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第四十二話  選択肢を持つa Third Person

只今挿絵・魔法を募集中です!


□□□


私事ですが、ツイッターを始めました♪

殆どカードゲーム関連の呟き位しかしていませんが、最新話投稿の予告なども呟いています。

是非、「現野 イビツ」で検索してみて下さい♪

「ボクのコトは、“コスモス”とでも呼んで欲しいな♪」




霧の中から現れ、そう名乗りを上げた人物の姿を見た私──黒鏡くろかがみ 那月なつきは小さく息を呑む。

黒いコートに白いシャツ、ズボンとネクタイという組み合わせから、一瞬その人が“銀架くんじゃないのか”と、そう思った。


──────けど、違う。


右半分に幾何学模様が走り、左半分からは角と牙が生えた歪な仮面。

裾が地に着きそうな程長い割に、二の腕を剥き出しにする程に袖が短いコート

指先から肘までを覆い隠す、両の・・手の甲に紋章エンブレムの付いた長手袋。

黒地に銀縁の蒼いラインが走るというデザインで統一されたソレらは、多分“コスモス”と名乗った人物の《着装重奏アームド・ユニゾン》。

そして、順手に構えられた純白の刀身と漆黒のラインが特徴の双剣は、その独特な形状の柄に正四面体の蒼い発現珠があるコトから幻霊装機アーティファクトに間違いはない。

……ソレらは、銀架くんが持っているハズのないモノ。

ソレだけでも、コスモスと名乗った人物が銀架くんとは別人物でないというコトは分かる。

むしろ、一瞬何故銀架くんと似ていると思ったのかを不思議に思う程だ。

何せ、鏡面のように光を乱反射する程眩い銀髪と、仮面の奥に見える髪と同色の瞳は、本当に人なのかと疑う程の異様な美しさを孕んでいるが、とても作りモノとは思えないほど違和感がないため、とても黒髪黒瞳の銀架くんとは同一人物には見えない。

そもそもが、である。

肉感こそ殆どないものの、剥き出しの二の腕や臍付近の筋肉の付き方から、無駄な筋肉や脂肪の一切を削ぎ落としているのがよく分かる華奢な体躯には、コートのせいで体のラインが曖昧になってはいるものの、男性特有の骨張ったラインは見受けられず。

語尾に「♪」が付きそうなほど呑気で、楽しそうで、美しく、柔らかなその声は、紛うコトなきソプラノヴォイスで。

身長も、160前半と高校一年生としてはやや低めの銀架くんよりも、更に低めに見えるその人物は。


……どう見たって、女性・・なのだから。


突如この場に現れた正体不明の彼女・・は、私達の視線に気付いたのか、左の二の腕に刻まれた十字と逆十字の組み合わさった刺青を見せつけるように激流の蒼刃を纏う双剣を構えながら、仮面の上からでも分かるその美貌に楽しそうな笑みを浮かべた。


 □□□


「コスモス、ですか………………お美しい名前ですねぇ、マドモアゼル」

「一応、ありがとうって言って置くよ♪」


突然の乱入者にしばし呆然としていた天上院てんじょういんだったが、俺──神白かみしろ 光輝こうきよりも先に立ち直り、ニヤニヤとした薄気味の悪い笑みを浮かべながら彼女──コスモスと名乗った少女にそう声を掛ける。

その視線は、同性である俺から見ても凄く不快感を与えられるモノであったが、彼女はソレを一切気にした様子もなく、再び楽しそうな声で天上院の問いに答える。

その反応が意外だったのか、若しくは気に障ったのか知らないが、天上院がピクリと小さく眉を動かす。

……が、それでも粘着質な笑みを保ったまま、天上院は言葉を続ける。


「それはそれは……所で、もう一度お聞きしたいのですが、貴女はどちら様でしょうか、マドモアゼル?」

「コスモス……って、また答えたら堂々巡り、って言うか馬鹿みたいだしねー♪ まぁ、ボクのコトは通りすがりの召喚士だと思ってくれたら嬉しいよ♪」

「通りすがり、ですかぁ……幻奏高校の校庭にしか入口がないハズの、この亜空間に、ねぇ……」

「その言い方には凄い含みを感じるなぁ……言って置くけど、入口が一つしかない空間だとしても、そこに侵入するための方法が一つだけとは限らないんだよー?」

「成る程、それは勉強になります……が、私が言いたいのはそういうコトじゃないんですよ、マドモアゼル」

「と、言うとー?」

「何故、わざわざ貴女がココに来たのか……その理由を是非ともお教え頂きたいのですよ」

「ボクがココに来た理由? それはまぁ、実は色々あったりするんだけど……そうだね、こんな不自然な異界域ダンジョンがあるコトが分かってて放って置くコトが出来なかった、ってのは理由として大きいかなー?」

