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シロガネの契約者 ~神白 銀架のComplexion~  作者: 現野 イビツ
第一章 常識外れのEntrance examination
14/53

第十三話 弱者という名のBlind spot

只今挿絵募集中です!


「改めまして……久し振りだね、光輝こうき




俺──神白かみしろ 光輝を見てそう言った銀架ぎんかの姿を見た時、俺は思わず絶句してしまった。

そこにいたのは、まるで鏡写しにしたように俺とそっくりな真っ白な美少年……ではなく。

その顔こそ俺と同じ美貌を持っているものの、肩の辺りで切られた髪と仔猫を思わすような円らな瞳は、まるで夜空を溶かし込んだかのように純粋な黒に染まっている。

神白の特徴である、純白の髪と瞳を持っていた筈なのに、だ。

着ているコートも漆黒、左手に握る《幻闇の漆黒剣ファントムダーク・ブラックソード》も闇色、ついでに右手に持つサインペンの色も黒。

全身全体上から下まで黒ずくめ。

それが、七年振りに見た双子の兄の姿だった。

俺も姉さんも、思わず絶句している。

ここまで、神白の名・・・・を侮辱出来るものなのか、と。

しかし、銀架はそんな俺達の視線を一切気にせず、先程までとは違う不敵な笑みを浮かべている。

それを見た俺は、怒りに震えながらもそれを何とか押さえ込み、銀架の足元に蹲る焔呪えんじゅを見ながら俺は聞いた。


「……焔呪に、何をした」

「何って……入学試験だけど?」

「んなっ!? それは──」

「殺せる証明をした、ってことだよ。安心していいよ、特に傷を付けたりはしてないから。……落書きはしたけど」


銀架は右手に持つサインペンをくるくると回しながら、楽しげにそう答える。

焔呪も、驚いて銀架の顔を見上げるだけで、特に攻撃された様子はない。

ただ、先程まで手で押さえていた首筋に、サインペンで一本の線が引かれている。

銀架が先程言った落書きとは、これのことを指すのだろう。


「……何なんだ、その落書きは?」

「何って、殺せる証明だけど? ……あ、水性ペンだからすぐに落とせるし、そこは安心して」

「そういうことを聞いているんじゃないっ! 何故、そのような落書きが殺せる証明になるんだっ!?」

「あれ、皆まだ気付いていないの?」


誰も一歩も動けないよな雰囲気の中、黒鏡先輩が銀架にそう聞くと、奴は本当に分からないの? と言いたげに小首を傾げる。

そして、不敵な笑みを一切揺るがすことのないまま、俺達を見て言った。


「仕方ないから、もう一度聞いて上げようか?」

「……一体、何を?」


銀架の言葉に俺がそう聞き返すと、奴は笑みを深め──言った。




「……僕が持っているのが、サインペンじゃなくてナイフだったらどうなるかな?」

「──────っ!?」




その言葉を聞いた俺は、思わず息を呑んでしまう。

先程、全く同じ言葉を掛けられた時は、その言葉の意味が分からず、ただ苦し紛れに口にした戯言だと思っていた。

が、その言葉は、戯言でも苦し紛れでも何でもない。

想像するのは、いとも容易かった。

もし、銀架が持っているのが、サインペンではなくナイフだったとしたら。

焔呪の首に線を引いたのが、サインペンではなくナイフだったとしたら。

……その線は、頸動脈を断ち切るように引かれている。


「……理解したかい、光輝? 殺せる証明は成り立っているんだよ」


俺を試しているかのような、銀架の言葉。

それを聞いた俺は、頭の中で必死に考える。

この勝負、どちらが勝っているのかを。

七名家の血を引いているとは言え、所詮は人間。

頚動脈を斬られ、多量の血を流したら死んでしまう。

既にサインペンで印が付けられている以上、それを防げたという言い訳は通用しない。

なら、斬られた後に彼らを救う手段は無いのか?

