証拠がない?
わたしは、鍵店に勤務している。
主に職種は、あかなくなった鍵の修理なんかを担当している。
基本的には、錆びついてしまった南京錠をどうにかしてほしいとか、裏屋根に置いてあった金庫をあけてほしいなどを、仕事としている。
明日の仕事はというと、ないようであると言った感じだ。
どういうことだろうと思われるが、正確には、明日は休みなのだ。
しかし、知り合いの知り合いが金庫をあけてほしいということだったので、急遽ボランティアで、鍵をあけに行くこととなっていたのだ。
場所も、車で三十分ほどだったのでさほど遠くもない。
まあ、初めて伺う場所なので少し迷ってしまったが。
その際、車でゆっくり徐行して曲がる場所を確認していたとき、険しい表情の女性をみかけた。
手ぶらで、あんなに急いでどこへ向かっていたのだろう?という、不信感が少しあった。
しかし、そんなことを気にしている場合ではない。
約束の時間が迫っているのだから。
やっと目的地につくと、庭の広いお屋敷がみえた。
おお、なんと立派なお屋敷なのだろう。
これは、さぞかし立派な金庫があるに違いない。
自分には、全く関係ないが金庫からお宝が出てくると、なぜか心躍る。
なかには、からっぽだったりもして、やっとあいたのにとガッカリする依頼者も少なくない。
車を降りて、インターフォンを探した。
大きい敷地だと、門をくぐる前だったりもするが、車で敷地まできてしまったので、一度門の外に出て、インターフォンを探した。
ここには、なさそうだ。
ふと、お屋敷に目をやると…
ガラッと窓がしめられた?
一瞬、家主さんと目があったっぽい。
しかし、一瞬で、人影が部屋の中へと消えた。
家主さんは、ぼくのことに気づいていないようだったのかな。
車のエンジン音も、さほど大きくない静かな車だからな。
仕方なく、またインターフォンを探すと、玄関の入り口のすぐそばに、インターフォンが置かれていた。
やっとみつけた。
広いお屋敷を、少し歩いて軽く息切れがおきた。
もう、としをとるとすぐに疲れやすくなる。
四十後半の自分の老いを感じながら、インターフォンを鳴らした。
…
おかしいな?
さっき、お屋敷にだれかいたはずなんだけど…
もしかしたら、今は手が離せないのかなと考え、しばらく待っていた。
しかし、なんの物音もせずにシーンとしている。
どうしたのだろうか?
約束の時間なはずだよな?と、腕についている時計をみた。
うん、やっぱり約束の時間ぴったりだ。
いつもは、少し早めにお客様のお宅へ伺うが、今日は休みってこともあり、少々油断していた部分もあった。
もう一度、インターフォンを押してみた。
さっき、家主さんをみたのだから、いるのは間違いないだろう。
しかし、どうしたことだろう?
物音すらしない。
まさか‼︎
まさか、家主さんが倒れてる⁉︎
慌てて、玄関のドアを叩いて
「大丈夫ですか?もしかして苦しいですか?救急車呼びましょうか⁉︎」
と、大きな声で中まで聞こえるように問いかけた。
するといきなり、玄関に人影があらわれた。
ガラッ
玄関がひらくと同時に、家主さんが立っていた。
とてもかたい表情の男性だった。
としは、自分とそう変わらない感じだ。
…
時間とはいえ、ちょっとあつかましい訪問になってしまったのでは?と、少し反省した。
どなたかと、電話していたのかもしれないし、なにかしら手が離せない用事があったのかもしれない。
なのに、しつこく呼んでしまったことを第一声にお詫びした。
「お約束の時間とはいえ、何度もインターフォンを鳴らしてしまい、申し訳ありません」
と。
すると、家主さんは
「あ、ああ。そうでした。お約束の時間…ですね。すっかり忘れておりました。さあ、どうぞ」
と、まず居間に案内された。
外観同様、立派なお屋敷だ。
居間には、どっしりと構えた立派なテーブルがあり、フカフカそうな座布団が敷かれていた。
「さぁ、どうぞお座りください」
言われた通りに腰をかけると、思った通りのフカフカな座布団だった。
フカフカな座布団を堪能していると、家主さんが
「せっかくお越しいただいたんですが、わたくし、あいにく時間がありませんので、手短かにお願いいたします」
と、おっしゃった。
なので、すぐに作業に取り掛からねばと、場所は、どちらに?と伺うと家主さんは、
「ああ、修理でしたかね?」
と、なぜか疑問系で尋ねてきた。
知り合いの知り合いだったので、依頼者が男性なのか女性なのかも聞いていなかった。
もしかしたら、奥様が依頼者なのかもしれない。
その奥様が不在らしいので、改めて事をお話しした。
すると、家主さんは一瞬驚いた顔をしたかと思うと、キョロキョロとしだし、
「こちらです」
と、案内してくださった。
なんだろう?
