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第二十話 黄金色のA bult from The blue(前編)

魔法・挿絵を募集中です。

「改めまして……おはよう、那月なつきちゃん。僕は君の元婚約者の双子の兄、神白かみしろ 銀架ぎんかだよ」


焔天苛えんてんか》を紅城あかぎ 焔呪えんじゅちゃんの眼前に突き付けた僕が、未だ地面にへたり込んだままの黒鏡くろかがみ 那月ちゃんにそう言うと、彼女は少し潤み、やや赤みを帯びた瞳をパチクリさせる。

そんな彼女の反応を見た僕は、内心で少し首を傾げた。

てっきり僕の正体を確信しているのかと思っていたのだけど、那月ちゃんは少しばかり驚いているように見える。

僕がその事を不思議に思っていると、那月ちゃんがおずおずと口を開いた。


「あ、あの……髪とか目の色まで変えているのに、そんなにあっさりと名乗って良いんですか?」

「え? ……あぁ、そういうこと」


僕は、那月ちゃんのその言葉を聞き、一人で納得をする。

どうやら那月ちゃんは、僕の髪と目が黒い理由が、正体を隠す為に染めていると思ったから、僕が簡単に名前を言ったのに驚いたらしい。

その反応を見る限り、決して那月ちゃんの頭が悪くないことが窺える。

少なくとも、知性や思索と言った頭脳面では、落ち零れという烙印は彼女に似合わないだろう。

僕は、少し戸惑った様子の那月ちゃんに、のんびりと声を掛ける。


「別に気にしなくていいよ、那月ちゃん。特に正体を隠したいと思っていたワケじゃないし」

「え? でも……」

「本当に正体を隠したいなら、まず顔を隠すか変えるかするよ。髪とか・・瞳の色を変えているのは、本当の髪の色とかを知られたくないからでね。コレ・・を付けるだけで良いから、変色も楽だし」


僕は、そう言いながら髪を掻き上げて、右耳──正確には、そこに付けている耳飾りを那月ちゃんに見せる。

銀の長方形を折り曲げて、耳朶じだを挟み込むように付けられたそれには、ブリリアントカットをされた小さな黒曜石に似た石が埋め込まれていた。


「それ、は……?」

「“黒塗珠ブラックペインター”って言う僕特製の魔導具でね。髪と瞳の色を黒くするんだよ」

「────────────ちょっと」


那月ちゃんの呟きを聞き、僕は少しだけ自慢げにそう言う。

が、那月ちゃんはそうじゃないと言いたげに、フルフルと小さく首を振ると、小さく呟いた。


「……わ、私は、本当の髪の色が知られたくない理由が、聞きたかったんです」

「………………何で?」

「何で、って……髪が白かったら、神白の名を名乗れて便利じゃないですか」

「──────ちょっと」


僕の声のトーンの僅かな変化を敏感に読み取ったのか、那月ちゃんの声に少々“恐怖”が混じる。

その事に気付いた僕は、少々複雑な気分になりながらも、小さく息を吐き、声のトーンを元に戻してから那月ちゃんに告げた。


「……一つ言わせて貰うけど、例え僕の髪が白かったとしても、神白の名は使えないし、使う気もないよ」

「……え? どうして?」

「僕が、神白を追い出された人間だからだよ」

「──────っ!?」

「──ちょっと」


僕の言葉を聞いた那月ちゃんは、小さく息を呑む。

僕のことを“極光”と呼んだ時から思っていたのだが、どうやらこの子は七名家にも拘わらず、僕を“劣等種”と認識していないらしい。

僕は、その事に喜びを感じてしまう・・・・・・自分を少し持て余しながらも、それを一切表には出さずに、気不味そうに顔を俯けている那月ちゃんを見て、声を掛けた。


「──それで、質問はもういいの?」

「えっ!? あ、はい……」

「そう? なら良かった」


小さく首を縦に振る那月ちゃんを見た僕は、無邪気な声でそう言いながら、満足して頷き──




「ちょっと! いい加減にしなさいよ、アンタ達!!」



──たかったのたけど、途中で焔呪ちゃんの怒声に横入りされたので、ビクリと肩を震わせた那月ちゃんを尻目に、僕は焔呪ちゃんの方を見る。

焔呪ちゃんは、眼前に《焔天苛》を突き付けられているせいで表情を引き攣らせながらも、キッと鋭く僕を睨み付けて言った。


「い……いい加減にしなさいよ、劣等種っ! こんなコトして、タダで済むと思っているのっ!?」

「こんなコト、って?」

「それは──────っっっ!?」


焔呪ちゃんの言葉に莞爾かんじとして笑いながらそう問うと、彼女は激高して言い返そうとし……しかし、すぐに口を噤んだ。

七名家である彼女に取って──いや、例え七名家じゃなかったとしても、劣等種である僕に手玉に取られた挙句、自らの武器を奪われ。あまつさえそれを突き付けられているなんて、とても口に出来ないだろう。