答えは……ある。


「………………治癒魔法」

「ん? 何か言った、光輝?」

「治癒魔法があると言ったんだ!」


光属性と水属性にのみ存在する特殊な魔法……治癒。

あまりに高度で特殊な才能を要するため、七名家でも使える人間が十人もいないような魔法だが、それの使い手が今この場にいる。

蒼刃あおば 雪姫ゆきひめ先輩。

あの人の魔法さえあれば、例え頚動脈を斬られたとしても、出血多量になる前に回復させることが出来る。


「だから──」

「──それはないね」


しかし銀架は、事も無げに俺の言葉を出だしで遮った。

そこに、迷いは一切ない。

ゆっくりと口の端を持ち上げながら、銀架は言う。


「気付いているかい、光輝?」

「何、に……?」

「……さっきから、蒼刃さんが一言も喋ってないことに」

『──────っ!?』


その言葉を聞いた俺達は、慌てて蒼刃先輩の方を見る。

その視線を一身に受けた雪姫先輩は、最初は顔を俯けていたが、すぐにゆっくりとおとがいを上げた。

そこにあるのは、焔呪と同じ場所に引かれた、漆黒のライン。


「嘘……いつの間に……?」

「いつでも出来たよ? 光輝達が人形ドールと遊んでいる間、僕はずっと蒼刃さんと一緒に居たんだから」

「っ!? 雪姫、それは……」

「……本当よ、白亜」


姉さんの言葉を聞いた雪姫さんが、小さく頷く。

それを見て自分の口にしたことが成り立たないことを悟った俺は、無意識の内に一歩後ろに引き下がっていた。

それを見た銀架が、止めを刺すように口を開く。


「僕が蒼刃さんの首に印を付けたのは、黄道さんを気絶させた直後で、その後にこの入学試験のルールを話して、これが終わるまで何もしないようにして貰ってたの」

「………………ルール?」

「そっ、ルール。あの印が殺せる証明だと言うことと、死人は何も・・・・・出来ない・・・・ということを」

「……っ!? そんなルールは聞いてないぞっ!?」

「聞いてなくても、当然のことでしょう? 小学生……いや、幼稚園児でも知ってることだよ、光輝」


銀架の言ったその言葉に、俺は口を閉ざしてしまう。

あまりにも正論過ぎて、反論のしようがない。

そんな俺を更に揺さぶるように、銀架は焔呪を見ながら言った。


「それじゃあ、焔呪ちゃん。向こうに行っていいよ」

「えっ!?」

「何を驚いているの、焔呪ちゃん?」

「だって……アンタ、私を人質にするために《幻闇の漆黒剣ファントムダーク・ブラックソード》を持ってるんじゃないの!?」

「いやいや……死人は人質にならないよ?」

「っ!?」


余裕たっぷりのその言葉を聞いた焔呪は、悔しそうに口を噤みながらも、素直に俺達の方に歩き出し──、


『──幻霊装機アーティファクト、展開! ──《焔天苛えんてんか》ッ!』


──銀架が、興味無さげに焔呪から視線を外した瞬間、焔呪が幻霊装機アーティファクトを展開し、いきなり銀架に襲い掛かった。


「──わっ! っと」


それに気付いた銀架は、漆黒のコートを翻しながら大きく跳び退り、《焔天苛》の刃を避ける。

反応が早かったせいか、焔呪の攻撃は銀架どころかそのコートにすら掠りはしない。

しかし、焔呪は追撃の手を緩めることはない。

《焔天苛》を両手で構え、二度三度と連続して突きを繰り出していく。

銀架は、《幻闇の漆黒剣ファントムダーク・ブラックソード》を振るい、丁寧に突きの一つ一つを逸らしていく。

七回目の刃の交差の後、互いに大きく跳び退った。


『──っ!? 真紅の火よ、激しく爆ぜて、あらゆる壁を吹き飛ばせ──!』


ただ互いの武器を打ち合うことをじれったく思ったのか、焔呪は着地すると同時に、発現珠から魔法陣を展開させながら火の上級魔法《紅焔爆撃プロミネンス・エクスプロージョン》の詠唱を始める。

……が、その詠唱が終了するよりも先に──、


「──────えいっ!」


──銀架は、その手に持つ《幻闇の漆黒剣ファントムダーク・ブラックソード》を投擲した・・・・


「んなっ──!?」


あまりにも予想外の行動に驚いた焔呪は、咄嗟に詠唱を中断して《焔天苛》で《幻闇の漆黒剣ファントムダーク・ブラックソード》を薙ぎ払う。

が、それが大きな隙となった。

《焔天苛》を振り切った焔呪が見たのは、漆黒の魔導線ライン掻き毟られた・・・・・・真紅の魔法陣だった。


「ふぁ、魔陣破損ファンブル……」


魔法陣というのは、魔法を発現する為に必要な物で、その構造は電気の回路と似たようなモノだ。

全ての魔法陣は、中心から魔力を流し込み、魔導線ラインで全体に魔力を行き渡らせた時、初めて魔法の発現が可能になる。

だからこそ、その魔導線ラインを中途で断ち切り、全体に魔力が行き渡らなくさせたら、魔法の発現を無効化することが出来る。

それが、魔陣破損ファンブル

発現器官を持っていない故に魔法陣の発現が出来ない人間でも、魔導線ラインの生成は可能なので、事実上最強の魔法無効術と言われているものだ。


『──闇の中級魔法、《影刃シャドーブレード》』


魔法を消去されて呆然とする焔呪に、銀架がいつの間にか発現していた影の剣を突き付ける。


「ひっ──!?」

「ダメだよー、焔呪ちゃん」


思わず悲鳴を上げそうになる焔呪に、銀架は間延びした声で言った。


「僕が君に手を出さなかったのは、それがルールだったからだよ? 別に油断をしたワケじゃないんだ。半径一メートル以内は、僕の絶対領域アブソリュートゾーン──魔陣破損ファンブル成功率100%だからね。接近戦にさえ持ち込めれば、僕は魔法使い・・・・には負けないよ」

