第四十一話 当たらないOffense Magic
只今挿絵・魔法を募集中です!
※ast-liarさんよりアイデアを頂いた魔法を登場させました。
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私事ですが、ツイッターを始めました♪
殆どカードゲーム関連の呟き位しかしていませんが、最新話投稿の予告なども呟いています。
是非、「現野 イビツ」で検索してみて下さい♪
始まりは、突然だった。
「待っていてください、マドモアゼル。すぐに終わらせますから」
天上院くんが、地面に転がる私にそう声を掛けたその直後には、光輝くんと焔呪ちゃんの詠唱が終わっていた。
『──光の中級魔法、《光子鋭刃》っ!』
『──火の中級魔法、《炎騎槍》っ!』
その声と共に、光輝くん達の前に展開されていた魔法陣から、光の刃と炎の槍が飛び出して、一直線に私達のいる方向に襲い掛かってくる。
──私のコトなど、お構いなしと言わないばかり高火力で。
「──────っぅ!?」
私は、思わず悲鳴を上げかける。
が、その直前、余裕の表情を浮かべたままの天上院くんが、いつの間にか右手に展開していた指揮棒型の幻霊装機──“スケジューラー”を振り上げながら、軽い口調で言った。
「──貫け」
その声と共に、地面から突然二本の風の槍──風の中級魔法《大気騎槍》が発現され、光輝くん達の魔法を側面から貫き、いとも簡単に掻き消した。
それを見た光輝くん達は、一瞬だけ目を瞠ったものの、すぐに獰猛な笑みを浮かべて、新たな詠唱を始める。
──魔法の、ではなく、幻霊を呼び出す為の、“召霊聖句”を。
『世界に降り注げっ! 全てを純白く染め上げる、残酷なまでに聖なる光よ……』
『赤く! 朱く! どこまでも紅くっ!! 世界に爆ぜて、全てを燃やせ!』
瞬間、二人の背後に、白と紅の巨大な魔法陣が展開される。
しかし、それでも天上院くんは余裕の表情を浮かべたまま、軽く口の端を持ち上げると──、
『──召喚っ! 《聖竜》ベクリアルっ!』
『──召喚っ! 《炎竜》ホムラっ!』
『──召喚っ! 《巨鳥》ミハイルっ!』
──三人同時に、そう叫んだ。
瞬間、半径20メートル程のドーム状の空間に二頭の竜と、一羽の怪鳥がその姿を顕す。
そして……、
『『『──────《着装響奏》っ!』』』
……その一言で、本格的な戦いの幕が開けた。
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『──光の中級魔法、《光子鋭刃》っ!』
『──火の中級魔法、《炎騎槍》っ!』
俺──神白 光輝と焔呪は、先程と同じ魔法を、少し使い方を変えて発現する。
具体的には、光の刃や炎の槍として打ち出すのではなく、それぞれの幻霊装機の切断力や貫通力を強化する。
魔力だけで形作られた先程の攻撃と違い、元々実体があるものなら先程のように簡単に打ち消されるコトはないと考えて。
「さて、と……」
口の中で小さくそう呟き、横に立つ焔呪と視線を合わせる。
「……どうする、焔呪?」
「どうするって、このまま七名家に喧嘩売ったあの天上院を潰すに決まってるでしょ?」
「それは確定事項なんだが……実際問題、あの設置型発現法が鬱陶しいのは否めないからな」
「それは……そうね。腹が立つけど、後ろから狙われたりしたら対処しにくいのは確かだし」
「だから、さっきの質問だ、焔呪。何なら、お前が万一の時の為に待機しといて、俺一人でアイツを倒してやってもいいが」
「フザケないでよ、光輝! 何、一人で良いトコを持ってこうとしてんのよ! どうせやるならアタシでしょーが!」
「焔呪こそ何言ってるんだか……俺がやってやるって言ってんだから、じゃじゃ馬娘は大人しくしてろっつーの」
口を開けば、溢れて来るのは傲慢ともとれる軽口の応酬。
