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第三十八話 霧満ちるDungeon (side seignior)

只今挿絵募集中です!


□□□


私事ですが、ツイッターを始めました♪

殆どカードゲーム関連の呟き位しかしていませんが、最新話投稿の予告なども呟いています。

是非、「現野 イビツ」で検索してみて下さい♪

最初に感じたのは、硬くて冷たい石の感触だった。

生命感のまるでないその感触と、全身に走るその鈍い痛みから、ポンヤリと石の上に寝転がっているコトを理解する。

だから、反射的に体勢たけでも変えようとして……次に身体の自由が利かないコトに気付く。

感触からして、身体が縛られているワケでないコトは分かる。

しかし、首に枷のような何かを嵌められている感触があるし、何故か身体が異様に疲れているのが分かる。

手も足も、動かす気さえ起きない。

しばらく、指一本動かせず、地面に横たわったままになっていた。

しかし、霧が立ち込めてきたせいか、徐々に不快感が高まって来て──、


「……の………れ”が…すか、……りま…た。侵入……人は……対…して……ので、是……もお待…を」


──その声を、天上院てんじょういんくんの声を聞いて、私──黒鏡くろかがみ 那月なつきは、意識を完全に覚醒させた。


「……ぅ、あ。……ココ、どこだろう?」


痛む頭を押さえつつ、疲弊し切った体に鞭打ちながら上半身を起こして辺りを見渡し、そう呟く。

実技演習と称して、十対一と言う不利な模擬戦を銀架くんが行わされたコトは覚えている。

その最中で私が余計な手出しをしてしまったコトも、それでも銀架ぎんかくんが模擬戦に勝ったコトも、しっかりと記憶に残っている。

そして、私みたいな“落ち零れ”なんかに、銀架くんが友達になって欲しいと声を掛けてくれたコトは、忘れられるハズがない。

だけど、その後。

雪姫ゆきひめさんと出会って以降の記憶が曖昧で、この洞窟のような場所に来るまでの経緯を全く思い出すコトが出来ない。

半径20メートルはあろうかというドーム状の空間、赤茶けた岩石で形作られた壁と床に、広い空間をぼんやりと照らす松明のような明かりを発する水晶……。

少しでも情報を集めようと、混乱した頭に必死で周囲の様子を叩き込む。

そんなコトをしていると──、


「……おやおや。どうやら、お目覚めになっていたようですねぇ、マドモアゼル?」


──と、暗がりから私に声を掛けて来る人物がいた。

先程と同じ声……天上院 彦麻呂ひこまろくんだ。

彼は、上半身を持ち上げただけで息も絶え絶えな私を見下ろし、演習中にも見せたニタニタとした笑みを浮かべながら、


「あまり動かない方がいいですよぉ、マドモアゼル? 貴方の首に付けた“奪力の首枷”のおかげで、死にこそしないものの、指一本動かすのだって辛いほど疲労しているハズですからねぇ……無駄な抵抗とかしないでくださいよぉ?」


と、粘着質な口調で、そう告げて来た。


「……っ、ぅ」


その言葉を聞いた私は、悔しさで口元を歪めながらも、天上院くんの言葉に素直に従って、無理矢理体を動かそうとするのをやめる。

身体に鈍い痛みは走るけれど、再び地面に横たわり、力をゆっくりと抜いて行き……、


「──────ココは、一体何処、ですか……?」


……それでも、少しでも多くの情報を得る為に、私は掠れた声で天上院くんに話し掛ける。

何もせずにいるワケにはいかないから。

幸い、今の私に何も出来るワケがないと思っているからか、天上院くんは何の疑いも持たずに私の問いに答えてくれた。


「ココは、“異界域ダンジョン”ごと私に下賜された祭壇……我らが“滅星教”の神がのぞまれる為の舞台ですよ」

「“滅星教”……? それに、“異界域ダンジョン”を下賜って……っ!?」

「我らが神──幻皇様は、あらゆる幻霊達の頂点に立ち、世界という概念にすら干渉出来るお方なのです。新しい亜空間を創り出して、我々に貸し与えてくれるコトぐらい、造作もないコトなのですよぉ、マドモアゼル」

「………………」


ココは、何者かによって作られた亜空間。

創り出したのは、“滅星教”と言う名の集団に神として崇められている存在。

天上院くんは、その“滅星教”の一員であり、故にこの亜空間を与えられた……。


「……私は、どうしてその祭壇にいるの? さっきまで、演習場にいたハズなのに……」

「あぁ! それは、この亜空間が演習の時に使用していた結界を元に展開されているからですよぉ、マドモアゼル。私がこの“異界域ダンジョン”の“”を頂いた時、貴女は結界の範囲内にいたので、展開と同時にこの亜空間内に取り込まれたんです」

