絶対に○○○になんか負けない‼(キリッ
ないわー。
いや、マジで無いわー。
不祥事の口止め料として、真庭での生活の保障ってことで家を提供されたけど。
この街、店が無い。人が居ない。だから情報も無い。
無い無いばー……。
首切峠で御家騒動が丸く収まったことを受けての扇の処分についての審議。こっちじゃ評定といってたけど、嫡男は護れなかったわ次男斬り殺したわの咎で合わせ技でなくても死罪? と主張してた家令・重臣を、嫡男の遺言に従って御家を守った忠義の徒であってそれを殺すなんてもったいない、と反対してみたり。
ついでにそんなに要らないリリカ・プリズムリバーなら遺言を伝えた手間賃として寄越せ、家屋は口止め料だから別腹なんだし、とガメツイ主張をしたところ
――ホントに寄越されるとは……
普通、貴様にくれてやるものなど何も無いわ、かーぺっぺっぺっ、ってなるんじゃないの? 引き止めやら返還要求が入るんじゃないの? 返して? ねぇ、ボビーをロッテに返して? みたいな感じでさぁ……
扇からしてみれば、主家の嫡男付きだったのが、得体の知れない男の付き人だもんね。
どんな降格処分なのかと。
まあ、お沙汰が下った直後に目の前で名誉ある殉死を認めろ、求められた以上従え御家の面子を潰す気か、と扇と家令とで延々押問答が繰り広げられた訳ですが。
が。
べ、別にそこまで信用が無いとは思って無かったんだからね、とか後日ツンデレった(誤用)ところ、大層白い目で見られた。
◆02話:絶対に○○○になんか負けない?(キリッ
とりあえず生活の場としてってことであてがわれた広い家屋に、家令から生活に不自由しないようにと監視目的の家政婦、下女とか呼ぶと夢が無いからね?
が、あてがわれて夢の監禁生活がスタートしそうな頃、扇は重護らの遺骸を回収するための一団の先導として真庭を離れちゃったり。
――ひょっとして放置プレイ?
とか、バカやってられたうちが華でした。
監視兼家政婦(提供:大沢家政婦紹介所)の石崎秋子、じゃなくって、高見 妙を案内役に真庭の街を地井さんぽした訳だ。
ここがメインストリートです(意訳)と、紹介されたのが、
幹線道路沿いに巨大ショッピングセンターが出来た後の駅前商店街みたいな。(超訳)
――うん。どうやって暮らそう。
正直、人口1億越えという意味の凄さを実感したね。
失って始めて分かる大切さ。
食事処もそうだけど、娯楽がまるで無いとか、あれか、頭数足らないから小説書いたりする余裕が無いと、そう申したか。
通りに案内されて、しばらく固まった後で、兼業家政婦にこの人気の無さ、重護殿の喪に服してるからですかね、と確認してしまうほどの人気のなさ……。
――そんな貴方の街の宣伝本部長。あいやしばらく、と
――そんな宣伝、真庭ってます。おおいやまじか、です
聞けば、真庭はもともとは備州の王都である倉敷まで出られるだけの幅と深さをもつ川、その上流の開けた土地として、また隣国美作とを結ぶ街道の交差路、特に運搬船への荷積み荷降ろしをやり取りする場として拓けたのが始まり。
美作への街道沿いに店が家が立ち、物流拠点として価値が出たことにより、自然と軍事的な意味を持つようになり、隣国からの侵攻による占領やそれに対する防衛としての役割を担うようになったのだと。
今の統治者である真庭家は五代前に山向こうの領主によって占領されていたこの地を独力で、領地切り取ったり? と名乗り上げ。
完全の占拠し切ったのは先代の頃だそうで、その名残で真庭の周辺には取ったり取られたり攻めたり守ったりで出城付け城が数多くある。
なので、真庭は備州にとって北への重要な備えとして、また雲州・美作・播州への交易の拠点として、大いに賑わってるんですよ、と。
――心折れる一時。
そうはいえどもなんとか、帰れるのかどうか、そも我が身に何が起きてご覧の有様 したのか確認する必要があった訳で。
◆
――そぅ……。そのまま飲み込んで。この理不尽……
みたいな れいぷ目を浮かべたまま、数少ない食事処だとか宿屋に真庭の家紋をチラつかせながら何か情報があったら教えてね、とO☆NE☆GA☆I したのが最後の気合い。
ところにより野犬の歯形模様の遺骸を無事埋葬出来たと扇が報告に戻ってきてからは完全閉じ籠っての溺た生活。
閉じ籠っているのに溺れているとはこれいかに。
――○○○には勝てなかったよ……
勝ったら勝ったで、別の障害だろうけどな?
