第三十二話 誇りを捨てしDual Sword
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「さぁ! ココからは、一対一の勝負だよっ♪」
シン、と。
刹那の間だけ、グラウンドを沈黙が支配する。
今度は、誰も銀架さんの言葉に、「“劣等種”がっ!」とか「余裕ぶるなよっ!」などと、野次を飛ばすコトはない。
何せ、たった今目の前で、九人もの演習参加者を倒すという芸当を、銀架さんは一瞬でしてのけたのだ。
周囲の生徒達は全員、圧倒されて絶句するか、或いは悔しげに唇を噛み締めている。
……けど、そんな中でたった一人。
結界の中で銀架さんと相対している天上院くんだけが、その瞳に激しい怒りの色を宿していて。
ゆっくりと、口を開いた。
「………………ンなよ」
「んー? 何か言ったー?」
「──ザケンなよ、って言ったんだよっ!」
「……へぇ?」
「調子に乗るなよ、“劣等種”っ! 確かにアドバンテージは失ったかもしれねぇが、別にお前が有利になったワケじゃねぇんだよっ!
まだまだイーヴン……むしろ、幻霊装機を使えない分、お前が不利なコトに変わりはねぇっ!!」
「……成る程ー」
口角から泡を飛ばしながら放たれた天上院くんの言葉を聞いた銀架さんは、感心したような口調でそう呟く。
しかし、銀架さんはその余裕の笑みを一切崩さずに、むしろ挑発するかのように、漆黒のコート──“マジン隠し”の裾をはだけさせながら、天上院くんに聞いた。
「──じゃあ、どっちが早く魔法を発現出来るか、試してみる?」
「何だとっ!? お前、調子に乗るのもいい加減に──っ!?」
その言葉を聞いた天上院くんは、馬鹿にされたと感じて、激情のままに怒鳴りつけようとして……しかし、銀架さんの腰に巻かれていたベルトを見て、息を呑む。
正確には、ソコに巻物型の魔導具が差してあるコトに気付いて。
──魔導具、“写陣ノ巻物”。
一週間前の騒動の際にも、《蒼海衝波》や《旋風勢力圏》を発現するために銀架さんが使っていたモノで、その効果は特定の属性の魔法陣一つの転写・保存。
……つまり、予め展開した魔法陣を、魔力を消費せずに維持し続ける、というコト。
“写陣ノ巻物”を使えば、手を使って一から魔法陣を描くより遥かに短時間──幻霊装機に迫る速度で、魔法を発現するコトが可能だ。
そのコトを知っていたからか、天上院くんは逆に驚いて硬直してしまっている。
……が、銀架さんがベルトからスラリと純白の巻物を引き抜いたのを見て、慌てて“魔法陣”を展開し始める。
実は、幾ら“写陣ノ巻物”が幻霊装機に迫る速度で魔法陣を展開出来ると言っても、直接魔法陣を発現出来る幻霊装機に比べると、“写陣ノ巻物”は巻物を広げたり、魔法陣を復元する手順を必要とするために、どうしても遅くなってしまう。
実際に、天上院くんが魔法陣を展開しきった時にはまだ、銀架さんは巻物を広げるトコロまでしか行けていなかった。
ソレを見た天上院くんが、ニタリと笑みを浮かべる。
そして、無防備な銀架さんに魔法を撃ち込むために、詠唱をしようとして──、
「──────ほい、っと♪」
『──風の中きゅ……ぐむっ!?」
──直後、銀架さんが放り投げた“写陣ノ巻物”が顔に纏わり付いたため、詠唱が中断され、集中力を切らしたために、折角展開した魔法陣も霧散させてしまう。
あまりの行動に虚を衝かれたため、思わず“スケジューラー”まで放り捨てて、慌てて顔面に張り付いた“写陣ノ巻物”を引き剥がした。
……けど、天上院くんが視界を取り戻した時にはもう、銀架さんの靴の裏が彼の顔面に迫っていて。
「──おわっ!?」
「ありゃ?」
咄嗟に尻餅をつくように後ろに倒れ込んだ天上院くんの真上を、飛び蹴りを放った銀架さんが通り過ぎて行く。
そして、スタッと軽やかに着地を決めた銀架さんが、失敗しちゃったと言いたげに小さく舌を見せながら呟いた。
「おっしー……今ので決めるつもりだったのにー」
「なっ!? お、お前っ!? と、飛び蹴りって……」
「んー? あ、もしかして魔法を使うとでも思ってたー?」
