第四十三話 勘違いのWhite Blade(前編)
只今挿絵・魔法を募集中です!
□□□
私事ですが、ツイッターを始めました♪
殆どカードゲーム関連の呟き位しかしていませんが、最新話投稿の予告なども呟いています。
是非、「現野 イビツ」で検索してみて下さい♪
『──翡翠の風よ、刃に集いて、我が覇道を切り拓けっ! ──風の上級魔法、《旋律衝刃》』
「そのくらいじゃ、ボクの《水渦蒼鎌刃》は破れないよっ!」
その言葉と同時に魔法を、斬撃を放つ天上院とコスモス。
新たな戦いの始まりを告げるるその衝突は、天上院の放った轟音の斬撃を、激流を纏った蒼刃がいとも簡単に霧散させたコトにより、コスモスに軍配が上がる結果となった。
「……やりますねぇ、マドモアゼル?」
ソレを見た天上院は、しかしある程度はこの結果を予想していたのか驚愕の表情は見せず、それでも面白くなさそうに眉を顰めながら、皮肉めいた口調でコスモスに声を掛ける。
「──まぁね♪ ボクの《水渦蒼鎌刃》は《蒼海衝刃》と《蒼海霊紗》──二つの上級魔法を掛け合わせた“魔響共鳴”なんだから、ただの上級魔法の一つや二つ程度ではビクともしなんだよ♪」
──が、対するコスモスは、ともすれば能天気にしか思えない程に明るく無邪気な声でそう言いながら、得意気に両手に持つ激流の刃を見せびらかすのみ。
その態度を挑発と受け取ったのか、天上院は一瞬だけ眉間の皺を深くしたものの、直後にはいつもの粘着質な笑みを浮かべ、「それは凄いですねぇ……」などと宣いながら手を叩き始める。
端から見てても天上院が気圧されしているは明らかで、現状はコスモスの方が優位に思えるのだが、互いにまだ余裕を保った状態であるのも事実。
むしろ、圧倒的な地の利がある上に、“多重展開”や“設置型発現法”という切り札を温存してるのが分かる天上院に対し、必要がないからかもしれないが、コスモスが未だに《水渦蒼鎌刃》以外の魔法を一切使っていないというコトに、得も知れぬ不安を覚えてしまう。
戦っている当人同士も、互いの次の一手が読めないからか、しばしの間どちらも動きを見せず、その場の空気が停滞した。
……が、しかし。
そんな時間は、長く続かない。
「──────っぅ、ぐぅ……」
俺から少し離れた場所に転がっていた“落ち零れ”が、無様に地面を這おうとしたのか、うつ伏せになりながら呻き声を上げる。
それは、通常なら喧噪に紛れて消えてしまいそうな程小さなモノだったが、コスモスも天上院も、呼吸音すら静めて相手の出方を伺うような状況だったために、広いドーム状の空間に虚しく響いた。
ソレを耳にしたコスモスと天上院は、両者とも同時に“落ち零れ”の方に顔を向ける。
その動作は、下手すれば滑稽に思える程似通った動作ではあったが……その後見せた反応は全く違うモノだった。
天上院は、“落ち零れ”を嘲るかのようにその笑みを深め……逆にコスモスは、今まで浮かべていた無邪気な笑みを一瞬で消す。
そして、小さく顔を俯かせて一度溜め息を吐くと、今までの明るい声が嘘だったかのような冷たい声でポツリと呟いた。
「──────あんまり長い時間も掛けられないか」
「──っ!?」
その言葉を聞き、瞬時にその意味を理解した天上院は慌てて“スケジューラー”を構えなおす。
ゆっくりと顔を上げたコスモスは。そんな天上院の姿を仮面から覗く銀色の左眼で捕らえると、再び口元に笑みを浮かべた。
「それじゃあ、行くよ♪」
『──っ!? ──風の中級魔法、《律動鋭刃》』