「興味本位でココに入って来た、と」

「否定はしないよ?」


素直や無邪気といった言葉が似合いそうな程明るい声で、コスモスは軽やかに天上院の問いに答えて行く。

その態度が気にいらないのか、徐々にそのニヤついた笑みを引き攣らせて行きながらも、天上院は彼女に問い続ける。


「……それで。その話の通りだと、貴女は好奇心から我らが“滅星教めっせいきょう”の祭壇・・に勝手に上がり込んだ侵入者となるのですが、これからどうするつもりなんですか、マドモアゼル?」

「どうするって言われてもねぇ……まだ判断材料が少ないしなぁ」

「出来れば、このままこの場を立ち去って頂けると嬉しいのですが」

「うーん……どうしようかなぁ? さっきまで命の取り合いっぽいコトもしてたし、そこに首輪嵌められて地面に転がってる子もいるし、流石に放置っていう選択肢を取る気はないんだけど」

「それなら心配なさらないでください、マドモアゼル。そこにいるお二方は、突然襲い掛かって来られたから返り討ちにしただけですし、こちらにいる那月さんにも、少々暴れられたら困るので、“奪力の首枷”によって少々大人しくなって貰っているだけなので」

「……わぉ♪ 何をどう考えれば、その状況で『心配なさないで』と言えるのか、その思考回路が全く分かんないや♪」


あまりにも身勝手な天上院のその言葉に、今まで無邪気な笑みを浮かべ続けていたコスモスも、流石に口元を引き攣らせる。


「……そもそも、“滅星教”なんて名前は初めて聞いたワケなんだけど、一体どんな組織なのかな? 少なくとも、七名家や統制庁が認めた組織ではないみたいだけど」

「我々“滅星教”の存在を、七名家や統制庁程度・・に認めて貰う必要はありませんね。何せ、我々“滅星教”は全ての召喚士の上に立つべき存在なのですから」

「……へぇ?」

「我々が目指すは、全ての幻霊ファントムの頂点に君臨せし神獣──“幻皇様”のを取り戻し、世界をあるべき姿に戻すコト! その悲願が成就せし時には、七名家や統制庁の人間は自らの罪を悔い改めて、ただただ我々に平伏すコトになるでしょうっ!」

「なっ……!? ソレはどういう意味だ、天上院っっ!?」


コスモスの問いその返事を、流石に黙って聞いてはいられなかった俺は、気絶している焔呪えんじゅから体を離しつつ、痛む体に鞭打って無理矢理上体を起こしながらそう叫ぶ。

すると、天上院はこちらの方に視線を向け、嘲るように口の端を持ち上げながら俺に言って来た。


「今でこそ“幻皇様”は、貴方方七名家の人間が力を振るう為に、その名を呼ぶコトすら忌まわしいとされていますが、あの方の力こそ世界に真なる秩序を齎すモノ。ただ力を誇示して威張るだけの七名家の人間とは違う。組織の末端である私でさえ、七名家の人間を圧倒しうるだけの力をあの方は授けてくれる……っ!」

「──ソレが、お前が七名家を裏切った理由か、天上院っ!」

「……えぇ、いい加減、翠裂に媚を売るのにも辟易していましたので」


あまりにも平然とした態度でそう告げる天上院に、俺は思わず絶句をしてしまう。

そんな俺に興味を失ったのか、天上院は視線を再びコスモスの方に戻す。

天上院の粘着質な視線を再び真正面から受けた彼女は、しかし先程の無邪気な笑みでソレを受け止め、天上院に問い掛ける。


「……まぁ、アレだね♪ キミが元は七名家側の人間だったけど、簡単に強力な力を与えてくれるからって理由で、“滅星教”に寝返ったっていうどーでもいい・・・・・・事情は分かったんだけど、結局のトコロ、“滅星教”は七名家と統制庁と敵対して世界征服を企んでる組織とでも考えればいいのかな?」