まぁ、つまりなんだ。あまりの娯楽のNASAと街をぶらついての文化の違いにカルチャーショックとホームシックの合併症を併発したことへの治療行為としての適量を超えた身体の接触行為への依存症が発症した結果、猿になりますた。
どのぐらい猿だったかといえば、種無し疑惑が確信に変わった程度の期間、コネクトしていた訳でして。
兼業家政婦からすれば、蛇(スネ――ク!!)だと思ったら猿(ゲッチュー!!)だった。何を企んでいるのかと思っていたら、ナニをおっ勃ててるだけ、とか。何を言っているのかと思うが、俺もどんだけしているのか分からなかった。一日とか二日とかそんなチャチなもんじゃあ
――まあ、でも人間気づくものですよ。このままじゃぁ、いけねぇ、ってさ。このまま三食昼寝美人付きの生活に溺れ切ろうとしても、寿命よりも先に寄生先が倒れるんじゃねぇか、って
いつまでもあると思うな親のスネ。
人間感覚で肉欲生活しててもこの身がどんだけ長生きなのか全く分からんちんである以上、家に引き籠って慎ましく扇に溺れる生活を続けようとしても、三食昼寝を提供する真庭の家が没落してしまえばそこまでの訳でさ。
「吐き出すものも吐き出したのでそろそろ本気出す」
って宣言しても白い目で見ら(略
ここまでヤルと、弱音<白濁液 の扱いでしかないんですねー。
ちゃんとコミュニケーション取りながらしたはずなのに……。理不尽!!
◆
時間感覚が曖昧3cmだったので、後日兼業家政婦に聞いてみたところ勤務報告書に、今日も今日とて Nice swing. みたいな記述以外に書かれる内容がなくなったころに、書を捨て街にでよう みたいなノリで新規事業を始めようとしてたらしい。
勢いというのは不思議なもので、やろうと決めた瞬間既に実行しているわけで、三食昼寝の生活で出された食材でこの街にあるだろうものないだろうものの区別がある程度できてたので、日銭稼ぎにファストフード店を開業してたり。
コショウだとかの香辛料については見かけないものもあったにせよ、じゃがいもだとかトマトだとかが手に入ったのは小躍りする材料で、油で揚げる文化が無いと聞いてフィッシュ&チップスで金持ちを塩と油の依存症にして金を搾り取るぞ、と意気込んだのもつかの間。
植物油、ようは胡麻とか菜種が思いの外高かったんで、しゃあないから動物油、イノシシとかシカの獣脂使ってチップスだけでも先行販売、ってことで妥協したんだが、よく売れた。
最初のうちは、長寿殿が商いを始めたんでお義理で商品を買いにきました、ってお愛想組だったのが、酒のお供にあいますよと酒と抱き合わせで売ったところ、下ごしらえが間に合わないほどよく売れて。
参入障壁として、狩猟も請け負う探索者の組合からの獣脂の買取価格をチップス売る前に年間契約結んで量を押さえてみたりしたけど、飛ぶように売れる現状、市場を拡げるのが先決かと店舗の拡大を目論み。
――人手が欲しいんですよ、と扇に信用のできる人の紹介を求めたら奴隷商を紹介されましたよ?
