第十話 フードの奥のBewitching smile(中編)
久々の投稿です。
挿絵募集中です。
「《真闇の滅呪夜想曲》……?」
目の前にいる黒鏡先輩の言った単語を聞いた私──翠裂 嵐華は、その言葉を呟くように反駁する。
私の前で幻霊装器《焔天苛》を構えた真紅のツインテールの少女──紅城 焔呪ちゃんもその単語に聞き覚えがなかったのか、コートの男から目を離さないまま、黒鏡先輩に質問をする。
「黒鏡先輩! そのレイ・ダークネス・ナントカって、一体何なんです?」
「……《真闇の滅呪夜想曲》。最上級闇属性魔法の中でも特に有名な、“目覚めない眠りの呪い”だ」
「目覚めない、呪い……」
「あぁ。掛かれば三日もせずに死ぬという、厄介なオマケも付いている」
「「………………っ!?」」
黒鏡先輩のその言葉を聞いた私と焔呪ちゃんは、思わず息を呑む。
黒鏡先輩のすぐ後ろで幻霊装機《アイン・ヴァイス》を構えていた神白 光輝くんも、一瞬顔を歪め、そしてすぐに《アイン・ヴァイス》の柄にある発現珠から純白の魔方陣を展開させる。
「光輝っ!?」
「黙ってろ、焔呪! “解呪”に集中するっ!」
「「「っっっ!?」」」
思わず声を出してしまった焔呪ちゃんに対する光輝くんの答えを聞いた私達は、揃って息を呑んだ。
どうやら、光輝くんは無謀にも《真闇の滅呪夜想曲》を解呪するつもりらしい。
そんな彼の姿を見た私達は、一瞬呆け、しかしすぐに自分達も解呪の魔法の準備を始める。
諦めない光輝くんの姿に感化された、なんてことはない。
彼がどこまでも打算と自分の欲の為だけに動くことは、七名家の人間なら誰でも知っている。
しかし……だからこそ、彼がこうして解呪に向かうと言うことは、何かしらの策があると、私達は踏んだのだ。
……彼の行動が、自分の力の過信と、恐怖によって起きた計算ミスから来るモノだと知らずに。
もし、ここでコートの男が、本当に《真闇の滅呪夜想曲》を使ってきたのなら、間違い無く私達は死んでいたのだろう。
しかし、不幸中の幸いにも、彼はその魔法を使わなかった。
……が、結局の所、不幸中の幸いというのは、やはり不幸なことに過ぎない。
『──火の中級魔法、《炎十字架》!』
『──風の中級魔法、《大気十字架》!』
『漆黒の闇よ、十字を描きて、這い寄る恐怖を打ち払え。──闇の上級魔法、《獄闇聖架》!』
『純白の光よ、十字を描きて、這い寄る恐怖を打ち払え。──光の上級魔法、《聖光聖架》!』
四人同時に、最大限の魔力を込めて“解呪”専用の魔法を展開させ、《真闇の滅呪夜想曲》に対する準備を終えたその瞬間──、
──コートの男は、嗤った。
「「「「──────っっっ!!?」」」」
私達がその笑みの意味を理解するよりも早く。
コートの男は、言った。
『──闇の中級魔法、《影騎槍》!』
その言葉とともに、彼の右手の魔方陣より後ろから影で出来た円錐形の槍が飛び出し、私達の方に向かって飛び出す。
運が良かったのか、はたまた一般の召喚士よりも実戦経験を積んでいたおかげか、私達は辛うじてその攻撃を避けることが出来た。
けど、もう手遅れだった。
彼の出した魔法陣は……彼の唱えた精霊言語は、全てブラフ。
それも、光輝くんが精霊言語という存在を、黒鏡先輩が《真闇の滅呪夜想曲》という魔法を知っていることを見越した上で、コートの男はそう演技をしていたのだろう。
『──闇の初級魔法、《闇弾》』
……また騙された。
そう心の中で呟いた次の瞬間には、私の意識は奪われた。
本当に……面白可笑しくて仕方がない。
『世界に降り注げ。全てを純白く染め上げる、残酷なまでに聖なる光よ……』
「まさか……上級魔法を受け止めたのっ!?」
「──よくやったァ、焔呪!」
「見栄っ張りって言ったんだよ。もしくは、強がりとも言うかな」
『──────“魔響……共鳴”っ!』
「えぇ。彼の正体を知れば、貴方達も納得出来ると思いますよ」
次回、“第十一話 フードの奥のBewitching smile(後編)”
『──────《着装重奏》ッッッ!!』