それは、俺と焔呪の親しさの証明であり、余裕の表れ。
何せ……、
「──何にしろ、後四発だしな?」
「あれ、七つじゃなかったっけ、アイツが多重展開で同時に展開出来る魔法の数は?」
「どっちにしろ、五つ程度だったら問題ないだろ?」
……何せ、俺達二人は、天上院の一番の隠し玉である多重展開のスペックを把握しているのだから。
アイツが得意とする戦法は、多重展開と設置型発現法を用い、戦闘が開始する前に複数の魔法を戦場に仕込み奇襲を行う、というモノだ。
それは、確かに厄介な戦法ではあるが、しかし攻撃力自体は決して高いモノではない。
途切れる間もなく何十何百と攻撃されたら流石に防ぎきる自信は無いが、残り回数が一桁と分かり切っているなら、特に気にするコトはない。
「……問題があるとすれば──」
「──アイツの着装響装、ね……」
巨大なヘッドフォン、白の蝶ネクタイ、鮮やかな緑の燕尾服……。
正直な所、アイツが着装響装を使えるという情報は持っていなかったため、驚いてないと言うと嘘になる。
しかし、まぁ……、
「……何とかなるだろ」
「それもそうね」
流石に、七名家の人間に──竜と契約した俺達に勝てるスペックがあるワケない。
そう割り切った俺達は、もう一度目線を合わせて頷き合って──
「光量出し過ぎて“落ち零れ”に火傷負わせないでよ、光輝っ! 流石にアイツのせいに出来ないからねっ!」
「火属性使いのお前が言うなっつーのっ!」
──最後にそう軽口を交わして、同時に駆け出す。
「──────行くわよっっっ!!」
未だに余裕の表情を浮かべた天上院の元に先に辿り着き、そう言ったのは、身に纏った《焦炎武装》の背面にある排焔口から焔を出して加速をしていた焔呪だった。
焔呪は、天上院の前で大きく跳躍すると、空中で“焔天苛”の炎を纏った刃を下に向け、落下する勢いのままに天上院を貫こうとする。
が、流石に学年五位の実力はある天上院に、そんな軌道がバレバレの攻撃が易々と通るワケがない。
『──風の中級魔法、《律動鋭刃》っ!』
天上院は、右手に持つ“スケジューラー”から魔法陣を展開し、振動する音の刃を形成すると、上から降ってくる槍の攻撃を上手く絡め取り、体重の軽い焔呪をそのまま後方に弾き飛ばそうとする。
が、俺は天上院が力を付けて腕を跳ね上げたその隙を狙い、低姿勢で懐に潜り込みながら光子を纏った“アイン・ヴァイス”でその胴を薙ぎ払いに掛かる。
「──っ!? 切り裂けっ!」
が、その直前で天上院が慌ててそう叫んだのを、聞き一度足を止める。
硬直は一瞬。
すぐに背後から何かが迫って来ているコトに気付いた俺は、身体を捻って飛来してきた《風切》を、左肩に装備された《陽光聖装》の盾で受け止める。
勿論、着装響奏によって発現された盾なので、初級程度の魔法ではビクともしない。
が、今度は《風切》を防ぐために背中を見せた俺に、天上院自身が音の刃を纏った“スケジューラー”を振り上げて襲い掛かってくる。
「──させないわよっ!」
「っ、防げっ! 穿てっ!」
しかし、その攻撃は天上院に跳ね上げられてから彼の背後に着地していた焔呪が、“焔天苛”の刺突を放つコトで強制的に中断させられる。
天上院の言葉と共に突如現れた風の壁と、側面から飛んで来た風の弾丸による妨害のせいで、焔呪の攻撃も妨害されはしたものの、今の十秒程の戦闘だけで、天上院が設置していた魔法を三つ使わせるコトが出来た。
今の戦闘中にも新たな魔法陣を設置するような素振りは見せてないし、そもそもそんな隙は与えていない。
なので、残されている設置型発現法の魔法は、せいぜい一つか二つ。
(──楽勝過ぎるな、コレは)
内心で、そう呟く。
『っぅ──風の初級魔法、《風靴》ッ!』
流石に、俺と焔呪に挟まれている今の立ち位置がヤバいと思ったのか、天上院は自らの足に風を纏わせ、“落ち零れ”を放り出したまま、その場を離れようとする。
