第十一話 フードの奥のBewitching smile(後編)
只今挿絵募集中です!
ドサリ、という音とともに、嵐華ちゃんが倒された。
その事実に、私──橙真 椿は沈黙する。
戦闘が始まって僅か五分もしない内に、七名家の子息が三人も倒されることなんて、これまで一度も無かった。
倒された雷牙くんも、嵐華ちゃんも、そして弟である我考くんも、決して弱いワケではない。
むしろ、強いと言っても過言ではないどころか、それが当然である程の実力の持ち主達である。
ずっとコートの男を見て来たが、彼の使う魔法を見ている限り、彼が雷牙くん達と魔法を真正面からぶつかりあったら、まず勝てないだろうことは用意に想像出来た。
そう。
本来なら、一対一でも勝てる実力差があるメンバーを集めて、六対一で戦っているのである圧倒出来なければおかしいのだ。
なのに……それが未だに出来ない所か、逆に手玉に取られているようにすら見れる始末。
本当に……面白可笑しくて仕方がない。
裏の裏をかくような戦術、一手二手どころか四手も五手も見透かしたような動き、何より無謀としか言えないような行動を七名家相手に平然と行う度胸。
それらを見た私は、隣にいる鈴木教頭や蒼刃理事長、白亜ちゃんに気付かれないように、笑いを噛み殺すのに必死だった……。
□□□
また一人、七名家の子息が倒された。
その事実に俺──神白 光輝は歯噛みをする。
六対一とい圧倒的に有利──いや、負ける可能性なんか皆無の状態で戦い始めた筈なのに、僅か五分もしない内に半数けである三人もやられることになるなんて──、
「──────想定外じゃ、済まされない」
こんな失態、父も、母も、そして俺も、とても赦せるものなんかじゃない。
体の奥底からマグマのように煮え滾った怒りがグツグツと湧き上がってきて、それに呼応するように自身の魔力が膨れ上がってきたのを感じる。
「……光輝?」
《アイン・ヴァイス》の柄にある発現珠がギラギラと点滅しているのを見た焔呪が、恐る恐ると言った表情で俺を見た。
が、俺はそんな焔呪を意識の外に追いやり、自分の背後に魔方陣を展開させて呟く。
『世界に降り注げ。全てを純白く染め上げる、残酷なまでに聖なる光よ……』
紡がれるその言葉は、“召霊聖句”と呼ばれるモノ。
……自らの半身である幻霊を呼び出すための言葉。
『──召喚。《聖竜》ベクリアル』
その言葉と共に現れたのは、白亜の鱗と蝙蝠のような翼、後方に伸びる二本の鋭い角と最高級のルビーのような瞳が特徴の西洋竜。
俺の力の証たる幻霊──名は、ベクリアル。
《獄闇牢獄》の範囲内に召喚されたベクリアルは、全長6メートルという巨躯を器用に畳み、従順な犬のように俺の背後に佇んでいる。
「幻霊……まさか」
それを見たコートの男が、フードの奥で小さくそう呟く。
その平淡な声からは、感情を読み取ることは難しい。
しかし、俺はそれを恐怖の表れと受け取り……思い込みながら、射殺さんばかりの目付きでコートの男を睨み付け、言う。
「本来なら、貴様程度に使うような魔法ではないが……」
低く、唸るように俺の口から零れ落ちるその言葉。
それは、紅城 焔呪を戦慄させ、黒鏡 闘鬼を瞠目させ、コートの男を沈黙させ、そして……俺自身を激昂させる。
昂ぶって行く情動を感じ、それらを魔力に変えて全身に巡らせながら──、
「………………けど、だからこそ、貴様を全身全霊で叩き潰すっっっ!!」
──慟哭んだ。
『──────《着装重奏》ッッッ!!』
『──────ルォォォォオォォンッ!!』
直後、俺の背後に控えていたベクリアルが、咆哮と共に閃光を発し、俺の首と両肘に純白の魔方陣が展開させる。
それは、高速で回転しながら撫でるように体の表面を滑り始めた。
首の魔方陣は喉仏の上から下へ、左手のそれは肘から肩へ。
そして、幻霊装機を持つ右手に展開されたそれは、肘から徐々に指先に。