ただでさえ、焔呪ちゃんは七名家の中で特にワガママで矜持プライドが高く、今もいっそ清々しい程の理不尽な“怒り”を僕にぶつけて来ている。

それ以外にも、“羞恥”や“悔しさ”、“悲哀”と言った感情も引き出せているので、シロガネも十分に喜んでいるのだけど、しかし僕は折角のこの機会チャンスを見逃す気ないてサラサラない。

僕は、焔呪ちゃんの眼前に突き付けていた《焔天苛》の刃を、彼女の肌をねぶらせるように首筋に移動させながら、にっこりと聞く。


「ねぇ? こんなコトって何かな、焔呪ちゃん? 劣等種の僕にも分かり易いように教えてくれる?」

「──っ! れ、劣等種風情が調子に──」

「──乗っているのは、どっちかな?」


──スッ、と。

《焔天苛》を持つ手に、極僅かな力を込め、丁寧に薄皮一枚分だけ彼女の首に刃を沈み込ませた。

焔呪ちゃんは、自分にの髪と同色の、鮮やかな真紅の血がじわりと滲み、その雫が首筋に伝うドロリとした感触に気付いたのか、嘘のように蒼褪めた顔で絶句している。

その矮躯から滲み出る“恐怖”は、僕が本当に傷を付けると思っていなかったからか、それとも、傷を付けたのにも拘わらず、僕の無邪気な笑顔が微塵も揺らがなかったからか。

多分、両方だろうなぁ、と見当をつけながら、僕は怯える焔呪ちゃんに笑顔で告げる。


「言っておくけど、今日は・・・焔呪ちゃんも人質になるんだよ?」

「──────っ、ぁ……」


その言葉は、脅しでも冗談でも何でもない。

何処までも楽しそうな口調で僕はそう言ったが、予想通り、誰も何もしない。

その場にいる全員が、僕の言葉が嘘じゃないと理解しているようだ。

焔呪ちゃんなんて、先程の那月ちゃんみたいに目尻に涙を溜め始めている。


「もぅ~。泣かないでよ、焔呪ちゃん。僕が悪者に見えちゃうよ」

「──見えるも何も、お前の存在は“悪”だろうが!」


僕が笑顔のまま、焔呪ちゃんを慰めるようにそう言うと、“怒気”を孕んだ声を光輝が発した。

それを聞いた僕は、焔呪ちゃんに《焔天苛》を突き付けたまま、光輝に視線を向けて問う。


「──何で、僕が“悪”なのかな、光輝?」

「考えればすぐ分かるだろう、劣等種。女を人質にして笑っている卑劣な男を、“悪”と言わずに何て言うんだよ?」

『──そ、そうだよ! 光輝様の言う通りだよ!』

『あ、あの劣等種が全部悪いんじゃないっ!』

『す、すぐに焔呪様を放しなさいよ!』


光輝は、僕を強く睨み付けながらそう答え、その言葉でようやく硬直が解けたのか、周囲の生徒達が僕のことを口々に罵倒し始めた。

そんな様子を見ていた那月ちゃんが、まるで信じられないような物を見るように瞠目したのが、視界の片隅に入る。

この狂気が支配する世界で、そういう正しい・・・反応・・をすることに少し感心してしまった。

……が、今はそれ所ではない。

全身に感じる自己中心で、理不尽な“怒り”。

僕は、弛みそうになる口元を堪え──る必要は無さそうなので、そのまま歪め、嘲るように彼らに言った。




「──────バッカみたい」




「──何、だと?」


静かな口調で、僕にそう問う光輝。

その言葉からは、周囲の生徒達にも分かる位、マグマのように煮え滾った“怒り”が感じられる。

しかし、僕はそれを全く気にせず、先程と同じ口調で光輝の問いに答えた。


「──バカみたい、って言ったんだよ、光輝」

「──────ッ、貴ッ様ァッ!!!」


僕の言葉を聞いた光輝が、今度こそ“怒気”を露にしてそう叫ぶ。

が、僅かに残った理性が、人質がいるという事実を、嫌な位に理解させているのだろう。

《アイン・ヴァイス》を強く握り締めてはいるものの、光輝は焔呪ちゃんへの誤射を恐れて、手を出してこようとはしない。

僕は、それを理解しているからこそ、更に言葉を続ける。


「ほらほら、らしくないよ、光輝。もっと冷静になりなよ?」

「黙れよ、劣等種っ! とっとと焔呪を離せよっ!」

「うーん……それは出来ない相談だけど、本当に冷静になりなよ、光輝」

「煩いっ! 貴様の言葉なんて、聞きたくも──」

「いいのかい、光輝? 七年振りにお兄ちゃんと再会して興奮しているのは分かるけど、冷静な光輝なら、自分がどれだけ愚かなコトをしているのか分かる筈だよ?」