しかし、初級魔法程度で俺達を振り切れると思ったら大間違いだ。
「《焦炎武装》、火力全開っ!」
「──っ!? ふ、防げっ!」
排焔口から焔を吹き出す勢いだけで軽々と天上院に追いついた焔呪が、突っ込んだ勢いのままに“焔天苛”でヤツを刺し貫こうとする。
しかし、再び現れた風の障壁によって、また攻撃が阻まれてしまう。
が……、
『純白の光よ、祝福としてこの世に現れ、聖衣となりて我に纏われ! ──光の上級魔法、《聖光霊紗》っ!』
その間に上級の強化魔法を纏った俺が、一瞬で二人との距離を詰め、《アイン・ヴァイス》を大きく振り被る。
天上院は、今度は手に持つ《律動鋭刃》で対処しようとしたようだが、しかし俺と同時に焔呪も背後から刺突を繰り出して来ているコトに気付き、観念した表情で叫ぶ。
「──爆ぜろっ!」
その言葉と共に、天上院を中心に爆風が発生し、自爆覚悟の攻撃に不意を突かれた俺達は吹き飛ばされてしまう。
幸いと言うべきか、俺達も天上院も着装共奏をしていた為、掠り傷程度の傷しか負っていない。
けれど……、
「──これで、邪魔臭い設置魔法は無くなったなぁ、天上院?」
「それ、は……どう、でしょうねぇ?」
「強がんなくてイイのよ、天上院? アンタが多重展開出来る数が七つだ、ってコトは分かってるんだから」
「──ちっ」
小さく響いた舌打ちを、俺達は聞き逃さない。
それは、隠し玉を二分もしない内に使い切ったコトへの焦りの表れだろう。
天上院の額には冷や汗、俺と焔呪の顔には笑みが浮かぶ。
──勝利は、決した。
『──紅蓮の火よ、刃に集いて、我が覇道を切り拓けっ!』
『っぅ──翡翠の風よ、刃に集いて、我が覇道を切り拓けっ!』
焔呪と、一拍遅れて天上院が、似たような詠唱を始める。
そして──、
『──火の上級魔法、《紅焔衝刃》』
『──風の上級魔法、《旋律衝刃》』
焔呪の“焔天苛”から放たれた焔の刃と、天上院の“スケジューラー”から延長した音の刃がぶつかり合い、周囲に轟音と衝撃を撒き散らす。
それでも、焔呪も天上院も一歩も引かず、互いの刃を相手に届かせようとせめぎ合いを続ける。
そして、一人残っている俺は……右手の甲の紋章に左手を重ねながら、天上院に言う。
「なぁ、天上院……俺はお前が何をしたいのか全く分からないし、正直分かる気もサラサラないが、一つだけ聞いておきたいコトがある」
「……何でしょうか、ムッシュー?」
「何が目的なのか、誰が後ろにいるのか……そんなコトはどうでもいい」
「……ほぅ?」
「──お前は俺達七名家に喧嘩を売って勝てるつもりでいたのか、ただソレだけが聞いてみたかった」
「………………勝てない、とは思いませんでしたよ、ムッシュー」
「……成る程、な」
多分、コレが俺と天上院の最後の会話になるだろう。
と言っても、そんなに親しい間柄というワケでもなかったから、悔いなんてモノは特にない。
ただ、それでも最後に。
「──────天上院」
最後に一言。
「………………………………お前、バカだな」
それだけ言って、躊躇なく紋章を押し込む。
『──煌く陽の光を浴びて、光り輝け俺の剣っ!』
《アイン・ヴァイス》の柄から純白の魔法陣が展開され、その刃が太陽の如き光を放ち始める。
発現するのは、俺の勝利への執念を具現化した、文字通りの必殺技。
『──光の特異魔法、《陽光纏う光撃剣》っっっ!!』
魔法陣から零れ出た陽光を纏い、二回り刀身が巨大化した《アイン・ヴァイス》を、天上院に向けて思い切り振り下ろす。
(──貰ったっ!)
未だに焔呪とせめぎ合っているままの天上院には、避けようも防ぎようもない無慈悲なる一撃。
それを振り向きざまに瞳に移した天上院は……、
「──穿ち、爆ぜろ!」
口の端を思い切り持ち上げながら、そう叫んだ。
(──────え?)
