第18話 身体的規模異変
昨日から一晩が明けて今日も今日とて学校へ向かう。
ちなみにだが、天納さんの朝食は普通に美味しかった。
そして今日は木曜日。
一番疲れがでる人が多くなる日の一つだろう。
「はぁ」
「どうしたため息なんてついて」
「いや、どうやったらマラを働かせてもいい口実を作れるかと思案してたんですよ」
「この私を働かせるのか!仮にも主だぞ」
「主(何もしないニート)って。無理やり眷属にしたのはそっちでしょう。僕は今の状況を望んだことは一回もありませんよ」
「なんだとー、この。髪型アフロにしてやろうか」
「どんな脅しですか。あといいながら髪の毛をいじるのはやめてください」
「せっかく寝癖を直してやったというのに」
「僕にとっては寝癖なんてのはどうでもいいことのひとつなんですよ」
「知ってるか。お前中学校で癖っ毛寝癖って呼ばれてたの」
「知りませんでした。あと、なんですかそのセンスのないあだ名は」
自分にあだ名がついていたことを初めて知り驚きつつもあだ名を作る余力がすごいなと感心をする。
僕ではきっとできないことだろう。
そう思いながら歩いていると、ふと何か変な感覚が路地裏から襲ってきた。
この変な感覚というのは言葉で表すのは容易ではない。
あえて表現するのならば町を行き交う群衆の中で誰にも知られずに上から下へと落ちるような感覚だ。
表現をしてみたが正直なところ自分でもよくわからない。当たらずとも遠からずというところか。
いや、根本的に間違っている気もする。
不思議と形容のしがたいものが自分にマッピングした。
そう考えるのが今の状況では一番しっくりくる。
「ん、どうかしたのか」
「いや、何でも」
マラに気づかれただろうか。
別に隠す気はさらさらないが、どうせ適当な事を言いそうなので黙っておく。
歩む足を止めて振り返ると無性にあの裏路地へと入りたいという気持ちが込み上げてくる。
もしこの事を覚えていたら今日の学校の帰りかもしくは土日にでも来てみよう。
そう思い学校へと向かうのを止めていた足を再び動かす。
あくまでもこの事はマラやあの4人には内緒にしておこう。
これは自分の好奇心故の行動であるため一緒にいく必要はない。
ただ、静さんか満さんへ相談でもしておいたほうがいいだろうか?
まぁ、機会があったらするぐらいでいいだろう。
「それじゃ出席とるぞ~」
学校にて今日もやる気のない声とともに担任である静さんが出席をとる。
「五人全員いる。以上」
このクラスの生徒数は5人のため視覚的情報だけで出席を取ることができる。
教師側としてもそこは感謝をするところだろう。
ただ3月の初め頃から学校というのはなかなかに先生という立場でも生徒からしても鬼畜であることには変わりない。
「あと15分ぐらいで一限目始めるから準備をしておけよ」
そう言い残して職員室へと戻ろうとした静さんはこちらを見て
「紙雅、ちょっと来い」
呼び出しをした。
「他のやつとくるなよ。あとマラとも」
登校から三日目、初めての呼び出しをくらった。
なにか問題でも起こしてしまっただろうか?
心当たりといえば昨日、学校の授業で寝たことだろうか。
他の4人に視線を向けられながら先生の後を追う。
気のせいだろうか、少し普通とは違う視線を感じたのは。
「マラはここで待っていてください」
「わかった。のじゃ系の勉強でもするかな」
「なんですかその変な勉強」
マラと教室のドアで別れて四階にある職員室へと早歩きで向かう。
高校になっても職員室へと向かうのは何か抵抗があるのは変わらないようだ。
開けっ放しにされているドアから職員室の中へと入る。
この後人が来るからと言ってドアを開けっ放しにするのはどうかと思う。
「そこのドア閉めてくれ」
「てっきり換気のために開けておいたものかと」
「わかってるくせに、面倒なやつだな」
「それで何のようですか」
「お前のその眼球についてだ」
「眼球?何のことです」
「お前、まだ気づいてないのか!ほら鏡」
手鏡を渡されて自分の顔を確認すると右目は黒、左目は夜燃え盛る炎のように僅かに青く発光をしている。
簡単に言うとオッドアイのようになっていた。
「なんですかこれ」
「少しは感情の起伏を見せろ。つまらない人間なるぞ」
「別におもしろくなろうとはしていないので。あと、普通に驚きましたよ」
「声が出なかったてか。表情も動いてないのに」
「それはこれと別の問題と言うか...もしかしたら同じかもしれないですね」
「とりあえずカラコンとかそういう類ではないんだな」
「僕がそこら辺のチャラい人みたいに興味あるように見えますか」
「まったくないな。ま、あって4日のやつが言うのも何だがな」
旗から見たら至極真っ当な事を言っているが、4日という短い期間でここまでこの言葉をすんなりと受け入れられている自分がいることに驚く。
「お、ちゃんとそういう顔できるんじゃないか」
