第5話 女性は男より強い
教室でのやることを終えて駐車場に戻ると先程の運転手がタバコを吹かしていた。受動喫煙となるが、気にはしないのでまあいいだろう。
学校側は気にす可能性があるがそれは今関係ない。
「君がタバコとは珍しいじゃないか」
「げ、」
「げとは何だ、げとは。これでも君の担任だったんだがな」
「こいつ今何歳なんだ」
「さあ?、最低でもアラサー...」
そこまで言ったところで担任のと自称した女性は頭に角を生やし般若のような形相になる。どうやら禁句だったようだ。
このことは生きていたら心の辞書にでもメモをしておこう。
脳内でそんなことを考えたと同時に自分の腹部へとちょうど拳一つ分も範囲で衝撃が伝わった。
マラも腹パンを食らってもいいと思うのだが、何故かマラには腹パンではなくただの注意だけで終わっていた。理不尽である。
「まったく。この子は君と初めてあったときのようなことを言うな。君が教え込んだのか?なぁ満」
初めて聞いた、運転手の名前であろうその名は何故かとても悲しむような発音で発せられていた。
その真意を知るのは面倒なことになりそうであるため、倉庫の奥にでも置いておこう。いつか引っ張り出すかもしれないが。
「先生。いや、静さんもタバコは吸っているでしょう。それこそ担任の時から」
「懐かしいな」
「確かに、五年ほど時が経ちましたもんね。年齢も5年ましましたし」
途端、再び担任...静さんと呼ばれた人が般若とかす。
悪寒を感じたのかすぐに運転手満さんは両手を前に出してどうどうとあやしていた。
それでも止まらないのか一歩ずつ静さんは満さんに近づく。
それと同様に満さんも一歩ずつ後ろへと下がった。だが、後ろには車があり早々に満さんは逃げる場を失っていた。
せめて御経だけでも唱えておこう。呼ぶなら間違いなく救急車ではなく霊柩車だ。
ふざけたことを考えているとヒュッとなにかをかすめたような音が鼓膜を揺らした。
「次に変なことを言ったら当たるからな」
「流石にそれは意識過剰じゃないっすかね」
額に冷汗をたらしながら右耳のちょうど横を通り抜けた拳を見ながらそう言う満さんは手を腹部へと置いていた。過去にも同じような経験をしたことがあるのかもしれない。
「それで、やることはやったから後はこのガキを住居へと送るだけだろ」
「初対面の人にガキと言われるのは初めてです」
「静とやらは言葉遣いがあらいな」
「どうだ、この後飲みに行かないか」
「学生の前でそういう話はちょっとどうかと思いますよ。...行きますけど」
「話がわかるじゃないか。二人きり飲むのは2ヶ月ぶりぐらいか」
「それぐらいじゃないですか。他の人と飲むことがないので記憶には自身がありますけど」
「自分が言うのもなんですけどさっさとその住居とやらに届けてくれませんかね」
話が盛り上がりそうなのでここらへんで一旦水を差しておこう。
これで聞きたくもない昔話は聞かなくても良さそうだ。
「ほら、満のせいで注意する立場である私が注意されたぞ」
「なんで俺のせいなんですか。始めたのは静さんでしょ」
「なぁ」
「なんだマラ」
「この漫才はいつまで見れば良いんだ」
こっちが知りたいことを聞かれても説明ができないのでここは空気に徹するようにしておこう。
なんやかんやあり、車には満さん、俺、マラ、静さんが乗っていた。
道中での会話は少なくあっても中学校での過ごし方を聞かれた程度だった。
そうして、いま目の前には一件の家があった。
どうにも寮はすでに埋まっており、シェアハウスということになるらしい。
男女で混合らしいが、そこはせめて男女で分けてほしかった。
住居についたので、満さんは運転席から降りて荷台へと向かう。曰く部屋へ荷物を運んでくれるらしい。ドッペルゲンガーといっしょに物を手際よく運び、ものの10分程度で運び終わった。
なお、自分とマラは部屋がどのようなものなのかは知らない。静先生に止められたのだ。完成してからの方が良いと。
その間の暇つぶしはマラを使っていた。いつもは使われてばかりなので主従逆転だ。マラからすれば俺を使っていたつもりかもしれないが...。これ以上考えるのは堂々巡りとなりそうなのでやめておく。
玄関を開けると知らない靴が4足あった。きっとこれから迷惑を掛け合う仲間のものだろう。
靴を脱いで廊下を渡るとリビングであろう場所から話し声が聞こえる。なおマラは勝手に行動されると困るので、どちらにしても困るが俺に抱きついている。
少し開いているリビングのドアから中を除くと、名前も知らない四人が一つのテーブルを囲んでいる。それぞれ趣味や好きなものを話しているのか、会話は弾んでいるように思えた。
自分を省かれながらの自己紹介の会とはなかなかない機会なので少し楽しみだ。
おいマラ、変人を見るような目で見るんじゃない。
マラにジト目を向けられながらも静かにその場を離れて自分の自室があると聞かされた二階へと向かう。
自分の部屋へと入るとそこは今まで住んでいた家の部屋とほとんど変わらない内装が待っていた。
本棚、ベット、机。ただそれだけのものしかない部屋がたしかにあった。ものが少なくて再現がしやすかったのだろうか。
自室の確認が終わったので部屋を出ようとすると、マラが何故か布団へと飛び込んだ。
「久しぶりのベットだ」
「久ぶりでもないだろ。精々10時間ぐらいだ」
「私はこれをルーティンにすると決めたんだ」
「いつ」
「今だ」
話の内容があるのかないのかはさておいて、そろそろリビングへと戻る。
再び隙間から覗いてみると、自己紹介は終わったのかUNOをやっている。ルールは知らない。そもそもやる相手もいない。
この後はどうしようかと考え外を見ようとするとあっけぱなしだったはずの玄関は閉められており、先程まであったはずの車はなくなっていた。まだ時間は早いが飲みにでも行ったのだろう。
ここであの輪の中に晴れれば良いのかもしれないが、どうせ明日は学校なので嫌でも自己紹介をすることになるだろう。
なので自室にでも籠ろうとしたとき、マラが勝手に壁を抜けてリビングへと入っていってしまった。
この図太さを見習おうとは微塵も思わない。だがやはり迦微からすればこの自分の悩み自体も些細などうでもいいことの一つなのだろう。
「ほら早く来い」
リビングの中からマラの声が聞こえ、
俺は入るか数秒迷った後、仕方なく扉を開けた。