恐怖で顔を引き攣らせた天上院くんが、呻くように発した言葉を聞いた銀架さんが、ニコニコと無邪気な笑みでそう聞く。
その笑みを見た天上院くんは、後ろ手でさっき放り投げた“スケジューラー”を探りながら、震える声で銀架さんに叫ぶ。
「お、お前っ! 嘘を吐いて騙したなっ!?」
「えー? 嘘なんて吐いてないよー?」
「そ、それこそ嘘だっ! だってお前は、魔法を発現するって言って──」
「──僕は、試してみる? って聞いただけで、実際にするなんて一言も言ってないよ♪」
「ぅぐっ!? ──で、でも、いきなり飛び蹴りを放つとかっ!」
「別に、肉弾戦も魔導具も禁止されていないんだから、文句は受け付けないよ」
「──ふ、不意打ちとかして、恥ずかしくないのかっ!?」
「それは、真っ先に設置型発現法を使った人間のセリフとは、とても思えないけどー」
無理矢理絞り出されたような因縁を、余裕の表情で一つ一つ叩き落としていく銀架さん。
その姿を見た天上院くんは、ギリリ! と唇を噛み締めながら、悔しげに顔を俯かせて──、
「──────何てなっ!」
──突如、身体の陰に隠していた“スケジューラー”を銀架さんに向けて、詠唱した。
『──風の中級魔法、《音弾》っ!』
「あぁっ!?」
私が驚いて声を上げた時には、もう遅く。
展開されていた翠の魔法陣から、音の弾丸が飛び出していて──、
「──貰ったぁっ!」
「何をー?」
──しかし銀架さんは、軽く体をターンさせるコトで、ソレを容易く回避する。
それを見た、天上院くんは。
「──────ふひっ!」
驚愕の表情を浮かべず。
むしろ、気色の悪い笑い声を漏らしながら、二つ目の魔法陣が展開された“スケジューラー”を振り上げて言った。
「──バカめっ! 本命はコッチだっ!」
「──っ!? 多重展開っ!?」
そう。それは、銀架さんも得意とする高等技術──多重展開。
この技術を使えば、殆どタイムラグなしで、二つ目の魔法を発現するコトが出来るから。
『──風の中級魔法、《律動鋭刃》っ!』
《音弾》を放った直後の“スケジューラー”に、振動する音の刃が形成される。
それを見た銀架くんは、素早くベルトから二本の黒い棒状の物体を引き抜く。
しかし──、
「今更“写陣ノ巻物”が間に合うかよぉっ!」
──と叫びながら、天上院くんが力任せに“スケジューラー”を振り下ろす。
そして、次の瞬間。
『──我が魔力により、その刃を成せ! “魔光剣”っ!』
「──あ?」
──────キンッ! と。
天上院くんの振り下ろした透明な刃と、銀架さんが逆手に構えた漆黒の刃がぶつかり。
──ギャンッ! と。
銀架さんの左手にも握られていた漆黒の刃が、“スケジューラー”を強化していた《律動鋭刃》を斬り砕いた。
「──────あ、ぎゃばっ!?」
それを見て硬直し、思わず間の抜けた声を出し掛けた天上院くんの腹部に、銀架さんの前蹴りが減り込む。
そして、奇声を上げながら吹き飛び、地面を転がった天上院くんは、ゴホゴホと咳き込みながら、しかし何とかすぐに上体を起こす。
そして視界に入ってきたのは、漆黒の彗星のような刀身を持つ双剣を、悠然と逆手に構える銀架さんの姿。
それを見た天上院くんは、何かを言おうと口を開き、しかし思った以上に腹部に喰らったダメージが大きかったのか、再びゴホゴホと咳き込み始める。
そんな彼の代わりに、銀架さんに詰問の声を掛けたのは、結界の外にいた光輝くんだった。
「──っ!? 何だソレは、“劣等種”っ!?」
「コレ? コレは“魔光剣”って言って、柄の部分から魔力の刃を形成する、僕特製の魔導具だよ、光輝?」
光輝くんの声を聞いた銀架さんは、まるでお気に入りのオモチャを見せびらかすように漆黒の剣──“魔光剣”を持ち上げながら、無邪気な笑みでそう答える。
しかし、その言葉を聞いた光輝くんは、大きく首を振ってから、憎々しげに銀架さんを睨み付けて叫んだ。
「俺が聞きたいのは、そういうコトじゃないぞ、“劣等種”っ!!」
「んー?」
「貴様は、神白の名を持つくせに、両手剣を捨てたのかっ!?」
「──あっ」
