで備州の覇権を巡る争いが起きる、と」

「御前の遺言も遅かれ早かれ備州は割れるから他所に逃げたほうがいい、というもので……。その言葉に従って、故郷の伯州に戻ろうとすれば雲州に滅ぼされていて、どうしようかと真庭で思案していたところに成実様がこられたのですわ」



こちらへとしなだれかかることで潰れた辻堂のあれこれを感じつつも、辻堂が這わせる指の先から視線がずらせずに至る。



――浦上春日、か。後ろ盾三人がそろって鬼籍、実父の皇太子からみれば去勢された原因と結果、憎悪の対象だよなあ……。



「つまり?」

「鈍い殿方は嫌いですし、鈍い振りをした殿方に価値はありませんわよ?」

「なんとかしろ、と」

「正しくは、この身の全てを対価に、ですわ」

「身請け金については?」

「あの程度の額、私自身で払うこともできる程度、言わば見物料程度の意味でしかありませんわ」

「受けた恩義を返さないのは畜生に劣る、か。随分と分の悪い賭けをしたもんだ」

「その甲斐あって、僅か一年で有名をはせるまでの殿方を捕まえましたの」



――地方領主の御家騒動に巻き込まれてたと思ったら、王族の御家騒動に巻き込まれていた。何を言ってるのかと思うだろうが



「どうすればなんとかなるのかさえ皆目見当がつかないんだが?」

「なんとかなるか見当していただけるだけでも、違いますわ。私一人ではどうにも出来ないことですので」

「宮中を知っていても、か」

「後宮を知っているだけですわ。常盤御前の仰ることであればその通りに、これから表も奥も関係のない戦乱となるでしょう。であるならば、奥しか知らない私では御前への恩義を返し損ねるのですわ」

「掴んだのが藁だった、という可能性もあるわけだけど?」

「鈍い振りした殿方に最後の機会ですわよ? 真庭の隣が津山ですのよ?」




――なんだか既成事実積み上げて身動き取れなくなってる気分しかしねぇ……。これ本来の性格なのか常盤御前の真似事でこうなったのやら……




「二の次辺りで何とかするよ」



長耳を這う舌の感触に身震いを打ちながらも返す言葉に、薄く辻堂が笑ったのが実に印象的な総社の初夜だった。









「ただの貴族には興味ありません。 この中に剣豪、賢者、豪商、異世界人 がいたら、あたしのところに来なさい。以上」




入学後、最初で最後となる新入生が一同に会する式典の席上、浦上春日は祝辞に対する当たり障りのないは式辞の後、こう公言して鮮烈な学生デビューを飾ることとなった。



「かすが、じゃなくってハルヒかよ……」



小声のノリツッコミが原因でその後の生活、露骨に酷い目に会うことになるのだが、それについてはまあ。おいおいということで。

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