その言葉を聞き、一瞬思考を停止させた直後。
踏み込む為に軸足にしていた地面が突如爆ぜ、俺はバランスを大きく崩す。
見ると、つい先程まで天上院とせめぎ合っていた筈の焔呪も、何かに背後から襲われたようにバランスを崩していて。
《アイン・ヴァイス》の切っ先が、焔呪の胸元に吸い込まれるように突き立とうとして──、
「──────っ!」
間一髪で、焔呪が全身の排焔口から焔を吹き出すコトで回避行動を行う。
──が、それでも。
《アイン・ヴァイス》の切っ先が、《焦熱武装》の胸元に小さな傷が付く。
本来なら、気にしないドコロか、気付きさえしないような小さな傷。
しかし、《陽光纏う光撃剣》を相手にした時に限り、致命傷となりうる傷。
その傷から、純白の魔法陣が展開されるのを見たのと同時に、俺と焔呪は絶望する。
先程の爆発のせいでバランスを大きく崩していたハズの俺の体が、何者かに掴まれて無理矢理立たされるような感覚。
正確には、両手を《アイン・ヴァイス》ごと引っ張られるような……否、両手を《アイン・ヴァイス》に引っ張られる感覚。
その切っ先が向く先は、先程展開された魔法陣。
「──やめっ」
何とか抵抗しようとするモノの、俺の意思とは関係無しに、先程よりも強い輝きを放って突き出される《アイン・ヴァイス》。
『ッッッ──紅蓮の火よっ、祝福としてこの世に現れ、聖衣となりて我に纏われっ! ──火の上級魔法、《紅焔霊紗》っっ!!』
焔呪は、地面を転がりながらも必死に自身と“焔天苛”に強化魔法を掛けながら、振り下ろされた斬撃を何とか受け止めるコトに成功する。
が、それでも俺の斬撃の威力が弱まるコトはない。
「……あぁ、そう言えば」
と、その時に。
先程まで焦り具合が嘘だったかのように笑みを浮かべた天上院が、味方同士で鍔迫り合いを行っている俺達の方を見ながら、口を開いた。
「前に、真実さんから話を聞いたコトがありますよ、《陽光纏う光撃剣》は一撃目で付けた傷に、より威力の高い二撃目を無理矢理にでも叩き込もうとする魔法だと。……まさか、自身で制御出来ないワザだとは思ってませんでしたけど」
「おっ、前……っ!」
嘲りの気持ちが見受けられるその台詞に、俺は勝手に焔呪を斬ろうとする《アイン・ヴァイス》に抵抗をしながらも、殺さんばかりの勢いで天上院を睨み付ける。
しかし、天上院はココに最初にいた時のように、余裕の表情を浮かべるばかり。
その表情を見た俺は、頭に血が昇って行くのを自覚しつつも、天上院に叫び続ける。
「何をしやがった、天上院っ!」
「何をって……ムッシューもご存知の、設置型発現法を使わせて頂いただけですよ?」
「んなっ!? お前が多重展開出来る魔法の数は、七つが最大じゃなかったのかっ!?」
「いえいえ、その数で間違っておられませんよ、ムッシュー?」
驚きのあまり思わず叫んでしまった俺の言葉を、天上院は笑顔すら浮かべながらあっさりと否定する。
そのコトに唖然とする俺と焔呪に、ヤツは言った。
「──ただ、幻王様から与えられたこの“異界域”の中では、私は常に魔力を回復し続け、好きな場所に、好きなタイミングで魔法を設置出来るだけですよ、ムッシュー?」
「「なっ……!?」」
その言葉を聞き、今度こそ俺達は言葉を失う。
何処かに手を触れて設置する必要も、最初からずっと魔法陣を維持する必要もなくなり、更に維持によって消費される魔力すらも回復されデメリットを打ち消された設置型発現法は、あらゆる方向からランダム魔力を打ち出すコトの出来るチートじみたメリットだけが目立ってくる。
更に、相手が多重展開を使えるとなると、その数だけ敵がいるコトと同義に近くなってくる。
現状は、学年一位・二位対学年五位の二体一という有利な状況なんかじゃなく、学年五位七人を相手にしているような不利な状況と捉えるのが正しい。
──このままじゃ、絶対にヤバい。
「──それでは、お話もそろそろ終わりにしましょうか、ムッシュー?」
“スケジューラー”をペシペシと手の平に叩き付けながら、天上院がゆっくりとした足取りでコチラに向かって歩いてくる。