魔方陣が過ぎ去った跡からは眩いばかりの光が零れ、そして、魔方陣が喉元に、左肩に、指先に到達した瞬間。
光が、爆発した。
「きゃっ!?」「くっ!」「──────」
焔呪、黒鏡先輩、コートの男が三者三様の反応を見せる中、俺は纏わり付く光を薙ぎ払うかのように《アイン・ヴァイス》を振るう。
その左肩には精巧な細工が施された盾が、首には大きく靡くマフラーのようなチョーカーが、そして《アイン・ヴァイス》を持つ右手には純白の手甲が現れる。
俺は、その手甲の甲の部分に浮かぶ、黄金で縁取られ純白の魔方陣が彫られた紋章に触りながら、ゆっくりとその銘を告げた。
「着装完了! ──《陽光聖装》っ!」
「《着装重奏》、か……。厄介なものを出してくれたね」
コートの男が俺の《陽光聖装》を見てそう呟く。
心成しか、その声がやや憎々しげなものに感じる。
その声を聞いた俺は、《アイン・ヴァイス》の切っ先をコートの男に向けながら言った。
「──────行くぞっっっ!!」
「………………」
《アイン・ヴァイス》を胸の高さにまで上げ、コートの男が返事をする前に走り出す。
が、先手を打ったのは、コートの男の方だった。
コートの男は、俺の突進に怯むことなく右手を前に翳すと、そこから漆黒の魔方陣を展開させながら拳を握り締め詠唱する。
『漆黒の闇よ、我が拳を覆いて、触れしものを弾き飛ばせ。──闇の上級魔法、《獄闇黒拳》!』
俺の突進に立ち向かうように走り出し、大きく跳躍したコートの男は、上方からその拳を振り下ろしてくる。
本来、その上級魔法と相対するには、同じく上級魔法で迎え撃つしかない。
しかし、俺はその拳を、左肩の盾で受け止めた。
「なっ──────!?」
流石にこの行動は予想外だったのか、コートの男が始めて明らかな動揺を見せる。
しかし、コートの男はそれでも力を緩めずに拳を盾に打ち付ける。
……が、それは盾に罅を入れるだけに留まり、決定的な打撃にならない。
「まさか……上級魔法を受け止めたのっ!?」
「《陽光聖装》を舐めるなっ!」
呆然とした口調で呟くコートの男に向かって俺はそう言い、そして《アイン・ヴァイス》を突き付ける。
そして、叫んだ。
『──光の中級魔法、《光子導波》っ!!』
『──っ!? 風の初級魔法、《再跳躍》っ!』
俺は空中にいて逃げ場のないコートの男に向けて、《アイン・ヴァイス》から光の奔流を放つ。
が、コートの男は握っていた拳を開いて盾を掴み、空中に集めた大気を蹴った。
「──────はっ!」
「くっ──────!?」
コートの男は、手を支点に大きく回転するように《光子導波》を回避し、その勢いのまま首筋目掛けて蹴りを放ってくる。
たった一瞬で逆転する攻勢。
認めたくないが、中級魔法を放った直後であり、また剣を突き出した状態である俺にその蹴りを避けることは出来ない。
しかし……、
『──火の初級魔法、《火弾》!』
「なっ!?」
「──よくやったァ、焔呪!」
コートの男が俺に蹴りを入れるより早く、焔呪の放った火球がコートの男に襲い掛かった。
『くぅっ! ──闇の中級魔法、《影盾》っ!』
コートの男は盾を掴む手に力を込めて、姿勢を空中で強引に変え、飛んできた火球を影の盾で受け止める。
しかし、七名家の攻撃はそれだけでは終わらない。
『──闇の中級魔法、《影導波》!』
「──後ろからっ!?」
コートの男が俺に気を取られている間に奴の背後に回りこんだ黒鏡先輩が、その黒き手甲の幻霊装器──《ダーク・ファング》から闇の奔流を放った。
それを見たコートの男は驚愕の声を上げつつも、再び盾を姿勢に体勢を整え──、
『っ──────闇の初級魔法、《闇盾》っ!』
「「──────え?」」
──何とか防御魔法を放つも、その盾は呆気なく砕かれ、闇の奔流に《獄闇牢獄》の端まで飛ばされる。