目深に被った外套の下から響くのは剣呑極まりない我が従者の声。
真庭一番の通りを一本それた小路。真庭と王都を結ぶ川と色街と呼ぶには店数が少ない一角との間にそれは店を構えていた。
「呪い付きの半長寿に、信用のおける友人とか何を期待しているんですか、貴方は」
「二人続けて出来た上司に恵まれてるんだし人を見る目はあるかと」
「はははは。御冗談を。『出来た』上司は一人しか知りませんが」
「ははは。こやつめ」
たわいの無い話をしながらたどり着いた軒先には格子の向こうからにこやかに死んだ魚の眼を浮かべて笑いかける女の姿と、「生娘入りました」「男の娘始めました」とか登りが飾ってあって、ナニこれ怖い。
「その……、この手の商売は皆こうなのか?」
「実際にこんなところに『生娘』はいないと思いますよ? 真庭にある娼館に卸すぐらいなら王都の方が高値で売れるでしょうし。実際、前の宰相はかなりの好き者だったとかで」
「その話後で詳し、いや、そうではなくてだ。ここまで愛想がいいのかと」
「ここに並ぶのは処置が済んでいますからね。目の前でハズレクジに当たった人一人がなます斬りにされれば境遇に従順にだってなりますよ。前の宰相は好き者だった割に奴隷商を許可制にしたり奴隷商による虐待を禁止したりとしましたけど、抜け穴なんていくらでも探せば見つかりますからね」
「バレなきゃ問題ない、と」
「手っ取り早いのは奴隷同士で、というやつですかね。十数人一塊りで全員従順になるまで三四日おきにハズレクジを選ぶんですが、反抗的なのは三回目のクジまでには他の奴隷達によって闇の中。そこを生き延びても売れるようなら次の仕入れの際の最初のハズレクジにされますからね」
「でも扱いは病死、と」
「ええ。不慮の」
つくづく権利ってのが生き延びる余裕が出るのに比例して拡大するものだってのがよく分かるねたえちゃん……。
扇と共に通された奴隷商店の一室、こちらの身元が名乗らないのに把握されてるとか狭い社会を理解されつつ、揚げ物屋のメニューをもう少し増やしたいんだけど人手が足らない、ただ口が固い人手が欲しくって、と都合を話て商品紹介を求めたらところ、先にメニューに喰いついて来やがってこの店主。
野菜のレパートリーを増やすとか、あと魚でも揚げてみようかと、とプランを並べるだけ並べたあと、店主に向かって御贔屓にしていただければ、と言ってみるテスト。
「それでしたら、調理の人手だけでなく材料を調達する人手も用意されては如何ですかな?」
奴隷商っていったらデブっとしたハート様体型だろう、常考。
――チェンジ、あ、なんでもないです。ノーチェンジで。
「多少、この真庭で珍しさで売れているとはいえ、手持ちはこの程度しかありませんので、仰るように調理場も採取もと何人もというのは」
「長寿様、いえ、藤堂様は相場を勘違いされておられるようで。それほど積んで一人しか買えないというのは、品によほどの希少価値でもない限りはございません。さもなくばよほど相場を知らない店主が商っているかです」
ジャラジャラとこちらが卓に載せた金額を見て店主がわずかに目を見張らせ、しかし即座にこちらの勘違いを訂正しにきたことで好感度を+10しよう。
で、扇へと聞いてる話と違ぇ、と視線を送り抗議したところ、
「私についていた値段を参考にしたのですが?」
「希少性の問題でしょう」
非常に奥歯にモノが挟まった言い方を解すと、やはり元から希少な長寿、その子供である半長寿というのは人間以上の寿命、ゆっくりとした老化などから愛玩としてみると二世代、三世代持つとして大人気だそうだ。
もっとも長寿自身を、と望んだところで無理難題。呂布を抑え込もうとした董卓みたいな末路をたどることになる、と。
なので、まがい物に、なんとか呪いとかをかけることで抑え込める半長寿に、人気が集まっていくんだと。
長寿に呪いをかければ同じように、と目論んで失敗。報復で里が全部まるっと消えた地方もあるとかで、頑張っても半長寿までらしい。
半分と言っても、若ければ二世代は持つということで、若かった扇にはそれだけの値がつけられたそうだ。
重護君もよく買ったね。
閑話休題。
しかし、これだけしかないんでまけて下さいという意味でぶちまけたはずのゼニが、これだけあるから、じゃんじゃん持ってこいに変質してたとかね。
