第9話 朝ごはん
次の日、まだ慣れない部屋で目を覚ますと見知らぬ、なんてことはないまだ慣れることない天井が出迎えてくれる。
ベットから出て時計を確認すると6時半を時計の針が指している。
マラはまだベッドの中で寝ており、すうすうと寝息をたてている。
ここで現状の整理をしよう。
今は朝の6時半、学校までは徒歩で30分。入学式開始が8時である。
これは急いで準備をしないと間に合わなそうである。
朝ごはんを作り、食べて学校に行く準備をしたらあら不思議、7時半である。
「おい、起きろ」
「...」
この迦微一向に起きる気配がない。
仕方がないので自分だけ一階へと降りる。
パジャマ姿だがこれから朝食を作らなければいけないので些細なことは気にしていられない。
台所へと向かうと一人がそこに立って調理をしていた。
髪色は紫で目元まで髪が伸びているため、目を見ることができない。
そもそも元から人の目を見て話すことなどあまりないのだが。
「おはようございます」
「...ヒャ、おはようございます」
「ご飯を作っていたんですか?」
「あっ、そうです。親がいないので自分で作らないといけないと思って」
「みんなのも?」
「そうです」
「ありがとうございます。できることがあれば何か手伝いますよ」
「でしたら机を拭いてくれると助かります」
「台拭きってあります?」
「あ、すみませんこれです」
そう言って、もらった台拭きで机を拭き始める。
よくもまあここまで名前も知らない赤の他人と自然に接することが出来ることだ。
そう思いながら机を拭き終わり、食器棚から5人分の食器を取り出す。
すると後ろからふいに声をかけられた。
「...昨日とは人が違いみたいですね」
「そうですか?」
「はい。昨日はもっと荒々しかったと思います」
「いやはや、僕、疲れてしまうとああなってしまうんですよ。とりつくろうことが難しくなるんです」
「そうなんですね。だから一人称も」
「そうなんですよ。初めての土地で見知らぬ人とずっと一緒だったので」
「私と一緒ですね。私も緊張でうまく喋らなくて、あの二人は大丈夫だったんですけど、男性のかたとは...」
「ならなぜ急に?」
「昨日、自分の性格もあいまって自己紹介ができなかったので今日なら大丈夫かなと」
「で、僕の名前を聞きたいと。そういうことですか?」
「はい。その...なんて呼べば良いのかわからないのいで」
「それはぁ、...学校でということでだめでしょうか」
「...わかりました。ですけど、その、なぜそんなに名前を教えたくないんですか?」
彼女の問いに対して最初から決まっている何の変哲もない解を返す。
「単純ですよ。ただ単に自分を知らない人たちと一緒に一夜を過ごしたらどういう反応をするのか気になっただけです」
「.........と、特別な感性をお持ちなのですね」
「変に取り繕わなくて大丈夫ですよ。中学の人たちに変だとしっかり言われ慣れていますので」
「そうなのですね。わかりました」
会話をしながら朝ごはんの準備を終えたので、パジャマを着替えるために自室へと向かう。
戻り際に他の人も起こしてきてください、と言われたのでパジャマから着替えマラの肩を揺らす。
男性なのか女性なのかはしらないが妙に女性らしい体つきに込める力が弱まってしまう。なのでとりあえず本の角部分で額と思われる部分を叩いてみる。
「だから、起こすたびに額を角で叩くのはやめろ。凹んだらどうする」
「痛みは」
「ない」
「なら良いじゃないですか」
「殺す気じゃなくてもいつか人を殺すぞ」
「安心しろ、こんな起こし方は多分お前にしかしない」
「なら、良くない」
「とりあえず一階に降りて飯を食え」
そう言って部屋から出て他の人達をノックして起こす。
「これで起きなくても文句は言われないよな」
階段を降りながらどう保身をしようと考えながらリビングへと戻る。
するとそこには椅子に座っているマラと朝話をした人物がマラへと朝食を持ってきていた。
「一応はノックをして起こしたつもりだ」
「部屋へは入らなかったんですね」
「一応、出会って一日の見ず知らず人に部屋に入られても困るでしょうし」
「こいつ変なところの常識はあるんだよ」
「それが僕ですからね」
「あはは、中のいいコンビですね」
乾き笑いで返してくる。
マラの距離感にまだ慣れていないのだろう。会話の仕方は人それぞれの距離があるように、詰め方もまた人それぞれだ。
自分もマラとの付き合い方には困ったものがあった。
「流石に7時15分に出れれば余裕を持って学校につくかな」
「あ、15分に出るのでしたら私もご一緒してもいいですか?」
「良いですよ、減るようなものでもないので」
「話し相手が増えるのは嬉しいな。こいつ、いつも一人だったからな」
「お前のことが他の奴らに見えないからな」
「それに関しては私も同じですね」
他愛のない話をしていると階段から降りる音が聞こえてきてリビングのドアが開く。
するとボサボサの前髪のせいで顔が見えない、薄緑色の髪の前髪にできる浮間が、かろうじてメガネをつけている事を教えてくれる人物が入ってきた。
「おはようございます」