この闘いで初めてコートの男に決まった攻撃。
それを見た俺と焔呪は、思わず間の抜けた声を出した。
「……で、……る……」
俺の喉から掠れた声が漏れる。
頭の中で再生されているのは、たった今目の前でコートの男が吹き飛ばされた瞬間の映像。
あの時、俺たちが驚いたのは、攻撃が通ると思っていなかったから、ではない。
俺が使っている《着装重奏》──《陽光聖装》は、《聖竜》の力をそのまま体に装備させる特殊な魔法だ。
この魔法を使うには、召喚士と幻霊が共に相当な高レベルでないといけないが、その分その効果は凄まじい。
事実、魔法が一切なしでも上級魔法を防ぐ程の耐久力を持ち、更に装備中は“特異魔法”と呼ばれるその装備だけが保有する魔法の使用が可能になるのだ。
《陽光聖装》を装備した以上、負けがないことは確信していた。
だから、俺たちが驚いたのは、コートの男に攻撃が決まったことではない。
俺たちが驚いたのは、コートの男が使った魔法。
コートの男は、焔呪の《火弾》は中級魔法である《影盾》で防いだにも拘わらず、黒鏡先輩の《影導波》は初級魔法の《闇盾》で防ごうとしたのだ。
単純に見たら、明らかな魔法の選択ミス。
コートの男は、最初に《影導波》を喰らっているから、余計にそう思えてくる。
……が、しかし。
もし、コートの男にそうする以外の手が無かったのだとしたら……。
「魔力切れ……」
小さく聞こえてきた焔呪の呟き。
それこそが、答えだった。
俺は、口の端を限界まで引き上げると、再び呟く。
「──────これで、勝てる……っ!」
殺気を感じたのか、よろめきながらもすぐさま立ち上がるコートの男。
俺は、それに合わせるように《アイン・ヴァイス》を構える。
「行くぞ、焔呪っ! 黒鏡先輩っ!」
「わ、分かったわよッ!」
「おう、神白のっ!」
二人の声を背で聞きながら、俺は《アイン・ヴァイス》を振り上げ、走り出した。
「──っ!?」
それを見たコートの男は、咄嗟に目の高さに両手を持ち上げる。
次の瞬間──、
『──光の中級魔法、《光子鋭刃》っ!』
『──闇の中級魔法、《影刃》っ!』
純白と漆黒の刃が交差し、煌く火花を散らした。
……が、接触の時間は、一瞬にも満たない。
使われた魔法は、剣を強化する《光子鋭刃》と、剣自体を作り出す《影刃》。
本来なら、中級同士なので拮抗する筈の二つの魔法だが、片や《聖竜》の力で象られた剣を強化したモノで、片や魔力切れ寸前の状態で作られた影の剣だ。
優劣など最初から決まっている。
コートの男もそれが分かっていたから、俺の斬撃で《影刃》が斬られるより先に、刃が触れ合った瞬間に剣を回転させ、鎬をぶつけるようにして《アイン・ヴァイス》を側面から弾き飛ばしたのだ。
それによって一瞬だけ出来た俺の隙を逃さず、コートの男は俺の脇を潜ってその場から逃げ出そうとする。
しかし──、
『──火の中級魔法、《炎鋭刃》っ!』
「くぅっ!?」
俺の背後に出たコートの男の前にいたのは、穂先に炎を纏って薙刀状になった《焔天苛》を振り上げた焔呪だった。
コートの男は、振り下ろされた《焔天苛》を、今度はしっかりと《影刃》で受け止める。
勿論、《炎竜》の力で出来た《焔天苛》を強化したものと、魔力切れ気味の《影刃》では勝負にならない。
が、それでも数秒の時間を稼ぐことは出来たようだ。
《焔天苛》が《影刃》を溶断するよりも先に、コートの男が焔呪の腹を蹴って無理矢理距離を開かせる。
高校生の平均的な身長・体重を大きく下回る焔呪は、自ら後方に飛んで蹴りの衝撃を緩和させたことも相俟って、コートの男から3m程離れた位置に着地した。
それは、逃げるには十分な程に開いた距離。
にも拘わらず、コートの男はその場から動かずに大きく後ろを振り向きながら──
『漆黒の闇よ、我が手に集いて、敵を切り裂く刃となれ! ──闇の上級魔法、《獄闇剣》っ!!』