「──っ!? 何だとっ!?」


僕の言葉を聞いた光輝は、しかそれでもまだ激高したまま再びそう叫んだ。

周囲の生徒達も、徐々にヒートアップをして行くばかりで、誰もこの状況の愚かさに気付いていない。

どうやら、僕の言葉の意味を理解しているのは、那月ちゃんだけのようだ。

だから僕は、ヤレヤレと首を振りながら──、


「あのねぇ、皆。君達はまるで正義面をしながら、『卑劣な男』だとか『全部悪い』とか言ってるけどさ──」


──絵札の中の道化ジョーカーのような笑みを浮かべ、言った。




「──────今回“悪”と呼ばれるべきなのは、君達の方だよ」




一瞬の沈黙。

直後、光輝は怒りのままに、《アイン・ヴァイス》から純白の魔法陣を展開し──、


「──────っっっ!?」


──すんでの所で、僕の言葉の意味を理解したようだ。

光輝は動揺のあまり、咄嗟に魔法陣を消滅させ、それを見た生徒達が不思議そうに首を傾げる。

そんな生徒達に、僕は問い掛けた。


「──僕は何かした? “悪い”って言われることを?」

『そ、それは……っ!?』

「よく思い出してよ? 僕のしたことを」

『──────っっっ!?』

「《焔天苛》を奪ったのは、焔呪ちゃん達が襲って来たからだし、我考われたかくんを転ばせたのも、追撃を防ぐ為だったし」

『──────ぐうっ!?』

「確かに魔法は使ったけど、それは《紅焔爆撃プロミネンス・エクスプロージョン》を相殺する為の一回だけだし」

『──────け、けどっ!』

「焔呪ちゅんを人質に取ったのだって、七名家と三対一で戦うという状況で、劣等種である僕が生き残るには仕方のないことだと思わない?」

『ぅ、ぁ……っ!』


僕が言葉を重ねていくに連れ、どうやら周囲の生徒達も、自分達がどれほど危ない状況にあるか気付いたようだ。

中には、まだ反論しようする子もいたようだがむ、大半の生徒は既に顔を蒼褪めさせている。

感じられるのは、我が身可愛さ故の“恐怖”。

僕は笑顔を張り付けたまま、どこまでも無邪気な声で──、


「もう気付いたよね? 小学生でも分かることだもん」


──そんな皆にトドメを刺すように告げる。




「──────人は、これを“正当防衛”と言うってコトを」




『ぐっ──────!?』


僕と那月ちゃん以外のその場にいた全員が、一斉に息を呑む。

それでも僕は、傷に塩を塗り込むように、言葉を紡ぎ続ける。


「──後数分もしたら教師の人が来ると思うけど、その時になったら焔呪ちゃんを解放してあげるよ。流石に教師がいたら、突然襲われないだろうし」


その言葉とともに、光輝達から滲み出す“恐怖”と“悔しさ”、そして“憎悪”と理不尽な“怒り”。

予想以上に大量のソレをその身に感じた僕は……油断・・をしていた。

心の片隅で、人質むを取っているから安全などと、甘いコトを考えていたのかも知れない。

だから、体を貫くような殺気を感じたその瞬間も僕は咄嗟に焔呪ちゃんを蹴り飛ばすのが精一杯だった。


「──なっ!?」「っきゃぁっ!?」「貴様っ!」


それを見た光輝達が怒号を放ち、それぞれの幻霊装機アーティファクトを手に持ち、僕に襲い掛かろうとする。

──が、それよりも早く。




『──いかずちの中級魔法、《雷霆導波ボルテクス・ストリーム》!』




一条の雷光が、僕に向かって飛来してきた。

「──何だ。誰かと思えば、黒鏡の落ち零れか」


「鎮圧って……それでも生身の人間に中級魔法を使うなんて!」


「──ザケンなよ、無能がっ!」


「──────もう一度撃てば、分かるでしょう?」


「──そんなモン、すぐにブッ飛ばしてやるっ!」


「いえーす! ざっつ、らいと♪」


「黙れよ、劣等種! 撃ち殺すぞッ!!」


「いえ、別に……ちょっと面白いコトが分かっただけで」




次回“第二十一話 黄金色のA bult from The blue(中編)”




「存在そのものが“悪”って……流石、七名家。とことん腐ってますね」



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