「おはよう。...貴方も起きていたんですね」
「顔を合わせてそうそう、朝から嫌悪の目を向けるのはやめてください。昨日ので警戒は解けたんじゃないんですか」
「いいえ、昨日は謝っただけで警戒は解いていません」
「なぜ僕が信用されていないのかはこの際おいておきますけど、早く食べて準備しないと間に合いませんよ」
用意した箸に手をつけて両手を合わせながら食事への感謝をし白米をつつく。
マラやもう一人はすでに半分ぐらいの量を食べ終わっており、この人と話をしたせいで食べるのが遅くなってしまった。
「ご忠告ありがとうございます」
「忠告とかではなくただの現状です」
目が笑っていない笑みを向けられながら食べていると、また階段を
降りる音がする。
今度は焦っているのかどたばと急いで降りてきているようだ。
「「おはようございます!」」
赤髪と黒髪が降りてきて、二人して息を切らしている。
朝から元気な二人だ。
「朝ご飯ならできてますよ」
それを聞くなり二人は素早く椅子へ座り手を合わせる。
「いただきます」
そう言って朝ごはんに手をつけた。
かく言う自分は食べ終わって紫髪の人物と後片付けをしている。
「そういえば、朝ごはんって誰が作ってくれたのかしら」
「確かに、後でお礼をさせてもらおう」
ご飯を食べている二人を横目に洗いを割った食器を布巾で吹いて食器棚へと戻していると、突然、固定電話に着信がきた。
急いで手を拭いて電話に出ると、昨日聞いた声の人物だった。
「お、出たな。あと十分くらいでその家でないと学校に間に合わないからな」
「静さん、モーニングコールにしては遅いかと」
「そのこえ声は昨日のガキか」
「自分の生徒に対してガキはないんじゃないですか」
「なら君も私を先生と呼べ」
「まだ何も教わっていないので、あって一日の人を先生と呼べるほど僕は従順じゃありません」
「ひねくれているな、まぁどちらにせよ全員起こして学校に来い」
「一応、全員起きていますよ」
「なら遅刻はするなよ」
そう言い残して電話は切られた。
後ろを振り返ると、全員が何の会話だったのかを聞きたそうな顔をしている。
「静さんからです。学校には遅れるなと」
「静さん、て誰ですか?」
「どうも僕達の担任になる人みたいです」
「あったことあるんですか」
「昨日、学校の教室で」
「昨日学校に行ったんですか?」
「はい。皆さんは」
続きを言おうとしたところで気づく。
他の人の顔が驚きの表情を見せていることで学校には行っていないことが確定した。どうやら昨日、僕だけが学校に行ったようだ。
このことは学校についてから静さんにでも聞いてみるとしよう。
朝食を終えて各々支度をして家を出る。
集団で登校、ではなくバラバラで家を出たので少なくともマラと自分は集団になることはなかった。
歩きながらここがなかなかの田舎だということに気づく。
見渡す限り田んぼというわけではないが、建物はあれど都会とは言うことはできない。
歩いて30分ほど、ようやく学校が見えてきた。自転車が使えればもっと楽だろうが、ルームシェアなので置き場所があるかわからない。
学校について靴を履き替え四階へと向かう。なお、四階につくまで他の生徒を見ることは無かった。
四階の教室へ入ろうとすると一番早く着いたので電気はついてはいるが誰もいない。
机にはってある名前付きのシールを探して荷物を床に置くと、教室のドアが開く。
「なんだ、思ったより早いじゃないか」
入ってきたのはルームシェアをした人物たちではなく昨日夕焼けの廊下であった担任、静さんだった。
「おはようございます。早いですね。いつもこのくらいですか?」
「いや、いつもじゃない。今日は初の顔合わせの日だからな」
「そういえば、僕以外の生徒に会いましたか?」
「どうした急に。あってはいないが」
「朝の電話、皆さんに少し訝しい目で見られました」
「おお、悪かったな。一番問題児になりそうだから昨日ここまでこさせたってわけだ」
「問題児になるつもりも問題児であるつもりもありません」
「ほぅ、ところで他の奴らはどうした」
「多分、もうすぐ着くと思いますよ」
そう言って数分教室で他愛のない話をしていると再び教室のドアが開いた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「...おはようございます」
「どうした、元気がないぞ」
「静さん、初対面の相手に元気に振る舞えるやつはそんなにいないですよ」
「確かにそうかもな。だが、朝の挨拶は大事だぞ」
紫髪の人物の後ろには赤髪のやつと黒髪のやつが隠れている。
全員が教室の中へと入り席に座ったところで静さんは教卓へと進み名簿を確認す
る。
「よし、全員いるな。私が君たちの担任を務める博田 静だ」
そう言って自分の名前を黒板にチョークで書いていく。
「まずは自己紹介をしてもらおう。まずは紙雅」
進み具合の速さに驚いていると急に指名されたのでため息を付きながら自己紹介を始める。
「紙雅 千明です」
そう言って自己紹介を終わろうとすると横槍が入った。
「それだけじゃつまらんだろう。なんか付け足せ」




