第六話 とある少年のInwardly
「──というわけで、七名家、もしくは七名家の分家である色名持ちの方々が管理する魔法を専門とする学校は、東京・大阪・福岡・北海道に一校ずつ、計九校存在します。これは、全国に存在する魔法高校の数の約十分の一の数に相当し──」
──と、バーコード眼鏡の教頭と名乗る男が、壇上に立ち何故かドヤ顔でそう喋り続けている。
……暇だ。
俺は、心の中でそう呟く。
ふと、辺りを見遣ると、隣にいる焔呪は人目を憚らずに爆睡してるし、その向こうにいる我考もいつも以上にボーッとしている。
そりゃそうだ。
自慢話というものは、どんな物であっても人の嫉妬か退屈ぐらいしか買わないものだ。
……それが例え、自分達の自慢話であっても、だ。
「──そして、この幻奏学園の理事長は、蒼刃 妃海様──七名家の当主であり、これは四つある名家系列の魔法高校の中でも唯一のことであるからして、だから、ここに通う君達は選ばれた者であると自覚し──」
………………はぁ。
あの眼鏡、まだドヤ顔で他人の自慢話を続けてやがる。
所々ワケの解んないこと言ってるし、いい加減、俺も焔呪みたいに寝てやろうか、なんて心の中で叫んでみた。
……イメージダウンに繋がるから、絶対にそんなコトはしないが。
しかし……、
(ホント、何でこう眠くなるんだ……? まさか、あんなオヤジが催眠系の魔法を使えるワケないしな……)
客席を見てみると、新入生だけではなく、上級生や保護者達の殆どがゆっくり櫂を漕いでいる。
起きているのは、数少ない生真面目な生徒や保護者、壇上にいる生徒会や風紀委員や学園関係のお偉方と──、
──俺の両親を始めとする、七名家の当主達。
……今年は、紅城の血統である焔呪が幻奏学園に入学したため、史上で初めて一つの学校に七名家全ての血統が揃ったので、それを祝ってか今回は、神白・紅城・橙真・黒鏡・蒼刃の当主達が、この入学式に参加しているのだ。
これは、とても珍しいことである。
何せ、七名家同士の仲はそれ程良い物とは言えない。
人の良い蒼刃が間に入ることによって、七名家間の交流は特に問題なく行われているが、実際の所は、神白と翠裂、黒鏡と黄道、紅城と橙真の三つの勢力に分かれて、互いを利用しあっているのが実情だからだ。
(ホント……外見だけは仲が良さそうだからな……)
俺は、心の中でそう呟きながら、未だに謎の演説を続けるバーコード眼鏡を見遣る。
どうせ、七名家の前でゴマをすって、顔でも覚えて貰おうとでも思ってるんだろう。
正直、全く無駄なコトなんだが。
……あー、ウゼェ。
とっとと消えてくれないかな。
「――と言うワケで、これで私の話は終わりとさせて頂きます――」
――なんて思っていると、やっとこさ長ったらしい話が終わって、再び壇上に蒼刃家の長女である雪姫さんが現れた。
次の瞬間、今まで爆睡していた参加者達が一斉に目を覚まし、男女問わず壇上を凝視し始める。
そりゃそうだ。
高校三年生とは思えないグラマラスなボディを、ゲームに出てくる巫女の衣装のような制服で包み、蒼い姫カットの髪の奥に慈母のような笑みを湛えた彼女は、そんじょそこらのアイドルや女優より美しく人目を引く。
……女性からの憧れの視線と、男性からの劣情の視線を。
彼女は、それを知ってか知らずか、俺達でも違和感を覚えないくらい自然な作り笑いを振りまいている。
それを見た俺は、ニヤつくように見てくる焔呪や我考に、保護者や生徒達にバレないように一度笑みを向け、少しだけ腰を浮かせた。
これから、俺の出番があるのだ。
その始まりを告げる台詞を、壇上に立つ雪姫さんが告げる。
「それでは、続いて新入生挨拶……神白 光輝くん、お願いします」
「──だからこそ、僕は世界を騙すと言っているんです」
この少年は、あまりにも真っ直ぐに歪んでいるのだ。
「──ですから、僕達みたいな七名家の人間だって、最初から強い力を持っていたワケではありません。
──お前がそれを言うか
「なっ………………!?」
『──闇の初級魔法、《闇弾》』
次回、“第七話 銀と蒼のPrivate conversation”
──人の悪意は、僕の力の糧になる。