対する俺達は、未だに焔呪を地面に押し倒したまま、今にも斬り殺そうとばかりに《アイン・ヴァイス》を振り下ろそうとした体勢のまま、その場を動くコトが出来ずにいる。
……こうなるともう、覚悟を決めるしかないか。
俺は、一度だけ大きく溜め息を吐くと、焔呪に言った。
「──────焔呪、ヤレ」
「こ、光輝!? この距離じゃ、流石にアンタもアタシもタダじゃすまないわよっ!?」
「それでもイイ、このままヤラれるのだけは死んでもイヤだろーがっ!」
「そりゃそーだけど……本当にイイの?」
「いーから構わずやっちまえっ!」
「分かったわよ、っと」
短い言い合いの後に、“焔天苛”で“アイン・ヴァイス”を受け止めたまま、焔呪は肘を使ってベルトについた真紅の紋章を押し込む。
瞬間、“焔天苛”の発現珠から真紅の魔法陣が展開され、それを見た天上院が警戒から思わず足を止める。
──けど、そこは焔呪の魔法の範囲内。
『──吹き荒れし地獄の焔が、其の身と世界を焼き尽くすっ! 猛れ、焦熱! 呪い焦がれて灰と化せっ! ──火の特異魔法、《焦熱地獄》ッッ!』
詠唱の直後、真紅の魔法陣から爆発的に紅蓮の焔が溢れ出し、そのまま地面を埋め尽くそうとしていく。
当然、その魔法陣の間近にいる俺も焔呪も、無事で済むコトなんてない。
それでも、ヤツにもダメージが負わせられれば……っ!
そう思い、放たれたその魔法は──、
『──翡翠の風よ、逆巻き暴れ、押し寄せる焔を跳ね返せ。──風の上級魔法、《旋風反焔壁》っ!』
天上院を中心に生み出された風の障壁に、いとも簡単に防がれて。
更には烈風に煽られ、その勢いを増した熱波が、俺達の元に戻ってきて。
(………………もう、ダメだ)
それに対処する手段が一切思い浮かばなかった俺は、心が諦めに支配され、その骨の髄まで焔呪の焔に焼き尽くされる。
──その、直前だった。
『──“魔響共鳴”、水の等級外魔法、《水渦蒼鎌刃》』
全てを諦めた俺の耳に、この状況に全く似つかわしくない「可憐」という感想を抱かせるような、美しく柔らかな声が聞こえてきて。
──────バッシュゥゥゥゥウウウウッッッ!!
と。
眼前まで迫って来ていた焔の波が、一瞬にして消し飛ばされて。
「「「「──────え?」」」」
俺も、焔呪も、天上院も、そして地面に転がったままだった“落ち零れ”も。
何が起こったのか一瞬理解出来ずに、そんな間の抜けた声を出して。
一様に、先程の焔を消し飛ばした激流の斬撃が放たれた方向に、目を向ける。
そこはまだ、大量の水蒸気によって覆い尽くされ、視界は良好とはとても言えない状況であったが。
それでも人影が……俺達以外の存在が確かに見受けられて。
「だ……誰だ、お前はっ!?」
先程の動揺がまだ消えきってはいない様子ではあるものの、真っ先に天上院が声を掛ける。
「……んー?」
すると、その人影は確かな反応を示しながらも、何かを考えるような素振りを見せて。
「──そうだね♪」
と、何かを思い付いたようにそう呟きながら、ビシュッと、水を斬るような音を響かせながら再び激流の斬撃を放つ。
それにより、立ち込めていた水蒸気は一気に吹き飛ばされて──、
「──────っ!?」
──俺は思わず息を呑む。
真っ先に目に付いたのは、銀縁の蒼いラインが入ったその漆黒の衣装。
けど、すぐに吸い込まれるように、その鏡面のように光を跳ね返す白銀の髪に目が引き寄せられて。
歪な仮面のその上からでも美しいと分かるその少女は、髪と同色の瞳をコチラに向け、水流を纏った純白の双剣を構えながら言った。
「ボクのコトは、“コスモス”とでも呼んで欲しいな♪」
※友人のもるさんより挿絵を頂きました
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《魔法のアイデア紹介》
《焦熱地獄》:ast-liar(元ネタ:焦熱地獄)
吹き荒れし地獄の焔が、其の身と世界を焼き尽くす。猛れ、焦熱。呪い焦がれて灰と化せ。
・火の特異魔法。《焦炎武装》の特異魔法。一定範囲の地面を炎で覆う範囲魔法。発現者自身も炎のダメージを受けるデメリットがある。
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