二店目の人手を一人買いに来たハズが、この店のほとんどを買えるだけの金額になってたとか。
……まぁ、奴隷の値段が安いってこともあるんだけどね。
フライドポテト50セット分の利益で一人分とか。
原価が安いと利益乗せてもまだまた安い、とか言い換えればホントにわずかな額が支払えずに奴隷になる訳なんだよなぁ。
◆
何人も買えるとなるとこちらとしても考えを変える必要があるので、とざっと候補を検討するための目録なりありません? と聞いたら台帳を書き写したものを持って行かせます、と。
それではお待ちしています、と買う意思表示として一人分の金を置いて店を出たのがお昼前。
「まさか、買占めしそうなほどの金額を持って行っていたとは思わなかった」
「店の一年分の大商いになるほどの値がつけられていたとは知りませんでした」
――同じ場所に行ったのにこの感想の違い……
「それはそれとして、どうされるのですか? 私のような半長寿がいるとも思えませんし、目論見を広げて数人買われるのですか?」
「微妙ー。一人が数人に膨らむと維持費、食費被服費とかがそれだけかかるようになるし、管理する稼働だなんだとかかるようになるからどうしようかねホント。それに、頭数揃えて店舗増やしても今度は芋とか脂とかの材料が揃え切れなくなるだろうし」
「店主が言ってもいたように、増やした人数の一部に材料を揃えさせては?」
「脂は探索組合との契約反故にすることになって関係が悪くなるから無いし、芋なんか土地が無いからどうしようもないし」
「でしたら他の店を出されては如何ですか?」
「あー。考えてはみるけど、材料調達するツテの問題とか、そもそも当初は情報を集めるための財源、基盤作りだったんだけど。真庭の規模でここまで稼いでしまうとなると、他の土地にも店を拡げてもそこそこは稼げるから、数増やすってのも選択肢なんだよなあ。ただそれもこれも管理者さえいれば……、なんだけど」
そうなんだよなぁ。教養というか四則演算とかできる人材が無いんだよなあ。遠隔地に店を開こうにも、勘定ができなきゃ潰すために店を開くようなもん。
かといってこの真庭に需要以上の食品店開業しても財布の数が増えない以上カニバリズムにしかならんだろうし。
となると、あとは財布の数を増やすためにどうするか、か。
――住民向けと行商人向けで業態分けっかなー? まあ、それもいいのがいれば、だけど。おっと、こんな時間に誰か来た(略。
大沢商店から目録を届けに来たと告げる犬耳少女が差し出す書類を捲ってみつつ
「そういえば、なんか要望ってある?」
今更の質問を扇にしてみんとす。
問いかけにしばらく考えたかと思えば、
「長持ちするのが望ましいかと。一人で貴方の相手をするのは腰が折れますので」
しれっと言いやがった。ほらみろ、そんなことをいうから少女の腰が引けてじつにけしからん、
「おや。あの店主のオススメがコレだそうですよ。置いてきた額に見合うだけの品だそうですよ」
いいぞもっとやれ。なにより股の間で尻尾が震える様が、
「釣書は?」
「見ての通り犬属で」
辛抱堪らん。釣書を眺めていた扇がそこで言葉を区切るとほぅ、と一つ驚きの声を上げる。
「掘り出し物なの?」
「どちらが貴方にとって価値があるかはわかりませんが。店の表の看板にあった『生娘入りました』はコレのことですね。あと同じく店に姉が。こちらはこなれているそうですよ」
「王都まで運ばないのは?」
生娘が王都で高値で売れるならここで売り払う意味が分からんが。採算度外視してまでコネ作ろう、そこまでこっちを評価してるとも思えないしなぁ……。
「釣書では姉の方は伯州の元軍属。探索者としても利用可とありますし。一昨年にあった雲州の内乱で没落した一族、そんなところではないでしょうか? 奴隷としておくにも腕が立ちすぎて、反逆・脱走を抑えるための手綱としてこの妹がいた、と」
「調べ物をしたいっていうこっちの都合込みで姉妹揃って買い取らせようってことか。このまま妹だけで済ませても……」
「うっかり姉を野に放してくるでしょうねえ。山越えの時に説明した通り、獣人は基本腕が立ちますし、伯州の軍属。まして『語らずの狗吠』であればその日の内には押し込んでくるでしょうか」
「金を払って店に立たせたところを攫われるるわけですね分かります。あと、なんだその『語らずの』ってのは?」
古傷が疼くじゃないか!! くっ!! 鎮まれ僕の梵天丸?
