12話 テストの終了
先生たちからペンシルを2つ貰い、未だに取っ組み合いをしている村雨さんと天納さんの元へ戻る。
距離は5メートル。これだけ離れて見ていれば邪魔にもならないだろう。
マラは二人の観察が飽きたのか、こちらに寄ってくる。
「どうだった。予想は当たっていたか」
「概ねは。ですけど意外とすんなりと終わりました」
「そうか。あいつらじゃれ合いは見ててあきた」
「なら混ざってきたらどうです。踊る阿呆に見る阿呆という言葉もありますけど」
「自分の主に阿呆というのはお前ぐらいだぞ」
「それはどうも。僕は僕ですので」
成果を報告しているとやたらと元気な声が会話を遮った。
「ちょっとそこの一人と一柱、天納を押さえつけなさい。暇でしょう」
「僕は暇をつぶすのに忙しいので」
「屁理屈を、私はちょっと疲れたから休みたいの」
大声で会話ができるあたりまだまだ元気そうだ。
マラは何故かわからないが準備体操をしている。
何をするにしても危険なことでなければ良いのだが。
そう思っていると、ちょうどギャラリーから戻ってきた二人が光景の異常さに足を止める。
二人はじゃれ合っていて、もう一人は傍観、また一柱は準備体操。自分でも少し内容が濃すぎるとは思う。
「戻ってきたんですね。手に入りましたか?」
「はい。あのー、二人はまだわかるのですが、紙雅さんとマラさんは何をしているんですか」
「僕はただ何もすることがないので傍観を。マラは...わかりません」
「ちなみに紙雅くんはさっきどこにいたんだい。姿が見えなかったけど」
「隠れ場所をそう易易と言うつもりはありません」
そう言うと聞くに聞けなくなったのかそれ以上の追求はしてこない。
マラは準備体操が終わったのか、ストレッチを行っている。
本当に何をする気なのだろう。
「後は4分、何もなければいいですけど」
「最初の約束を破ったのは君だろう」
「約束......何のことです?話はしましたけど約束をした覚えが無いんですけど」
「約束なんてしてましたっけ?」
雲珠未さんもいつ約束をしたのか頭を回転させている。
そうして一つだけ思い当たる節と訂正箇所を見つけたので指摘をする。
「もしかして約束って、15分間動かないってやつですか。それなら僕は破っていませんよ。いや、破りましたけど全員が動いた後でしたし。あと、最初に動いたのは天納さんです」
「急に沢山話さないでくれ。頭がパンクする」
頭から煙がではじめようとする白抜井さんを無視して雲珠未さんへと話しかける。
「雲珠未さん、彼の対応はどうすればいいんですかね」
「私にもわかりません」
苦笑いを浮かべて曖昧でもないストレートな回答をする雲珠未さんを見ながら残り時間を確認する。
「よーし、準備できたぞ。紙雅、私も参加してくる」
「頑張ってください。できればペンシル取ってきてくださいね」
「阿呆は人の言うことがわからない」
自分で阿呆と認めたマラはそのまま天納さんと村雨さんの中へと入っていく。
とても元気でよいのだが、時折見せる性格がとても面倒だ。
「さてと、見る阿呆はこれからどうするんでしょう」
「どうするって、何かやるんですか」
聞き返した雲珠未さんに笑みを浮かべながら近づく。
そうしてそのまま通り過ぎて白抜井さんの握っていたペンシルを奪った。
「なっ」
「時間は残り60秒です。頑張ってください」
僕がペンシルを奪った。しかし、白抜井さんや雲珠未さんは驚きで動きが止まっている。
テストはまだ終わっていない。
つまりは警戒を解いたものから狙われていく。
「油断していましたね。味方でもなんでもないというのに。早くしないと後52秒で終わりますよ」
そう言うと正気に戻ったのか、怒りの混じった足音で近づいてくる。
スピードはあるが怒って動きが単調である。
「あまり怒るのは良くないですよ。そうさせた本人が言うのもなんですけど」
「この際、俺のを奪うのはもう良い。相手が雲珠未さんじゃなかっただけましだ」
「ではこのまま何もしないと」
「そんな事は言ったかな」
白抜井さんはそう言うと床に手を当てて巨大な岩を周りに出現させた。
体育館は2階にあるのでどうやってこの質量物を生成したのかは謎だが、とりあえず、とても自分が危険ということだけがわかる。
これは怒らせてはいけない人を怒らせてしまったかもしれない。
岩で周囲を埋めて逃げ場をなくした後、白抜井さんが通れるような隙間が一つ出来上がる。
「返してくれるなら辞める。こんな事はしたくない」
「雲珠未さんが奪われたとき天納さんにこれをしなかったってことは、自分の身がいちばん大事なんですね」
「そう、なのかもしれないな」
残り時間は、タイマーが岩で隠れているせいで見ることができない。
白抜井さんはあまり時間が無いというのにゆっくりと歩いて近づいてくる。
しかし、その歩みには重厚感があり、目の前にいるのが人ではなく鋼の塊と錯覚してしまう。
「ペンシルは俺のだけを返してくれれば良い」
「断ったら」
「君の物もらうだけだ」
そう言葉を発した直後僕は白抜井さんをめがけて走り出す。
「どうした、血でも迷ったのか」
「どんな場にいても後々岩で埋め尽くされて逃げ場を失いそうなので貴方の近くにいたほうがその可能性は少ないかと思いまして」