「できますよ。人間ですから」
「それで、その目になった理由はわかるか」
「今日の朝、来る途中でなにか不思議な感覚に襲われました」
「不思議な感覚......」
今朝のことをかいつまんで話すと静さんは黙り込んでしまった。
そうして頭が痛そうにこめかみを親指の腹で押す。
てっきり何か説明をしてくれるものかと思ったが、彼女は自分のデスクにあるノート型パソコンを開きキーボードをカタカタと鳴らした。
「多分だが、お前は魅入られたんだな」
「魅入られた?」
「簡単に言えばつばを付けられた」
「なるほど。で、この目はどうやったら治るんです?」
「それはお前の対応次第だな。ちなみにだが変な感覚に陥ったのはどこらへんでだ」
「住宅の路地裏をみたあたりなので...」
そう言ってスマホの地図で場所を見せる。
そうすると静さんは困り果てたかのように額へと手を当てる。
前髪が潰れ髪の先端が目元までかかっていた。
「そいつは私の知り合いだよ。面倒くさいことになったな~」
苦虫を潰したように顔をしかめて開いていた画面を閉じる。
「おい、今日中にそこに行くぞ」
「わかりました。時間は」
「残業はないから5時だ」
「わかりました」
話が終わったので教室へと戻ろうとすると再び声をかけられた。
「あ、そこの教科書類を持っていってくれ」
「はぁ、わかりました」
渋々承諾をして本来は静さんが持つべきであろうものを持つ。
困った。これでは両手が塞がってドアが閉めれない。
幸い足を使えば開くことは出来る。
なので換気も兼ねて開けたままにしておこう。それに静さんもすぐに来るはずだ。
と心の中で棒読みをし教室へと向かう。
学校終わりの放課後。
僕は特に何をするわけでもなくただ秒針が5時を指し示すのを待っていた。
もうすぐで短い針は5を指すところだ。
朝から数えて九回目の針の移動でようやく指定された時間になった。
教室から出て一階の職員玄関へと向かう。
なお、他の4人とマラには先に帰ってもらった。どうやら巻き込むと余計に面倒なことになるらしい。
聞いた感じ経験をしたことがあるかと思い聞いてみたが、いつも決まって自分の生徒が同じような経験をするらしい。
僕で4人目だとか。
何かこのようになった人たちには共通点があるのだろうか。
それさえわかれば対策のしようはいくらでもあるだろう。たぶん、きっと。
そんな事を考えながら歩いていると昇降口に着き靴へと履き替える。
当然だが、あの4人の靴はすでに無かった。
昇降口から職員玄関に向かい、少しすると。
「すまない、遅れたか」
「いえ、僕も今来たところなので」
「よし、じゃぁ行くか」
「わかりました」
「あの場所まで車を出す。後ろか助手席に乗ってくれ」
職員玄関から駐車場へと出て4日ぶり?ほどの静さんの車へと乗る。
男子3日あわずばなんとやらという言葉があるが、この車にはこの前までは無かった灰皿があった。
そう言えばこの人喫煙者なんだった。
普段タバコを吸っているところや臭いもしないのですっかり忘れていた。
「どうだ。生活には馴染めたか」
エンジンをかけながら話しかけてくる。
「元から馴染めてますよ。逆にあの4人の方が馴染めてないかと」
「それはお前が原因じゃないのか」
「さぁ?少なくとも僕は知りませんよ。他人が自分をどう思ってるかなんて」
「これはあいつが好みそうなやつだな」
ぼそっと静さんは重要そうな事を呟いたが以前から面識があるようなので、ある程度それに対して理解できるのだろう。
「例としてあげますけど、村雨さんが寝ぼけて雲珠未さんのことをお母さんとよんだりとか、白抜井さんが天納さんのことをお姉ちゃん呼びとかしてました」
「ある意味面白そうだな」
「いえ、まったく。見た瞬間にどちらもフォークを持って襲いかかってくるので」
「流石に冗談だろ」
「はい、ただ村雨さんに関してはノーコメントで」
「...まぁ、生活が成り立っていることには変わりない、か」
「成り立たないなんてことがあるんですか?」
「あるぞ。誰も家事やらができなかったりしてな、あの時は毎日に通って飯を作ってやったものだ」
そうやって話をすること数分、車が右側の路上に駐車された。
車の通りは少ないので問題はないと思うが、対向車が来たらクラクションを鳴らされそうだ。
静さんは車から出て周りから車がで来ていないことを合図する。
それを見て僕は車のドアを開けて外へと出る。
出た瞬間に今すぐあの違和感、不思議な感覚の元へと走り出したいという欲求が湧き出たが、すぐに火を弱めてフタを開けて沸騰するのを防ぐ。
「それじゃいくか」
「はい。そうですね」
朝感じた感覚とは少し違った雰囲気を醸し出している裏路地を進む。
不思議だったのは一定間隔を開けて生えていた苔ぐらいだろうか。
通い慣れているのか静さんは周りを気にすることなくどんどんより深くへと進んでいく。
自分も置いていかれないように後を進むと、そこにはこじんまりとした鳥居とお屋敷があった。