「そん、な……」


銀架のその言葉を聞いた焔呪が、呆然と呟く。

俺達も、その言葉を聞いて唖然としていた。

魔陣破損ファンブルは、相手の魔法陣の魔導線ラインを、自分が出した他属性の魔導線ラインで断ち切ることで行う魔法無効術だ。

こういうと、一見とても簡単に見えるが、現実でこの技を習得している人間はとても少ない。

それもその筈、この技には相手より遥かに少ない魔力で魔法を無効化出来るというメリットがあるが、その反面デメリットもとても多い技だからだ。

まず一つとして、人間は魔導線ラインを指先からでしか生成出来ないため、必然的に接近戦でないと使えないという点。

遠距離から放たれる魔法に対して、この術は何の対抗策にもならない。

そして二つ目に、仮に接近戦が可能だったとしても、そもそも魔導線ラインを断ち切るのが極めて困難である点だ。

魔導線ラインは視認することが可能だが、それ自体は実体を持たない。

なので、目で魔法陣の位置を正確に把握してから、魔導線ラインを断ち切る必要があるのだが、これは字面で見るよりも遥かに困難な行為だ。

何故なら、線で線を断つ・・・・・・こと自体が極めて難しい行為の上、例え魔導線ライン同士が掠ったとしても、魔導線ラインを完全に断ち切らなければ、魔法は発現されてしまう。

魔陣破損ファンブルは、敵の懐に潜り込み、魔法が発現するまでの間に細い魔導線ラインを使って細い魔導線ラインを完全に断ち切らないと、至近距離からその魔法を喰らってしまうというとてもリスキーな技なのだ。