明るい声での宣言と共にコスモスが一歩足を踏み出したのを見た天上院が、咄嗟に魔法陣を展開し、再び“スケジューラー”に音の刃を纏わせて、油断なく正眼の構えを取る。
在り来たりな構えではあるものの、目立った隙も無く、正面からの攻撃なら殆ど対処が可能な上に、下手したら致命的なカウンターを放ってくる可能性のあるソレを見たコスモスは、しかし怯んだ様子を一切見せずに天上院に向かって走り出す。
それは、猪突猛進とでも言うべき、勇猛果敢な烈火の如き攻め……などではなく。
例えるならば、勢いの良い猪ではなく、花畑を飛ぶ小さな蝶。
酷く不規則でフラフラとしたその足取りは、驚く程に力強さというモノが感じられず、見ているだけで不安を募らせる。
よく言えば儚げ、悪く言うなら脆弱。
そのような印象しか抱かせない体捌きから放たれる斬撃は、戦場では致命的なまでな遅さを感じさせるモノ。
先程の舌戦で気圧された為か、天上院は受けの姿勢を取っているが、コスモスの斬撃は俺や天上院じゃなくても少し剣を齧ったモノなら……否、下手したら全くの剣の素人ですら対処出来そうな程に遅い。
そのコトに気付いた天井院は、すぐに構えを解き、コスモスの剣をいなしてカウンターを叩き込めるよう、激流の剣の軌道を変える為に撫でるような斬撃を放つ。
ヤバい、と思った。
しかし、その言葉が口から出るよりも早く、コスモスが右手に持つ剣と、天上院の音の刃が接触し──、
──ガィィィイインッッッ!
──と。
耳をつんざくような音と共に“スケジューラー”が大きく弾かれ、その勢いのままよろめくように天上院が二、三歩後退る。
「「──────え?」」
あまりにも予想外の出来事に、俺と天上院の驚愕の声が重なる。
確かに、コスモスが使っている《水渦蒼鎌刃》は上級魔法を二つ掛け合わせた“魔響共鳴”であったのに対し、天上院が使っていたのはただの中級魔法──真正面から切り結べば、弾かれるドコロか“スケジューラー”ごと容易く斬り飛ばされていたとしてもおかしくない程、得物にスペック差があったのは事実だ。
しかし、コスモスの緩慢な斬撃を天上院は完全に見切った上で、弾くのでも切り結ぶのでもなく、力の流れに逆らわないように側面に刃を当て、受け流そうとしていたのだ。
その方法なら、如何に相手の刃が鋭かったとしても関係無く対処出来る。
天上院の敵である俺ですら、そう確信していた。
にも拘わらず、想像と全く違った結果が出た為に、俺も天上院も一瞬思考を停止させてしまった。
そして、コスモスはそんな隙を見逃さない。
「──────っ!?」
幾ら動きが遅いとは言え、コスモスが手にする武器は双剣──連撃を得意とする武器なのだ。
天上院が意識を切り替えようとしたその時には、コスモスの放った下から掬い上げるような斬撃が既に迫って来ていた。
「く、そ……っ!」
斬撃に気付くのに遅れてしまったために、もう天上院に先程と同様に受け流そうとするだけの時間は無い。
うあかそのコトは天上院も分かっているからか、苦しそうに口元を歪めながら、今度は《水渦蒼鎌刃》の側面に勢い良く斬撃を放ち、弾くコトで斬撃の軌道を変えようと試みる。
しかし──、
──ガィィィイインッッッ!
──と、剣が触れた瞬間に先程同様の轟音が鳴り響き、今度こそ天上院の体は宙に浮かび、数メートル後方に吹き飛ばされた。
「な、ぁ……っ!?」
何とか空中で体勢を整え、無事に足から着地出来た天上院だったが、その驚愕の表情を隠そうともせず、ただただコスモスを見詰めて絶句するのみ。
その心境は、俺にもよく分かる。
何故あんな覚束ない足取りで放たれた緩慢な斬撃が、男性一人を軽々と浮かせる程の威力が出せるのか?