右手に発現させた大剣で、背後から斬り掛かった俺の《アイン・ヴァイス》を受け止めた。
「フンッ。まだそれだけの魔力が残っていたか」
「いやいや、何で上から目線? 後ろから襲い掛かる卑怯者のくせに」
「何と言われても俺は、気にしないさ。七名家の人間が求めるのは手段ではなく結果だからな」
「……名言だね。それも、とても見栄を張った」
「……何だと?」
「見栄っ張りって言ったんだよ。もしくは、強がりとも言うかな」
「何を言ってやがるっ!」
流石に《光子鋭刃》では上級魔法が切れないのか、俺たちは互いに一歩も引かないまま鍔迫り合いを続ける。
力では幻霊装機を使う俺が若干勝っているが、技量ではコートの方が上手なため、この拮抗が崩れそうにはない。
だからこそ始めた舌戦だったのだが、俺の方が先に声を荒げてしまった。
そんな俺を見たコートの男は、口の端を軽く上げて言葉を続ける。
「君たち七名家の人間は気取りすぎだ。本当に手段ではなく結果を求めていたなら、黄道先輩が倒された時点で《着装重奏》を使っていれば良かったんだよ」
「……余裕の表れだと思わないのか?」
「じゃあ、それを使っている時点で余裕無しって言ってるようなものじゃない?」
「──っ!?」
「それに、余裕は相手を挑発するために見せた方が良いよ? 僕が思うに、君たち七名家の人達の言う“余裕”の95%は“驕り”の間違いだと思うから」
「くっ……黙れっ!!」
「ほらほら、余裕が無いよ~っ、と」
コートの男の言葉を聞いた俺は頭に血が昇り、強引に《アイン・ヴァイス》を振り払って鍔迫り合いを中断させようとした。
が、俺はすぐにそれが失敗だと気付く。
コートの男が、嗤ったのだ。
「──短慮なのは、昔からの光輝の欠点だよ」
「な、に……?」
俺が、コートの男のその呼び方に動揺した瞬間。
軽く向きを変えた《獄闇剣》の輪郭に沿うように、《アイン・ヴァイス》の斬撃が上に向かって放たれる。
──勿論、勢い付けていたために、ここからは防御行動は取れない。
(──────しまっ、た)
後悔するも時既に遅く。
俺の意識を刈り取ろうと、俺の首元にコートの男の右足が伸びてきて──、
「──させないっ!」
「なっ!?」
──突如、俺の脇下から現れた紅い何かが、コートの男の蹴りを防いだ。
それは、《焔天苛》の石突。
俺は、コートの男と距離を取りながら、振り返らずに焔呪に向かって叫ぶ。
「最高だァ、焔呪っ!」
「とっとと決めなさい、光輝っ!」
心の中で、当たり前だっ! と焔呪に返しながら、《陽光聖装》の手甲を顔の横まで持ち上げ、その甲に浮かぶ純白の紋章を左手で押し込んだ。
(これで……あのムカつく野郎を斬り飛ばすっ!)
純白の魔方陣が《アイン・ヴァイス》の柄に展開し、その刃が太陽の如く光輝いたのを見た俺は、《アイン・ヴァイス》を大きく振りかぶりながら、叫んだ。
『煌く陽の光を浴びて、光輝け俺の剣! ──光の特異魔法、《陽光纏う光撃剣》っっっ!!』
「くぅぅっっっっっ!!!」
魔法陣から零れ出た陽光を纏い、二回り刀身が巨大化した《アイン・ヴァイス》を、思い切り振り下ろす。
コートの男も、咄嗟に《獄闇剣》を持ち上げて受け止めようとする。
交差する剣と剣。
ぶつかり合う純白と漆黒。
その力が拮抗したのは、僅か一瞬にも満たない時間のみ。
《陽光纏う光撃剣》は、《光子鋭刃》でもビクともしなかった《獄闇剣》をいとも簡単に斬り裂き始めたのだ。
それを見たコートの男は、口元を苦悶の表情に歪めながら、喉の奥から搾り出すように言った。
『──闇の中級魔法、《影鋭刃》っ!』
「多重展開っ!? ──けど、無駄だっ!」
《獄闇剣》の柄から漆黒の魔法陣が展開され、《影鋭刃》で剣の強化は成功したが、その程度では《陽光纏う光撃剣》が減り込む速度を多少遅くした程度に過ぎない。