実戦で使おうとするのは、愚者の行いと言っても差し支えがない。

にも関わらず、銀架はその技をあっさりと使いこなし、あまつさえ半径一メートル以内なら絶対に成功させると断言したのだ。

正直、気が触れているとしか思えないが、しかし心の何処かで「銀架ならやりかねない」と呟く自分がいる。

俺は、誰にも気付かれないように、《アイン・ヴァイス》を握る手に力を込めた。

銀架は《影刃シャドーブレード》を構えたまま、放心状態の焔呪の顎に優しく手を添えると、まるで接吻をせびるかのように顔を近付ける。

そして妖艶な笑みを浮かべ、小さな、しかし俺達の耳にも何故かはっきりと聞こえる声で囁いた。


「……本当なら、君にお仕置きをする所なんだけど、今日の所は見逃しておいてあげるよ。だって、君はもう死んでいる・・・・・・・んだからね」

「っ………………」

「分かったなら、大人しくしててね、焔呪ちゃん」


銀架は、そこまで言うと焔呪の首から《影刃シャドーブレード》をずらして、優しく焔呪を立たせる。

そして、焔呪の背中をトン、と押し、俺の方に歩かせてきた。

俺は、《アイン・ヴァイス》を構えたまま、覚束ない足取りの焔呪を受け止める。

それを見た銀架は、再び不敵な笑みを浮かべると、《影刃シャドーエッジ》を構えながら言った。


「──さぁ、試験の続きを始めようか、光輝? って、言ってももう殆ど終わっているけど」

「……黙れよ、劣等種」

「その劣等種に今の所負けているのは、君達なんだよ、七名家の皆さん?」

「くっ……!」


銀架のその言葉を聞いた俺達は、奴に向ける殺意を更に濃いモノにする。

が、銀架はそれにそよ風程の影響も受けず、楽しげな声で怪我人の介抱をしていた橙真とうま 椿つばき先輩に声を掛けた。


「──久し振りですね、椿さん」

「……久し振りね、銀架くん。七年振りに元婚約者・・・・と再会出来て、お姉さんも嬉しいわ」

「あはは。僕にお世辞を言う必要は無いですよ、椿さん。所詮、僕は劣等種ですからね」

「そう自分を卑下することないわ、銀架くん。君、よく笑うようになって、いい男になってるわよ?」

「フフ……、椿さんは変わっていませんね」

「そういう銀架くんは、見違える程に変わったわね」


互いに笑みを浮かべたまま、社交辞令を言い合い、最後に同時に呟く。


「「……本当に、椿さん(銀架くん)だけは全く食えない人だよ(ね)」」


直後、銀架は自らに向かって飛んできた石の矢を斬り払い、指揮棒タクトを振るうように左手を振るった。

その手に操られて、首を斬り落とされた白銀人形ミスリル・ドールが橙真先輩に襲い掛かる。

それに気付いた橙真先輩は、背中に隠し持っていたハンマー──《地竜バジリスク》コガネの幻霊装機アーティファクト、《金色椿こんじきつばき》で殴り飛ばした。

が、その隙に銀架は、驚異的な瞬発力で橙真先輩に接近しており、《影刃シャドーブレード》で《金色椿》を押さえ込む。

咄嗟に橙真先輩は魔法陣を展開するが、銀架は難なくそれを漆黒の魔導線ラインで掻き毟る。


「………………続けます?」

「いえ、いいわ。今回は銀架くんの勝ちで」

「そうですか」


橙真先輩の言葉を聞いた銀架は、あっさりと《影刃シャドーブレード》を引いた。

まるで、先程の激しい戦闘が無かったかのように。

それを見た橙真先輩は、何故か笑みを一層深めながら、銀架に聞いた。


「……私は“殺さ”なくていいの、銀架くん?」

「別にいいですよ? 橙真はもう“殺し”てますし、もう一つ理由もありますし」

「もう一つの理由? あ、もしかして私が元婚約者だから?」

「まさか、そんなワケないでしょう。僕が家を追い出される前、何人婚約者がいたと思ってるんです?」

「えーと……七名家の中で神白家を除く家から一人ずつに、神白の系列の色名持ち──桃園ももぞの桜庭さくらばから一人ずつの八人だっけ? ……って、あぁ。そういえば、焔呪ちゃんも元婚約者だったっけ?」

「そうですよ。……だから、理由は別にあるんです」

「……それは何か、聞いていいかい?」


橙真先輩の言葉を聞いた銀架は、意味ありげに俺の方を一瞥してから言った。


「椿さんがいた方が、今後が面白くなりそうなんですよ」

「……それは、さっき君が言っていた“余裕”というヤツかな?」

「いいえ、違いますよ? これは、“打算・・”ですから」

「“打算”?」

「えぇ、そうです」


銀架の言葉が余程意外だったのか、橙真先輩がその笑みがぎこちなくなる。

それを見た瞬間、銀架は言った。




「だって、椿さんなら、いざって時に僕を助けてくれる筈です。七名家が倒されていくのを見て笑っていた椿さんなら」




その言葉を聞いた瞬間、橙真先輩の笑みが驚愕に変わり、次第に険しいモノとなる。

そして、悔しさを滲ませた声で、小さく呟いた。


「………………今回は、本当に私の負けね」

「分かって貰えて何よりです。なので、出来れば《橙晶黒曜薔薇クリスタル・オプシディアンローズ》を解いて、大人しくしておいて貰えます?」

「……いいわ。そこまで分かっているなら、どうせ魔陣破損ファンブルされちゃうだろうし」


橙真先輩がそう呟くと同時、先程まで銀架が立っていた場所からオレンジ色の魔法陣が現れ、消滅した。

いつの間にか、橙真先輩は銀架に罠を仕掛けていたらしい。

……この人は、ある意味で一番侮れない。

内心で橙真先輩に戦慄しつつも、俺は《アイン・ヴァイス》をひたすら銀架に向けて構え続ける。

そんな俺と銀架を見て、橙真先輩が言った。


「……雪姫さんに焔呪ちゃん。そして我考われたかくんと雷牙らいがくんと嵐華らんかちゃんには“殺せる証明”がされてあった」

「……と言うことはつまり、後は神白と黒鏡の“殺せる証明”をすればいいってワケか」


橙真先輩の言葉を聞いた黒鏡先輩が、憎々しげにそう呟く。

……が、すぐにその表情を崩すと、再び《ブラック・ファング》を右手に展開させながら言った。


「……まぁ、いい。要は、正午まで“殺され”ないか……もしくは、そこの劣等種・・・・・・をこちらが殺せばいい・・・・・・・・・・んだろう?」

「……わぁお。幾らなんでも物騒ですよ、黒鏡さん?」

「安心しろ、神白 銀架。今すぐ土下座で襲撃事件のコトを謝罪し、二度と七名家に関わらないと宣誓するなら、命だけは見逃してやってもいいぞ?」

「……その上から目線は、小説に出てくるベタな雑魚キャラみたいですよ?」


黒鏡先輩の挑発に、銀架は挑発で返す。

その表情は、驚く程に揺るがない。

声のトーンを落としたのは、黒鏡先輩の方だった。


「まだそんな減らず口が叩けるとは……貴様は状況の判断が出来ない程の馬鹿なのか?」

「うわー、今結構酷いコト言われた」

「フザケるなっ! 貴様も分かっているだろう!? 後一時間で我と白亜、若しくは神白 光輝に“殺せる証明”をするのが出来ないことはっ!!」


あまりにも動じない銀架を見た黒鏡先輩が、ついに声を荒げる。

……が、それでも銀架は涼しい顔で言った。


「……まぁ。確かに黒鏡さんの言う条件なら、不可能ではないですけど相当困難なのは分かってますよ」

「なら──────っ!」

「──けど、僕に与えられた条件は、七名家のメンバーを“殺す”ことで、別に黒鏡さんや光輝達・・・・・・・・を“殺す”ことじゃない。少なくとも、神白と黒鏡の片方は、もう“殺せる証明”をする必要はないんだから」