「あたりだよ」
そう言って白抜井さんは近くの岩に手をぶつけてその中から彼の身長の半分程度の剣を取り出す。
悪手、ではないだろうか。この岩に囲まれた狭い空間で振るうには長さを持て余している。
「銃刀法違反では」
「残念ながら切ることはできないなまくら。おもちゃみたいなものだよ。切ろうと思えばもっと切れ味が良いものも出せるけど」
「何もできない一般人に対してやるには強すぎませんか」
「それなら無防備な犯罪者を追う警察はどうなるんだい」
「彼らは法の元で力を振るっているので。貴方のそれはただの私事でしょう」
「元はといえば君が悪いんだけどね」
軽口を叩きながら一人は避け、もう一人は剣を振るう。
それにしても剣が長過ぎるようで岩の先端を削っていた。
剣を避けながら思ったことがある。
彼は少し離れると小走りでは無く歩いて向かってくる。
走って体制を崩すよりかは良いが、それでも走って剣を振るえば初心の相手は読みづらい。
単調な動きが走る振動によって芯がブレるからだ。
「もしかして走れなかったりします」
「そうだよ、だけど君に逃げ場は無いけどね」
周囲を3mほどの岩で囲まれているため言葉通り逃げ場がない。
こんなときにパルクールができる人なら脱出できたかもしれないが僕には無理だ。
だけど勝機ならまだあるにはある。
切られたら面倒だが剣の柄の部分、懐に潜り込めば良い。
剣は重い。剣の破壊力はあるが振るう速度が遅いのだ。
近づくまでに2回振れるかどうかだ。
「悪いが俺の勝ちだ」
「っ」
白抜井さんはそう言うと僕の後ろに岩を発生させてこれ以上はさがれないようにする。
ならこちらもタイミングを見て近づくだけだ。一回目を躱したら二発目には数秒かかる。重いし、剣の先が岩を削る。
まだブラフも残っている。
「終了まで残り十数秒、耐えられるか」
そんな事を言いながら恐らく残っている力を出し切るつもりだろう。先程までとは雰囲気が違う。
先程の村雨さんと同等の力を感じる。
それでも焦りを出すために白抜井さんへと接近する。
まずは一撃。
紙一重で躱し横目で薙ぎ払った部分を見るともとから切り分けてあったかのように巨石が切られていた。
この人、僕を本気で殺そうとしてないか。
「殺さないでくださいよ」
「先生がいるから、やばかったら止めてくれるさ」
「人任せ」
続く二撃目は胴を狙われたので、なんとか床へと体をぶつけて避ける。
後ろで岩が切れる音がした。当たったら確実死だ。
床に這いつくばったまま足を払い、後ろは逃げ場がないので前へと出て体勢を立て直す。
全てを出し切ったのか、倒れてから起き上がろうとしてこない。
「避けれた...」
自分で避けておいてなんだが、よくここまで動けたと思う。
正直、重症は想定していた。
「はぁはぁ。避けられるのは想定外だったよ」
「まだ立つんですか」
剣を杖代わりに体育館の床へと刺して立ち上がってくる。
彼の手の中には僕が掴んでいたはずのペンシルを持っていた。
「けど、俺の目的はあくまでこれだったからね」
確かに逃げ回っている途中、ペンシルの事は頭蓋から抜け落ちていた。
だがあまり問題はない。けれど一応顔には驚きの表情を浮かべておこう。
「してやられたという顔をしているね。流石の君でも想定外だったかな」
「そうですね。まさか主の力を使ったりしてここまで追い詰めてくるとは思いませんでした」
「だしぬけたようで良かったよ」
そう言った彼はようやく疲労が和らいだのか剣なしで立っている。
「ですけど、爪が甘かったですね」
今この場は完全に60秒以上経っている。
何故タイマーの音が鳴らないのか、答えは単純でさっき言った残り時間は適当な事を言っただけなのだ。
残り時間を確認せずにでまかせを言った。白抜井さんは確認もせずに突っ込んできたのだ。
それに自分の能力で周りを岩で囲んでくれたのは助かった。途中で嘘だと確認をすることができないように自分からしてくれたのだ。
再び白抜井さんに近づいてペンシルを奪い取る動作をする。
彼は2本足で立てていても先程のように動くことはできないのか、体の動きや反応が鈍い。
「時間は残り1分あります」
「...なんで」
「答えは簡単です」
「嘘か」
「はい。ですけど貴方と貴方の主の力を見れたので奪うなんてことはしませんよ」
「そもそも、あの状態になって僕からペンシルを取り返した時点で貴方の勝ちです」
「何でこんな事をしたんだ」
「あなた達の主の力を見るために。あと単純に好奇心です」
「今が一番奪いやすい状況だろ」
「流石の僕でも良心はありますよ。力を使い果たして倒れている人から奪う気にはなれません」
「君も大概優しいな」
倒れそうな白抜井さんを支えながらステージへと向かう。
もう彼はこれ以上戦う事はできなさそうだ。
彼をステージへと運んで先生たちに任せた後、取っ組み合いという名のじゃれ合いをしている三人へと振り返る。その角には雲珠未さんがポツンと立っていた。
そしてタイマーが鳴る。
近場でなったので耳が痛い。
「あつまれー。終わりだぞー」
静さんが呼びかけをして全員が戻ってくる。
さて、後は結果発表だ。