だからこそ、俺はそう言ったのだが……続くコートの男の言葉に驚愕する。
『──────“魔響……共鳴”っ!』
「なぁっ!?」
“魔響共鳴”。
それは、同属性の魔法同士を組み合わせて発動する魔法で、その威力は掛け算の要領で跳ね上がっていく高度な魔法だ。
それも、一人で二つ以上の魔法陣を同時に展開出来る人間は少ないので、通常は二人以上で行うようなモノ。
……それを、コートの男は、一人で発現させた。
『──闇の等級外魔法、《幻闇の漆黒剣》っ!』
「バカなっ!?」
俺が驚愕の声を上げると同時、コートの男が握っていた《獄闇剣》が一新され、《アイン・ヴァイス》によく似た大剣に形を変える。
そして……力が拮抗した。
「くっ、ぅぅぅううっ!」
「──ぁぁぁああっ!」
再び始まる鍔迫り合い。
優勢は……認めたくないが、コートの男の方にあった。
「くぅっ!」
一歩ずつ、徐々に後退させられ始める。
相手の体が、異様に重い。
多分、あと十秒もしたら、この拮抗が崩され、目の前の漆黒の大剣が俺に襲い掛かってくることだろう。
………………だが、しかし。
俺は、再び口の端を持ち上げて、小さく呟いた。
「………………これで、勝ちだっ!」
「え? ──────っまさか!?」
その時になって、コートの男は俺が見ているモノに気付いたようだ。
俺が見ているのは、コートの男でも《幻闇の漆黒剣》でもなく……奴の影。
俺の狙いは元より、この影を作り出す事だった。
長く伸びた影の端に立った黒鏡先輩が、その影に《ブラック・ファング》を叩きつけ、言った。
『漆黒の闇よ、影を縛りて、憎みし敵を屈服させろ。──闇の上級魔法、《獄闇呪縛》!』
「くっ……!!」
影に漆黒の魔法陣が展開され、そこから伸びた闇の触手が、コートの男に突き刺さる。
次の瞬間、影を通じて“呪い”を掛けられたコートの男は、力が抜け落ちたように地に膝を着いた。
そんなコートの男の首に《アイン・ヴァイス》を突き付けながら、俺は言った。
「勝負、アリだ……!」
□□□
勝負に決着が着き、《獄闇牢獄》が解除されたのを見た私──神白 白亜は、蒼刃理事長と鈴木教頭を庇うようにしながら、床に転がされているコートの男に近付いて行く。
椿は、倒れている雷牙くんと嵐華ちゃん、それに我考くんの方に介抱しに向かっている。
雪姫は……何故か司会をしていた時と同じ位置でずっと立ち続けているが、それは気にしないことにしておく。
今は、それ所ではないのだ。
天下の幻奏高校の入学式に乱入し、僅か数分で七名家の人間を三人も倒した前代未聞の罪人が目の前にいるのだ。
些細なことは気にしていられない。
コートの男は今、《獄闇呪縛》の“呪い”に加えて、《闇縛》で物理的に縛られた状態で、床に胡坐をかいている。
その首には、まだ《アイン・ヴァイス》が押し当てられていた。
幻霊装機を解除した闘鬼くんが、そのコートの男に聞く。
「貴様……一体何者だ?」
「その問いに、僕が素直に答えると思うの?」
「……分からんな。先程の貴様との闘いを思えば、命の危険に晒されたこの状況でも、貴様は平然と嘘を吐きそうだ」
「いやいや、そんなことはないよ? 僕だって命は惜しいからね。本当に命に危険があるなら、僕だって正直者になるさ」
「……何?」
「お前、それはどういう意味だっ!?」
コートの男の言葉を聞いた私の弟──光輝くんが、コートの男の襟首を掴み上げる。
しかし、コートの男はその口元に薄ら笑いを浮かべたまま言葉を続けた。
「──別に、他意は無いよ? 今、言ったことは全て真実さ」
「なら、もう一度だけ聞く! お前は一体何者なんだっ!?」
《アイン・ヴァイス》の切っ先を喉元に突き付けながら、まるで恐喝するようにコートの男にそう聞く光輝くん。
コートの男は、それでも薄ら笑いを消さずに問いに答える。
「僕? 僕の名前は田中 太郎。二十歳で無職で独身だよ♪」
