第22話 ストーカーは主も
妖怪なのか髪なのかわからない白蛇はうようよと浮いてる眼球から飛び降りて地に腹をつける。
なにか、あれだ。単純に映像がシュールだなと思ってしまった。本人は本気でやっているというのに。
こんな事はあまり思わないようにしているのだが、今回は流石に駄目だった。
「あ、すいません」
何かを察したのか白蛇は僕の左足のスネを噛んだ。
血は出ていないが普通に痛い。
舌をチルチルとしたあとに白蛇は自分の身を地面にこすりつけた痕で名前を書いている。
流石、人ならざるものというべきか硬いコンクリートを削って破片が堤防のようになっている。
そうして一通り書き終えたのか、僕の足に絡みついて這い上がり結果頭の上に乗った。
「えー、と。白蛸さんですか?」
書かれた漢字の上にはご丁寧に読み仮名までふってある。はくだ、と。
姿は蛇なのに蛸という漢字が使われているのが不思議だ。
「蛸って何で漢字なんですか?カタカナでも...はい。すいませんでした」
質問をした瞬間に特徴的な、というか二本しかない毒牙を出して首元に近づいてくる。
このまま話を進めていたら噛まれて天へと到達していたかもしれない。
とっさに首元を手で覆い急所は避ける。
そうすると許されたのか再び頭上へと戻る。どうやら定位置が決まったらしい。
「それで、まさか一日に人だけじゃなく神や妖怪からもストーカーされるとは思いませんでしたよ」
「さすがの君でもこの状況は予想外か」
「はい。しかも逃げられないように何かしましたね。先程降っていた雪が降っていないですよ。こんなに寒いのに」
コンクリートの裂け目に生えてある草には霜がつき始めている。
そして雪が降らなくなったのは彼ら彼女らが姿を現し始めた時だったはずだ。
「貴方、知識もないのによく気付きましたね」
「これでも観察眼にはそこら辺の人よりかは自信があるので」
「理悟にバカにされてる」
「それぐらいは知ってますよ。知っている上で流したんです。事実なので」
「本当に知識がないのか?」
「少なくとも僕よりかは長く存在している貴方達の前ではそうですよ」
凍えた手をポケットに入れながらそう返す。
手は痛みで悲鳴を上げていた。
「一応、結界を張らさせてもらった。あいつらに見られると面倒だからな」
「ということは彼らの意思ではなく、自分たちの意思で僕についてきたと言うことですか?」
「そうです。なので叱られるようなことがあったとしたら君のせいにします」
「理不尽ですね」
「それで、私達が君をつけた理由だが、単純に興味だ」
ヘカテーがそう言うと他の神や妖怪も首を縦に振り同意を示す。
何故こうも迦微や神、人ならざるものは気分屋が多いのだろうか。
「気分屋と言うよりそれぐらいしか娯楽がないのですよ」
「さらっと心を読んで返答をしないでください」
心を読まれながらも本当のついてきた理由を探す。ただすぐにはそれらしい答えは見つからなかった。
「そう言えば、眷属のあの人達の元にいなくてもいいんですか?」
そう聞くとヘカテー何故か露骨に目をそらしてしまった。
他の者も同様に。
「あんなものを放っておいていいんですか。仮にも眷属なんですよね」
「眷属だから多少そばにいなくても...大丈夫だ」
「今の間は何ですか。間は」
「そんなことより、お前、私達の眷属を《《もの》》扱いしたな。高く付くぞ」
「どこに沸点が付いてるんですか」
どうやら地雷原を踏み抜いていしまったらしく、周りに浮いている複数の眼球が一斉にこちらを向く。
「マラさんもお気の毒だな。こんな奴が眷属だとは」
「いつ刺されてもおかしくないですよ」
「紙雅、白抜井を馬鹿にしたことは覚えておく」
「チルル」
小さな敵意を向けられるが、それは大した事ではない。白蛸さんは首に尾を巻き付けてきている。
これでも、中学の時のほうが露骨だったからな。
「それじゃぁ、私達の眷属を馬鹿にした罰は、今からの質問に答えたら不問にしてやる」
「いいんですか。そんなあっさりで」
「いいんだ。それに最初からそうしようと計画を立てていただろう」
「それはそうですけね。誰かさんのせいで遠回りになりました」
そう言ってスアはこちに目線だけを向けてくる。
あえて聞こえるように話しているのか。
「で、質問とは」
どちらにせよ質問に答えるだけで不問にされるのは破格だ。
普通に彼らを人として思った事はなかったので、これからは表に出さないようにきおつけるとしよう。
「その前に気分転換だ」
ヘカテーがそう言うと冬景色だったものが急に太陽がサンサンと照りつける南国の風景と変わる。
それと同時に寒さというものは消えて、雪で濡れた服を乾かす光の塊が存在を主張している。