「なっ──!? それは、一体どういう意味だっ!?」


銀架と黒鏡先輩の会話を聞いていた俺は、思わず口を挟んでしまう。

神白と黒鏡の片方は、もう“殺せる証明”をする必要はない。

銀架の言ったその言葉の意味が分からなかったのだ。


「………………………………」


銀架は、そんな風に困惑している俺を数秒間眺めた後、不敵な笑みを浮かべながら唐突に口を開いた。


「忘れたのかい、光輝?」

「な、何をっ!?」

「さっきも言ったことだよ」


銀架はそこまで言うと、ゆっくりとサインペンを持った右手を持ち上げる。

そして──、




「──僕から神白の姓を奪わなかったのは、君の母親だって」




──サインペンで、自分の首に漆黒の線を勢い良く引いた。


「……あっ」


それを見た姉さんが、思わず声を漏らした。

銀架は、不敵な笑みを浮かべたまま、俺に向かって言った。


「自らを“殺す”と書いて、自殺と書くんだよ、光輝? だから、僕が自殺をすれば、それはすなわち神白を殺すことになるんだよ」

「そん、な……っ!?」


これが、銀架が言っていた片方は“殺す証明”をする必要がないと言った理由なのか……?

どこか違和感を覚えるものの、その言葉を否定する材料は一切ない。

屈辱この上ないが、銀架の言葉を認めざるを得ない。

それを理解した俺は、だからこそ《アイン・ヴァイス》から魔法陣を展開した。

それを見た銀架は、笑みを収めながら俺に問う。


「……何の真似かな、光輝? 神白が“殺さ”れた以上、僕は君達と戦う理由はないんだけど?」

「だろうな。俺だってそんなことは理解している。……が、そんなのはお前の都合であって、俺の知ったことじゃない!」

「………………ふぅん?」

「確かに、神白は“殺さ”れたかも知れないが、黒鏡が“殺さ”れてない以上、まだ負けたワケじゃない。だから、俺はここでお前を倒すっ!」


そう叫ぶと同時、俺は《光子導波フォトン・ストリーム》を発現しようとした。

……が、次の瞬間。


「──待ちなさい、光輝くん」


橙真先輩が、それを制止するように声を放った。

それを聞いた俺は、思わず《光子導波フォトン・ストリーム》をキャンセルし、橙真先輩を睨み付けるように見ながら言った。


「何故ですか、橙真先輩っ!? まさか、さっき銀架が言った通り、奴を助けるって言うんですかっ!?」

「違うわ、光輝くん。もう終わっているから、私は止めに入ったの」

「終わってるって、何がですかっ!? 俺はまだ負けてないっ!」


淡々と言葉を紡ぐ橙真先輩に、俺は噛み付くようにそう言う。

が、そんな俺を見た橙真先輩は、俺を宥めるように両手を翳し、銀架を一瞥してから言った。




「よく考えてみなさい、光輝くん? 銀架くんは“自殺”したんだから、これ以上何も出来ないのよ」




「「あ……」」

「やっぱり、気付いてました?」


呆然と呟く俺と黒鏡先輩に対し、銀架は驚く程軽い口調で椿さんにそう返す。

その口元には、まだ不敵な笑みが浮かんでいた。

それを見た姉さんが、掠れた声で銀架に聞く。


「な、なんで笑ってるの、銀くん……?」

「なんでって言われても……やりたいコトが十分に出来たから?」

「やりたい、コト……?」

「七名家の人をからかうことだよ、白亜はくあさん」

「──────っ!?」


その言葉を聞いた姉さんは、思わず顔を引き攣らせる。

姉さんだけじゃない。

俺も、焔呪も、黒鏡先輩も、皆ただただ唖然としている。

一人、事の顛末を見極めようとしていた理事長が、冷な声で銀架に聞いた。


「いいのですか、銀架くん? 君が“自殺”した時点で、この入学試験は終了ということで」

「……まぁ、自分でも“死んだ”ら終わりって言いましたからね。別に異論はないですよ」

「……案外あっさりしているのね」

「さっきも言いましたけど、目的は果たせましたし」


蒼刃理事長に再度問われた銀架は、手に持ったサインペンをくるくると器用に回しながら、表情を変えずにそう答える。

それを見た焔呪が、声を荒げて言った。


「な……何余裕コイてんのよ、アンタはっ!? 試験に失敗してんのよ!? もっと悔しがりなさいよっ!!」

「試験に失敗、かぁ……」