「……正確には、世界を正しき姿に是正するのを目的としている組織ですよ、マドモアゼル?」


無邪気な表情で紡ぎだされるその毒のようなコスモスの言葉に、再度顔を引き攣らせながらも、天上院は何とか余裕な表情を取り繕ってそう答える。

その言葉を聞いたコスモスは、両手に双剣を握ったまま器用に腕を組んで、ふーん……と少し考え込むような素振りを見せ、そして言った。




「成る程……それは面白そうだなぁ♪」

「「なっ……!?」」

「ほぅ……!」




その言葉を聞いた俺と“落ち零れ”は同時に驚愕の声を上げ、天上院が頬を緩めながら感嘆の声を上げる。

天上院は、地面に這いずりながら呆然としている俺と“落ち零れ”を無視しながらやや歩みを進め、コスモスの真ん前に立ちながら彼女に聞く。


「我々の思想を理解してくれるのですか、マドモアゼル?」

「そこまでは言わないよ♪ けど、七名家と統制庁によって“力”という秩序が成されている現状を、良く思ってないコトも否定はしないけどね♪」

「「……っ!?」」


その言葉を聞き、思考が凍り付く。


「これはこれは……貴女も我々と同じ考えをお持ちなのでしょうか?」

「だから、そこまでは言ってないって♪ ただ、ボクが七名家や統制庁側の人間だと思われたくない、とだけは言って置こうかな?」


自らの窮地を救ってくれた筈の少女が、しかし自分達の味方ではないと口にしたため、身体の奥底から焦燥感が込み上げてくる。

それは、離れた場所で転がっている“落ち零れ”も同じであり、天上院だって気付くコト。

天上院は、一度俺と“落ち零れ”に嗜虐的な光を灯した視線を向けた後、吐き気を覚える程の満面の笑みをコスモスに見せ、俺達に聞かせるかのように殊更ゆっくりとした口調で彼女に言った。


「……貴女は、もしかしたらとても素晴らしい方かもしれない。先程は侵入者の排除を邪魔されたため少々気が立っていて、冷静な判断が出来ていませんでしたが、貴女の魔法は賞賛に値する程高度なモノです。そのような“力”を持つモノを、我々は探しているのです。宜しければ、貴女を是非とも我らが“滅星教”の元へご招待したいのですが?」


天上院はそう口にしつつ、立て膝をつきながらコスモスに手を差し出す。

口元に浮かぶ笑みからは、コスモスから自分と似た匂いでも嗅ぎ取ったのか、絶対に断られるコトがないだろう、と言う自信が見受けられる。

そんな天上院の様子を見た俺は、我慢しきれずについコスモスに向かって怒鳴りつける。


「……っ、ま、待てっ! お前……コスモスっ! そんなヤツの手なんか取るなっ! 取ったら、そのまま七名家を敵に回すコトになるぞっ!」

「──って、言われてもねぇ」

「そんなヤツの手を取る位なら、俺達を助けろっ!そうしたら、謝礼でも何でもするっ! 七名家の力をもってして、お前にそれなりの地位だって与えてやるっ!」

「ふーん……」


この場を何とか切り抜けるために、形振り何て構わずにそう叫び続ける。

──が、彼女は少し困ったような笑みを浮かべながら、俺の方を見つめて来て……、




「──ボク、別にそういうのが欲しいワケじゃないからね」




……そう、口にした。

瞬間、俺の身体から力が抜ける。

与えられた希望を、全部失ってしまった感覚。

ドサリ、と。

俺の身体が、再び地面に横たわる。


「──────ハッ」


そんな俺の姿を見た天上院が鼻で笑うが、もうソレに反抗するような気力もない。

自らを蝕む、この全てが空っぽになった感覚を。

人生で初めて味わう、二度と味わいたくもないこの最悪の感覚を。

人は、絶望と呼ぶのだろうか。


「さぁ、お答えください、マドモアゼル! この世界を歪める七名家という存在を排除するために、是非とも我が手を……っ!」


今度こそ、と。

勝利を確信した笑みを浮かべながら、天上院が芝居かがった口調でコスモスにそう告げる。

そして……、


「──フフッ♪」


天上院の手を見つめながら、小さく笑い声を零した彼女は。

右手に握っていた激流の剣を、自らの足元に突き立てて。

ゆっくりと、その手を天上院の差し出す手に向かって伸ばして──、




──────パシィィィィンッッ!




