第二話 変化したCharacter
感想・アドバイス等待ってます。
僕がシロガネと契約したことにより、彼の性格に引きずられてか、僕の性質は多少変化している。
例えば、大概のことには動じなくなったし、周りにいる同年代が幼く見えるようになったりしたのがそれだ。
が、まぁ、この位のことは、僕にとってはどうでもいい。
多少、大人びていると思われているだけで、特に実害はないのだから。
と言うか、僕を蔑む人は皆、この雰囲気を生意気に思って、“より質の良い”悪意を出してくれるので、むしろ役に立っている位だ。
しかし、害が無いとか得があるからと言って、僕はその変化を嬉しく思っているワケではない。
僕にとって、その変化の大半は実際にどうでもよく、ある二つの変化に至っては、声を大にして嫌いだと言うことが出来る。
その二つの内一つが、“欲”の変化。
“七名家の血”のせいか、僕は他人より力への欲求が強い。
しかし、そんな野蛮な欲は強いくせに、僕には食欲・性欲・睡眠欲と言った人間の三大欲が皆無なのだ。
勿論、何かを食べないと死んでしまうし、眠らないと疲れは取れないし、性交をしないと子を残すことは出来ない。
なのに僕は、それに対する欲を失ってしまったのだ。
まさに怪物じみたこの変化を、僕はどうしても受け入れることが出来ない。
そして、残りの一つ。
僕自身が人の悪意に晒されるのは平気なのに、他人が悪意の対象になっているのを見ると、どうしても許せなくなってしまうのだ。
端から見れば、それは褒められるべき変化なのかもしれない。
けど、僕はこの変化が、惨めで仕方なかった。
何故なら、こんな変化をした理由が、力に執着する余り、悪意に“独占欲”を抱くようになったとしか考えられなかったから。
この考えに至った時、僕は自分がどれだけ“七名家の人間”だったのか、よく理解させられた。
あの、力ある者しか認めない父の血を引いているのだと、始めて実感出来た。
どんなに抵抗しても、この変化を否定することが出来なかった。
だから僕は、その変化を受け入れた。
だから僕は、可能な限り、その悪意の対象である人を庇い、その悪意の対象を僕にすり替えるようにしていた。
だから僕は、黒髪の少女を助けたのだ。
□□□
――時間は、少し前に遡る。
ある考えがあって、光輝達の前から一旦姿を隠すことにした僕は、人目に付きにくい校舎の裏側に向かうことにしたのだが……。
「………………何て言うか」
『“お約束”じゃのう、小僧?』
……僕は、校舎の陰に隠れながら、大空を見上げて呆れ返っていた。
理解は簡単。
どうやって連れ込んだのか知らないが、新入生の女子生徒を、上級生であろう男子生徒三人が囲っているのだ。
本当に……あまりにも“王道”過ぎる展開だなぁ、と僕は思う。
もし、マンガやラノベの主人公だったら、一も二も無く上級生に喧嘩を売りに行く場面なんだろう。
けど……。
“七名家”の血を引く上、《××××》であるシロガネと契約し、長年“人の悪意”に晒されて来た僕は、そんな主人公とは対極にいる存在である。
――僕は、ただ力に飢えた獣と、そう変わりない存在なんだから。
『……だから、小僧はあの女子を見捨てるつもりなのか?』
「……本当なら、そうしたいよ。僕があんな人を助ける理由は、“悪意”を横取りしたいからって言う、浅ましい独占欲じゃないのなら」
『………………』
「本当に……自分が惨めに思えてくるんだよ、シロガネ」
僕は、制服であるブレザーの上から、右手で胸を掴みながらそう口にする。
――心臓が痛い。
――思考が口から漏れる。
――体の中で“欲”が暴走しているせいか、頭の中が混乱している。
いつのまにか息を荒くしていた僕は、近くにあった校舎の壁に、ゆっくりともたれ掛かる。
「………………」
『………………』
そのまま、僕らの間に数秒の沈黙が漂い――、
『……のぅ、小僧?』
――この空気を払拭する為か、シロガネが心の中から問い掛けて来た。
『小僧は、あの女子が美しいとは思わんか?』
(………………は?)
『濡れ羽色の髪、処女雪のような肌、小猫を思わす夜空のような澄んだ瞳……』
(シ、シロガネ?)
『胸……は可哀相だが、“すたいる”自体は均整の取れていて、とてもいいものだろう?』
(いや、あの、何言ってるのか全然――)
『――だから、思春期の餓鬼であるお主が、そんな可愛らしい女子を助けることは、別におかしくはないであろう?』
(――――――っ!)
一瞬のパニック。
僕は、一旦心を落ち着かせると、心の中にいるシロガネに問い掛けた。
(それは……僕に彼女を助けろと言ってるの?)
『フム……。お主は興味無いのか? あの女子に』
(生憎と。誰かさんのおかげで性欲なんてモノが無いから、僕はよく知らない人に一目惚れすることは無いよ)
『そういう意味で聞いたのではないのだが……まぁ、いい』
シロガネは、一旦溜め息を吐き、続けた。
『結局の所、お主はどうするつもりだ?』
(………………それは、もう決まっているよ)
『ほぅ……』
心の中で、シロガネが感嘆の声を上げたのを聞いた僕は、痛む胸を押さえながら言った。
「予定より少し早いけど……前菜にはちょうどいいでしょう?」
(ど、どうしよう……。こんなことになるなんて……)
「ほら、つべこべ言ってないで!」
『――光の初級魔法、《光弾》!』
『分かっておる』
「「……は?」」
(“悪意”って、美味しいモノなの?)
「こらっ!! そこのお前達、一体何をしているっっっ!!?」
「………………って、え?」
次回、“第三話 校舎裏のEncounter”
(うん。すぐに終わらせる)