「な、何よ!? 何か言いたいコトでもあんのっ!?」

「言いたいコト……三つ位あるかな?」


焔呪の言葉を聞いた銀架は、彼女を一瞥しながらそう呟く。

その言葉を聞いた俺達は、反射的に自らの幻霊装機アーティファクトを強く握り締めた。

何故か、銀架の言葉から、背筋が凍りそうになる程、凄まじい冷気を放った刃を突き付けられたような殺気を感じたのだ。

気が付くと、顳顬こめかみに一筋の汗が流れていた。

その事に気付いた俺は、その事実を否定するように頭を振ってから、再び射抜くように銀架を睨む。

黒鏡先輩が、《ダーク・ファング》から漆黒の魔法陣を展開させながら、銀架に問い掛けた。


「……貴様の目的は何だ、神白 銀架?」

「さぁ、何だと思います?」

「質問をしているのはこっちだ! 適当な答えではぐらかそうとするなっ!」

「別に、はぐらかそうとしているワケではありませんよ。ただ、聞いてみたかっただけです。僕の望みなんて、誰も分からないだろうから」


銀架は黒鏡先輩の問いにそう答えた後、小さく呟く。


「……誰にも、僕の望みなんか分からないよ。誰にも……」

「「──────っ」」


その呟きを聞いた姉さんと蒼刃先輩が、小さく表情を歪める。

が、銀架はそれを気にすることなく、口を開いた。


「まぁ、そんなことは、どうでもいいとして。そろそろ言いたいコト言わせて貰っていいですか?」

「……フン。どうせ貴様の顔など二度と見ることは無いだろうから、最後に話位は聞いてやろうじゃないか」

「そんなことはないと思いますけど……まぁ、いいや。言いたいこと言わせて貰えるなら」


銀架は意味深な笑みを浮かべながらそう言うと、一旦《影刃シャドー・ブレード》を下ろしてから、再び口を開いた。


「まず一つ目ですけど……皆さんはちゃんと足元を確認するべきですね」

「……どういう意味だ?」

「どういう意味も何も、皆さんがあまりにも下に目を向けていないから、僕からの忠告ですよ。現に皆さんは今日、僕に足元を掬われたわけですし、まだ最後の可能性・・・・・・に気付いていない」

「最後の可能性……?」

「本当に分からないんですか、黒鏡さん? ……別に、いいですけど。取り敢えず、僕は皆さんにあまりにも足元への警戒が疎かだって言いたかったんですよ。あまりにも、七名家以外の人間を視界の外に出しす過ぎているって」


その言葉を聞いた俺は、銀架に噛み付くように言う。


「フザけるな! 俺は、七名家以外の人とだって交流を持っている! 視界の外に出してるコトなんかないっ!」

「……確かに、それだけ聞いていれば、僕の言葉は言い過ぎかもしれないね」

「それは、当然の──」

「──けど、君は分かっていないようだから、一つ教えてあげるよ」


責め立てようとする俺の言葉を冒頭で遮った銀架は、その漆黒の瞳で俺を見据えながら言った。


「光輝、“下を見る”コトと“見下す”コトは、全く別のコトなんだよ」

「なっ!?」

「気付いているかい、光輝? 僕は今日、舞台袖でずっと君の代表挨拶を聞いていたけど、挨拶の間中ずっと、君の瞳から傲慢の色が消えることは無かった」

「──────っ!?」


銀架のその言葉を聞いた俺は、一瞬息を呑み、そして言葉を失う。

……反論しようと思えば、出来ないことはなかった。

しかし、銀架の瞳の奥にある“色”を見た俺は、そんな感情すら湧いて来なくなる程、深い脱力感を覚えた。

そんな俺を見た銀架は、最後に小さく「未熟だね」と呟くと、それで話は終わりだと言わんばかりに俺から視線を外す。

そして、今度は黒鏡先輩の方を見ながら言った。


「それじゃあ、言いたいコトの二つ目なんですけど……言いたいコトって言うより、頼み事って言うべきかな?」

「……頼み事、だと?」

「えぇ。実は、少し厄介なコトがありまして」


黒鏡先輩の呟きにそう返すと、銀架は今までずっと手慰みに使っていたサインペンに視線を落として口を開く。


「実は、今日の試験の“殺せる証明”はさっき言った通り、サインペンで印を付けることにしていたんですけど……恥ずかしながら、家から持ってくるのを忘れてしまっていまして。悪いとは分かっていたんですが、今日ここに来ていた新入生の一人から、無断で拝借して来ちゃったんですよ」