「──────っ!!? お前っっっ!!」
その言葉を聞いた瞬間、壇上にいるメンバーからコートの男に向けて強烈な殺気が放たれた。
……が、それでもコートのは口を動かし続ける。
「ほらほら、お茶目なジョークでそんなに怒らないでよ。七名家の人間なら、もっとクールに、余裕を持って行動を取らないと」
今の言葉で確信が出来た。
この男は、本気で七名家の人間を舐め切っていると。
……こんな屈辱は、生まれて初めて受けた。
周りの人間もそう思ったのか、光輝くんと焔呪ちゃん、それと何故か鈴木教頭までコートの男に襲い掛かろうとする。
だが、次の瞬間、そんな鈴木教頭を見たコートの男が驚愕の言葉を発した。
「ちよっと~、やめて下さいよ、鈴木教頭~。僕をけしかけたのは、アナタでしょ~?」
「「「何っ!?」」」
その言葉を聞いた光輝くん、闘鬼くん、焔呪ちゃんが一斉に動きを止めて、鈴木教頭の方に目を向ける。
その視線を受けた鈴木教頭が、慌てふためきながら言った。
「なっ、何をバカなことを言うっ!? わ、私はお前みたいなヤツのことなんか知らないっ!」
「え~、うっそ~。冗談言わないで下さいよ、鈴木教頭。わざわざ妃海さん……蒼刃理事長に噛み付いてまで仕組んだのに」
「なっ!? ──そ、それは本当なのですか、理事長?」
コートの男の言葉を聞いた私は、思わず隣に立っていた理事長にそう問いかける。
一瞬の沈黙。
蒼刃理事長は、諦めたように口を開いた。
「……確かに、今回の事件の発端は鈴木にあり、私もそれを許可していました」
「──っ!? な、何故です、理事長っ!?」
「──それは、彼が特別だからです」
「特、別……?」
「えぇ。彼の正体を知れば、貴方達も納得出来ると思いますよ」
「こいつの、正体……」
理事長の言葉を聞いた光輝くんが、再びコートの男に視線を向ける。
それに気付いたのか、コートの男が光輝くんに言う。
「ねぇ、お願いなんだけど。僕のフードを取ってくれる、光輝?」
「──フザけんなっ!?」
光輝くんは、そう言いながらもコートの男のフードを乱暴に剥ぎ取った。
そして──、
「なっ……!?」
「嘘っ……!?」
「貴様は……っ!?」
その顔を見た光輝くん、焔呪ちゃん、闘鬼くんが驚愕の表情を浮かべる。
コートの下から現れたのは、地面に着きそうな程長い純白の髪と、同色の瞳。
まるで、処女雪のように白い肌。
そして、下手をすると少女と見間違えてしまいそうな程中性的で、絶世という形容詞がよく似合う美貌。
その顔を見た瞬間、私の頭の中は真っ白になった。
椿ちゃんも、絶句をしている。
そんな中、焔呪ちゃんが掠れた声で呟いた。
「……光……輝………………?」
そう。
フードの下から現れたのは、私達の前で呆然と立ち尽くす光輝くんと全く同じ顔だった。
……だけど。
(……違う)
「違うね」
コートの男が焔呪ちゃんの言葉を否定すると同時、私は心の中でそう呟く。
彼は、光輝くんじゃない。
彼は──、
「──僕は、神白 銀架。召喚士になれなかったから捨てられた、神白の劣等種だ」
──彼は、私のもう一人の弟だ。
「も~、光輝ったら、実の兄に向かってお前はないでしょう?」
「っザけんなっ!! 誰と誰が兄弟だと──」
「──ねぇ? 質問はもういいの?」
「それは一体どういう意味だ?」
「──総合得点は七百点。つまり、一位タイだ」
「えぇ、そうよ。鈴木が提案した試験を、私が認可したわ」
「………………………………なら、俺達の勝ちだ」
『……純白の光よ、我を惑わす幻影を消し去り、正しき道を示し給え。──光の上級魔法、《幻影払拭》』
「──────コ・コ♪」
次回、“第十二話 常識外れのEntrance examination”
「……僕が持っているのが、サインペンじゃなくてナイフだったらどうなるかな?」