その言葉を聞いて、私は思い出した。
光輝くんの“アイン・ヴァイス”にしろ、白亜さんの“エターナル・ムーンナイト”にしろ、神白家元当主――“純白”の契約者こと神白 虎鉄の“霊王剣 白虎”にしろ。
神白の血を引く者は、両手剣型の幻霊装機を確実に発現し、ソレらを使いこなすコトから、“白刃の一族”と呼ばれるコト。
そして、その名に誇りを持っているコトを。
七名家の人間の中でも、特にプライドが高い光輝くんにしてみたら、今の銀架さんの得物は、その名を冒涜しているようなモノなのだろう。
銀架さんを睨み付けるその瞳には、今まで以上に“敵意”が込められている。
しかし、そんな視線を真っ向から受けても、銀架さんは悪びれる様子も見せずに問いに答えた。
「別に、両手剣を捨てたってワケじゃないよ? 残念なコトに、僕にも神白の血が流れているから、今でも一番得意な武器は長剣だし」
「なら――っ!」
「――でも、この片刃双剣の逆手構えって言うスタイルが、今の僕には一番都合が良いんだよ」
「っ、どういう意味だっ!?」
銀架さんの言葉を聞いた光輝くんが、反射的にそう聞き返す。
すると、銀架さんは何かを考えるように顎に手をあて――、
「……そうだねー。具体的なメリットを上げるとしたら、まず一つ目は――」
――右手の人差し指を立てながらそう言った銀架さんは、無造作に後ろに回した左手の剣で、飛んで来た大気の奔流を圧し折ってから続けた。
「――こういう後ろからの攻撃を防ぎやすいコトかな?」
『『『なぁっ!?』』』
あまりにもあっさりと行われた信じられない出来事に、後ろから不意討ち狙いで《大気導波》を放った天上院くんだけでなく、光輝くんや周囲の生徒達も唖然とする。
そんな中、銀架さんは一人暢気に中指を立てながら身を翻し。
それで正気に戻った天上院くんが慌てて展開した魔法陣を、漆黒の魔導線で掻き毟りながら――、
「二つ目は、魔陣破損がしやすいことでー」
――と、のんびりとした口調で話し。
すぐさま次の魔法陣を展開しようとした天上院くんの手首を、双剣の峰で強かに打ち付けて。
「三つ目が、手加減がしやすいコトー」
と言いながら、容赦なく天上院くんの腹部を蹴飛ばし。
距離が開いた所で、両手の指から漆黒の魔導線を出し始めて――、
「――そして、魔法陣を描きやすいコトかな、っと♪」
――完成した魔法陣に手をあてて、ソレを天上院くんに翳しながら、詠唱した。
『――闇の初級魔法、《闇弾》』
「――――――ぅぼぁっ!?」
三度、腹部に攻撃を受けた天上院くんは、ついに気絶して、地面に突っ伏したまま動かなくなる。
ソレを見ていた私達は皆、言葉を失い、再びグラウンドを沈黙が支配する。
銀架さんは、そんな周囲の空気を気にせず、柄だけの状態に戻した“魔光剣”をベルトに差しながら、結界内に倒れている生徒達を見渡してから、呆然としている監督役の教官に言った。
「……それで? これ以上続けるのは、流石の僕でもどうかと思うんだけど?」
「――っっっ!?」
その言葉を聞いた教官は、慌てて倒れている生徒に駆け寄って状態を確認した後、悔しげな表情を浮かべながら、絞り出すように宣言した。
「……これにて、演習は終了。勝者は……一年Dクラス、神白、銀架だ……」
その言葉は、静かなグラウンド中に、ゆっくりと響き渡って行く。
しかし、誰一人として、その勝利に手を叩く人は、いなかった。
「……せめて、幻惑魔法を得意としているコト位は教えてあげるべきでしたかな?」
(……で? どうだったの、シロガネ?)
『──────中々面白い反応をしてるな、小僧』
(テンプレじょーとー! エッチぃオジサンみたいな口調で質問して来たシロガネにだけは、言われたくはないけどねっ!)
「そ、そのっ! ご、ごめんなさいっ!」
「──だったら、僕が言うべきなのは、“ごめんなさい”じゃないね」
『……のワリに、中々に余裕がありそうだな、お主は』
「銀架くんも、那月ちゃんも……無事で本当に良かった」
次回、“第三十三話 演習の後のLove Comedy?”
「──だって、銀架さんは優しい人だから」




