世界樹の枝の上でアイスクリームを食べる
甘いクリーム スプーンにたっぷり
あなたの口へ つっこむわ
愛して クリーム アイスクリーム
口ずさみながら、女の子がボウルいっぱいのアイスクリームを混ぜた。
「なんだその歌は」
たっぷりのクッションにもたれて、けだるげに上体だけ起こしている男がツッコミを入れた。
「地球で見つけました!恋の歌らしいです!」
そう言いながら、ボウルのアイスクリームをスプーンに取った。
「はい、師匠!」
「食べない…むがっ」
言い終わる前に、その口にスプーンを突っ込んだ。
「このためにアイスクリームも作ったんですよ!」
得意げに少女は胸を張る。
きれいな水色のツインテールも一緒に揺れる。
「……お前は相変わらず地球が好きだな」
「面白いじゃないですか、あの世界」
そう言いながら手はまたアイスクリームをすくい取り、師匠と呼んだ男の口に運ぶ。
2回ほどそれを繰り返してから、男は口元を拭った。
「もういらん」
「はぁい!」
少女はおんなじスプーンで、自分も食べ始めた。
ギャーは自分の名前はギャーだと思っている。
自分を見た人間たちが、「ギャー!」というからだ。
ギャーは生まれたとき、手も足も顔もなかった。
母親はその肉の塊を見て叫び、捨てろと命じた。
近くの森に捨てられたギャーは、そのまま死ぬはずだったが、魔力だけはたっぷりあったので、周りから命を吸い取って生きながらえた。
森には気味の悪い化け物が住んでいると村の人々は恐れ、近寄ることはほぼなかった。
ところが旅の冒険者が、化け物を退治してやろうと森へやってきた。
ギャーはすぐに見つかった。
警戒心などなかったから。
そして剣を突き刺され、痛くて悲しくて苦しくて、気がついたら冒険者は死んでいた。
冒険者が殺されたので危険だと、もっと人がやってきた。
ギャーは森の奥へ奥へ逃げた。
どうして、どうして。
人と育たなかったギャーは、悪意というものが分からなかった。
疲れ切ってもう動けなくなったとき、ギャーのそばに一人の男が立っていた。
「ほう、ヒルコが自力で生き延びたか。珍しい」
ギャーは目もなかったけれど、魔力で周りを『視る』ことができた。
男の人は、細くて長身で、白く長い髪をしていて、とてもきれいな顔をしていた。
「面白い。お前に身体をやろう」
男の人がそう言うと、ギャーは小さな女の子になった。
「名前もいるな」
そう言われて、ギャーは答えた。
「ギャー」
ギャーが初めて出した声だった。
「ギャー?それがお前の名前か?」
ギャーはこくこく頷いた。
「その名前では不自然だ。新しい名前をやろう」
人間らしい身体になったが、うまく動かせず舌もまわらず、うーうーと小さく唸った。
「よし、お前は今からルールーだ」
とても適当な命名だったが、ギャー改めルールーはまったく気にしなかった。
「うーうー」
「俺のことはそうだな、師匠とでも呼べ」
「うー」
師匠はルールーを抱き上げると、そのまま歩き出した。
それから2人は世界中を旅して回った。
その間に人間の国がいくつも興されては滅び、時には魔族と争い後に不可侵条約を結んだりと色々あった。
そのうちに人間は、他の星まで行けるようになった。
他の星には人間ではない知的生命体もいて、そこでも交流したり対立したり色々あった。
師匠とルールーはいつも、コソッと人間たちに混じってなに食わぬ顔でそれを眺めていた。
それから星もたくさんなくなって、ある日、師匠は言った。
「ふむ、そろそろこの世界も寿命が来たようだ。一つの世界にこれだけいたのは久しぶりだった」
傍らのルールーを見た。
ルールーの外見は、10代くらいの少女で止まっていた。
中身もあんまり変わっていなかった。
「お前はこの世界の生き物だ。世界とともに消えるだろう。ともに旅をするのもここまでだ」
「師匠と離れるのはイヤです!」
「お前が嫌でも、この世界で生まれ、この世界と繋がっているのだ」
師匠も、ほんの僅かに情のようなものは芽生えていたが、これ以上連れて行くことはできない。
『そういうもの』だからだ。
「ここまでだ。ではな」
あっさりと、師匠は消えてしまった。
ルールーがどれだけ探しても、世界に師匠の気配は見つからなかった。
いやだいやだいやだ
置いて行かないで師匠
師匠師匠師匠
世界が終焉を迎え、静かに消えていっても、ルールーはひたすら師匠を呼び続けた。
師匠師匠師匠
置いて行かないで
師匠
師匠
師匠
世界が消えたあとの何もない世界に、ルールーは漂っていた。
生きているのか死んでいるのか、どちらでもない状態で、でもその中にあるのはただ師匠を呼ぶ声だけ。
「世界が消えても超えて来たか。本当にお前は面白い」
懐かしい声がした。
「師匠!!」
別れたときと同じままの姿で、師匠が立っていた。
「師匠!置いて行かないで」
ルールーは師匠にしがみついた。
「ここまで追ってきたなら、連れて行くしかあるまい」
そうして、初めて会ったあの日のように、師匠はルールーをひょいと抱え上げた。
とてもとても大きな木があった。
「世界樹と呼ぶものもいる。ここが本来の俺の居場所だ」
ルールーを下ろすと、師匠は適当に横になった。
「今からはお前の居場所もここだ」
ルールーは師匠に抱きついた。
「師匠!大好き!」
「なんだ急に」
呆れたように師匠は言ったが、ルールーは嬉しいでいっぱいだった。
そのあとは、いろんな世界を覗いたり、たまに中に入ったり、次元の狭間で迷子になっているものを見つけたりしながら、ルールーは師匠のそばで楽しく暮らしている。
愛して クリーム アイスクリーム
ルールーは歌いながら、アイスをまた口に放り込んだ。
歌詞、いにしえのボカロ風だなぁと思いました。
ルールーのビジュはミ◯さんなのは内緒。