ソレが理解出来なかった俺は、剣からコスモスの足元に視線を移して……気付いた。
コスモスの足元が二ヶ所──コスモスが斬撃を放った時に足を踏み込んでいた地面が凹み、そこから微かに蒼色の魔力光が立ち昇っているコトに。
天上院もそのコトに気付いたのか、一瞬怪訝な表情を浮かべ……しかし、すぐに口のはを持ち上げながら呟いた。
「……成る程。何であんなに斬撃が重いのかと思ったら、県が接触した瞬間に肉体を魔力で強化して、私の剣を弾いていたワケですか、マドモアゼル?」
──魔力式肉体強化。
読んで字の如く、魔力を用いて肉体を強化する技術。
ソレが、地面の凹み──コスモスの足元から立ち昇る魔力光を見て、俺と天上院が推測したコスモスの斬撃の正体。
総合的な筋力の増加量を比較すると強化魔法に大きく劣る上に、使いこなさないと体に大きな負担が掛かる為に、知名度の高さに反して使われるコトの少ない技法である。
ただ、魔法ではない故に詠唱や魔法陣は必要としない為、発動速度や奇襲性などは強化魔法を上回るので、敵の意表を突くのには便利なワザでもある。
実際、俺も天上院も混乱させられてしまったのだから。
けど──、
「──けれど、マドモアゼル? 私を混乱させて戦いの主導権を握ろうとしたのかもしれませんが、タネが分かった以上、もうその手は通用しませんよ?」
そう。
確かに、最初の二撃では絶句しかける程の衝撃を与えられたが……コスモスはやり過ぎた。
意表を突くだけなら、少し剣を弾いて天上院の動きを鈍らせるだけでも十分だった。
しかし、コスモスは必要以上に力を込めて天上院を吹き飛ばし……過剰な魔力光が漏れ出たせいで魔力式肉体強化を使っていたコトがバレてしまった。
先程言った通り、魔力式肉体強化は純粋な強化魔法に総合的な筋力の増加量では大きく劣るが、それは使っている魔力量が同じだった場合の話だ。
過剰魔力光が足跡が立ち昇る程大量の魔力を用いて魔力式肉体強化を行っているなら、横からいなしたり弾こうとした斬撃を弾き返し、その勢いで相手を吹き飛ばせてもおかしくはない。
だから、仕掛けがバレてしまった以上、天上院の言うようにこれ以上今の手段で動揺を誘うコトは出来ない。
ソレは、事実上コスモスに助けられている立場にある俺達にとって、酷く危険な事態でもある。
先程までは曖昧だった不安が、実体を得て俺の心の裡を満たそうとして──、
──本当に、僕のやりたいコトが分かったの?
──その時に、頭の中にそんな声が響いた。
それは、まだ俺が幼い頃に聞いた、忌々しい“劣等種”の声。
酷く、不愉快な気分になった。
こんなピンチの状況で、よりによって“劣等種”の言葉なんか思い出してしまったコトにも苛立つが、何よりもその言葉を思い出して何故か│安心してしまった(・・・・・・・・)自分自身に腹が立つ。
何でアイツの言葉なんかでっ! と、安堵してしまった自分を否定したくて、その言葉が思い浮かんだ理由を考えて──、
──“思い込み”は、致命的なミスに繋がるよ。ソレが狙われているなら、なおさらにね。
──少しでもおかしな点は見逃しちゃダメだよ。違和感は、多くの場面で命を助けてくれるんだから。
──再び浮かんでくる、あの“劣等種”の言葉。
そのコトに歯軋りをしつつ……ふと、思い出す。
ソレら言葉が言われた幼き日──二人で剣術の練習をしていた日々を。
魔術だけでなく武術でも圧倒的な天賦の才を持ち、一対一なら大の大人にすら軽々と勝利していた神白 銀架のその剣技を。
「──────っっっ!!?」
瞬間だった。