──と。

今いるドーム状の空間に響く程大きな音を立てながら、天上院の手を弾き飛ばした。




「「「──────え?」」」




烈風に煽られた業火が一瞬で消し飛ばされた時と同様に。

俺も、“落ち零れ”も、天上院も。

全員がコスモスの行動に意表を突かれて、間の抜けた声を出す。

そんな俺達の表情を面白そうに眺めながら、コスモスは天上院に告げた。


「──悪いけど、キミのお誘いはお断りだよ、“滅星教”のおにーさん♪」


あまりにも無邪気過ぎるその声に、逸早く正気に戻った天上院は、浮かべていた笑みを拭い去りながら、先程とは別人に思える程低い声でコスモスに問い掛ける。


「……どういうもりですか、マドモアゼル?」

「どういうつもりも何も、今言った通り、ボクは“滅星教”とやらに入るつもりはないってコトだよ♪」

「……何故です、マドモアゼル? 貴女は、我々と考え方を同じにするのではないのですかっ!?」

「──確かに、キミの考え方を面白いとは言った。ボクが七名家の存在を好ましく思ってないのも事実だ。けど、さっきから言ってるけど、ボクはキミ達と同じ考え方を持っているワケでも、思想を理解しているワケではないんだよ♪」

「……だから、我々の誘いを──私の手を拒んだと?」

「言ったハズだよ、ボクは七名家と統制庁によって“力”という秩序が成されている現状をよく思ってない、って。その言葉の中の『七名家と統制庁』を『滅星教』に書き換える為に、ボクが力を貸すと思うのかな?」


天上院の問いに、違った問いを用いて返事をするコスモス。

正直な話、俺はコスモスの問いに正しい答えを出せる自身がない。

何せ、まだ俺とコスモスは出会ったばかりで、彼女の素性の一切を知らないのだから。

けど、それでも。

その言葉だけで、彼女の言いたいコトは理解出来る。


ギリッ、と。


天上院が奥歯を噛み締める音が、俺の耳に届いた。

彼は、拳を握りしめ、必死に余裕の表情を保とうとしながら、コスモスに言う。


「……残念ですよ、マドモアゼル。貴女が味方になってくれないコトが、本当に残念で仕方がない」

「一応、謝っておいた方が良いのかな?」

「いえ、それは構いませんが……出来れば、今すぐにでもこの場を立ち去ってくれませんかね、マドモアゼル。今から我々には大事な用事があるので、無関係な人間は邪魔で仕方がないのですが」


それが最大限の譲歩だ、と。

そう言わんばかりの視線を向けながら、コスモスにそう告げる天上院。

が……、


「──それもさっき言ったハズだよ? 命の取り合いや、そこの首輪を嵌められている女の子を放置しておく気はない、って」

「それに関しては、心配なさらないでとちゃんと申した筈ですが?」

「心配なさらないドコロか、そもそも信用ならないんだよね、キミは」


コスモスもまた、一歩も引く気はないようだ。

お互いに距離を空けながら、天上院は“スケジューラー”に、コスモスは先程地面に突き立てた激流の剣に手を掛ける。


「──そこに倒れている二人は七名家の……神白と紅城あかぎの人間なんですが、まさか彼らの味方をするとでも?」

「……いいや? 状況を見るに、彼らの方から突然襲い掛かって来たってのもあながち嘘じゃなさそうだし、ソレに関しては自業自得で仕方がないとは思ってるよ?」

「ならば、ココは大人しく引いて貰えると助かるのですが?」

「ソレはお断り♪ だって、そこの二人はともかく、そこの首輪を嵌められた女の子は無理矢理巻き込まれた感じでしょう? なら、放置をするワケにはいかないよ♪」

「……だから、この場に留まると?」

までも、七名家の味方としてじゃなく、そこの女の子の味方として、ね♪」

「……成る程、貴女の言い分は分かりました。が、那月なつきさんを助けられると、我々にとってとても都合が悪いのです」

「……へぇ?」

「ですから………………力ずくでも、貴女のコトを排除させて貰うっ!」


その言葉が、切っ掛けとなった。


『──翡翠の風よ、刃に集いて、我が覇道を切り拓けっ! ──風の上級魔法、《旋律衝刃メロディウス・フォースエッジ》』

「そのくらいじゃ、ボクの《水渦蒼鎌刃シュトロム・ファルシオン》は破れないよっ!」


コスモスのその言葉と同時に、飛翔する轟音の刃と激流の双剣がぶつかり合い。

新たな戦いの幕が上がった。

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