金庫には、みられてはまずいものでも入っているのだろうか?
案内されて、ついていく途中になぜか軍手が二枚落ちていたのが、少し気になった。
庭仕事でもしていたときのものかな?
お屋敷には、たくさんの木々が丁寧に整えられている。
「お庭広いですね」
「あー、ええ」
「ご自分で、お手入れなされているんですか?」
「まさか」
…
では、あの軍手は…
「こちらです」
⁉︎
想像以上に大きな黒い金庫だった。
少し錆びてはいたものの、この金庫ならそんなに手こずりはしないだろう。
「では、はじめさせていただきますね」
「よろしくお願いします」
家主さんは、やる事があるので少しこの場から離れるとおっしゃられた。
時間があまりないということなので、なるべく急がなければ。
慌てて工具を取り出して作業を開始して数分後、インターフォンがなった。
二度ほど。
家主さんは、もしかしてお耳が遠いのでは?
「インターフォンなっておりますよー?」
シーン
家主さんは、どうしたのだろう?
作業をとめて家主さんを探すと、勝手口があいていた。
そして…
先ほど落ちていた軍手がない。
…
家主さんは、庭仕事しないとおっしゃっていたけど…
盆栽もいくつかあったし、やっぱり庭でお手入れをされているんじゃないかと、訪問客にそれを伝えようとして、玄関をあけると、立っていたのは…警察?だった。
そして、なぜかぼくは取り押さえられた。
え…
一瞬、頭の中が真っ白になった。
あっという間に、身柄を確保されたぼくは…
不法侵入の疑いをかけられた。
「ここで何をしていた」
「金庫を…」
警察官二名が、やっぱりと言った顔で顔を見合わせていた。
「あの…ぼくは、頼まれて金庫をあけていただけです」
「共犯者だな」
…
「いえ、きちんと家主さんからのご依頼で…なんなら、家主さんに玄関に入れてもらったんですよ?男性の方に」
「…いません。主人は、今出張でいません」
か細く震えた女性が、警察官の後ろから声を発した。
この女性は…
まさにこのお屋敷に向かう途中にどこかへ急いで向かっていた女性だった。
…
「え、じゃあ…あのかたは?」
「もし、あなたのおっしゃることがほんとうならば、その人はたぶんここの住人では、ないでしょう。」
⁉︎
「では、あのかたは…」
「たぶん、空き巣です」
…
ぼくは、さっきまで泥棒とこの部屋で二人きりだったというのか?
「もしかしたら、勝手口から逃げたのかもしれません。」
一人の警察官が、どこかになにやら連絡をしていた。
「あの、ぼくはこれからどうなりますか?」
「そうですねえ、まずほんとうに空き巣ではない、証拠があればすぐに帰れます。」
…
証拠…
そもそも空き巣は、逃げてしまったし…
犯人は、軍手をしていたであろうから指紋もない…
そしてぼくも…
本来なら仕事であれば、依頼履歴があるので、会社に問い合わせてもらえば、すぐに解決だ。
しかし、今回は…ボランティア。
知人の知人からの紹介なので…
あぁ、終わった。
そう思った瞬間、どこからともなく音楽が鳴り響いた。
「わたしの携帯です」
女性が電話に出ると、ぼくが無罪証明がされた。
そもそも、依頼者は旦那さんで昨日出張からかえり、本日たちあいだったのだけど、仕事でトラブル対応していたら、連絡が遅れたとのことだった。
こうして、無罪になり改めて別の日にお邪魔することとなった。
金庫は、からっぽだった。
空き巣に入った犯人は、あの後すぐに捕まったそうだ。
家主の女性は、あの日庭にお勝手口からでていたところ、家に人影がみえて、慌てて近所に逃げたところだったらしい。
とりあえず、皆無事でなによりだ。
おしまい。