「……っ、ぁ、あの時……銀架くん達も、一緒にいた、ハズ……」

「……えぇ、確かにあの場にはあの“劣等種”や蒼刃あおば生徒会長、それに橙真とうま 椿さんまでいましたねぇ。ですが、あの“劣等種”が何か小細工をしたせいで、彼らはこの祭壇から弾き出されたようですよぉ?」

「……そう、なんだ……」


この“異界域ダンジョン”の座標・・は、演習用の結界と同じ。

あの時、結界の範囲内にいたから私は、この“異界域ダンジョン”の中にいる。

銀架くんや雪姫さん達は、この“異界域ダンジョン”の中にいない……。


「幸いなコトに、蒼刃本家の長女や“偏狂”の召喚士は外に出されて、貴女だけ祭壇に残されましたからねぇ……本当に、都合が良い」

「っ!? ソレっ、どういう、コト……っ!?」

「いえいえ、この“異界域ダンジョン”は僕の能力が使いやすいように創られているんですが、流石にあのお二方のお相手をするのは骨が折れるので」

「ソッチじゃなくて……私が・・取り残されて・・・・・・都合が良い・・・・・って、どういうコト、なのっ!?」

「あぁ、そちらですか……。まぁ、本当に偶然だったのですが、どうやら貴女は、我々“滅星教”の宣教師様の探していた方みたいでしてね」

「え?」

「今まで“落ち零れ”などと言ってしまい、申し訳ありませんでした、マドモアゼル。貴女は、我々“滅星教”にとっては、とても重要な人物です。その“奪力の首枷”を外すコトは出来ませんが、貴女に怪我を負わせたり、過度なストレスは与えないように細心の注意を払うよう、申し付けられているので、どうぞごゆっくりしてください。“異界域ダンジョン”内の気圧や気温は、元の世界と同じになるよう調整してますしね」

「ゆっくりって……ココから出して、くれないん、ですか?」

「残念ですが、貴女にはもうすぐ来られる宣教師様と会って頂ければならないので、ココでお返しするワケにはいきません。何名か侵入者がいるようなので、これから少し騒がしくなるとは思いますが、是非ともそこでお待ちしておいてください」

「侵入者……」


この“異界域ダンジョン”は、天上院くんの能力が使いやすいよう創られた。

私は“滅星教”にとって重要な人物だから、怪我を負わせられる心配はない。

しかし、少なくとも宣教師に会うまでは、この“異界域ダンジョン”を出るコトは出来ない……。

会話の中から拾い集めた情報を整理し、そこから自分の安全を確保するにはどうすればいいか、自分がやるべき最善の行動は何かを計算していく。

が、結論はすぐ導き出た……もとい、既に導き出されていた。

私が起こすべき行動は、何もない。

元々魔法も強くない上に、体力の殆どを奪い取られている以上、自力でココから抜け出すのは不可能。

それに、情報がまだまだ不足しているから、逃げ出すという選択肢事態が正しいかどうかも分からない。

だから、今出来るのはじっと耐えて情報を集めながら、この状況を打開するタイミングを待つしかない。

幸か不幸か、手に入れた情報の中から二つ、希望を持てそうな情報と、気になっている情報がある。

一つ──希望を持てそうな情報は、先程天上院くんが口にしていた何人かの侵入者という言葉。

表情と口調、少し騒がしくなるという言葉から見て、この侵入者が天上院くんの味方である可能性は殆ど無く、逆に敵対する相手である可能性が高い。

彼らの登場によって状況が変わり、運が良ければこの状況を脱するコトが出来るのではないかと、私は今少なからず期待している。

そしてもう一つ──気になっているコトは、天上院くんが“異界域ダンジョン”内の元の世界と同じになるように調整してあるというならば、どうしてもおかしい点が一つ。

東京の都市部に位置する幻奏げんそう高校では、滅多に自然には発生しないであろう天候。

この広い空間に充満しつつあるモノ──

この霧が何を意味するのかは、分からない。

それでも、何故か頭に引っ掛かって、そのコトに注意を引かれていると……、


「……おっ、と。どうやら、来たみたいですねぇ」


と、この広い空間に繋がる洞窟の出口の方を見ながら、天上院くんがそう呟いた。

私も天上院くんと同じ方に目を向けると、そこには二人分の人影があって。

ソレらを睨みつけながら、天上院くんが言った。




「待っていてください、マドモアゼル。すぐに終わらせますから」




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