コスモスの剣技の正体に──その本当の狙いに気付いたのは。
ソレは、決して偶然なんかじゃない。
何せ、彼女の剣技はやってるコトこそ違うモノの、そのコンセプトは銀架の剣技と恐ろしい程に似通っているのだから。
「──それでは行きますよ、マドモアゼル?」
コスモスの先程の斬撃が、意表を突くコトを目的としたモノ程度にしか思っていない天上院は、余裕の笑みを浮かべながら彼女にそう告げる。
しかし、彼女の狙いがソコではないと分かった俺の目には、そんな天上院の姿が滑稽にしか映らない。
天上院は、体を半身にしつつ、右手に持った“スケジューラー”をまるでフェンシングのように構え──ソコから鋭い突きを放つ。
ソレは、剣技に精通するモノでも中々避けるのが難しい程の速さの一撃だった……が、コスモスはまるで倒れこむかのように上体を後ろに引いて、その剣の間合いからスルリと逃げ出す。
ソレを見た天上院は軽く眉を顰めつつも、今の回避をマグレだとでも思ったのか、そのまま流れるような動作で二撃、三撃と突きを放っていく。
が、ソレらも先程と同様にヒラリヒラリと容易く避けられてしまう。
天上院の刺突が速さだけの単調なモノで、動きを読みやすい、なんてコトは一切ない。
むしろ、天上院は時折フェイクを混ぜつつ、相手の動きを先読みして回避のしづらい突きを多く放っている。
ただ、コスモスの動きがあまりにも不規則過ぎて、的外れな場所に攻撃するコトさえあるが。
時間が経つにつれて、どちらが優勢なのかがハッキリとしてくる。
余裕の笑みを浮かべ続けるのはコスモスの方で、天上院は徐々にその顔に苛立ちの表情を浮かべて行く。
最初は脆弱という印象だったコスモスの足取りも、今や一種の舞踊であるかのような艶やかさすら感じるようになってきた。
決して、長い時間が過ぎたワケではない。
しかし、天上院はその短い時間で正確な突きが意味を成さないと判断したのか、はたまた単に痺れを切らしたのか、斬撃が力まかせなモノに変わり始めた。
ソコに、特筆すべき技能はないが、代わりに速度を得た斬撃は徐々にコスモスを追い詰め始め……ついに、コスモスに回避しきれない刺突を放った。
瞬間、天上院と俺は同時に思っただろう。
──やった、と
自らの胸を真正面から貫こうとする刺突を見たコスモスは、すぐに回避不能と判断して激流の蒼刃を交叉させて天上院の音の刃を受け止める。
──ガィィィイインッッッ!
と、三度鳴り響く轟音。
魔力式肉体強化による重厚なカウンターを喰らうコトになった天上院は、その勢いに負けて思わず地面に膝を着きかける。
……が、コスモスがその手を使うコトを予想していたのだろう天上院は、顔を苦痛で歪めつつも何とかその場に踏み止まるコトに成功する。
そして、魔力式肉体強化を使ったとはいえ、カウンターを行う為に強く踏み込過ぎたコスモスが、腹部を大きく晒した格好になりながらもすぐに体勢を整えられないこの状況は、天上院にとって絶好のチャンス以外の何物でもない。
「──貰ったぁっ!」
勝利を確信した天上院は、すぐに“スケジューラー”を構え直し、臍が剥き出しになっているコスモスの腹部に向けて、音の刃を力一杯突き込もうとして──、
「………………ぇ?」
そんな間抜けな声が、俺の耳に届いた。
一瞬の停滞。
自分の身に何が起こっているか理解出来ていない天上院は、金縛りにあったように身体を硬直させたまま驚愕の表情を浮かべ。
──ドンッッッ!!
と、漏れだす魔力光で蒼く輝く足を力強く踏み込んだコスモスが、そんな天上院の鳩尾に全体重の乗った飛び膝蹴りを叩き込んだ。




