第四十六話 粘りつくAnimus
只今挿絵・魔法を募集中です!
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私事ですが、ツイッターを始めました♪
殆どカードゲーム関連の呟き位しかしていませんが、最新話投稿の予告なども呟いています。
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「《光子導波》……だとっ!?」
自らの真横を通り抜けて行った魔法を見て、天上院くんが掠れた声でそう口にする。
ソレは、ずっと水属性魔導師だと思い込んでいたコスモスが、突然光属性魔法を使ったからだろう。
光輝くんも、私──黒鏡 那月も、呆然としてその場で体を硬直させていた。
何せ、彼女が今まで使っていた《水渦蒼鎌刃》は、水属性上級魔法を二つ掛け合わせた“魔響共鳴”──七名家の人間ですら滅多に使いこなせないような魔法だったのだ。
ソレが最も得意な属性でないと知って、驚かないワケがない。
自分が有利な属性だと思っていた天上院くんには、より強い衝撃を受けたコトだろう。
そして──コスモスは、その隙を見逃さない。
『──光の初級魔法、《光弾》っ♪』
先程の言葉の後に驚愕から身体を硬直をさせていた天上院くんに、コスモスは躊躇いなく魔法を放つ。
「っ!? ふ、防げっ!」
勿論、天上院くんもそれを喰らうコトはなく、慌ててつつも風の防壁を咄嗟に展開して飛来した光の弾丸を防ぐ。
が──、
『──光の中級魔法、《光子鋭刃》っ♪ 初級魔法、《光弾》っ♪』
「なぁっ!?」
《光弾》を放った直後には天上院くんに向かって駆け出していて、すぐに風の防壁の前まで辿り着いたコスモスは、左手に持つ剣を強化してあっさりとその防壁を斬り飛ばすと、すぐに右手に持つ剣から魔法陣を展開し、再び《光弾》を放った。
『──か、風の初級魔法、《風靴ウィンド・ブーツ》ッ!』
流石に、至近距離からの攻撃を防壁で防ぐ暇はないと見て取ったのか、天上院くんは今度は大きく跳躍して光の弾丸を回避しようとする。
しかし、空中にいる間もまた、大きな隙となる時間である。
コスモスは、光の刃を纏った左手の剣を跳ね上げ、その切っ先を未だ滞空してる天上院くんに向けると、三度詠唱をして光の弾丸を放った。
『か、風の中級魔法、《律動鋭刃》っ!』
天上院くんはソレを、今度は〝スケジューラー〟に音の刃を纏わせて斬り飛ばす。
その表情に、余裕は欠片も見当たらない。
ソレを見たコスモスは、勝利を確信した笑みを浮かべながら、再び右手に握る閃光の刃で、天上院くんに斬りかかろうとして……、
「──は、爆ぜろっっ!!」
「おっ、と」
しかし、天上院くんがコスモスの足元の空気を爆発させたコトによって、その斬撃は阻止されてしまう。
咄嗟に発動されたためか威力が低く、コスモスも爆風に逆らう事なく後ろに跳び退っていた為、彼女にダメージを負った様子はない。
しかし、今の爆発によって、コスモスのラッシュは中断されてしまった。
コスモスは息一つ乱してないのに対して、天上院くんには濃い疲労の色が伺える為、一見するとコスモスの方が圧倒的に有利な状況にいるように見える。
しかし、この“異界域”内にいる間は、天上院くんは常に回復をし続けるのだ。
戦闘の時間が長引けば、この攻勢が逆転される可能性だって確かに存在するのだ。
だから、天上院くんの目からは、まだ勝利への執念が消えていない。
――彼は、叫んだ。
「調子に乗るなよ、コスモスっ! 俺には、俺には幻王様の加護があるんだよぉぉぉっっ!!」
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コスモスの怒濤の猛攻を凌ぎ、自身を奮い立たせる為にも叫んだ直後、俺――天上院 彦麻呂の内心にあったのは安堵の気持ちだった。
いくら常に魔力が回復し続ける空間にいて、その副作用として治癒力が上昇していても、一瞬で傷や疲労が全快するワケではない。
コスモスが“轟壊剣”と呼んだあの双剣技によって削り取られた体力は未だに回復しそうになく、先程は何とか光弾を斬り飛ばす事が出来たモノの、それ以降“スケジューラー”を握る右手の振るえが止まらない事を見るに、蓄積された筋肉疲労も尋常ではないだろう。
だからこそ、コスモスの攻撃の手を止め、僅かとは言え安寧の時間を確保出来たコトで、幾分か頭をクールダウンさせ、心を落ち着けるコトが出来た。
しかし、同時に沸々と心の奥底から怒りが湧き出してくる。
それは、幻王様から力を頂いたにも拘わらず、こんな無残な姿を晒している自分への怒り。
有利な条件にあるのは、自分のハズなのに、コスモスに圧倒され続けるこの状況が、七名家の人間やその関係者に媚び諂うしかなかった今までの状況と何ら変わりないように思えて、苛立ちが募っていく。
仮面から覗く銀の瞳が反射する光が、いつも自分を見下していた翠裂家やその分家の人間と同じ視線に思えて仕方がない。
自分を都合の良い道化のようにしか扱わない翠裂 真美も、自分をそこら辺にいる使用人と同程度にしか思っていなかった他の人間達も気に食わないが、何よりも腹が立ったのは真美の妹の偽の態度。
アイツは、アイツだけは俺を見下すドコロか、そもそもいないかのように俺を無視していた。
折角、幻王様の敬虔な僕たる俺が、声を掛けたと言うのに……っ!
アイツは、ただ見てくれが少し良いだけで、魔導具を弄るしか能がないくせに、幻王様にも認められる程の人材であるこの俺を無視するなど、赦されざる行為である。
なのに……なのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのにのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのにぃっっっっっっっっ!!!!!
鏡面のように光を乱反射し、角度によっては様々な色に変わるコスモスの銀の瞳が、しかし、どうしようもなく翠裂 偽の冷たい視線と全く同じ色に思えてしまい、その瞳を見続けているだけで、自分の内側からドロドロとした憎悪に似た感情が溢れ出して来て──、
俺が無視した俺様が無視された幻王様にも認められる俺様が生意気声を気に入らない折角声を気に食わない見てくれが良かったから見ろ声を俺を折角掛けたと俺を見ろ掛けたというのにっっっ!!
折角一度クールダウンした脳内が、止めどなく湧き上がる怒りのせいでゴチャ混ぜになって、自分でも何が何だか全然分からなくなってきて──、
『──────ならば、力づくで支配すればいいのですよ。ソレは、その力は貴方のモノなのだから』
その言葉がスッと、頭の中に思い浮かんで来た。
それは、かつて宣教師様が私を“滅星教”に直々にお誘い下さった際に、宣教師様を通じて幻王様から賜ったお言葉。
その言葉を思い出した途端、こんがらかっていた頭の中身がスルリと解けるように、冷静さを取り戻すコトが出来た。
そうだ。
私には……私には力がある。
音と、設置型発現法と、幻王様から賜ったこの“異界域”という力が。
この力があれば、私が負けるハズがない。
現に、コスモスは未だにこの力を正面から打ち破ったワケではない。
そう……私の方が、アイツより強い。
私は、幻王様にも認められた強者なのだ。
だから、何をしても赦される。
生意気な奴は、力づくで支配をしてしまえばいいのだ。
目の前にいるコスモスも、心の奥に巣食う翠裂 偽の存在も。
強く、自分に言い聞かせるように、何度も何度も強く心の中でそう呟き──、
『──風の中級魔法、《律動導波》っっっ!!』
私は、反撃を開始した。