「『語らずの狗吠』、そのほとんどは雲州によって滅ぼされたそうですがかつて備州の北に位置した国 伯州にいた一族で、どのような状況であれ命に従ってただひたすらそれを実行する一族だったそうで。襲う際の遠吠え以外声はなく、和議も命乞いも成り立たない相手だったと聞いたことがあります」
「そりゃ、和議が成り立たないとか話にならん連中を生かしておく意味が無いよなあ」
どこの殺戮大隊だよ……。
「それの生き残り、と」
――股の間で震えてる尻尾が途端に起爆装置に見えてきたんですけど
「買うなら二人、ただし手を出せるのは一人、と」
「確かに割高感はありますね。探索に出られるのが姉だけ、手を出せるのも姉だけ。姉に手を出せば探索には出られない、探索に出せば手を出せない。これだと私の負担が減る要素がありませんね。なんとか妹に差し出させるように仕向ける知恵が必要ですね」
「さらっと下種いこと言ってませんか扇さん」
「専属で別のを買うのも手ですが、こちらがあくせく働いているよこでゴロゴロとされるのも癪に触りますし、難しいものです」
目録全てに目を通し終わった扇はそう悪態をつきながらも仕込みのためにじゃがいもの皮を剥く手を止めない。
兼業家政婦に至っては、ハイライトを消して黙々と作業中。後生、真庭の芋工房ってことで小説の題材になったりせんかねこれ。
「となると姉妹雇って、姉は山へ柴刈りに、妹は頭に教養を詰め込んで」
――って、どこのマイ・フェア・レディか
「光源氏ですね」
「囲うのが?」
「我慢できずに手篭めにするのが」
――絶対に(略 キリッ!!
「上の口ではそんなこを仰いますが、下の口では」
◆
これまた結果だけ言えば、
◆
――略)には勝てなかったよ……
◆
「ご、御主人様におかれましては」
椅子に座って芋の皮剥いてる机の向こう。土下座して震える尻尾をべったりと床に押し付けながら口上を述べてるのが妹兼信管の倉吉 祥で、その隣で土下座しつつもぱんぱんに膨らんだ尻尾がぴくりとも揺れずその口上を促しているのが、姉兼爆弾の倉吉 要であった。
納品時に奴隷商に聞いたところ、新しく仕えるようになる奴隷は、そこの主人から名前を貰うのがここ備州のトレンドだそうで。
なんでも、前の国王にとって最後の愛妾が献上された際、愛妾が名前を聞かれて王が望む名を頂戴できれば、と言ったのが始まり。以降、奴隷になる前や娼館での名前を源氏名、買い取られ主人から与えられる名前を身請名として扱う文化が根付いたと店主が仰々しく説明してた。
気になったので、その愛妾の源氏名というか元の名前を聞いたところ、
――どうみても元の世界の住人です。改名おめでとうございました。
正直、こちらの名付けのセンスがないんで、前の名前をそのまま使ってOKということで名乗らせたわけだけど、こんなの毎回やってる御主人様とかどんだけ。
そういう意味じゃ、これまた前の宰相なんかすごかったらしい。つけた名前が、可憐、花穂、衛、咲耶などと、
――どうみても元の世界の同業です。満喫おめでとうとざいました。
あれこれ、変なところで、帰還不能フラグが確定したじゃんじゃね?
だって、宰相ってあれでしょ? 探索者の組合作ったりってやってたんでしょ? 要は、後方から指示だして兵隊に探索させてたってことでしょ? それで戻ってないって……