「それは……」

「ですから、出来れば黒鏡さんの方から、このサインペンをその新入生に返して欲しいんですよ」

「なっ……お前、黒鏡先輩をパシリに使おうって言うのか!?」


銀架の言葉を聞いた俺は、思わずそう声を上げた。

黒鏡の次期当主候補を使いっぱしりにしようなど……七名家を馬鹿にするにも程がある。

黒鏡先輩も、銀架を殺さんばかりに睨み付けていた。

しかし、銀架は風に吹かれた程も気にも留めず、話を続ける。


「いいかい、光輝? 世の中には、適材適所って言葉があるんだよ?」

「──っ!? お前は! 黒鏡先輩に! パシリが似合うと言うのかっッッ!!?」

「別に? 僕は、そんなコトを一言も言っていないよ? ただ、このサインペンを返すなら、黒鏡さんに頼んだ方が一番手っ取り早いと思って、適材適所って言ったんだよ」

「一体どういうコトだ、神白 銀架っっっ!?」


あまりにのらりくらりとした銀架の口調に、ついに黒鏡先輩が痺れを切らしてそう叫んだ。

次の瞬間。


──銀架は、嗤った。


それは、思わず背筋が凍り付くような、勝利を・・・確信した・・・・笑み・・

銀架は、これまでで一番楽しそうな声で、黒鏡先輩に言った。




「──だって、このサインペン。アナタの・・・・妹さん・・・のモノなんだから」




『なっっっ!!!??』


銀架のその言葉を聞き、その場にいた奴以外の全員が、これまでで一番大きな驚愕の声を上げる。

その言葉の意味を理解するのを拒否するように、俺の思考は凍て付いた。

一瞬の沈黙。

俺達全員が体を硬直させる中、逸早いちはやく正気に戻った蒼刃理事長が、着ていたスーツのポケットかに流れるような動作で携帯端末を取り出し、慌てた様子で電話を掛ける。


「──もしもし、佐伯さえき先生? 貴女、新入生の近くにいますよね? そこに那月なつきちゃん……黒鏡家のご息女が居る筈ですから、すぐに探してください! ──はい、今すぐにです!」


どうやら蒼刃理事長は、新入生の避難誘導をしていた一年生の学年主任──佐伯 律子りつこ先生に電話を掛けたみたいだ。

蒼刃理事長は、佐伯先生に黒鏡 那月──黒鏡先輩の妹を探すように指示した後、しばらく黙っていたが、すぐにまた通話相手と会話をする。


「──見つかりましたか? では、彼女の体にサインペンで線が引かれていないか確認してくれませんか? ──理由は後で説明するので、早く!」


そこまで言った後、理事長は耳に端末を当てたままジッとしていたが、しばらくして「……分かりました」とだけ呟くと、腕を下ろして通話を切った。

そして、一度溜め息を吐くと、銀架に向かってその言葉を口にした。




「………………おめでとう、銀架くん。そして、ようこそ、幻奏げんそう高校へ」




その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず握っていた《アイン・ヴァイス》を手から落としてしまう。