雪降る中を歩くのにはそぐわない格好だが、それは夏の場となっても変わらない。
気がつくつとアスファルトの雪は溶けて水となり、この場を蒸し暑くしている。
「突然の寒暖差で風邪を引きそうです」
「大丈夫。これを飲めば」
「何ですかこれ」
そう言ってスアさんから差し出されたのは両手に掬われている液体。
おおよそ、人が飲めばほぼ確実に体に異常をきたす色合いをしている。
数滴、地面こぼれ落ちて激しく飛び散った。飛散した液体はひび割れた地面に吸収をされていく。
「水銀」
「僕の死期を近めようとしてます?」
あまりにも危険なもので思わず素で聞き返す。
不老不死にでもさせようとしているのだろうか。
だとしたら彼女の知識はどこでインプットが止まってしまったのだろう。
「水銀て触れただけでも害を与えること知ってます?何滴かこぼしてますけど」
「そうなの?」
こてん、と首をかしげるスアさんは手を口に当てて水銀をコク、コク、コクと飲んでいく。
人じゃないから出来ることなのだろうが、あまり今起こっている現実は認めたくはない。その光景を見ながらそんな事を思う。
誰かせめて突っ込んでほしいところだが、誰もツッコミを入れない。
価値観の違いをこんなところで再び感じるとは思いもしなかった。
「それで、質問ってなんですか。バストサイズぐらいまでなら教えますけど」
「...何で黙るんです」
「いや...お前ってボケるんだな」
「たまにはボケもしますよ」
驚愕で顎が外れそうになっている3人にため息をつきながら空を見上げる。
やはり偽物なのどではなく本物の太陽の光のようだ。直視をした瞬間に目を反射的に閉じてしまう。
面倒な概念の世界を思い出しながら彼の景色と見比べる。
比べるものではないかもしれないが、あの景色のほうが好みではある。
「いつかの君と同じようなことを言うから少々驚いたよ」
「そんなものは聞いてないので早く質問をしてください。焦らせすぎるのは嫌われますよ」
「お前のせいだと言いたいところだが、それは大変だな。単刀直入に聞こう」
「破局点とは何だ」
「...」
少しも単刀直入でないことはさておき、あまり聞かれたくはない事を聞かれてしまった。
「それについては...上の許可が必要なのでちょっと連絡していいですか」
「構いません」
許可を得て、急いでスマホを取り出し電話をかける。
2コール後、その人物は電話に出た。
『あい、博田です』
「静さん」
『なんだ紙雅か。どうした』
「例の件について問い詰められてるんですけど、どうすればいいですかね」
『相手は誰だ?』
「四人の主です」
『ならさして問題もないだろ。ただ本人たちには伝えるなと釘を刺しておけ』
「わかりました」
通話を切ってスマホをポケットにしまう。
「許可が出ました」
「それで、破局とは何なのですか」
「...何か紙とペンみたいのあります?」
「ほれ」
どこから取り出したのかわからない紙とペンを受け取り、自分の覚えている限りで情報を書き出していく。
自分で書いていて改めて実感をするが破局点という存在は小学生が考えた最強の存在みたいなものだった。
「うわぁ」
紙に書き込まれた文を読んで理悟さんは嫌悪を表す。
他の人達も、人ではないが、同じ様な反応を示した。
「これ、本当なの?」
「わかりません。なので今、静さんが確認を取ってます」
「天界の奴らに連絡を取ってみるか」
「これだけ圧倒的なら抵抗も虚しいだけだと思うけど」
「この事はあの四人には内密にお願いします」
「何で?」
「ある存在が白抜井さんにその破局に対抗する力を与えたと言っていたので。まだ普通の高校生活を楽しんでもらわないと、青春というのは短いですから」
「普通の高校生活かは置いておいて、貴方も高校生ですよね」
「僕としては、青春は間違っていたほうが楽しいですから」
「捻くれてるな」
「違います。その言葉はマラのほうが似合いますよ」
不満を言いつつも手のひらで首の喉仏をさする。
死んでいない、その事実が今になってようやく実感として胸の内に湧いてきた。
死ねなかった、その言葉が脳に浮かんでくるけれどあまりその言葉は意味を持っていなそうだった。
「あいつのどこが捻くれてる?」
「あの態度がですよ」
「全くそうは見えない」
「スアさんの目は鏡で出来た義眼ですか」
「違う。あと、何故侮辱したの」
「思ったことをそのまま伝えただけです」
「それで、マラはどこがひねくれてるんだ」
そう素直に聞かれると答えづらくなる。
自分の感じていることが絶対であるという確証がない、持てないからだ。
「僕の意見としてはですけど、考え方ですかね」
「考え方?」
「この際ですから話しておきます。マラのこと」