「ここから鳥居をくぐったら1時間ぐらいはこっちの世界へは戻ってこれないぞ」
「真実を目前で言われても困るだけですよ」
「ふん、本心は決まっているくせによく言ったものだ」
静さんは胸ポッケトからショートホープを取り出してズボンから取り出したライターで火を付ける。
「無礼では」
「あいつにはこれぐらいでいいんだよ」
煙が宙をまって独特な臭いが鼻にくる。
そして僕らは鳥居をくぐった。
気のせい、違和感だとは思うが後ろからなにかに見られた気がする。
もしかするとこれも一種の奇怪さのひとつなのだろうか。
鳥居をくぐると先程までとは違う景色というか背景が広がっていた。
さっきは狭い路地裏だったのにいつのまにか上空の景色となっていた。
静さんといえば呆れたかのように景色を眺めている。
僕以前にもこのようなことがあったという。
慣れているのだろうか。もしそうなら恐ろしいものだ。
「おい、きたぞ」
静さんはなにもない虚空へと語りかける。
一瞬、気でも狂ったのかと思いながら見ていると、すぐそれが間違いであることがわかった。
「やれやれ、何でいつも君はついてくるんだい。僕のお気に入りに」
姿は見えない。声だけの存在が語りかけているのだと何故か瞬時に理解できた。
「全く。私の生徒に手を出すなといつも言っているだろう」
「しょがないじゃないか。いつも君のところには僕好みの人物が来るのだから」
「なにがしょうがないだ。この前でやめると言ったろう」
「そのぶん情報を提供してるじゃないか」
静さんは姿のない存在と文句のつけあいをしている。
つまりは完全に置いてけぼり状態だ。
「静さん、何と話しているんです」
「お前の目をそんなことにしたやつだ」
「姿が無いようですけど」
「ああ。こいつはそういう存在なんだよ」
?を浮かべると静さんと話をしていた存在が僕へと話しかけてくる。
「やあこんにちは。君の目を少しいじらせてもらったよ」
「初対面、ましてや認知のない相手の体をいじるのは倫理的にどうかと思いますよ」
「それを君が言うのか。ある意味あの中では君という存在が一番欠落してると思うが」
「自分にないものを決めるのは自分自身なので」
「やはり君は僕の好みだよ。見ていてとても面白い」
「こちらからすればはた迷惑な存在ですけどね。名前は何て言うんです」
「僕の名前か。好きなように呼んでくれて構わないよ。ちなみに言っておくと僕は神(迦微)でも妖怪でも精霊、悪魔、はたまた宇宙人でもなんでもない空気みたいなものさ」
「なんですかその面倒な存在は」
「まぁ、こいつはこういうやつなんだよ紙雅」
「そうですね。もうこの際名前は面倒な概念でいいです」
その言葉を言った瞬間に静さんは目を見開いて遠い目をする。
そしてその瞬間だけ面倒な概念と名付けた存在も固まった。
「ん、どうかしたんですか?」
「いや、どうかはしていないんだが私の昔の教え子に似たような名前をつけた奴がいたと思ってな」
「ふふ、これは面白い。やっぱり僕の目には狂いはなかったようだね」
「そうだな。こいつ、紙雅はお前のいい遊び道具にはなりそうだ」
「実の生徒がいる場面でそんな事を言うのはいかがかと」
「ん?私はもうタイムカードを切っているからすでに教師ではなく一人間だ」
「えぇ」
先生の返しに戸惑いながらもふと思い出した事を口に出す。
「そう言えばなんですけど、さっき僕の目をいじったとか言ってましたけど」
「ああいじったよ」
「どんな事ができるんです?」
「何、いつもと変わらないと思うよ。任意で物体の動きの物理演算ができる様になってある。それだけだよ」
「え、普通に日常生活で役に立ちませんよね」
「まぁまぁ、君が成長すればやれることも増えるさ」
どうやら役に立つのか立たないのかわからない微妙な能力?機能を手にしたようだ。
これであらかた聞きたいことが聞けたので軽く話をしてから帰ろうとすると、面倒な概念から唐突なカミングアウトがあった。
「そう言えば、白抜井くんにも君とは違う力を与えておいたよ」
「はぁ!!」
怒気と驚きを含んだ声で静さんが問い詰める。
「お前いい加減にしろよ。私の生徒に対して手を出すのは」
「理由を聞いてくれたまえ」
「静さん、確かに理由を聞いてからでも遅くないですよ」
そう言って静さんをなだめて話を聞ける状態にする。
「すまない。取り乱した」
「いいですよ。それが人間ですから」
「自分の歳の半分も行かないやつに言われるのは不快だな」
「もういいから話すぞ」
面倒な概念はこちらを気にせず話し始めた。
「2年後、この世界、もとい宇宙が消滅する可能性がある」
面倒な概念によるその突発的な内容に僕は瞬時に理解をすることができなかった。
もしかしたら来週投稿をできないかもしれません。
もし投稿できたとしても視点は紙雅のもではないので、そういうのが苦手な方はお気をつけください。