蒼刃理事長が示した言葉が指すのは、奴が入学試験に合格したというコト。

つまり……俺達“七名家”の敗北。


「だから言ったでしょう? 足元が疎かだって」

「………………」

「自分の兄弟が七名家だと言う可能性を、君達は忘れすぎていた。だから、は負けたんだよ、光輝」

「………………黙れ」

「僕が黙っても、君が負けた事実は変わらないよ」

「──それでも、黙れって言ってんだよ!!」


その言葉を聞いた俺は、怒りに身を任せて《アイン・ヴァイス》を拾うと、その切っ先を銀架に向ける。

が、銀架はそれをポーズだけのモノと取ったのか、呆れた様子で俺から視線を外し、あまつさえ俺に背中まで見せた。

明らかなる余裕の態度。

俺は、《アイン・ヴァイス》純白の魔法陣を展開する。


「──っ!? 光輝くんっ!」

「神白くんっ!? その剣を下げて!」


それを見た姉さんと蒼刃先輩が、驚いてそう声を上げた。

が、俺はそれを無視して、怒りのまま銀架に向かって叫ぶ。

そして──、


「俺は! 絶対に認めない! 貴様の勝利なんてっ!!!」

「光輝くんっ!?」「神白くんっ!!」


姉さんと蒼刃先輩が叫ぶと同時、俺はその魔法を発現した。


『──光の中級魔法、《光子導波フォトン・ストリーム》っっっ!!』


魔法陣から放たれた光の奔流は、空気を突き抜く凄まじい音を轟かせながら、一直線に銀架に向かっていく。

……しかし。

銀架は、身に纏う漆黒のコートをはためかせながら、その身を翻していつの間にか展開されていた純白・・の魔法陣に触れ、軽やかな口調で詠唱した。


『──光の中級魔法、《光子導波フォトン・ストリーム》』


発現と同時、正面から衝突する二つの光の奔流。

放たれたのは同じ魔法だが、銀架は全力を出したワケではないし、発動するタイミングが遅れたせいか術自体も最高威力を出す前に衝突してしまっている。

本来なら、考えるまでもなく勝負が分かる対決。

にも関わらず、拮抗することもなく打ち勝ってしまった。


──銀架の《光子導波フォトン・ストリーム》が。


「んなぁっ!!!??」


驚愕する俺の首を掠めるように、剣のような《光子導波フォトン・ストリーム》が通り抜ける。

幸い、それ程痛みは無く軽く熱を感じる程度で、怪我自体も三日もすれば治る程度のモノだろう。

しかし、首に流れるドロリとした液体が、痛い程にその事実を告げてくる。

……俺の首にも、“殺せる証明”がされたことを。

呆然とする俺に、銀架は言った。


「……忘れたのかい、光輝? 闇属性は、僕が一番苦手な属性・・・・・・・だってことを」

「………………っ!?」

「不本意ながら、これでも僕は神白なんだよ? 七属性の中では、光属性が一番強いに決っているじゃないか」


銀架はそれだけ言うと、今度こそ本当に興味を失ったように俺から視線を外し、蒼刃理事長の方を見て話を始める。


「それで、妃海さん? 僕、今日はもう帰っていいですか? どうせ、僕のクラスはまだ決まっていないでしょうし」

「……えぇ、そうね。今日はもう帰っていいわよ、銀架くん」

「理事長!? 神白 銀架は今回の襲撃事件の犯人なんですよ!? それを、そうやすやすと家に帰すなんて……」

「落ち着きなさい、黒鏡くん。今回の襲撃事件は、銀架くんが合格基準値に達していたにも関わらず、こうして更に試験を与えた学園側に非があります」

「それは……そうですが……」

「今回の事件は、私達が非常訓練という名目で後処理をします。ですから、銀架くんは安心して頂いて結構です。対外的にも、七名家の子息がたった一人の人間に勝てなかった言いふらせませんしね」

「っぐ………………」

「銀架くん、明日は朝早くに理事長室の方まで来て下さい。そこで貴方の勉強道具をお渡しします。それで、クラスについては……」

「ん。中途半端は嫌いだから、SかDが良いんだけど……まぁ、多分Dになるんだろうね」

「すみません。本来の貴方の成績なら、Sクラス所属が当然なんですが……」

「別にいいですよ。Sクラスに入りたい理由なんて、皆に・・嫉妬されたい・・・・・・程度の理由ですから。わざわざ“劣等種”を頂点トップに据え置かせて、理事長に迷惑を掛ける気はありませんよ」

「……ありがとう、分かったわ。取り敢えず、正式な決定は今日の職員会議で行うから、それもまた明日ということで」

「分かりました。……それでは、また明日」


銀架は、理事長とそれだけ話すと、悠々と講堂の出口に向かって歩き出す。

死闘を繰り広げた後とは思えない程の、あまりにも呆気なさ過ぎる幕切れ。

そこにいた誰もが、そんな銀架の背中に声を掛けようとして──、


「──あ、そうだ!」


──それよりも先に、何かを思い出したかのように、銀架が振り返った。

誰もが、口に出しかけていた言葉を呑み込み、銀架の次の行動を窺う。

銀架は、コートのポケットに手を突っ込み、俺達の顔を見渡してから言った。


「……そう言えば、三つ目を言ってなかったな、って思い出して」

「三つ目……?」

「そう。言いたいことの三つ目」


銀架は、声を出した俺の方を見ると続ける。


「今日は皆さんをからかいにからかいまくったからね。確実に誰かの恨みを買ってそうだし。それについてちょっとね」

「……何だ? 恨まないで欲しいのか? それとも、今更赦しを請おうってのか?」

「いいや? そんな気持ちは全く無いよ? って言うか、むしろ逆だね」

「……っ!? 逆、だと?」

「そう、逆だよ」


俺の問いに、銀架はふてぶてしい笑みを浮かる。

そして──、


「恨むなら、恨めばいい。憎むなら、憎めばいい。怒るなら、好きなだけ怒ればいい。“劣等種”と蔑むなら、僕は喜んで受け入れよう!」

「なっ……!?」


狂人のような銀架のその言葉に驚く俺に、銀架は言った。




「人の悪意は、僕の力の糧となる! 君達の気持ちを、僕はどこまでも利用しよう!!」




「ぅ、ぁ………………」


最早言葉も出せない俺を、俺達を、銀架は一瞥し、最後に呟く。


「だから、皆さんは心から僕を憎悪してくれればいい。……それが、僕の最後に言いたかったことだよ」


全員が全員、思考を凍結させ、言葉を失う。

そんな俺達を見た銀架は──、


「──それじゃあ、バイバーイ!」


──手を振って、その姿を霞ませ始める。

そして、完全にその姿を消した。


「………………………………幻、覚?」


一瞬、《幻影払拭ヴィジョオン・イレイザー》を使おうと思ったが。すぐにそれが無駄なことだと悟る。

もう、ここに銀架はいない。

俺に出来る残されたことは、ただ震える拳を握り壇上に打ち付けるコトだけだった。




「……ちっ、くっしょぉぉぉっっっ!!!」




悔しさの余り、俺は人目も憚らずにそう叫ぶ。




……こうして、七年振りに再会した俺の双子の兄は、七名家に圧倒的な敗北を味あわせて、入学式を終わらせたのだった。




(──ご機嫌だね、シロガネ?)


『それに、我の腹具合は、お主だって知ることが出来るだろう?』


(……分かってるよ、シロガネ)


『それは……小僧のことか?』


(だって……待っているだけじゃあ、ずっと劣等種のままだって教えてくれるから)


「アンだと、クソガキ!? それは、どういう意味だっ!?」


「もー、銀ちゃん? 店ではママって呼んでって、いつも言ってるでしょ?」




次回、“第十四話 重なり響くHells season”




(──“俺はがつがつして『神』を待っている。いつまで経っても劣等人種だ”)


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